投資ビギナーから次のステップへ。「インデックス投資×個別株投資」で資産形成を加速させる方法

国策による「新NISA」制度に乗り、長期のインデックス投資で将来の資産形成を目指す人は増加の一途だ。それらの人を「投資ビギナー」とするなら、相場をしっかり学び、よりリスクの高い投資に挑むのが「ビギナー」を脱する次のステップとなるだろう。金融教育事業を手掛け、『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)の著者でもある投資家の児玉一希氏に、投資ビギナーのステップアップに最適なインデックス投資と個別株投資を掛け合わせた投資戦略について聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
ポートフォリオの10%程度から、個別株投資を始めてみる
——児玉さんは『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)という著書も出されていますが、投資ビギナーの一歩先にいくためのアドバイスをお願いします。
児玉 一希:いま、インデックス投資をメインに投資している人におすすめしたいのは、「コア・サテライト投資」へのステップです。資産の大部分を占める「コア」として安定的な投資を行い資産も守りながら、少数割合の「サテライト」としてリスクとリターンの大きい投資を行う投資方法です。具体的には、コアとしてインデックスファンドへの投資を行い、サテライトとして個別銘柄株や高配当ETFなどへの投資を行うのが一般的でしょう。
インデックスファンドへの積み立て投資を行うだけでも、高めの平均利率とされる年率6%~7%で推移できれば、20年〜25年で毎月3万円の積み立てなら2,000万円、毎月5万円なら3,000万円に達しますから、それで十分な資産形成ともいえます。
しかし、20年超もの時間の長さの分だけ、不確実性がリスクとなります。みなさんが継続的に働き続けられる保証はありませんし、経済動向や地政学的なリスクを要因として、インデックス株が思ったほどの利益を生まない可能性もゼロではないからです。そこで、高配当銘柄を中心とする個別株投資を組み合わせ、資産形成を加速させて資産形成の時間を短縮し、利益幅を拡大させていくといいと考えます。
——サテライトとしての個別株投資は、どの程度の金額が目安となるでしょうか。
児玉 一希:まずは、インデックスファンドの積み立て投資を自分の収入に見合うかたちで確立し、そのあとで、ポートフォリオの10%程度が個別銘柄株になるよう進めていくのが安心だと思います。例えば、いまインデックス投資で100万円を保有しているなら、10万円程度で個別株投資を始めてみるのです。あるいはルーティン化し、毎月3万円〜5万円を積み立て投資と併せて、別途5,000円程度を個別銘柄株の購入にあてるというのでもいいかもしれませんね。仮に個別銘柄株が暴落しても、資産全体に大きく影響しない割合に抑えることがなにより大切です。
アメリカ株では半導体メーカーのNVIDIAがわずか2年で10倍以上の株価に上昇したように、個別銘柄株はダイナミックな値動きをすることがあります。国内株でも個別銘柄の大幅成長はありますから、そういったニュースを見るとチャンスを逃すことが怖くなって、慌てて大きな金額をつぎ込んでしまいかねません。
しかし、それは非常にリスクの高い投資だということを忘れないでください。株式というのは、半年、1年も先の変化を見込んで投資家たちが行動した結果が株価に反映されるものです。投資家たちが「半年後には業績が悪化するかもしれない」と思えば、現時点で業績好調のまま株価が急落することもあるのです。
目的は「大幅成長株をつかむ」ではなく、あくまで「積み立て投資による資産形成にブーストをかける」ですから、まったく慌てることはありません。少額でも地道に個別銘柄株を買い進め、着実に資産を増やしていきましょう。
国策から中期的に成長する銘柄を探す
——個別銘柄株への投資では、成長株投資や高配当株投資など、いくつかの方向性があります。どのような投資スタンスがいいですか?
児玉 一希:基本的には、高配当株投資をおすすめします。配当利回り4%以上で、長年減配・無配をしていないような、パフォーマンスの安定した銘柄が理想ですね。
ただ、年代によるリスク許容度によっては配当を出さないグロース企業の成長株投資もいいでしょう。いま20代、30代の人の悩みの多くは、投資資金の少なさですよね。高配当株投資では投資額が少ないと、5%の配当利回りでも利益に物足りなさを感じてしまいます。例えば100万円のインデックス投資に対し、10万円分の高配当株投資を行っても配当は年間で5,000円ですし、高配当銘柄は大きく株価が上昇するともいえないので、実際問題として資産が増えづらいでしょう。
若い人は労働収入を得る期間が長く、失敗しても挽回のチャンスもあります。ですから、リスク高めのグロース企業成長株投資にチャレンジするのもいいと思います。ただし、生活防衛資金を考慮しない過剰な投資は禁物です。地道に買い増して、数年で2倍、3倍に成長する株が出てくれば、いずれ数十万円の利益になります。それをインデックスファンドの積み立て投資額の引き上げにあてたり、成長投資枠でもインデックスファンドを買い増したりすることで加速させるのです。
一方、40代、50代で、まとまった投資資金を用意できて、かつ、インデックス投資以上の資産形成を図ろうとするなら、高配当株投資が無難です。原資があれば5%の配当利回りでインデックス投資を加速させるには十分ですし、高配当株は株主も簡単には売らないため、緩やかでも長期にわたって上昇を続けてくれるからです。
——成長株投資に向いている、あるいは高配当で株価の成長も狙えるような銘柄の特徴があれば教えてください。
児玉 一希:成長株投資は、その企業の事業や戦略を深く理解して期待値を見極めることが求められますが、そう簡単にビギナーができることではありません。そこで、事業の需要から探るのが確度の高い方法になると考えます。
