あおりの情報に惑わされてはいけない。「オルカン」がやっぱりいまなお最適解といえる理由

「オルカンはもう古いのではないか?」「いまはナスダック100だ」「いやS&P500だ!」──。SNSや動画サイトを開けば、毎日のようにそうした話題が飛び交っている。将来のために大切なお金を投資しているなか、様々な情報に触れるたび「積み立て先を変えたほうがいいのでは?」と心が揺らいでしまう個人投資家も多いだろう。しかし、投資系ユーチューバーの鳥海翔氏は、いまなお「オルカン」が資産形成の「王道」だと語る。そういえる理由、そして投資において不可欠の思考を聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
話題性がないのが王道である証
――「新NISA」が始まって2年以上が経過しました。投資信託では「オルカン(オール・カントリー)」が依然として不動の人気ですが、鳥海さんはこの商品の現在の立ち位置をどのように見ていますか?
鳥海 翔:結論からいうと、オルカンはずっと変わらず王道中の王道だと思っています。オルカンやS&P500は、時代や流行によって立ち位置が変わるものではありません。AIブームが来ようが新しいテーマ株が注目されようが、「長期で資産形成をするための土台」という役割は不変だと思います。だから、ある意味では話題性がないのですが、その話題性のなさこそが、王道であり続ける理由ではないでしょうか。
――今年はAI・半導体関連銘柄への期待もあり、ナスダック100への注目度が俄然、高まっています。そんななか、「オルカンでは物足りないのでは?」と考える人が増えている印象もあります。
鳥海 翔:わたしの場合、「どちらが優れているか」という考え方はしていません。積極的にリターンを狙いたい人ならナスダック100への投資も選択肢になりますし、「できるだけ余計なことを考えず、淡々と積み立てたい」という人ならオルカンが向いています。それぞれ特徴が異なるだけなのです。
ナスダック100指数は値動きが大きいので、相場に振り回されやすい商品でもあります。一方、オルカンは世界中に分散投資しているので、比較的落ち着いて積み立てを続けやすい。そのちがいを理解して選べばいいと考えます。
振り回されてもいいが、その経験を「資産」に変える
――SNSでは「やっぱりナスダックだ」「AI関連株だ」といった情報が毎日のように流れてきます。オルカンで積立投資をしている人ほど、気持ちが揺れてしまうこともありそうです。
鳥海 翔:気持ちが揺れても、なんならナスダックに乗り換えて振り回されてもいいのではないでしょうか(笑)。ただ、オルカンからナスダックに変えたからといって、1年や2年で資産額が劇的に変わるようなことはないでしょう。長い目で見れば結果に差が出る可能性こそありますが、多くの人は投資先ばかりを気にし過ぎなのだと思います。
――「振り回されてもいい」という言葉は少し意外でした。多くの専門家は、「ブレずに積み立てましょう」といいますよね。
鳥海 翔:もちろん、なんとなく流されて振り回されるのはよくありません。でも、実際に経験してみないと分からないことはたくさんありますよね? 例えば、オルカンからナスダック100へ切り替えて資産が大きく増えた、あるいは逆に大きく減った。でも、その経験自体は決して無駄ではありません。大事なのは、その結果を「なんでこうなったのだろう?」としっかり振り返ることです。
要因も分からないまま「増えた」「減った」だけで終わらせると、ただのギャンブルになってしまいます。でも、「なぜ増えたのか」「なぜ減ったのか」を自分で調べたり考えたりすれば、それは次の投資に活きる経験になります。
振り回されるなら、せめて根拠を持って振り回されてほしいと思うのです。「AI関連が伸びそうだから」「半導体に期待しているから」と自分なりの明確な理由があるなら、それはそれでいいでしょう。そして、その結果がどうだったのかを検証する。これを繰り返していけば、自分なりの投資判断の軸が少しずつ身についていきます。これも立派な、「資産」といえるはずです。
逆に、なんとなく「SNSで見たから買う」、なんとなく「不安だから売る」といったことをずっと繰り返していると、いつまでたっても振り回され続けるだけです。
「どう転んでも対応できる考え方」を持つ
――今年は相場の先行きが読みにくいという話も、YouTubeで何度かされていましたね。
鳥海 翔:そうですね。まあ……毎年「難しい」といっている気もしますけどね(苦笑)。でも、今年は特にAI・半導体関連銘柄が大きく上昇したあとでもありますし、このままその需要がさらに拡大して上がる可能性もあれば、「期待が先行し過ぎた」と調整が続く可能性もあります。どちらに転ぶかは、本当に読みにくい状況であることは間違いありません。
結局、1年後になれば「あのとき買えばよかった」「あそこで売るべきだった」と簡単にいえるのです。でも、その瞬間に正解をあてることは誰にもできません。ですからわたしは、「未来をあてる」ことよりも、「どう転んでも対応できる考え方」を持っておくことのほうが大切だと思っています。
――そう考えると、「どの商品が最も儲かるか」という発想そのものが、あまり重要ではなくなってきますね。
鳥海 翔:まさにそこです。投資系の情報を見ていると、「どこに投資すれば最も増えるのか」という話ばかりになりがちです。でも、景気や金利、政治、企業業績など、値動きを左右する要素は、自分ではコントロールできないものばかりです。
一方、自分が毎月いくら投資できるか、支出を減らせるか、長く積み立てられるかは、自分でコントロールすることができます。だからこそ、投資先をあれこれ考えるよりも、まずは元本を積み上げること、そして時間を味方につけることのほうがずっと重要だと考えます。
自分でコントロールできることに注力する
――鳥海さんは以前、それこそ「どこが伸びるかをあてるより、どうなっても資産が増える仕組みをつくることが大切」と話されていました。
鳥海 翔:投資というのは、どうしても「予想をあてるゲーム」だと思われがちです。でも、実際には未来なんて誰にも分かるはずもありません。そうであるなら、「あたるか外れるか」に賭けるより、「どんな相場でも資産が増えていく仕組み」をつくったほうが再現性は高いと思いませんか?
