金市場の強気シナリオは継続:原油急騰の波紋と中長期的な展望【ゴールド月次モニター】

原油価格急騰のショックは金市場に一時的な逆風とはなり得ますが、中期的には構造的な追い風をさらに強める可能性があります
・金市場は2026年第1四半期に歴史的な高ボラティリティに見舞われましたが、「下落はしたものの、崩壊には至っていない」という表現が適切かもしれません。当社は、年末にかけて金価格が1オンスあたり4,750~5,500ドルになる確率を50%とする基本シナリオを維持しており、金は依然としてブルサイクル(強気相場)の中盤にあると考えています。金価格が5,500~6,250ドルになる強気シナリオの確率を35%から30%に引き下げましたが、4,000~4,100ドルが金価格の下値水準となり、2027年には過去最高値を再び試す展開もあり得るとみています。3月末の価格は、弱気シナリオの4,000~4,750ドルというレンジの中に収まっており、このレンジは当社の見通しの中では20%の確率です(ただし、エネルギー価格の推移や米連邦準備制度理事会[FRB]の政策対応に左右されます)。
・原油価格が1バレル100ドル台に達するような「グレイスワン」と呼ばれるテールリスクについて、当社は1月に指摘しましたが、それが現実のものとなりました。資産市場全体に波及したこのエネルギー価格ショックに、金市場も無傷ではいられませんでした。地政学リスクは金への投資需要を通常は下支えするものですが、1月から2月にかけて金相場を支えていた米ドル安、FRBの金融緩和観測、実質金利の低下などマクロ面の追い風が急反転し、安全資産としての金の買い需要を上回りました。利益確定の売却と流動性を確保する手段としての金の利用が相まって、金は昨年7月以降初めてリスク資産と60/40ポートフォリオ(株式に60%、債券に40%投資する伝統的な手法)をアンダーパフォームしました※1。実際、3月のスポット金価格の下落率は、通常ベースと対数ベースのいずれでも、2008年の世界金融危機以来の大きさとなりました※2。
・とはいえ、金の価格下落はそれほどまでに大きくかつ急激だったのでしょうか?短期金融市場は、イラン紛争が勃発する直前に2026年の累積利下げ幅を約58bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)と織り込んでいましたが、足元ではFRBが年内の利下げを見送ると予想しています※3。一方、3月中旬から下旬にかけて、市場が織り込むFRBの年内の利上げ確率が一時的に60%を上回ったこともありました※4。変動の激しい市場では予想は急速に変わるものです。紛争が長期化し、ICEブレント原油価格が1バレル150ドルを超えれば、FRBの政策や米ドルを通じて金相場に重しとなる可能性が高くなるだけでなく、リセッション(景気後退)またはスタグフレーションを引き起こす確率も高まります。一方、原油価格が1バレル80~85ドルのレンジに正常化すれば、金価格は5,000ドルを上回る水準まで急回復する可能性があります。
・2024~2025年にかけて金相場を支えてきた構造要因の一部―政府債務負担の増大や財政赤字の拡大など―は、中東紛争によってさらに悪化する可能性があります。米議会予算局(CBO)の最新予測によると、今年の米連邦債務の純利払い額は史上初めて1兆ドルを超える見込みです※5。しかも、これは直近の米国債利回りが上昇する前の予測です。
・中国も金価格の下落局面で買いを入れています※6。欧米の投資家もこれに追随するでしょうか?当社の「今月のチャート」は、中国の金需要はこうした金価格の上昇局面でも底堅いことを示しています。
今月のチャート:中国国内における金価格のプレミアム/ディスカウント状態
出所:上海黄金取引所、LBMA、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント(2003年~2026年第1四半期)。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
中国の金需要が欧米からの売り圧力を和らげる効果
・重要な点として、金は「グローバル」なコモディティ資産であることを忘れてはなりません。金融取引といえば、ニューヨークやロンドンの取引所やスポット市場が連想されがちですが、アジアにおける金消費は、特に中国本土では現物需要をけん引する一因となっています。その点において、中国では第1四半期を通じてポジティブな兆候が見られ、金価格の上昇が構造的に下支えされるか、少なくとも金価格の下値支持線が4,000~4,750ドルに設定される可能性があります。
・中国国内の金価格のプレミアムは3月中に1オンスあたり50ドルまで跳ね上がり、LBMA(ロンドン貴金属市場協会)取引価格を1.0%上回りました※7。これは米国が2025年4月の「解放の日」に相互関税を発表した直後以降、中国の金価格の平均プレミアムの最高値です。通常、中国国内における強気のプライシングは、中国の個人投資家と機関投資家からの需要増を先行して示唆します。また、これは中国国内市場へ現物取引を誘導するインセンティブとなり、その結果、中国国外における金現物供給の引き締め要因ともなります。プレミアムは、2026年第1四半期には前期比0.4%ポイント上昇し、平均で0.6%となりました。2025年第1四半期は、春節需要が強かったものの0.0%でした。金価格がドルと人民元のいずれでも過去最高値を記録したにもかかわらず、2026年1~2月の中国の小売輸入量は前年同期比123%増の207トン超となり、過去5年間の季節平均である181トンを上回りました※8。
・中央銀行動向としては、中国人民銀行は公的な金準備を16カ月連続で純増させ、約2,309トンという過去最高水準まで押し上げました。これは、直近の積み増しサイクルが始まった2024年第4四半期初頭の約2,264トンを上回るものです※9。さらに、現物裏付けのある米国上場の金ETFが3月最初の4週間で127億ドル超の流出となる一方、中国の金ファンドは11億ドルの純流入を記録しました。これは3月の欧米からの売りを相殺するには不十分でしたが、中国による「押し目買い」はETFからの資金流出が価格に与える影響を緩和しています※10。実際、中国本土の金ETFへの資金流入額は年初来81億ドルに達し、同期間の米国の金ETFセクターにおける20億ドル超の流出とは対照的です※11。また、これは金が単なるFRBの政策や米国のリスクセンチメントだけでなく、地域の需給ダイナミクスに支えられたグローバルな資産であることを示しています。
