水瀬ケンイチが説く、インデックス投資と個別株投資が重なる場所。オルカンに宿る「手ざわり」とは?

「冷たい投資」の誤解
「インデックス投資って、なんだか冷たい感じがしませんか?」
こう聞かれることがある。たしかに、インデックス投資は「全世界株式に連動するファンドを買って、あとは放置する」というシンプルな仕組みだ。売買のタイミングを計る必要もなければ、企業の決算書を読み込む必要もない。だからこそ「機械的」「血が通っていない」と見られがちだ。
一方、個別株投資には「企業を応援する」「経営者の思いに共感する」といった温かみのあるイメージがある。決算発表を追い、新製品のニュースに一喜一憂し、株主総会に足を運ぶ——そこには企業と投資家の「つながり」がある。実際に自分が使っている商品を作る会社の株を買い、その企業の成長を見守る。これこそが「投資の実感」だと感じている人は多いだろう。
しかし、本当にインデックス投資には人の血が通っていないのだろうか。25年近くインデックス投資を続けてきた私は、むしろ逆だと思っている。インデックス投資と個別株投資は、実は同じところを見ている。その「重なる場所」について、今回は書いてみたい。
インデックスの正体
全世界株式インデックスファンド(いわゆる「オルカン」)に投資しているということは、世界中の約2,800社の企業の株主になっているということだ。これは単なる比喩ではない。ファンドを通じて、実際にそれぞれの企業の株式を保有している。
つまり、インデックスの正体は「企業の集合体」にほかならない。インデックスという抽象的な数字の向こう側には、一社一社の企業がある。売上や利益を伸ばし続ける企業がある。私たちが毎日手に取る商品、毎日使うサービスを提供している企業がある。そして、その事業を支える経営者と従業員がいる。
個別株投資の醍醐味のひとつは、こうした企業の姿に「手ざわり」があることだろう。決算で売上高や営業利益の成長を確認する実感。自分が愛用している商品を作っている会社の株主になる喜び。業績と株価の関係を肌で感じながら投資する面白さ。個別株投資家にとって、投資先は抽象的な記号ではなく、具体的な事業と数字を持った「生きた存在」だ。
実は、インデックス投資の構造もまったく同じだ。個別株投資家が一社一社の企業を見て投資するのに対し、インデックス投資家は数千社をまとめて投資する。投資先が「企業」であるという本質は、何も変わらない。
ところが、インデックス投資家はこの事実を忘れがちだ。自分のポートフォリオを見るとき、目に入るのは「全世界株式 +15.3%」といったリターンの数字と、「リスク(標準偏差) 約19%」といった統計値ばかり。個別株投資家が感じている「手ざわり」——企業の業績や商品・サービスとの具体的なつながり——が、インデックスという包装紙に覆われて見えなくなってしまうのだ。
あなたの一日を支える株主名簿
では、実際にオルカンの向こう側には、どんな企業がいるのだろうか。直近の上位10銘柄を見てみよう(2026年1月月報より)。
世界中の綺羅星のごとく光り輝く企業たちだ。そしてこれらの企業は、私たちの日常生活に深く根ざしている。
私自身の一日を振り返ってみよう。朝、Android(Google=Alphabet)のスマートフォンで目を覚まし、Google検索で天気を確認し、マップで電車の運行状況を見る。通勤中にYouTube(これもAlphabetのサービスだ)でニュース動画をチェックする。
仕事では一日中、WindowsのPC(Microsoft)に向かう。WordやExcelで資料を作り、Teamsで会議をし、調べ物にはGoogle検索を使う。クラウド上のデータは、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureの上で動いている。意識していなくても、私たちの仕事のインフラは、これらの企業のサービスに支えられている。
昼休みにAmazonで本や日用品を注文する。翌日には自宅に届くこの利便性は、Amazonが長年かけて築き上げた巨大な物流網のおかげだ。私自身はInstagramやFacebookを使っていないが、世界中で数十億人が利用するこれらのSNSを運営するMeta Platformsの株主でもある。自分が使っていないサービスの企業にも投資している——これもインデックス投資ならではの面白さだ。
帰宅後、NetflixやYouTubeで動画を楽しむ。この動画配信の裏側でもNVIDIAのGPU(画像処理半導体)が活躍している。AI技術の爆発的な進化もNVIDIAの半導体が牽引している。そして、私たちが使うスマートフォンやPC、あらゆるデジタル機器の心臓部には、TSMC(台湾セミコンダクター)が製造した半導体チップが入っている。NVIDIAが設計した最先端チップも、実際に製造しているのはTSMCだ。
