継続すれば「億り人」になれる。名著『ウォール街のランダムウォーカー』から学んだインデックス投資の極意

投資ブログ『梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー』の運営者であり、個人投資家として25年の実績を持つ水瀬ケンイチ氏は、2021年に資産1億円を達成。現在も、インデックス投資を継続し資産を増やし続けている。その投資哲学の根幹を成すのが、ブログタイトルの元ネタにもなったバートン・マルキール氏の名著『ウォール街のランダムウォーカー』(日本経済新聞出版)だ。1973年の初版から半世紀を経て、なお読み継がれるこの本の魅力と、2023年の最新13版で語られる現代の投資環境について詳しく伺った。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
生活破綻の危機から救ってくれた読み継がれる名著
——水瀬ケンイチさんと『ウォール街のランダムウォーカー』との出会いについてお聞かせください。
水瀬 ケンイチ:2000年頃、わたしは27歳から株式投資をはじめたのですが、最初はインデックス投資ではなく日本株の個別株投資をしていました。しかし、性格が凝り性なものですから……投資にのめり込み過ぎてしまい、仕事中も株価が気になってYahoo!ファイナンスをチラチラ見たり、土日も企業分析や業界分析に時間を費やしたりと、投資をはじめてから2年くらいで公私ともに生活が破綻しかけてしまったのです。たいした投資金額ではなかったのですが、「悪材料が出たらすぐ売却しないと逃げ遅れる」という恐怖感が勝っていたのかもしれません。
「これではいけない!」と思い、「手間のかからない投資方法はないものか」と図書館の金融・経済の棚の本を片っ端から読みはじめたなかで出会ったのが、『ウォール街のランダムウォーカー』でした。
——同著を読んで衝撃を受け、インデックス投資に軸足を移すきっかけになったのですよね?
水瀬 ケンイチ:「個別株投資が当然」と思っていたため、その内容は衝撃的でしたね。インデックス投資なら定額積立をして、あとは放ったらかしのバイアンドホールドで儲かるなんて信じがたい話でした。わたしが頑張ってきた企業分析や、PER、PBRなどの投資指標の計算、銘柄分析や投資タイミングの判断……これらがすべて不要だと書かれているのです。
市場というのは、長期的に見ればプラスのリターンが期待できるものの、短期的にはランダム・ウォーク(不規則な動き)をしており、「予測などできるものではない」という前提に同著は立っています。それなら、個別株投資で勝ち負けを繰り返すより、長期インデックス投資を行うことでより手間なく勝てるということです。
今でこそインデックス投資はあたりまえの選択肢ですが、この『ウォール街のランダム・ウォーカー』や、チャールズ・エリス氏の『敗者のゲーム』などが、現在のインデックス投資の有利性をロジック的に裏づけるものとなっています。
——その裏づけとしては、どのような論拠が展開されているのでしょうか?
水瀬 ケンイチ:特に印象的だったのはアクティブファンドに関するデータで、7割から8割のアクティブファンドが市場平均に勝てないという事実です。普通に考えれば、市場平均なのだから5割が勝ち5割が負けるはずなのに、実際には7割から8割が負けているというではないですか。
しかも、上回っているファンドの顔ぶれが一定ではなく、今年良かったアクティブファンドは翌年に悪い部類に急降下するケースも多いのです。この事実が意味するのは、株式投資に専念できるアクティブファンドの運用会社ですら市場平均に勝てないのに、片手間でやるサラリーマン投資家では一層厳しいということです。
さらに、アクティブファンドへの投資では、手数料の問題もあります。アクティブファンドの運用成績が市場平均を継続的に1%上回るだけでも大変な成果であるのに、信託報酬で2%も取られてしまえば、高確率で投資家のリターンは市場平均を下回ります。
そうした理論をデータに基づいて解説してあり、内容に信頼性が高かったこと。そしてなにより、この本は1973年の初版ですから、わたしが読んだ2001年時点で約30年の実績がありました。30年もの時代の変化を経てもなお、投資のバイブルとして通用していることが信頼に値すると感じたのです。(なお、2025年現在は53年もの実績になっています)
そもそも、わたしが株式投資をはじめたのは、将来の資金を準備するためでした。個別株投資をゲームとして楽しんでいたわけでもなく、勝てるロジックへの徹底した探究心があったわけでもなかったので、手間なく資産を増やせるのなら、インデックス投資がいいのではないかと考えた次第です。
20年で資産1億円に達したインデックス投資の力
——水瀬さんは実際に2002年からインデックス投資をはじめ、2021年には資産1億円を達成されています。これは、インデックス投資だけでの実績なのでしょうか?
水瀬 ケンイチ:リスク軽減のため国債も購入していますが、株式投資としてはインデックス投資のみですね。最初は月1万円程度から積み立てていき、本業の収入の増加とともに無理なく月々の投資額を増やしていきました。
現在(2025年6月時点)の投資元本の累積は約5,000万円になり、資産は約1億5,000万円に達しています。ただし、一括投資ではないので、25年で3倍になったわけではありません。平均投資元本は約2,500万円であり、平均年率6%程度のパフォーマンスで約6倍になったと考えることができます。
——そうやってあらためて数字で示されると、もの凄いリターンですね。よく、「インデックス投資はなにもしなくていい」といわれますが、投資を続けるうえで大事なポイントはありますか?
