歴史的高値から一転、急落へ……。それでもゴールドは重要な投資先となり得るのか

近年、大きく値上がりしてきたゴールド(金)への注目度が高まるなか、「株式より有利なのではないか?」「世界中が買っているから自分も買うべきだ」と考えるのは自然なことかもしれない。しかし、「ゴールドは値上がり益を狙う資産ではない」と警鐘を鳴らすのは、投資系ユーチューバーとして人気の鳥海 翔氏。世界各国がゴールドを保有する理由や、株式とは異なる役割を理解すれば、資産形成における活用法も見えてくるはずだ。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「ゴールド=安全資産」とは言い切れない理由
――ゴールドの価格は、この取材をしている2026年7月時点では下落傾向にありますが、数年単位で見ると大きく上昇してきました。改めて、ゴールドが注目されている理由をどう見ますか?
鳥海 翔:ここ数年の値動きのチャートを見ると、100人中100人が「ゴールドはすごく上がっている」という印象を持つはずです。もちろん、実際に大きく値上がりしていますし、「いま投資するならゴールドなのではないか」と考える人が増えるのは自然な流れでしょう。
ただ、知っておいてほしいのは、「価格が上がっていること」と「安全資産であること」は、まったく別の話だということです。
ゴールドの価格推移
※「ゴールドプライス」のデータを元に編集部作成 https://goldprice.org/spot-gold.html
――一般的には、「安全資産」と聞くと値動きが小さいイメージがあります。
鳥海 翔:しかし、そこに関しては多くの人が誤解しているところがあるかもしれません。「安全資産」という言葉だけを聞くと、「価格がほとんど動かない資産」をイメージするようなのです。でも、ゴールドは決してそうではない。短期間で20%、30%下落することもありますし、タイミングによっては株式以上に大きく値動きすることも珍しくありません。つまり、「価格が安定しているから安全」という意味ではないのです。
――それでもゴールドが「安全資産」と呼ばれるのはなぜでしょう?
鳥海 翔:ゴールドは、どこか特定の国や企業が発行している資産ではないからです。よって、仮に国家や金融システムになんらかの大きな問題が起きても、ゴールドそのものの価値がなくなるわけではありません
例えば紙幣は、その国への信用があってはじめて価値を持ちますよね? 企業の株式も、その企業が利益を生み続けることへの期待や信用があって価格が付いていきます。一方、ゴールドは誰かの信用によって成り立っている資産ではありません。そのため、特に有事になると、「最後に頼れる資産」として注目されやすいわけです。
ですから、「安全資産」という言葉を「値動きが小さい資産」と理解するのではなく、「通貨や株式とは異なる価値を持つ資産」ととらえたほうが、本来の意味に近いと考えます。
各国がゴールドを買い続ける理由は「儲けるため」ではない
――近年、各国の中央銀行がゴールドを積極的に買い増していることがよく話題にあがります。
鳥海 翔:しかも、その購入量はここ数年で大きく増えています。ネット上にはそれらを示すたくさんのグラフがあるので見てほしいのですが、実際に目にすると、「世界中が値上がりを期待しているのだから、自分も買ったほうがいいのでは?」と多くの人が考えるに違いありません。でも、中央銀行がゴールドを買う理由は、ここ数年のゴールド価格上昇局面において、個人投資家が考えてきた「利益を出すための投資」とはまったく異なるものです。
中央銀行がゴールドを買う目的は、「利益を出すこと」ではないのです。先に「最後に頼れる資産」とお伝えしましたが、ひとことでいえば、国家としての「保険」の意味合いが強い。その背景には、例えば、2008年のリーマンショックや、2022年のロシアによるウクライナ侵攻といったものがあります。
リーマンショックでは、金融システムそのものへの信頼が大きく揺らぎました。そして、西側諸国によるロシアへの経済制裁では、ドルやユーロで保有していた外貨準備の一部が凍結され、「持っているのに自由に使えない」という事態が実際に起きています。それを見た各国は、「ドルだけを保有していて本当に大丈夫なのか」と考えるようになり、それがいわゆる「ドル離れ」につながっている側面もあり、ゴールドの価値が改めて見直されたという経緯があります。
例えば中国は、米中対立が続くなかで、将来的なリスクへの備えとしてゴールドをどんどん買い増しています。インドも同様に、どちらか一方の陣営に依存しないための備えとしてゴールドの保有を増やしています。東欧や新興国もゴールドの買い増しに積極的です。
ここから見えてくるのは、中央銀行は「金価格が上がるから買う」のではなく、「万が一の事態でも国を維持するため」に買っているということです。現物の金であれば、極端な話、最終的には物々交換のようなかたちでも価値を持ちます。ですから、国家にとっては、ゴールドは資産運用の商品というより、「最後の保険」といった位置付けというのが正解です。
ゴールドは資産全体のバランスを整える存在
――個人投資家がポートフォリオを考える際、ゴールドをどのように位置付けるといいしょう?