まず、「投資銘柄の事業が国策に沿っていること」です。政府は毎年6月に「骨太の方針」という、現政権の重要課題や今後の政策の基本方針を公表するのですが、ここで注力する分野が見えてきます。2024年の例だと、人材不足への対応策としてリスキリング(再教育)の推進が挙げられ、成長分野への人材の移動を円滑にしようとしていますし、業務効率化に向けたDX人材の育成も挙げていました。また、地政学リスクの高まりから、防衛予算の増加も示しました。
その結果として、人材系の企業やデジタル関連企業は伸びましたし、防衛予算の引き上げでは防衛事業を手掛ける三菱重工のような銘柄が伸びました。ここで大事なことは、予算の規模と事業規模です。ある業界の成長につながる政策が打ち出されても、予算規模が数十億円ではあまり大きなインパクトになりません。一方、防衛予算ともなれば数兆円の世界ですから、企業の成長に与える影響力が違います。
また、政策の恩恵を受けるのは、その業界における大手企業です。ですから、成長株といっても規模の小さな企業や低迷している企業ではなく、土台のしっかりした業界シェアの高い企業をターゲットとし、中期的な株価の成長を狙うことが大切です。
個別株投資は「出口」の見極めが肝心
——インデックスファンドの長期積み立て投資は基本的に売却せず、株価が暴落しても買い増し続けることが基本ですよね。一方、個別株投資では「損切り」や「利確」のタイミングを忘れてはならないと思います。個別株投資における、見切りをつけるタイミングがあればお聞かせください。
児玉 一希:損切り、あるいは早々に利確を検討するタイミングは、保有銘柄に「変調」があったときで、一番わかりやすいのは保有銘柄の株価が急落したタイミングです。業績が事前に期待されていたレベルに届かなかった、あるいは事業に重大なアクシデントが発生したなどで急落しているケースに用心するべきでしょう。
損切りについては、例えば「20%までの下落なら我慢する」など、価格での損切りラインを決めている投資家が多いですよね。そういった自分なりの損切りライン設定はもちろん大事なのです。しかし、それ以上に自分なりの投資プランを持ち、期待した状況と変わったのなら、購入価格からプラス・マイナスであるに関わらず手放すことです。
一方、利確については、株価が大きく急落する前に手仕舞いすることが理想です。特に重要なのは、四半期決算のタイミングでの下落です。決算直後は、企業の業績内容を受けて株価が乱高下しやすい傾向にあります。その際に、決算前から4~5%程度下落なら気にする必要はないかもしれませんが、10%も下がった場合は要注意です。取引量を示す出来高が急増し、売りが殺到していればなお注意が必要でしょう。
本来、経験と学びを積んだ投資家であれば、テクニカル分析であれファンダメンタル分析であれ、売却にも根拠を持って判断します。しかし、投資をはじめて間もない投資家の場合、現状から正しい分析を行うことは容易ではありません。
ですから、他力本願のようですが、「株価が1日で10%も下がり出来高が急増しているという事は、決算の内容に投資家たちが株を売るほどの理由がなにかある」と考えるのが無難だと思います。特に、売却したのは個人投資家以上にプロとされる、いわゆる機関投資家です。自分たちには分析できないマイナス要因があって、プロの投資家たちは警戒したと考えるべきです。
その銘柄の過去の値動きを調べ、過去にも同じような急落と回復がざらにあるのなら杞憂かもしれませんが、特異な値動きなら、なおさら警戒してください。
——社会情勢から売りどきを判断する場合もあるのでしょうか?
児玉 一希:今後、インフレが進行する情勢において注意しておきたいのは、金融政策の転換時です。金融政策は、主に日銀が政策金利を上げる・下げるのほか、貨幣供給量の増加・減少などがありますが、いずれも株式市場全体に大きな影響を与えます。インフレ抑制の打ち手では、政策金利の引き上げや貨幣供給量の減少がありますが、いずれも株価にはマイナスの影響を与えます。特に、政策金利の影響は大きく、2024年8月の日経平均株価の暴落は日銀の金利引き上げが主な原因と考えています。
業種によって影響が強く出るもの、影響の少ないものがありますし、銀行を中心とする金融業では、政策金利の引き上げはむしろ貸金の利息が増えるので業績向上に傾きます。一方、事業投資に積極的な成長株の企業では、金利の上昇によって資金調達が難しくなったり、支払い利息が増えて業績が悪化したりするケースもあります。いずれにせよ、個別企業やセクターへの追い風・向かい風が切り替わるタイミングとなるので、注意が必要です。
このように、成長株投資であれ、高配当株投資であれ、様々なファクターによる株価への影響を読んでいかなければなりません。それらは一朝一夕にできることではありませんが、個別株を実際に保有してみなければ学べないことも事実です。できる限り損失を避け、自分なりの経験を積みながら、時間をかけて資産形成の確度を高めていってほしいと思います。
児玉 一希(こだま かずき)
株式会社RES代表取締役。1991年生まれ。東京都立大学(旧・首都大学東京)卒業後、2014年にリクルートグループに入社。しかし、思うように業績が振るわず2016年に株式会社RESに転職する。株式投資の知識ゼロから金融教育業に携わり投資家の講演会運営をサポートすることを通じて知識を高めながら個人投資家としての経験も積み、2万人以上に株や金融の直接指導を行っている。2020年の代表者取締役就任後は、お金や投資を学べる学校を創設するほか、YouTubeチャンネル「Trade Labo」を開設し、25万人以上のチャンネル登録者を獲得(2025年2月5日時点)。著書に『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)などがある。
