原油100ドル時代に金は買うべきか?TACO・NACHOシナリオで探る金相場のゆくえ【ゴールド月次モニター】

・イラン紛争が3カ月目に突入する中で原油価格は高止まりし、限月が近い原油先物間の限月間スプレッドは堅調に推移しています。これは、米国からの原油輸出が限界的な供給源となっているように、大西洋地域で供給が逼迫していることを反映しています。今後1~3カ月間にわたり、1バレル当たり100ドルが新たに原油価格の通常の水準になれば(北半球が夏のガソリン需要期のピークに入ることを考えると十分にあり得ます)、金市場は1オンス当たり5,000ドル付近で上昇モメンタムを維持するのが難しくなる可能性があります。一方で、和平合意やホルムズ海峡の再開によって原油価格が80ドルまで持続的に低下する場合、金価格は速やかに5,000ドルを突破し、最終的には5,500ドルを再び試す展開が考えられます。
・マネーマーケットや為替トレーダーは、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な利下げ観測を再び織り込み、ドルを下落基調に戻すための具体的な和平合意を求めているとみられます。当社は、コンセンサス予想やFRBのフォワードガイダンスが将来の緩和を示唆する限り、FRBが金利を据え置けば、金のパフォーマンスは良好と考えています。ただし、金融政策の見通しが持続的にタカ派方向へ転じる場合、少なくとも一時的には金価格に逆風となる可能性があります。
・特筆すべき点は、投資家は停戦に関するニュースや政治交渉に対して慎重ながらも楽観的なポジションを取っていることです。金価格は3月の調整後から安定しており、4月は1.1%の下落、※1 銀価格は1.9%下落しました。※2 一方で、S&P500指数は先月10.4%上昇し、※3 絶対値でもリスク調整後ベースでも、コモディティ全般をアウトパフォームしました。※4 米国に上場する金ETFは4月に8億3,000万ドルの純資金流入となり、年初来の資金流出額は15億ドルまで縮小しました。※5 当社は、米国が中間選挙を控える中で、燃料価格の上昇という政治的圧力が紛争解決を強いれば、年後半にかけて大幅な資金流入が起こる可能性が高いと予想しています。中国は引き続き金を積み増しており、アジア市場での取引が金市場を下落局面でも明らかに支えているため、弱気シナリオであっても1オンス当たり4,000ドルが下値抵抗線になる可能性が高まっています。
・第2四半期には「TACO(トランプはいつも土壇場で引き下がる)」トレードと、「NACHO(ホルムズ海峡が開く可能性はゼロ)」トレードが同時に展開しており、エネルギー価格が高止まりしているにもかかわらず、S&P500指数は再び史上最高値を更新しています。※6 今回の紛争により、エネルギー補助金・コスト、戦費などを通じて財政赤字はさらに悪化する可能性が高く、金にとっては(ドルの)長期的な価値希薄化(ディベースメント)の流れを後押しするものとみられます(図表3)。もっとも、金価格が短期的に上昇するには、よりハト派的なFRBの姿勢や米ドルの下落基調といった追加的な材料が恐らく必要になると考えられます。
・4月には、代替通貨・資産市場全体で資産価格のボラティリティが急落しました(図表2)。※7 特に金にとっては世界的な債務負担、株式と債券の相関が強まったことによる分散投資、中央銀行による金購入などの構造的テーマが再び意識され、金を戦略的に保有したい投資家にとって、市場を支える可能性があります。

出所:ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年4月30日時点。注:20分間隔のデータ。欠測値については、直近の価格データを用いて補完しています。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
オイルショックによって金価格の短期的な方向が不透明に
・戦争開始以降、ブレント原油価格は50%超急騰し、※8 4月30日には一時、2022年以来の最高値となる1バレル当たり126ドル※9 に達し、金価格は圧力を受けています。このエネルギーショックが、FRBのタカ派的姿勢、実質金利の上昇、ドル高などの金に対する逆風をさらに増幅させているからです。戦争開始以降、中期ゾーンの実質金利は原油価格とともに上昇しており(+26bp)、金を保有する機会費用は一時的に高まっています。※10 FRBの政策金利見通しも大きく変わり、戦争前に織り込まれていた累計約58bpの利下げから転じて、小幅ながらも利上げが意識されるようになりました。※11 これは、ホルムズ海峡の混乱を背景に、短期的なインフレ期待が上昇し続けているためです。
・現在のオイルショックは、前例のない規模になっています。統計によれば世界の原油供給は3月に日量約1,000万バレル減少し、同9,700万バレルまで落ち込み、史上最大の供給混乱をもたらしました。※12 一方でホルムズ海峡からの原油積み出し量は、危機前の日量2,000万バレルに対し、平均日量380万バレルにとどまり、物理的なボトルネックは4月に入っても深刻な状況が続きました。※13 失われた供給量の累計は3月時点で3億6,000万バレルを超え、4月は4億4,000万バレルに達すると見込まれています。※14 仮に紛争が終結しても、損傷したインフラ、タンカーの滞留、石油製品市場の混乱、在庫の枯渇などにより、正常化には時間を要するでしょう。当社は、原油価格が1バレル当たり80~85ドル付近に落ち着けばインフレ圧力が緩和され、FRBの利下げ観測が復活し、金価格が再び1オンス当たり5,000ドル強に戻る可能性があるとみています。対照的に、原油価格が120~140ドルという展開になれば、金にとって少なくとも短期的には逆風となる可能性が高くなり、インフレ圧力の高止まり、金利上昇、FRBの利下げの遅れ、あるいは利上げ観測の上昇が意識されるでしょう。とはいえ、こうしたエネルギー価格がもたらすショックが持続すれば、世界的な景気後退やスタグフレーションに陥るリスクを高め、最終的には金価格を支える可能性があります。これは、市場が、成長鈍化、政策支援、あるいは極端な下落リスクに備えるための流動性の高い準備資産に対する需要増を織り込むからです。