図表2:実質金利の再評価と金市場の反応
出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。データは2026年3月30日時点。記載されているパフォーマンスデータは過去のパフォーマンスです。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。
FRBの政策転換が金のパフォーマンスにとって重要である理由
・実質利回りは2月後半に低下基調となった後、原油価格に起因するインフレショックを受けて急上昇しました※12。3月初めに中東紛争が勃発して以降、米国の10年物インフレ連動国債(TIPS)の利回りはおおむね30~35bp上昇し、2025年7月以来初めて2.0%の水準を試す展開となりました※13。3月の金価格の調整は、主にFRBの予測の見直しと実質利回りの上昇によるもので、これらの要因がドル高を支えました。金価格の調整は、ディベースメント(通貨価値の切り下げ)の懸念や代替不換通貨への資金配分によって世界的な金需要が崩壊したことを示すものではなかったと考えられます※14。したがって投資家は、構造的なダイナミクス(金にとって引き続きおおむねプラス材料と当社はみている)に対する循環的な圧力(実質利回りの上昇に伴い、金保有の機会コストが一時的に増加すること)に注意を払うべきです。戦術的に見ると、実質金利が安定または反転した場合には、こうしたダイナミクスは金にとって歴史的な追い風となる環境を作り出してきました。
・戦費の支出、支払利息の増加、歳入の減少などの財政赤字の拡大を受け、債務の増加と長期的なディベースメント・リスクの状況がさらに悪化していますが、こうした要因は歴史的に金需要を押し上げてきました。世界の債務総額は過去最高の約348兆ドル、すなわち世界のGDPの3~4倍にまで膨れ上がり、民間部門よりも政府部門の債務の方が急激に増加しています。これは、構造的な財政圧力の高まりを予期している可能性があります※15。
・前述のとおり、変動の激しい環境下では、予想は急速に変わる可能性があります。パウエルFRB議長は2018年第4四半期に、中立金利はもっと高い水準にあるべきだと示唆しましたが、2019年7月に利下げに転じました。金価格は以降6カ月間で約11%上昇しました※16。同様に、バーナンキ議長は2006~2007年にかけて、サブプライム住宅ローンによるリスクは抑制されていることを示唆し、利上げを正当化しました。にもかかわらず、株価が暴落すると積極的な利下げが続き、その後の6カ月間で金価格は38%上昇しました※17。現在、3月の原油ショックに端を発したFRBのタカ派的な政策転換を受け、先物市場は今年中の利上げの可能性を織り込んでいます※18。一方、地政学的緊張が緩和された場合は、市場予想が年内の利下げへと急反転し、金にとってきわめて好ましい環境が生まれる可能性があります。さらに、一部で緩和よりと見られているウォーシュ氏が次期FRB議長に就任した場合にも、政策転換を通じて金に追い風が吹く可能性があります。
図表3:3 月の北米の金ファンドによる売りは同地域の ETF からの資金流出が要因
出所:ワールド ゴールド カウンシル、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。データは2026年3月30日時点。
外貨準備資産としての金の役割はETFからの資金流出を上回る
・実物の裏付けのある金ETFによる金の保有高は年初から好調な滑り出しとなりましたが、3月には124億ドル(約90トン)減少し、9カ月連続の資金流入が途切れ、年初来の純流入額は117億ドル(約57トン)まで減少しました※19。金ETFから資金が流出した原因は、広範囲にわたり流動性が逼迫(ひっぱく)したことと利益確定の売りによるものとみられます。その背景として、FRBの政策と米ドルの短期的な予測が見直される中で、投資家が流動性の高い代替資産やヘッジ資産から資金を引き揚げたことが挙げられます。とはいえ、当社は、グローバルなディベースメントへの対応、分散投資手段、代替不換通貨、ならびにデュレーションのヘッジ手段として投資家が金を求め続けてきた裾野の広いトレンドが、わずか1カ月間の資金流出(たとえそれが大規模なものであっても)で断ち切られるとは考えていません。
・公的部門からの需要は依然として底堅く、2月に更新されたデータでも、ポーランド(+20トン)、ウズベキスタン(+8トン)、チェコ共和国(+2トン)、マレーシア(+2トン)、中国(+1トン)などからの安定的な購入が継続しています※20。主な例外は、過去10年にわたって世界で最も積極的に金を購入した国の一つであるトルコです。同国は、戦争に伴うボラティリティの上昇、エネルギー輸入コストの上昇、および資金調達への圧力が広範に高まる中、リラの防衛および流動性需要対応のため、80億ドル(約60トン)相当の金の売却やスワップ取引を行いました※21。重要な点は、こうした対応は金に限ったものではなく、政策当局は過去数週間の間に、米国債を含む約160億ドル相当の外貨建て債券を売却しています。1月末時点でのトルコの米国債保有額は170億ドル未満と、2015年の820億ドルから減少しています※22。
・最近の動向は、外貨準備資産としての金の戦略的役割を強化するもので、長期的には公的部門からの金需要が徐々に高まる可能性があります。トルコによる金準備の活用は、紛争による経済的コストを補うための流動性の源泉として金が有効であることを浮き彫りにしています。フランスでは金準備の評価額が一時的に上昇したことを背景に、フランス銀行(中央銀行)は2025年に金取引で110億ユーロのキャピタルゲインを獲得し、81億ユーロの黒字に転じました※23。ロシアも金が財政に追い風となった好例です。同国の中央銀行は、軍事支出の増加に伴う財政赤字の拡大を埋めるため、1月~2月にかけて14トンの金を売却したと報じられています※24。これらの動向を総合すると、地政学的に分断が進む世界における金の有用性を浮き彫りにしているだけでなく、流動性の源泉、バランスシートの支援手段、そして対外的な政策リスクに対するヘッジ手段としての金の価値がさらに高まっています。
