【水瀬ケンイチの投資実践記】一生添い遂げられるインデックスファンドは、ないのか?

「一度買ったら、あとはずっと持ち続けられるファンドはどれですか」
ブログの読者やSNSでのやり取りで、こう聞かれることがある。長期投資を前提にするなら、当然の問いだ。できることなら一本だけ選んで、あとは何も考えずに添い遂げたい。その気持ちはよくわかる。
しかし、2002年からインデックス投資を続けてきた私の正直な答えは、「これまで、そんなファンドは一本もなかった」である。私はこの四半世紀近く、ファンドを乗り換え続けてきた。しかもその多くは、自分が乗り換えたくて乗り換えたわけではない。
インデックスファンドは、低コストなものほどパフォーマンスが高い傾向がある。同じ指数に連動する以上、差し引かれるコストの分だけリターンが削られるからだ。少なくとも私が投資を始めた頃、この経験則はほぼ間違いなく当てはまった。だから私は、より安いものを追いかけ続けた。
前回は、インデックスファンドの信託報酬が年1%を超えるのが当たり前だった時代から、年0.1%を切る水準まで下がったという「結果」の数字を見た。今回は、その数字の裏側で実際に何が起きていたのかを、私自身の乗り換えの記録としてたどってみたい。
繰上償還や取扱廃止で「はしご」は、何度も外された
2000年代前半、外国株式に投資できるインデックスファンドの選択肢は、ごく限られていた。
私が最初に選んだのは「ダイワ投信倶楽部外国株式インデックス」(大和証券投資信託委託)だ。信託報酬は年0.9975%、ノーロード。当時としては良心的な水準で、しかも運用会社の直販だから、販売会社の都合に振り回されることもない。そう考えていた。
ところが同社は、直販事業そのものを取りやめた。このファンドは確定拠出年金向けに限定され、私はもう買い増すことができなくなった。全部解約し、口座も閉じるほかなかった。
次に移ったのが「PRU海外株式マーケット・パフォーマー」(信託報酬年0.84%)だ。野村ファンドネット証券で購入していたが、今度はその野村ファンドネット証券が、会社ごと解散した。追加購入の道は、再び断たれた。
その後も私は、繰上償還や取扱廃止の知らせを何度となく受け取ることになる。ここに挙げたのは、そのごく一部にすぎない。「BGI外国株式INDEX」は2004年に途中償還され、「海外株式インデックス(パレット)」はいつの間にか新規販売が止まっていた。
いずれの場合も、ファンドの中身が悪かったわけではない。運用会社と販売会社の事業判断によって、私の積立は一方的に打ち切られたのだ。当時の私はブログに、随分ひどいことをするものだ、と書いている。
当時の日本の外国株式インデックスファンドは、まだ生まれたばかりの赤ん坊だったのだ。このとき私は、一つの割り切りに達した。一生添い遂げられるファンドがあるという前提を、いったん捨てる。そのつど、最も低コストで買い続けられるものへ乗り換えていく。とはいえ、乗り換えといっても、買い増せなくなって解約を迫られた場合は別として、古いファンドを降りるわけではない。含み益のあるものは売らずに持ったまま、新しく投じる資金の行き先だけを変える。私のその後の行動原理は、ここで決まった。
黒船は来た。しかし、上陸はしなかった
そんななか、次善の策として浮上したのが「トヨタアセット・バンガード海外株式ファンド」(トヨタアセットマネジメント)だった。2003年から存在してはいたが、私を含む多くのインデックス投資家が目を向けたのは、行き場を失ってからのことだ。米国バンガード社のインデックスファンド4本を組み入れるファンド・オブ・ファンズで、買付時手数料も信託財産留保額もなし。本場の低コストファンドに、国内の投信を通じて手が届く。当時の私には、まぶしく見えたものだ。
ところが、投資家が負担する信託報酬は、当ファンド自身の分が年1.05%(当時、税込)。これに組み入れ先であるバンガードのファンドの費用(加重平均で約0.27%)が加わり、実質的には約1.32%だった。バンガードのファンド自体は極めて低コストなのに、国内側の取り分が大きく上乗せされていたのだ。せっかくの素材の良さを、まだ活かすことができないでいた。
黒船は、すでに来ていた。しかし日本の投信がその低コストを自分のものにするには、もう少し時間が必要だった。
運用会社が投資家に「ダメ出し」を求めた日
流れが本格的に動いたのは2008年、住信アセットマネジメント(当時)の「STAMインデックスシリーズ」の登場だ。国内外の株式・債券・REITのインデックスファンドを一通りそろえ、主要なネット証券のすべてで買えた。資産クラスごとに低コストのインデックスファンドを組み合わせるという、いまでは当たり前のやり方が、ここで初めて現実的な選択肢になった。
翌2009年には三菱UFJ投信(当時)が「eMAXIS」シリーズを立ち上げ、2010年には野村アセットマネジメントの「Funds-i」シリーズが続いた。
ただ、私にとってこの時期の本当の転換点は、商品そのものではない。2009年11月5日、三菱UFJ投信は、立ち上げたばかりのeMAXISについて、投信ブロガーを集めたミーティングを開いた。当時、投信ブロガーは徐々に数を増やしていた。同社として初の試みで、私も参加した。案内文には、こんなファンドが欲しい、このファンドはここがダメだ、という意見や要望を直接ぶつけてほしい、と書かれていた。
