ストレスフリーで投資効率も高い。インデックス投資の資産配分とリバランスの考え方

2002年からインデックス投資をはじめ、2021年に資産1億円を達成したインデックス投資家の水瀬ケンイチ氏にとって、もっとも重要なことは「ストレスフリーで投資を続けること」にあるという。では、実際にどのインデックスファンドに投資をし、ポートフォリオを構成しているのだろうか。また、その背景にある投資哲学やリスクに対する考え方についても聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
市場平均で着実に成長する「時価総額加重平均」の資産配分
——水瀬さんは2021年に資産1億円を達成し、現在は1億5,000万円にもおよぶそうですね。その資産形成を実現しているポートフォリオについて教えてください。
水瀬ケンイチ:わたしの場合、ポートフォリオの集計は6月末と12月末の年2回と決めています。そのため、2025年6月末にブログ『梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー』に掲載したポートフォリオを紹介します。
株式の構成比が75%〜80%と高めなのは、年齢(50代)と投資期間を考慮した結果です。50代ともなると株式と債券を50:50でバランスを取る人もなかにはいますが、わたしはまだ会社員を続けているので労働収入を得ていますし、これから投資できる期間が10年以上あります。よって、この程度のリスクは取れると判断しているのです。
ポートフォリオ全体の期待リターンは年4.5%、リスク(標準偏差)は年15.3%で、有効フロンティア(同じリスクで最大のリターンが得られるポートフォリオ)を厳密に求めることはあまりしていません。詳しくは後述しますが、これくらいのポートフォリオが、自分のリスク許容度に見合ったストレスのない資産配分だと考えています。
——水瀬さんは株式投資の配分を、日本・先進国・新興国といった地域別の括りで把握されているのですね。この配分の基本的な考え方を教えてください。
水瀬ケンイチ:わたしの資産配分は、全世界における時価総額加重平均の比率に近づけることを基本としています。具体的には、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動するかたちです。
これは、わたしの投資バイブルでもある名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』(日本経済新聞出版社)から学んだ考え方で、同著によればアクティブファンドの7割から8割は市場平均を上回れないことを結論づけています。その主要な理論は運用コストと「効率的市場仮説」ですが、簡単には説明できないので、そこは実際に本を読んでいただくのがいいでしょう。株式市場はランダムに動いていて、なんらかの指標をもとに相場変動を予測して市場平均を上回ろうとすること自体が難しいのです。
そうであれば、世界市場を縮小コピーしたようなポートフォリオを低コストで構成し、市場平均そのものになることが効率的な投資だと同著では語られています。
——では、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動する「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、いわゆる「オルカン」をメインに投資されているのでしょうか?
水瀬ケンイチ:2018年に「オルカン」が登場してからは、それ一本で積み立てています。逆に、まだオルカンがなかった時代には、様々なインデックスファンドを組み合わせて配分比率を近づけていたので大変でした。新興国株のインデックスファンドが存在していなかったり、先進国株ですら当時はマイナーなので資金が集まらずにファンドが廃止されて繰り上げ償還になったりすることもありました。ですから、オルカンがある現代の投資家は幸せですね。
なにより、オルカンにメインで投資する最大のメリットは、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに沿った投資配分の「自動調節機能」にあります。現在では世界の時価総額の6割をアメリカが占めていますが、今後5割、4割と低下していく可能性や、新興国のなかでも勢いのあるインドは1割、2割と増えてくる可能性もあり、将来は誰にも予測ができません。でも、オルカンに投資していれば、各国の時価総額の変動に合わせて投資配分を調整してくれるのです。これは、自分で複数のインデックスファンドを寄せ集めていたらできないことだと思います。
いまの経済情勢がずっと続くのなら、直近のパフォーマンスが高いS&P500やナスダックなどの米国株インデックスに投資したほうが、もっと儲かることは間違いありません。しかし、「今後どうなるかわからない」という不確実性を前提とすると、手間なく自動的に投資配分を調整してくれるオルカンが優れているとわたしは考えます。
リスクに対する投資配分の考え方
——水瀬さんはポートフォリオの20%程度を債券に配分していますが、その理由を教えてください。
水瀬ケンイチ:以前、ツールを使って、株式100%だった場合や、株式90%/債券10%の場合など、10%ずつ債券比率を増やしながら、それぞれの期待リターンとリスクを計算してみたことがあります。その結果、国内債券20%から30%、株式が70%から80%あたりの期待リターンとリスクが、自分にとって心地よかったのです。
概算ですが、国内債券20%のリスクが標準偏差15%、国内債券30%まで引き上げると標準偏差は13.3%に下がります。この標準偏差のマイナス2倍の大暴落が発生確率2.5%で起こると考えた場合、単純計算で「自分の金融資産がマイナス26.6%以上下落する大暴落が100年に2、3回起こる」ということになります。「心地よい」というのは、そのあたりのリスクがわたしのメンタル的に許容可能だと感じるということです。
株式を100%にすれば期待リターンも6%になって利益は大きくなりますが、リスクが高まりストレスや不安も大きくなります。かといって、債券を50%に上げれば期待リターンが下がり過ぎてモチベーションも下がってしまいます。
つまり、現金資産や収入に対するリスクの適正値を、なんらかの基準や指標に沿って決めたわけではなく、感覚的な安心感に基づいて決めたということです。インデックス投資において重要なことは厳密な戦略より「継続すること」ですから、投資に対する心理的なストレスをなくすことを重視しているのです。
——ちなみに、外国債券よりも国内債券を重視する理由についても伺えますか?
