教えて!長期株式投資さんの資産形成術 第7回 危ない企業を見抜く!「自己資本比率」と「信用格付」で財務健全性をチェックしよう!

みなさんこんにちは。長期株式投資です。いつも連載をご覧いただきありがとうございます。
この連載では、これから投資を始めたいと考えている初心者の方が、無理なく基礎を身につけられるよう、全12回にわたって株式投資の重要ポイントを体系的に解説しています。毎月1回の更新で全12回を予定しており、最終回を迎える頃には、読者のみなさんが初心者を卒業できる状態になっていることを目標としています。
また、投資のイメージをより具体的に持っていただけるよう、毎回、私の保有銘柄トップ20を公開し、簡単なコメントも添えて紹介しています。銘柄選びのヒントとしてご活用いただければ幸いです。
さて、第7回となる今回は、財務健全性についてです。株式投資を続けていると、「この企業は本当に大丈夫なのだろうか?」という疑問に必ず向き合う瞬間があります。どれだけ魅力的な商品を作っていても、どれだけ話題性があっても、財務が弱い企業は景気の波に飲み込まれやすく、長期投資の対象としては不安が残ります。逆に、財務基盤がしっかりしている企業は、外部環境が変化しても倒れにくく、長期投資の軸として頼れる存在になります。
企業の財務健全性を確認する方法はいくつかありますが、その中でも特に重要なのが「自己資本比率」と「信用格付」です。どちらも一見すると難しそうに見えますが、実は投資家にとって非常に心強い「安全確認ツール」です。財務を見ることは、企業の「中身」を知ることでもあります。株価の短期的な変動に振り回されず、落ち着いて投資を続けるためには、企業の体力を把握しておくことが欠かせません。
企業の体力を測る「自己資本比率」とは?計算式と見方の基本
まずは自己資本比率から見ていきましょう。自己資本比率とは、企業が持つ総資本のうち、返済義務のない「自己資本」がどれだけの割合を占めているかを示す指標です。計算式はとてもシンプルで、自己資本を総資本で割り、100を掛けるだけです。
自己資本とは、株主からの出資や企業がこれまで積み上げてきた利益(内部留保)のことで、返済する必要のない「企業自身のお金」です。一方、銀行からの借入金など返済義務のある資金は「他人資本」と呼ばれます。総資本は、この自己資本と他人資本を合わせたものです。
図1 自己資本と他人資本
たとえば、総資本が100円で、そのうち自己資本が40円、残りの60円が借入金などの他人資本だったとします。この場合の自己資本比率は40%です。40%という数字だけを見ると、それが良いのか悪いのか判断がつきません。そのため、自己資本比率を見るときは、必ず同業他社と比べて判断することが大切です。というのも、業種ごとに求められる資金量や事業構造が異なるため、同じ数字でも意味がまったく変わってくるのです。
図2 自己資本比率の考え方
自己資本比率は高ければ良い?業種ごとに違う「適正水準」の目安
自己資本比率は「高ければ高いほど良い」と思われがちですが、実際には業界の特性によって大きく変わります。たとえば、自動車業界の代表的な企業を見てみると、トヨタ自動車は37.8%、ホンダは35.3%、日産自動車は24.2%、スズキは51.0%、マツダは42.5%と、概ね30〜50%程度が標準的な水準になっています。自動車メーカーは設備投資が大きく、一定の借入を活用しながら事業を拡大していくため、自己資本比率が極端に高くなることはあまりありません。
一方、医薬品業界は利益率が高く、借入に頼らずとも事業を回せるため、自己資本比率が高くなりやすい傾向があります。武田薬品工業は47.9%、アステラス製薬は51.3%、第一三共は41.5%、中外製薬は82.1%、大塚ホールディングスは72.3%と、全体的に高い水準が並び、他業種と比べても財務の厚さが際立っています。医薬品は研究開発に多額の費用がかかるものの、成功した製品は長期間にわたって安定した収益を生み出すため、財務が厚くなりやすいのです。
総合商社も見てみましょう。三菱商事は39.1%、三井物産は42.1%、伊藤忠商事は39.4%、住友商事は33.9%、丸紅は41.4%と、こちらは30〜40%台が一般的です。商社は資源ビジネスや海外投資など、大きな資金を動かす事業が多いため、自己資本比率が高くなりすぎるということはありませんが、一定の水準を保つことで財務の安定性を確保しています。
自己資本比率は、医薬品や情報通信、化学などでは高く、空運や電気ガス、海運などでは低い傾向があります。業界によって適正な水準が大きく異なるため、評価にあたっては同業他社との比較が欠かせません。
図3 同じ業種の自己資本比率を確認しよう
要注意!自己資本比率だけで投資判断する「落とし穴」とは
自己資本比率は便利な指標ですが、万能ではありません。たとえば、自己資本比率が高くても、事業の収益性が低ければ投資対象として魅力的とは言えません。逆に、自己資本比率が低くても、安定したキャッシュフローを生み出す企業は少なくありません。
また、自己資本比率は「過去の積み上げ」を反映する指標であり、将来の成長性までは示してくれません。財務が強い企業でも、事業環境が急激に変化すれば業績が悪化することもあります。自己資本比率は「企業の体力」を測る大切な指標ですが、それだけで投資判断を完結させず、他の指標と組み合わせて総合的に見ることが大切です。