・2022年のロシア・ウクライナ紛争は、有益な比較対象となります。当時、金は当初こそ地政学的リスクに備える需要から上昇しましたが、市場の注目はすぐにエネルギー価格の上昇が招くインフレ、FRBの金融政策、実質金利、ドルへの影響へと移りました。※15 2022年の金価格はほぼ横ばいでしたが、制裁リスクが中央銀行による金購入を加速させました。※16 同様の構図が現在にもあてはまる可能性があります。主権国家が流動性、バランスシートの柔軟性、外部の政策リスクに対する防御手段を必要とする局面では、金が果たす役割が拡大するためです。最近ではトルコ、フランス、ロシアが好例です。※17 さらに、紛争が長期化して財政負担が悪化すれば(世界の債務総額は約348兆ドル、※18 米国の純利払い費は1兆ドル超え、※19 米国の国防費予算要求額は約1兆5,000億ドル)、※20 金の戦略的準備資産としての役割は一段と高まる可能性があります。

出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。2026年4月30日時点。注:30日間の実現ボラティリティは年率化しています。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
代替資産の実現ボラティリティが沈静化、次は何が起きるか
・第1四半期は、歴史的にも波乱となる急激な価格乱高下と資金フローの変動に見舞われましたが、金・銀・ビットコインといった代替的な価値保存資産のボラティリティは、4月にかけて低下しました。第1四半期に見られた高いボラティリティは貴金属や暗号資産の値動きが安定するにつれ、平均水準に回帰しつつあるようです。※21 急激な価格変動が落ち着くにつれ、代替資産、特に金に関する「構造的テーマ」が再び前面に出て来る可能性があります。そのテーマには世界的な債務負担の増大(戦費やエネルギー補助金によってさらに悪化する可能性があります)、株式と債券の相関が依然として正のままであること、地政学的な分断が急速に進み、実物資産の積み増しを促す可能性があること、などが含まれます。
・投資家は、第1四半期末に利益確定、現金確保、ポートフォリオのリバランスなどを通じて貴金属ETFから大規模な資金流出が起きたことを受けて、4月に金価格の押し目を広く買い集めたようです。とはいえ、当社は第1四半期の急激な価格変動を受け、富裕層および機関投資家の貴金属に対するセンチメントは依然としてやや慎重とみています。イラン紛争を巡る不確実性は依然として大きいままです。もう一つの注目すべき材料は、短期的なドル金利の見通しです。FRBはより長期間にわたり政策金利を据え置く可能性がある一方で、マネーマーケットのトレーダーは依然として利上げサイクルに入る可能性を楽観的にみています。ただし、これは、米国の中間選挙を巡る政治情勢が一定の妥協を促す可能性があるため、第2四半期中に紛争が具体的な解決へ向かうことが条件となる公算が大きいでしょう。※22
・エネルギー価格、特に原油価格の推移は、金市場のセンチメントにとって極めて重要と思われます。当社の基本シナリオでは原油価格が1バレル当たり80~85ドル前後で正常化すれば、FRBの金融政策、実質金利、米ドルといった経路を通じて、金のスポット価格は1オンス当たり5,000~5,500ドルに向けてさらに上昇する可能性があるとみています。しかし、原油価格が120~140ドル付近で長期的に高止まりする場合は、少なくとも一時的には金市場に逆風となり、金価格は4,000ドル台に下落するとみています。そうした下落局面では、投資家は買いに向かい、最終的には金価格を支える動きになると当社は予想しています。

出所:ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、米議会予算局(CBO)、2026年5月1日時点。注:CBO-長期予算見通し:2026〜2056年、2026年2月25日発行。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
財政が不確実な局面における政策ヘッジ手段としての金
・米議会予算局(CBO)によれば、世界金融危機(GFC)以前の2000~2007年の米国財政赤字は、対GDP比で平均約1%でした。※23 GFC後の2010~2019年は平均約5%へと拡大しましたが、※24 新型コロナ禍後の2021~2025年には約7%まで広がり、構造的な財政赤字はこの間に約600bp悪化しています。※25 投資家にとって、平均的な米国債利回りが上昇する中でより高水準の借り入れが続くことは、債務返済コストを複利的に押し上げる要因となります。すなわち、金利上昇によって利払い費が増加し、追加的な国債発行が必要になる悪循環が生まれます。金は、現在の債務依存型の債務調達サイクルが持続する可能性に対して強力なヘッジ手段になる可能性があります。
・1992年以来、最も票が割れた米連邦公開市場委員会(FOMC)での投票結果に加え、タカ派寄りとみられるケビン・ウォーシュ氏が次期FRB議長として承認されたことで、金融政策を巡る不確実性はかつてなく高まっています。この不確実性に加え、市場がより小幅な利下げサイクル、あるいはFRBがより長期間にわたり政策金利を据え置くことで、資本市場は増加する米国債の供給を吸収するためにより高い利回りを要求する可能性があります。長期ゾーンの金利が構造的な見直しを迫られる場合は、デュレーションが歴史的に果たしてきた分散効果は縮小します。インフレが主導する局面では債券が株式の下落を相殺できず、株式60/債券40ポートフォリオはこの10年間、十分な成果を上げられませんでした。※26 デュレーションが安全な避難先ではなくリスクの源泉となる世界では、ポートフォリオを補完する資産としての金の役割は、単なる戦術的なヘッジ手段ではなく、より戦略的手段になる可能性があります。
・CBOの最新のベースライン予測は毎回、過去の見通しよりも一貫して高い出発点から始まっており、実際の財政赤字が想定を上振れしやすい傾向を示しています。2026年2月時点のベースラインは直近のオイルショックを織り込んでおらず、最高裁で無効とされた関税関連の収入を除外しており、イラン戦争に伴う推定250億ドルの費用も含まれていません。※27 ウクライナに約束した防衛支援は高止まりしており、予測されたベースラインはあくまで下限と考えるべきです。市場、特に金市場は、実際の財政支出がこれらの予測を上回る結果となる可能性を徐々に織り込んでいるものと考えられます。
◆脚注