そのためには、毎月コツコツ積み立てることでもいいですし、投資に回せるお金を増やすことでもいい。支出を見直して入金力を上げることもそうです。繰り返しになりますが、自分でコントロールできる部分に注力したほうが、長い目で見れば結果は必ずついてきます。
――そう考えると、オルカンはまさに「仕組みをつくるための商品」といえそうです。
鳥海 翔:もちろん、「一生オルカンだけでいきましょう」といっているわけではありません。例えば、AI・半導体関連銘柄のように「いまはチャンスだ」と思える場面もあります。そういうときに一部のお金でチャレンジするのはまったく問題ないと思っています。
ただ、その土台には、オルカンやS&P500のようなインデックス投資がある。そのかたちが理想ではないでしょうか。いわゆる、「コア・サテライト戦略」です。ベースはインデックスで着実に積み上げる。そのうえで経験や知識が増えてきたら、一部で個別株やテーマ株に挑戦してみるのです。
そこでうまくいけば資産形成のスピードは上がるかもしれませんし、失敗したとしても、それを経験として次に活かせばいい。そのようにして投資の引き出しを増やしていくことを考えてほしいですね。
結局は「消去法」。だからこそオルカンは選ばれ続ける
――あらためて伺いますが、投資ビギナーに向けて、現時点でも「最初の1本」としてオルカンをおすすめしますか?
鳥海 翔:おすすめします。でも、わたしは「オルカンにはこんなすごいメリットがある!」と考えているわけではありません。むしろ、「消去法」なのです。
投資商品には、「ここは魅力だけど、この部分が気になる」「こっちは面白いけど、値動きが激し過ぎる」といったようにそれぞれ必ず長所も短所もあります。そうして一つひとつ見ていくと、「じゃあ結局どれがいいんだろう?」となりますが、その結果、最後に残るのがオルカンやS&P500なのです。
――消去法で残るということは、「デメリットが少ない商品」ということを意味しますか?
鳥海 翔:そういうことになりますね。冒頭でも触れましたが、「オルカンは物足りない」と感じる人もいるでしょう。実際、値動きが大きい商品を見ていると、「もっと増やしたい」と思うのは自然なことです。でも、それこそが人間の欲なのです。
ウォーレン・バフェットの有名な言葉に、「時間をかけてお金を増やしたい人はいない。だから多くの人は失敗する」という趣旨のものがあります。みんな、早く結果がほしい。でも、資産形成とは本来そういうものではないのです。物足りないと思うこと自体は悪くありません。その気持ちがあるから勉強もするし、経験も積めます。
ただ、ベースとなる資産まで全部動かしてしまうのは間違いだと考えます。土台はオルカンでしっかりつくる。そのうえで、「もっと挑戦したい」と思うなら、一部で攻めてみればいい。それくらいのバランスが、長く資産形成を続けるためには大切なのではないでしょうか。
――最後に、いま「オルカンはもう古い」「もっと効率のいい投資先があるのでは?」と迷っている人へメッセージをお願いします。
鳥海 翔:正直、迷うこと自体は悪いことではありません。でも、そのたびに投資先を乗り換えていたら、いつまでたっても明確な投資の軸はできません。繰り返しになりますが、資産形成において最も大切なのは、「最も儲かる商品」を探し続けることではなく、自分が続けられる仕組みを持つことです。その意味では、オルカンはいまも十分に王道です。派手さはありませんが、だからこそ長くつき合うことができる。結局、最後まで残るのは、そういう商品なのだと思っています。
鳥海 翔(とりうみ しょう)
1985年8月14日生まれ、群馬県出身。株式会社Challenger代表取締役、ファイナンシャルプランナー。慶應義塾大学商学部卒業後、2008年に三井住友海上火災保険株式会社に入社。リテール営業・企業営業を担当し、数々の表彰を受ける。金融商品の制約に疑問を抱き、2016年に株式会社Challengerを設立。世界中の生命保険・金融サービスの専門家のなかで上位1%以内とされるMDRT(Million Dollar Round Table)会員となる(当時)。NISAやiDeCo、保険、投資信託などの資産形成のための知識を提供するYouTubeチャンネル「鳥海翔の騙されない金融学」は登録者数43万人(2026年7月時点)を超える。著書に『「だまされない」お金の増やし方』(KADOKAWA)。企業研修や自治体・学校での金融教育講演も多数行う。