「信用格付(レーティング)」とは?プロが評価する「企業の信用力」
企業の財務健全性を確認するもう一つの方法が、信用格付(レーティング)です。信用格付とは、企業が借入金を返済できるかどうか、その確実性を外部の格付機関が評価したものです。
代表的な格付機関には、ムーディーズ(Moody’s)、S&P(スタンダード&プアーズ)グローバル・レーティング、フィッチ・レーティングス、R&I(格付投資情報センター)、JCR(日本格付研究所)などがあります。格付は通常、AAA(最上位)からC(最下位)までのアルファベットで表されます(※格付機関によっては、デフォルト状態を示すDが使われる場合もあります)。
ムーディーズでは記号の後ろに1〜3の数字がつき、1が最も格上です。たとえばA1はA2より上位、A2はA3より上位という関係になります。一方、S&PやR&Iなどは「A+」「A」「A-」のようにプラス・マイナスの記号で細分化します。
格付は企業の財務調査をもとに決定されるため、投資先の安全性を外部の視点から確認できる便利な指標です。ただし、すべての企業がすべての格付機関から評価を受けているわけではありません。また、欧米系の格付機関は日本の格付機関よりも厳しめに評価する傾向があります。企業を比較する際は、どの格付機関の評価なのかを確認することが大切です。
図4 長期債及び発行体格付の格付記号
信用格付を活用する「コツ」と投資判断での注意点
格付は便利な指標ですが、こちらも万能ではありません。たとえば、格付は企業の財務状況をもとに評価されますが、将来の成長性までは反映されません。また、格付機関によって評価基準が異なるため、同じ企業でも格付が異なることがあります。
さらに、格付はあくまで「債務返済能力」を評価したものであり、「株主にとっての魅力」を直接示すものではありません。格付が高い企業は倒産リスクが低い一方で、成長性が低い場合もあります。逆に、格付が低い企業でも、高い成長性を持つ企業は少なくありません。
格付はあくまで「企業の安全性」を確認するための指標であり、投資判断を下す際は、必ず他の指標と組み合わせて総合的に判断することが大切です。
長期株式投資で「財務の強さ」が最大の安心材料になる理由
自己資本比率と信用格付は、企業の財務健全性を確認するための基本的な指標です。どちらも難しいものではなく、ポイントを押さえれば初心者でも十分に活用できます。企業の魅力は事業内容や成長性だけではありません。財務の強さは、長期投資家にとって最大の安心材料です。ぜひ投資判断に役立ててみてください。
長期株式投資の現在の保有銘柄トップ20
さて、続いて執筆者の保有銘柄トップ20のコーナーです。この連載では投資の基本を学んでいただくことに加えて、執筆者がどのような投資を行っているのかについて、保有銘柄トップ20を毎回公開しコメントを添えて紹介しています。これにより、読者のみなさんに投資や運用の具体的なイメージを持っていただければと考えています。
前回(7月3日)から銘柄や株数の変更はありません。
7月30日に公表されたJTの第2四半期決算では、好調な業績を受けて配当予想が増額修正されました。前期の配当234円に対し、当初の通期予想は242円でしたが、今回の修正で30円上乗せされ、272円まで引き上げられています。
今でこそ絶好調なJTですが、過去には業績悪化で苦しい時期もありました。2021年には業績の低迷により減配(154円→140円)を余儀なくされています。当時はSNSなどで「JTを保有するのは愚かだ」というような悲観的な雰囲気も感じられました。しかし結果的にはその局面が株価のボトムとなり、2022年には大幅な増配(140円→188円)が行われ、株価も上昇基調へと転じています。
JTに限らず、歴史を振り返れば「総悲観は買い」、「総楽観は売り」という局面は何度も発生しています。総悲観の状況であっても周囲の雰囲気に流されず、確信を持って保有を継続できる——そのような銘柄へ投資したいですね。
図5 保有銘柄トップ20
長期株式投資(ちょうきかぶしきとうし)
1977年生まれ、熊本県出身。「日本の配当株」専門の元サラリーマン投資家であり、1級FP技能士。2004年から株式投資をはじめ、ハイリターンを求めて新興市場にて個別銘柄の投資をするも、2006年にライブドア・ショックで大きな損失を経験。以降、大型株へ投資対象をシフトするが、リーマン・ショックで壊滅的な痛手を被る。そこで、2009年からはポートフォリオを大型配当株メインにスイッチ。以降は安定的に資産を増やし、2022年の税引き後の手取り配当額は282万5,128円と過去最高を更新。2023年3月には、資産1億円を達成し早期リタイアを実現した。これまでの投資生活で磨いた技術やノウハウをX(旧:Twitter)やブログにて配信し、個人投資家のサポートに尽力するほか、著書に『【超完全版】フルオートモードで月に31.5万円が入ってくる「強配当」株投資 経営戦略から“ほぼ永遠に儲かる企業”を探す方法』(KADOKAWA)、『マンガでわかる!超はじめての株式投資』(永岡書店)がある。