※1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※2 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※3 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※4 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※5 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※6 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※7 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※8 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※9 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※10 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※11 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※12 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※13 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※14 Source: International Energy Agency, as of 04/14/2026
※15 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※16 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※17 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※18 Source: IIF, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
※19 Source: CBO, as of 02/28/2026
※20 Source: Bloomberg Financial L.P., as of 04/30/2026
※21 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※22 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 04/30/2026
※23 Source: State Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The LongTerm Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※24 Source: State Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The Long-Term Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※25 Source: State Street Investment Management, Congressional Budget Office (CBO), as of 05/01/2026. Note: CBO - The LongTerm Budget Outlook Data: 2026 to 2056 was published on February 25, 2026
※26 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 05/01/2026
※27 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 05/01/2026
◆用語集
中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
COMEX:コモディティ(主に金、銀、銅、アルミニウム)の先物を取引する市場
金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
ICEブレント:インターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されるブレント原油先物で、国際的に取引される原油の主要なベンチマーク価格の一つです。
レフトテール・ヘッジ:株式急落、政策ショック、通貨の不安定化など、極端に悪い市場結果(下振れ)からポートフォリオを守るためのポジション。金は、市場全体におよぶストレス局面における過去のパフォーマンスから、レフトテール・ヘッジとして位置づけられることが多いです。
30日移動平均ボラティリティ:資産の過去30日間のリターンの年率換算標準偏差を測定、変動するリスクを示すため毎日更新されます。価格変動の激しさを定量し、値が高いほどリスクが大きいことを示します。
ディベースメント(通貨価値の切り下げ):通常、インフレ、過剰な通貨発行、あるいは時間の経過とともに通貨の価値を弱める政策によって引き起こされる、通貨の実質価値または購買力の低下を指します。
タカ派的な政策転換:中央銀行や政策当局のメッセージが金融引き締め方向へとシフトすることで、通常、政策金利の引き上げ、利下げ幅の縮小、あるいはインフレ抑制の強化を示唆します。
代替不換通貨:主要な準備通貨(特に米ドル)の代替として使用される、非伝統的な不換通貨を指します。
米議会予算局(CBO):超党派の米国議会機関で、議会に対して独立した予算および経済分析を提供しています。CBOは、提出された法案についてのコストの試算、連邦予算の予測、財政赤字・債務・利払い費・長期的な財政の持続可能性などを含む財政見通しを分析しています。CBOは政策提言は行いません。
国際金融協会(IIF):銀行、資産運用会社、保険会社、政府系ファンド、ヘッジファンド、中央銀行やその他世界の金融機関を代表する国際的な金融業界団体です。IIFは各国政府、家計、企業、金融機関の債務水準を追跡する「グローバル債務モニター」で広く知られています。
国際エネルギー機関(IEA):世界のエネルギー市場に関するデータ、予測、政策分析、提言を提供する政府間エネルギー機関です。IEAは1974年、大規模な石油供給の混乱に対する各国の対応を調整するために設立されましたが、現在では、その活動範囲は、石油、ガス、電力、再生可能エネルギー、エネルギー安全保障、エネルギー転換に及んでいます。
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