会場では、eMAXISの発案者が入社3年目の若手社員であること、社内調整で最も苦労したのが低コスト化だったこと、信託財産留保額をゼロにするかどうかで営業部門と運用部門が激論になったことなどが語られた。ブロガー側からは、バリュー系やフロンティア市場のインデックスを出してほしい、投資教育の機会がもっと必要だ、といった注文が飛んだ。
数年前まで、私は事業判断の結果を通告されるだけの存在だった。その私が、運用会社の会議室で、商品への不満を直接伝えていた。日本の運用会社と個人投資家の関係が変わり始めた瞬間を、私はここで目撃したと思っている。
いったん、本場へ渡る
とはいえ、当時のインデックスファンドの信託報酬は、まだ年0.5%を超えるものが主流だった。物足りなさを感じた私は、米国上場ETFに手を伸ばす。IVV(米国株)、EFA(米国・カナダを除く先進国株)、EEM(新興国株)を自分で組み合わせ、全世界株式に近いポートフォリオを作った。のちにVT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)が日本のネット証券で投資可能になると、これ一本で全世界株式が買えるようになった。
インデックスファンドで積み立て、まとまったところで米国ETFに移す。いわゆる「リレー投資」だ。手間も為替の手数料もかかったが、当時はそれが最も低コストな解だった。そして、本場の低コストと巨大な純資産残高を知ってしまったことが、その後、国内ファンドを見る私の目を厳しくした。
eMAXIS Slimが火をつけた熾烈なチキンレースが始まった
2013年、ニッセイアセットマネジメントの「<購入・換金手数料なし>シリーズ」が登場する。2015年にはアセットマネジメントOneの「たわらノーロード」が続き、2017年には三菱UFJ国際投信(当時)が「eMAXIS Slim」を投入した。
ここから、信託報酬の引き下げ合戦が始まる。どこかが下げれば、ほどなく他社が並ぶ。とくにeMAXIS Slimが掲げた「業界最低水準の運用コストを将来にわたって目指し続ける」という方針は、この競争を後戻りできないものにした。翌2018年に始まったつみたてNISA(少額投資非課税制度)が、そこに燃料を注いだ。
新規参入組も含む多くの運用会社が巻き込まれ、熾烈を極めた。しかし、第6回『コストは、唯一「確実」な変数だ』で見たとおり、インデックスファンドの運用には規模の経済が強くはたらき、勝者が投資家の資金を総取りしやすい構図がある。信託報酬が引き下げられ続けるなかで、最安値に追いつける運用会社はしだいに限られていった。そして、ひとつ、またひとつと、コスト競争から脱落していった。
そして、世界最安水準がここにある
2018年、eMAXIS Slimに全世界株式(オール・カントリー)、いわゆるオルカンが加わった。信託報酬は現在、年0.05775%。純資産総額は13兆157億円(2026年7月末時点)と、国内最大級のファンドに育っている。
オルカンの成功を見て、後発のシリーズが追いつけ追い越せで迫り始める。楽天投信投資顧問の「楽天・プラス・オールカントリー株式インデックス・ファンド」は年0.0561%、アモーヴァ・アセットマネジメントの「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」はオルカンと同じ年0.05775%だ。
ここで、かつて私がリレー投資していたVTの経費率を思い出してほしい。現在は年0.06%である。国内のインデックスファンドは、ついに本場米国のETFに並ぶ水準まで来た。
もっとも、日本籍の投資信託の信託報酬と、米国籍ETFの経費率とでは、含まれる費用項目が厳密には異なる。これほどの僅差になると、どちらが低コストかを単純に比較することはできない。だが、比較が意味をなさないほど近づいたということ自体が、ひとつの答えだろう。かつては、国内のファンドが年1%を超え、本場のETFはそれとは桁違いに安い、という時代だったのだ。リレー投資に励んでいた頃の私に伝えても、まず信じないだろう。
一生添い遂げられるファンドは、あるのか
四半世紀を振り返って、冒頭の問いに答えたい。
これまで、一生添い遂げられるファンドはなかった。私は何度もはしごを外され、そのたびに乗り換え、より安いものを求めて本場のETFにまで渡った。
しかし、その乗り換えは無駄ではなかったと思っている。低コストのファンドを選ぶという行為は、単なる自分の損得の話ではない。どのファンドに資金が集まるかは、次にどんなファンドが作られるかを決める。かつて会議室で伝えた不満や要望も、時間をかけて商品に反映されてきた。
そしていま、私の手元には、世界最安水準のコストで、10兆円を超える規模を持ち、投資家との対話を続けている一本がある。添い遂げられるファンドは、探して見つけるものではなく、投資家が選び続けることで育つのかもしれない。
水瀬ケンイチさんの書籍のご紹介
水瀬ケンイチ(みなせ けんいち)
1973年、東京都生まれ。IT企業に勤める個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」をはじめた、投資ブロガーの先駆け。経済評論家の山崎元氏との共著でインデックス投資を解説した『ほったらかし投資術』(朝日新書)がベストセラーになったほか、『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)、最新刊『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)など著書多数。著書の累計部数は55万部を突破(2025年6月時点)。