鳥海 翔:個人投資家にとっても、「保険」という考え方がベストだと思いますね。ただし、国家と個人では守りたいものがまるで異なります。国は通貨制度や国家といった大きなものを守る必要があるわけですが、個人投資家が守るべきものはそういった類のものではありません。
個人投資家の場合は、株式市場の急落やインフレ、あるいは想定外の出来事が起きたときに、資産全体の値動きを和らげる役割として考えるのが現実的ではないでしょうか。例えば、株式だけを持っていると、株の暴落局面では資産全体が大きく減少します。一方、ゴールドはそうした局面で強く、資産全体を安定させる効果が期待できます。
ただし、「ゴールドさえ持っていれば安心」という考え方はナンセンスです。なぜなら、株式市場が下落したからといって必ずゴールドの価格が上昇するとは限らないからです。株式の下落原因も毎回のように異なり、そこには複雑な要因が絡んできます。ですから、場合によってはゴールドの価格が大きく下落する局面もあります。
とはいうものの、一般的には株式とゴールドは逆相関の関係にあるとされます。異なる値動きをする場面があるからこそ、資産全体の変動を和らげる効果が期待できます。そういう意味では、「資産をすべて守ってくれる存在」というよりも、「資産全体のバランスを整える存在」と考えたほうが適切かもしれませんね。
ですから、「株式かゴールドか」といった二者択一ではなく、「分散投資の一環としてゴールドも保有する」というくらいの感覚が、多くの個人投資家にはちょうどいいのではないでしょうか。
ゴールドは「利益を生み出す資産」ではない
――値動きが異なるという点もそうですが、資産形成という観点では、株式とゴールドにはどのような違いがありますか?
鳥海 翔:最も大きな違いは、「利益を生み出すかどうか」という点です。株式というのは、企業が商品やサービスを提供し、利益を積み上げ、その利益が企業価値の向上につながっていきます。そして、株価が上がる、または配当を出すというかたちで株主へ利益が還元されます。
一方、ゴールドはそれ自体が利益を生み出してはくれません。安く買って価格上昇局面で売却すれば利益は出ますが、持っているだけで利息がつくわけでもなければ、配当がもらえるわけでもありません。当然ながら、金塊が時間とともに増えていくこともありませんよね。
では、その価格はなにで決まるのかというと、基本的には需給です。欲しい人が増えればゴールの価格は上がるし、減れば価格は下がる。非常にシンプルな構造なのです。
――株式と同じ感覚でリターンを期待してはいけない。
鳥海 翔:その通りなのですが、ここ数年のように株式を上回る勢いで価格が上昇することもあります。ただ、それが今後もずっと続く保証はありません。例えば世界情勢が落ち着いて地政学的リスクが後退すれば、安全資産としての需要は弱まる可能性は高いでしょう。あるいは、金利がもっと上昇すれば、利息がつく債券に資金が流れる可能性もあります。
つまり、ゴールドは「価格が上がる理由」がなくなれば、普通に下落する資産でもあるということです。ですから、「ここ数年、よく上がっているから買う」という発想ではなく、「なぜ自分はゴールドを持つのか」という役割を理解したうえで保有することが大切です。
ゴールドを持つ「目的」はなにかを考える
――その「役割」にも関係することですが、ゴールドをどれくらい保有すべきかについても、「正解」を知りたいという人は多いと思います。
鳥海 翔:「資産の10%はゴールドにしましょう」といった話を見聞きすることもありますが、それもすべての人にあてはまるものではないでしょう。例えば、資産が500万円の人と1億円ある人では、守るべきものもリスクの取り方も異なります。年齢や収入、今後も働き続けるのか、それとも資産を取り崩す時期に入っているのかなどによっても、最適な資産配分は変わります。
ですから、雑誌やSNSで見かけたポートフォリオをそのまま真似するのではなく、やはり「自分はなんのためにゴールドを持つのか」を先に考えることが大切だと考えます。値上がり益を期待するのか、資産全体の値動きを抑えたいのか、有事への備えとして持ちたいのか……その目的が決まれば、自然と保有割合も見えてくるはずです。
――これからゴールドへの投資を検討している人へ伝えたいことはありますか?
鳥海 翔:ゴールドは、とても魅力のある資産です。何千年もの歴史のなかで価値を認められ、現在でも世界中の中央銀行が保有し続けています。その意味では、他の資産にはない強みを持っているといえるでしょう。ただ、それだけを持っていれば資産形成がうまくいくわけではありませんし、株式の代わりになる資産でもありません。
わたしの場合であれば、株式は「資産を増やすための資産」であり、ゴールドは株式と異なる値動きをするという点において「資産を守るための資産」というイメージで考えています。どちらが優れているという話ではなく、それぞれ役割が異なるのです。だからこそ、「いまゴールドを買うべきか」という問いだけで判断するのではなく、「自分の資産全体のなかで、どのような役割を担ってもらうのか」をしっかり考えてほしいと思います。
鳥海 翔(とりうみ しょう)
1985年8月14日生まれ、群馬県出身。株式会社Challenger代表取締役、ファイナンシャルプランナー。慶應義塾大学商学部卒業後、2008年に三井住友海上火災保険株式会社に入社。リテール営業・企業営業を担当し、数々の表彰を受ける。金融商品の制約に疑問を抱き、2016年に株式会社Challengerを設立。世界中の生命保険・金融サービスの専門家のなかで上位1%以内とされるMDRT(Million Dollar Round Table)会員となる(当時)。NISAやiDeCo、保険、投資信託などの資産形成のための知識を提供するYouTubeチャンネル「鳥海翔の騙されない金融学」は登録者数43万人(2026年7月時点)を超える。著書に『「だまされない」お金の増やし方』(KADOKAWA)。企業研修や自治体・学校での金融教育講演も多数行う。