水瀬 ケンイチ:資産1億円に達した要因として、以下の5点が大きかったと考えます。
①継続の力
20年以上、一度も投資をやめることなく継続したことが最大の要因です。リーマンショック、コロナショックなど、大きな下落を何度も経験しましたが、いっさい売却せず、積立を継続しました。
②生活とのバランス
月々の投資額では決して無理はしませんでした。先々の生活費とは別に、突然のリストラや長期入院など、万が一のときのために必要な資金も「生活防衛資金」として確保したうえで、余剰資金のみを投資に回しました。
③リスク許容度を踏まえた分散投資
分散投資として、株式と債券にバランスよく分散しました(株式:債券=8:2)。この比率は、暴落時の資産の減少に対して「自分のメンタルが耐えられる」という意味でのリスク許容度を念頭に置いた比率です。
株式と債券それぞれに好不調の波がありますが、そこで収益性を考えて投資配分を変えることなく、「自分が安心して投資を続けられる」ために上記の資産配分を維持してきました。
④コスト意識
低コストなインデックスファンドへの追求です。時代が進むにつれ、より手数料の低いインデックスファンドが登場し、乗り換えも行ってきました。また、証券会社、運用会社の投資イベントや「ブロガーミーティング」などの機会では、手数料の低減について直接要望してきました。
⑤暴落時の対応
例えば、リーマンショックなどの大暴落では、大きな含み損を抱えますが、割安でインデックスを購入できる買い増しのチャンスです。しかし、やはり不安には駆られますから、自分の不安症を自覚したうえで、様々な「売らずに我慢するテクニック」を使って積立を継続しました。
暴落時にはあらためて『ウォール街のランダムウォーカー』や『敗者のゲーム』のような名著に記された暴落の考え方を読み返しました。また、不安になったら見る相場の格言なども決めておき、「直感こそが敵であり、理性こそが友である」(ジョン・ボーグル)という格言で心を落ち着かせました。それだけでなく、NYダウ平均の株価チャートを最大期間で見て、きれいな右肩上がりを続けてきた歴史を振り返るなどもしましたね。
以上のように、インデックス投資は「継続すること」がなにより重要であり、結果として「なにもしなくていい」のですが、「なにもしない」を継続するメンタルを整えるための仕組みが大切だと考えます。
『ウォール街のランダムウォーカー』最新版の改訂について
——『ウォール街のランダムウォーカー』は、2023年に最新13版が発刊されています。どのような内容が追加されているのでしょうか?
水瀬ケンイチ:大筋では「インデックスファンドへの投資が最も効率的」というストーリーは変わっていませんが、世の中で起こった新しい投資現象についての解説が追加されています。
例えば、アメリカで起きたミーム株のミニバブルなどについても触れています。これは、「Reddit(レディット)」というアメリカ版「2ちゃんねる」のような掲示板で、個人投資家たちが示し合わせて特定の株を買い上げる動きが起き、小型株の株価が異常に上昇した現象です。そのほか、暗号資産やNFT、SPAC(特別買収目的会社)といった新しい投資対象についても分析を加え、注意喚起とともに解説されていますね。また、好意的な現象として、ESG投資についても理解を深める情報が記載されています。
——今後のインフレ環境下においても、インデックス投資の有利性は変わりませんか?
水瀬 ケンイチ:『ウォール街のランダムウォーカー』の著者であるマルキール博士もインフレは当面続くと考えており、株式投資の重要性を説いています。そのうえで、インデックス投資の有利性を示すデータに関しては、直近の2019年〜2022年頃の事例やデータを踏まえて加筆したうえで、引き続きインデックス投資が最も効率的であると語っています。
そこで重要なことは、オルカンのようなグローバルでの分散投資です。今後、市場を牽引してきた米国株の期待リターンは下がると予測されていますが、だからこそ米国だけでなく、他の先進国や新興国にも分散投資することで、インデックス投資は依然として有効だと述べられています。
面白い点は、インデックス投資の取り崩しルールの変更です。「投資資産を年4%ずつ取り崩せば資産を減らさずに生活ができる」という有名な「4%ルール」は、2010年代に流行したFIRE関連本で広まりましたが、実は1973年発行の『ウォール街のランダムウォーカー』にも記されているのです。
この4%ルールが、同著の最新版では「3.5%ルール」に変更されています。これは、インフレ率の上昇と期待リターンの低下を反映した、より慎重なアプローチといえるでしょう。
——この本を、これから投資をはじめる人にもおすすめしたいですか?
水瀬 ケンイチ:もちろんです。『ウォール街のランダムウォーカー』は、1973年以来13版を重ね、それぞれの時代の投資現象を折り込んできました。ですから、「投資の教科書」であるだけでなく、もはや半分は「投資の歴史書」といってもいいでしょう。それこそ、チューリップバブルの話からはじまり、世界中のバブルの歴史、金融商品の変遷、詐欺的な投資手法の記録など、バブルの歴史だけで本全体の3分の1を使っています。それだけでなく、身近なところでは日本の不動産バブルについても詳しく記載されているほどです。
つまり、約50年間にわたってあらゆる社会の変遷を見続けてきたうえで、一貫して「インデックス投資がもっとも効率的」という結論に達しているわけです。なにより、新しい金融商品が次々と現れても、「惑わされてはいけない」と警鐘を鳴らし続けてきたことにも深い意義があると思います。500ページ以上もある大作ですから、いきなり読み切ることは難しいでしょう。でも、株式投資を勉強するなら必読の書ですし、インデックス投資で確実に資産形成したい人も、個別株投資にチャレンジする人も、ぜひ目を通してください。
水瀬ケンイチ(みなせ けんいち)
1973年、東京都生まれ。IT企業に勤める個人投資家。2005年より投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」をはじめた、投資ブロガーの先駆け。経済評論家の山崎元氏との共著でインデックス投資を解説した『ほったらかし投資術』(朝日新書)がベストセラーになったほか、『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)、最新刊『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)など著書多数。著書の累計部数は55万部を突破(2025年6月時点)。
