「イーロン・マスクだから大丈夫」は危険?スペースX社IPOで話題、宇宙株投資への期待とリスク

イーロン・マスク氏率いる、スペースX社のナスダック市場へのIPOは世界中の投資家から大きな注目を集め、「歴史的IPO」とも呼ばれた。「火星移住」を掲げる同氏の壮大な構想に期待する人も多いだろう。しかし、「すごい会社」と「すぐに儲かる株」は必ずしもイコールではない。投資系ユーチューバーの鳥海翔氏に、スペースXのこれからの可能性とIPO投資の注意点、そして、長期投資家が持つべき視点について解説してもらった。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
調べるほど見えてきたスペースXのすごさ
――スペースXの新規株式公開は「歴史的IPO」ともいわれ、世界中で話題となりました。率直に、今回の上場をどう見ていますか?
鳥海 翔:本当にシンプルに、「すごい会社が上場したな」というひとことに尽きます(笑)。ただ、わたしはもとからスペースXに強い思い入れがあったわけではありません。自分のYouTubeで同社に関する動画をアップしたところ想定していた以上に再生され、「みんな、そんなに興味あるんだ」と、改めて興味を持ったのです。そこから詳しく調べてみたら、「なるほど、これはすごい会社だ」と思うことばかりでした。ですから、ある意味では世の中の関心によってわたしの関心も高まったというのが実情です。
――その「すごさ」というのは、具体的にどのようなところですか?
鳥海 翔:もちろん、ロケットを飛ばしている会社というだけでもすごいのですが、本当にすごいのは、その先に描いている未来だと感じています。
イーロン・マスクは、もともと「人類は火星に住めるようにならなければいけない」という発想からスペースXを立ち上げています。そこで彼は、ロケットの再利用を実現し、打ち上げコストを劇的に下げることに成功しました。さらには衛星通信サービス「スターリンク」を展開し、世界中で通信インフラを提供しています。もちろん、それで終わりではありません。
例えば、宇宙にデータセンターをつくるとか、宇宙空間で発電するといったこともそのひとつです。AIが普及するほど電力や場所は足りなくなりますから、それを宇宙で解決しようという発想です。わたしたち一般の人間からするとそれこそSFみたいな話ですが、イーロン・マスクは本気でそこを目指している人なのです。
――なるほど。宇宙を起点とし、AIや通信、エネルギーまでもがひとつにつながっているわけですか。
鳥海 翔:スペースXだけを見ても本質は見えません。イーロン・マスクは、自身が中心となるxAIやX(旧Twitter)、テスラといった企業も含めて、ひとつの巨大な経済圏をつくろうとしています。その構想全体のスケールを見ると、「これまでの企業とはちょっとちがうな」という印象を強く受けます。もちろん、まだ公表していないだけで、本人のなかにはもっとすごいプランがあるのでしょうね。
いまから30年前、日本企業が世界の時価総額ランキングの上位を占めていた話は有名です。けれどいまは、グーグルやマイクロソフトなどアメリカのビッグテック企業が中心になっています。しかし、10年後、20年後、30年後も同じ顔ぶれなのかというと、おそらく大きく変わっているはずです。その次の時代をつくる企業のひとつとして、スペースXが中心になる可能性は十分にあると思います。
IPO直後は「期待」だけが先行してしまう
――IPOからあっという間に、スペースX(ティッカーシンボル:SPCX)はナスダック100指数にも組み入れられました。スペースXの株価にとってプラス材料だと思っていた投資家も多かったようですが、実際には同社の株価は下落(2026年7月21日時点)しています。
鳥海 翔:結局、なにも起きなかったということです。ナスダック100指数に組み込まれることで株価は上がりそうに思えますが、その情報は何カ月も前から市場参加者は知っていたわけであり、既に現在の株価はそれらのことを織り込み済みなのです。ですから、「ナスダック100指数に採用されたからもっと株価が上がる」という単純な話にはなりません。
――スペースXのケースに限らず、IPO銘柄全般にも同じことがいえますか?
鳥海 翔:特に大型のIPOというものは、「こんな未来を実現します」という壮大なストーリーによって期待が膨らみます。投資家たちも、「すごい会社が出てきた!」と期待して買うので、最初は株価も上がりやすいといえるでしょう。でも、そのあとには決算が出てきます。
すると、「思ったほど利益が出ていない」「大きな成長にはまだまだ時間がかかりそうだ」といった現実が見えてきます。もちろん会社が嘘をついていたというわけではなく、投資家が期待し過ぎていたというだけのことなのですが……その結果、株価は一度大きく低迷するケースが少なくありません。
ただ、その期間を経て、「ちゃんと事業が進んでいる」「最初に描いていたストーリーは本当だった」と市場が評価したときにはじめて、株価は本格的に上昇していきます。この「実態と株価が一致する瞬間」を地道に待つことが大切ではないでしょうか。
「イーロン・マスクだから大丈夫」という罠
――スペースXの場合は、会社はもちろんのこと、イーロン・マスクという存在への期待も大きいです。
鳥海翔:ただ、そこが怖いところでもあると見ています。あれだけの天才ですから、「イーロン・マスクだから成功するはずだ」と思うことを完全に否定はしません。でも、それこそが罠かもしれない。もちろんわたしも、長期では成功する可能性は高いと思っています。とはいえ、株価が一直線に上がるかどうかはまったく別の話です。先にも触れたように、むしろ途中で何年も低迷する可能性のほうが高いと思うわけです。
だからこそ、待つことです。話題だけで買った人ほど、「こんなはずじゃなかった」と途中で売ってしまいがちですよね。でも、5年、10年という時間をかけて、株価が何倍、何十倍になる可能性だってあります。そこが、株式投資の最も難しいところだと思います。
もちろん、AIの進化もあって、イーロン・マスクが描く世界が想像以上のスピードで実現することもあるでしょう。極端な話、むかしなら1年かかっていたことが、いまでは1カ月で実現してしまうような時代です。未来は誰にも分かりません。
だからこそ、「すごい会社だから絶対に上がる」と決めつけず、「長い時間をかけて見守るもの」というスタンスでいることをおすすめします。
宇宙産業は魅力的。でも、「次の本命」と決めつけるのは早い
――スペースXだけでなく、宇宙関連市場全体への期待も高まっていますよね。AIに続く長期テーマになる可能性はあると思いますか?