◆脚注
1 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
2 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
3 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
4 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
5 Source: CBO, as of 02/28/2026
6 Source: China Customs, World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
7 Source: SGE, LBMA, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
8 Source: China Customs, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
9 Source: People’s Bank of China, State Street Investment Management, as of 02/28/2026
10 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/31/2026
11 Source: World Gold Council, Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/30/2026
12 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
13 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
14 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
15 Source: Institute for International Finance, IMF, World Bank, State Street Investment Management, as of 12/31/2025
16 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
17 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
18 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
19 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/30/2026
20 Source: World Gold Council, State Street Investment Management, as of 03/10/2026
21 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/31/2026
22 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 01/31/2026
23 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/24/2026
24 Source: Bloomberg Financial L.P., State Street Investment Management, as of 03/25/2026
◆用語集
中央銀行:一つの国または国家連合で用いられる通貨と信用の創造と分配を独立性を持って管理する金融機関
COMEX:コモディティ(主に金、銀、銅、アルミニウム)の先物を取引する市場
金のスポット価格:スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1 トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
実質金利:インフレ調整後の金利。物価上昇の影響を取り除くことで、真の借入れコストおよび投資による実際の利回りを反映します。
ICE ブレント:インターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されるブレント原油先物で、国際的に取引される原油の主要なベンチマーク価格の一つです。
レフトテール・ヘッジ:株式急落、政策ショック、通貨の不安定化など、極端に悪い市場結果(下振れ)からポートフォリオを守るためのポジション。金は、市場全体におよぶストレス局面における過去のパフォーマンスから、レフトテール・ヘッジとして位置づけられることが多いです。
30 日移動平均ボラティリティ:資産の過去 30 日間のリターンの年率換算標準偏差を測定、変動するリスクを示すため毎日更新されます。価格変動の激しさを定量し、値が高いほどリスクが大きいことを示します。
ディベースメント(通貨価値の切り下げ):通常、インフレ、過剰な通貨発行、あるいは時間の経過とともに通貨の価値を弱める政策によって引き起こされる、通貨の実質価値または購買力の低下を指します。
タカ派的な政策転換:中央銀行や政策当局のメッセージが金融引き締め方向へとシフトすることで、通常、政策金利の引き上げ、利下げ幅の縮小、あるいはインフレ抑制の強化を示唆します。
代替不換通貨:主要な準備通貨(特に米ドル)の代替として使用される、非伝統的な不換通貨を指します。
中国人民銀行(PBOC):中国の中央銀行であり、金準備を継続的に積み増している主要な構造的買い手。
CNY: 国内外国為替市場における中国人民元(人民元とも呼ばれる)の略称。
リラ:トルコの通貨で、正式名称はトルコリラです。マクロ経済の文脈では、急激な通貨安やインフレ圧力に直面してきた通貨の例として、しばしば引き合いに出されます。
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