電気自動車の分野ではTeslaが世界をリードし、街中でTesla車を見かける機会も増えてきた。そしてBroadcomは、Wi-FiやBluetoothといった無線通信の半導体を供給しており、私たちがスマートフォンやPCでインターネットに接続できるのも、この企業の技術があってこそだ。
こうして見ると、オルカンの上位銘柄は、もはや私たちの生活インフラそのものだ。朝起きてから夜寝るまで、これらの企業の製品やサービスに触れない日はない。
なお、上位10銘柄は米国企業が多いが、もう少し広く見ると、トヨタ自動車やソニーグループなど、私たちに馴染み深い日本企業もたくさん組み入れられている。オルカンに投資するということは、日本を含む世界中の企業の株主になるということなのだ。
株価が暴落しても、企業は止まらない
この視点が最も力を発揮するのは、実は暴落の局面だ。
私は25年以上の投資人生で、いくつもの暴落を経験してきた。2008年のリーマンショックでは、資産の半分近くが吹き飛んだ。2020年のコロナショックでは、わずか1か月で世界の株式市場が30%以上下落した。
暴落の渦中にいるとき、チャートを見ても救いはない。真っ赤に染まった損益の数字は、ただ恐怖と絶望を煽るだけだ。「もうダメかもしれない」「ここで売らなければもっと損をする」——そんな声が頭の中をぐるぐると回る。
しかし、暴落時にも変わらないことがある。それは、企業が事業を続けているという事実だ。
リーマンショックのとき、株式市場は壊滅的な打撃を受けた。しかし、AppleはiPhoneの進化を止めなかった。MicrosoftはWindowsやOfficeの改良を続け、次世代クラウドサービスの構想を進めていた。Amazonは物流網の拡充に投資し続けた。株価がどれだけ下がっても、世界中の企業は翌朝も工場を動かし、オフィスで働き、新しい価値を生み出そうとしていた。
コロナショックのときも同じだった。世界が混乱する中、企業はリモートワークの基盤を整え(Microsoft、Google)、巣ごもり需要に応え(Amazon)、ワクチン開発に全力を注いだ(製薬企業各社)。人類の危機に際して、企業と、そこで働く人々が懸命に動き続けた。むしろ危機をきっかけに、デジタル化やAI技術の活用は一気に加速した。
株価は一時的に暴落しても、企業活動は止まらない。そして歴史が証明しているように、企業活動が続く限り、株式市場は長期的には回復してきた。
インデックスの数字だけを見ていると、暴落時には「もう終わりだ」と感じてしまう。しかし、その向こう側にいる企業と人の営みに思いを馳せると、「この企業たちが事業を続けている限り、大丈夫だ」と思える。少なくとも、私はそうだった。数字ではなく、企業の事業活動そのものに目を向けること。それが、暴落を乗り越えるためのひとつの支えになる。
インデックス投資と個別株投資が重なる場所
インデックス投資と個別株投資。この二つは、投資のアプローチとしてはまったく異なるものだ。
個別株投資家は、一社一社の企業を分析し、将来性を見極め、銘柄を選んで投資する。インデックス投資家は、市場全体に幅広く分散投資し、個別企業の選択は市場に委ねる。投資の「やり方」は正反対と言ってもいい。
しかし、投資先は同じ企業だ。個別株投資家がAppleの将来性に賭けて株を買うとき、インデックス投資家もファンドを通じてAppleの株主になっている。個別株投資家がTSMCの技術力を評価して投資するとき、インデックス投資家もTSMCの株式を保有している。
投資先が「企業」であるという一点において、インデックス投資と個別株投資は完全に重なっている。このことは見過ごされやすいが、しっかりと腹に落とし込んでおくと、投資に対する見方が少し変わるかもしれない。
暴落などの株価の荒波の中でも、「自分は世界中の優良企業の株主であり、その企業が事業を続けている限り、長期的には報われるはずだ」と思えることは、投資を続けるうえで大きな支えになる。
インデックス投資は、決して冷たくも機械的でもない。世界中の企業とそこで働く人々の活動に、幅広く参加する投資なのだ。数字の向こう側に目を向けてみてほしい。あなたの投資先には、今日も懸命に事業を営む企業と人がいる。
本コラムでは今後も、インデックス投資をはじめとする資産形成のさまざまなテーマについて、実践者の視点からお届けしていきます。
水瀬ケンイチ(みなせ けんいち)
1973年、東京都生まれ。IT企業に勤める個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」をはじめた、投資ブロガーの先駆け。経済評論家の山崎元氏との共著でインデックス投資を解説した『ほったらかし投資術』(朝日新書)がベストセラーになったほか、『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)、最新刊『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)など著書多数。著書の累計部数は55万部を突破(2025年6月時点)。