鳥海 翔:もちろん、その可能性はあるでしょう。ただ、「宇宙産業」とひとくくりにして考えるのは、ちょっと危ない気がしています。いまの宇宙産業というのは、極端ないい方をすると「スペースXだよね」という世界なのです。
スペースXの他にも、防衛関連や衛星関連など様々な宇宙関連企業は存在しますが、ここまで市場の期待が高まるのは、やはりスペースXの影響です。ですから、「宇宙株の時代が来る」と考えて、なんでも買えばいいという話ではありません。
――では、現時点で投資家が注目すべきテーマは?
鳥海 翔:面白味のない回答ですが、やはり、AIと半導体になるのでしょうね。AIは今後もあらゆる分野に普及していくことが確実視されますし、その基盤となる半導体も含めて、株価上昇の現実味があります。その次となると、スペースXのような宇宙関連が来るのかもしれないし、バイオ関連かもしれない。あるいは、量子コンピューター関連かもしれない。でも、その順番は誰にも分からないのです。
ですからわたしは、「次になにが来るか」をあてにいくより、まずはいま起きていることをしっかり見るほうが大事だと考えながら投資しています。AIの発展によって、宇宙産業だけでなく、他の産業が大きく変わる可能性だって大いにあるのです。例えば医療などは、高齢化という大きな問題もありますし、そもそもお金が集まりやすい分野でもあります。AIによって治療法が大きく前進する可能性も十分にあるでしょう。
ただし……何度もいうようですが、それがいつ実現するのかなんて誰も的中させることはできません。株式投資というのは、「未来を予想するゲーム」にしてしまうほど難しくなるのです。だからこそ、「これから伸びる業界」を探すよりも、いましっかり利益を生み出している企業や産業を見ていくほうが合理的だと思っています。
「夢」に投資する前に、インデックス投資で土台をつくる
――とはいえ、一連の流れのなか、宇宙株への興味を捨てきれない人も多いと思います。もちろん、これからも話題が尽きないでしょう。そんななか、株式投資ビギナーは、どのように向き合うのがいいですか?
鳥海 翔:正直にいうと、宇宙株については見ないほうがいいかもしれませんね(苦笑)。10年、20年先の未来なんて、いくら有名なエコノミストだって分からないのです。それなのに、初心者が「宇宙が来る」といわれて飛びつくのは、かなり難しい投資を最初から選んでしまうことになります。
わざわざ茨の道を歩く必要はありません。そうではなく、まずはインデックス投資をコツコツと続けながら、市場がどう動くのかを身を以て経験してみることが重要です。それから、いまなら半導体やAIなど、比較的分かりやすいテーマを勉強していくといいでしょう。「その延長線上にスペースXのような企業がある」という順番のほうが自然だと思います。ただ、それでもスペースXに投資をするなら、一度に大きく買わずに、「毎月1株ずつ買う」など自分なりのルールを定めて、少額で長く積み立てていきましょう。あるいは個別株ではなく、宇宙関連のインデックスファンドを少し持ってみるという方法もあります。
――最後に、スペースXに大きな期待を寄せている投資家へメッセージをお願いします。
鳥海 翔:本当に面白い会社だと思います。もしかすると、10年後、20年後、30年後に「あの会社が世界を変えた」と振り返る存在になっているかもしれません。
ただ、その未来が仮に実現するとしても、その途中で株価は何度も上下するはずです。ですから、「すごい会社だから必ず儲かる」と考えるのではなく、「夢のある会社だから長く付き合う」くらいの気持ちでいることをおすすめします。
株式投資で大切なのは、話題性ではありません。期待と現実をきちんと切りわけ、自分が納得できるかたちで投資を続けること――。それこそが、長期的に資産を増やすための確実な方法だとわたしは考えます。
鳥海 翔(とりうみ しょう)
1985年8月14日生まれ、群馬県出身。株式会社Challenger代表取締役、ファイナンシャルプランナー。慶應義塾大学商学部卒業後、2008年に三井住友海上火災保険株式会社に入社。リテール営業・企業営業を担当し、数々の表彰を受ける。金融商品の制約に疑問を抱き、2016年に株式会社Challengerを設立。世界中の生命保険・金融サービスの専門家のなかで上位1%以内とされるMDRT(Million Dollar Round Table)会員となる(当時)。NISAやiDeCo、保険、投資信託などの資産形成のための知識を提供するYouTubeチャンネル「鳥海翔の騙されない金融学」は登録者数43万人(2026年7月時点)を超える。著書に『「だまされない」お金の増やし方』(KADOKAWA)。企業研修や自治体・学校での金融教育講演も多数行う。