水瀬ケンイチ:国内債券は個人向け国債・変動10年を積み立てているのですが、これを重視する理由はふたつあります。第一に、為替リスクの回避です。わたしのポートフォリオでは、先進国株式と新興国株式で外貨比率が約75%になります。債券でも為替リスクを取ってしまうと、為替リスクに対して無防備な状態になってしまうからです。
第二は、今後の金利上昇への対応です。将来的な金利の動向は予測できませんが、日本に関していえば金利下落よりも金利上昇の可能性に大きな余地があることは確かです。仮に金利がマイナスになっても、国内の個人向け国債は元本割れがなく年率0.05%が保障されます。また、金利上昇については、変動10年で購入した場合は半年ごとに適用利率が変わるため、金利上昇の恩恵を受けられます。
このメリットは、米国債をはじめとする外国債券にはないものです。表面的な利率は外国債券のほうが高いことは確かですが、わたしが債券に求めるのは暴落などの相場変動におけるクッションですから、リスクが少なく安心できることを重視します。
厳密なリバランスは行わず、マイペースな投資を維持する
——ポートフォリオのリバランスについては、どのような頻度とルールで行っているのですか?
水瀬ケンイチ:リバランスは年2回(6月末・12月末)に資産配分を確認し、株式と債券の比率に生じたズレを調整します。ただし、あまり厳密には考えていません。インデックス投資において重要なことは投資の継続です。せっかく「ほとんど放っておいていい」ストレスフリーな投資をしているのですから、細かな投資効率を求めてリバランスに目くじらを立てる必要もないと考えています。
ルールとして、株式と債券の目標配分から±5%以上乖離した場合にリバランスすることにしていますが、実際に行ったのは過去25年で十数回程度ですね。
——暴落時のリバランスも行わないのでしょうか? 株式と債券は逆相関の値動きをすることから、暴落時には債券の価格が上昇して構成比も高まります。割高な債券を売却し、割安になった株式を買うリバランスは利益を増やすチャンスとされます。
水瀬ケンイチ:暴落をチャンスと捉える考え方は理解しますが、わたしはいままで一度もやったことがありません。その理由は、「相場の底を予測できない」と考えるからです。下落の序の口や、上昇してから手を出してしまえば、それほどの利益は期待できませんよね。
そもそも、わたしは『ウォール街のランダム・ウォーカー』に影響を受け、市場を予測不能なものとしてアクティブ投資をやめ、インデックス投資に舵を切った投資家です。リバランスのときだけ相場の底を読もうとするのは、投資方針として筋が通らないとも考えます。
また、弱気なようですが、総資産が数千万円や1億円ともなると、資産の増減を直視するのも考えものです。まして暴落時には数百万円、ともすれば1千万円もの含み損が起こり得るわけです。わたしは月給で働くサラリーマンですから、そんなものを見たら働く気力も萎えてしまいますし、市場から降りたくもなります。
ですから、リバランスも本当は年1回でも十分だと思っていますし、暴落だからといって積極的に介入する気にもなりません。何度もいうようですが、インデックス投資は市場の状況に左右されることなく、マイペースに積み立てていけばいいのです。それで資産1億円さえ実現できるからこそ、インデックス投資はもっとも効率的な投資手法なのです。
水瀬ケンイチ(みなせ けんいち)
1973年、東京都生まれ。IT企業に勤める個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」をはじめた、投資ブロガーの先駆け。経済評論家の山崎元氏との共著でインデックス投資を解説した『ほったらかし投資術』(朝日新書)がベストセラーになったほか、『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)、最新刊『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)など著書多数。著書の累計部数は55万部を突破(2025年6月時点)。
