「投資2年生」のための日本株戦略。国内市場の読み解き方と投資のアドバイス
「新NISA」を機に、確実性の高い積み立て投資を始めた投資ビギナーの次のステップは、「相場を読み解くこと」だ。しかし、相場の動向は為替やグローバル経済など多くのファクターに影響を受け、多くの学びが必要になる。そこで、『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)の著者であり、投資教育事業も手掛ける児玉一希氏に、「投資ビギナーでは少し難しい。でも、投資を学ぶなら理解したい」レベルでの、日本株式市場の読み解きを示してもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
円安とインフレが牽引した2024年の株高
——まずは、2025年2月現在までの日本株の値動きについて振り返りたいと思います。2024年の2月、7月と日経平均株価が史上最高値を更新し、8月の暴落後は現在まで大きな変動なく推移しています。この状況について、児玉さんはどのように分析していますか?
児玉 一希:日経平均株価が史上最高値に至った上昇相場の要因は、ひとことでいえば円安です。ドル円相場は2021年の1ドル110円台から、2023年には151円へと40%近くも上がりました。そして、東京証券取引所の公表データによれば、日本株の売買代金におけるシェアの7割前後が海外投資家です。つまり、海外投資家からすれば日本株はお買い得であり、それが上昇相場につながったと見ています。
さらに、好材料となったのは日本のインフレです。モノやサービスの価格が上昇すると企業の売上が上がりやすくなるため、株価の上昇要因となります。長らくデフレが蔓延していた日本では値上げに対して敏感になり、多くの企業が価格を引き上げない努力をしてきました。しかし、原油や小麦を筆頭にあらゆる原料価格が上がるなど世界的なインフレの波には抗えず、日本が物価上昇に転じたことは海外投資家にとって大きな判断材料になったのでしょう。
——しかし、2024年後半は途端に相場の波がおとなしくなり、日経平均は3万8,000円〜3万9,000円台を推移しています。
児玉 一希:その理由は、急激な円安・物価高といった、2024年前半の相場を押し上げた変化が一服してしまい、後半はさしたる変動要因がなかったということです。さらにいえば、政府と日銀が物価上昇の抑制を優先したことも、相場が停滞した要因だと私は考えています。
急激な物価上昇は国民生活を圧迫し、有権者の政治不信を招きます。そのため、日銀による政策金利の緩和は対抗措置として当然としても、為替介入まで行ってまで円安を食い止めようとしました。また、2024年4月から日本国内の通貨供給量も減少しておりこれらはインフレを抑制するだけでなく、株式相場にはマイナスに働くため、相場停滞の一因になります。
——製造業をはじめとする輸出産業では、円安になれば、円建てでの売上が増加します。こうした企業の好業績の影響はいかがですか?
児玉 一希:確かに半導体などのハイテク関連株は需要があるうえに、円安による業績向上もありました。一方で、それ以外の製造業では販売量の減少を円安がカバーしてくれた面は否めません。無関係ではありませんが、日本市場全体の相場動向についていえば、為替の影響のほうがずっと大きかったはずです。

2025年以降の日本株式市場を読む
——2025年以降の日本株の展望については、最高値更新を期待する声もあれば、暴落を不安視する声もあり、投資家によって意見は分かれますね。
児玉 一希:2025年の株価については、現状維持的なシナリオを想定しています。具体的な株価水準としては、日経平均株価で高値は4万1,000円から4万2,000円程度、下値は3万6,000円程度のレンジで推移するのではないでしょうか。どちらかといえば、下振れリスクのほう大きいでしょう。
この見方の背景には、株価バリュエーションの高止まりと外部環境の不確実性というふたつの要因があります。まず、現在の日経平均株価のPER(株価収益率)は15倍から16倍程度で推移しており、これは過去15年間のPERレンジで見れば上限圏に位置します。わずか2年前にはPERが11倍まで低下していた時期もあり、現在の株価水準は決して割安とはいえない状況です。
もちろん、以前より「日本のPERは低過ぎる」という声もありますから、日本企業に対する国際的な評価が向上して「PERレンジが切り上がる」という可能性も否定はできません。わたしも日本経済を応援する気持ちは強いのですが、企業業績が劇的に改善しない限り、現状においては株価水準が上限にあると判断したいと思います。
——外部環境の影響についてはいかがでしょうか?
児玉 一希:金融政策の不確実性が懸念材料となります。日銀は引き続き利上げの意向を示していますが、最終的な政策金利の水準や利上げのペースについては具体的な見通しが示されていません。このような金融政策の不確実性は、株式市場にとって重しとなり得るものです。
さらに、米国株式市場の動向も無視できません。2024年のS&P500指数は20%以上の上昇を記録しましたが、この上昇の大部分はいわゆる「マグニフィセントセブン(Amazon、Apple、Alphabet、NVIDIA、Tesla、Microsoft、Meta)」を中心とする大型ハイテク株によってもたらされたものです。もし、これらのハイテク株が崩れ出す場合は米国市場の暴落につながりますから、その影響は日本にも及ぶ可能性が高く、投資家の買いが集まりにくいと考えます。
——2025年より先の、長期的な視点ではどう見ますか?
児玉 一希:長期的には、日本株の先行きは明るいと思います。もっとも重要なのは、企業の株主還元に対する姿勢の変化です。多くの企業が明確な中長期目標を掲げ、増配や自社株買いなどの株主還元策を強化する傾向にあります。
さらに注目すべきは、企業の利益率向上への取り組みです。単なる見かけ上の株主還元策ではなく、本質的な収益性の改善が実現できれば、現在の予想を上回る株価上昇も十分に期待できます。また、人手不足を背景とした賃金上昇や、円安基調の継続による緩やかな物価上昇も、中長期的には企業収益にプラスに作用する可能性が高いと考えています。
これまでの株価上昇は先の為替要因に加え、こうした急激な株主還元策の拡大に対して市場が反応していたという面が強いですが、今後は企業の本質的な収益力の向上が相場上昇のファクターになってくるでしょう。期待を込めてそう予測しています。

「投資2年生」におすすめの投資戦略
——では、そのような市場環境下で、個人投資家はどのように日本株投資に取り組むべきでしょうか。『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)という著書も出されている児玉さんに、投資ビギナーの一歩先にいる個人投資家たちに向けてアドバイスをお願いします。
児玉 一希:日本株の個別銘柄投資を前提とすると、「銘柄選択」の観点と「買いどきの判断」というふたつの視点があると思います。
まず、「銘柄選択」において重視すべきは、「グローバルな事業展開」を行っている企業です。2024年の時価総額上位10社を見ると、トヨタ自動車、東京エレクトロン、ソフトバンクグループなど、海外売上高比率が70%から80%に達する企業が名を連ねています。人口減少が進む国内市場だけでは成長に限界があるため、グローバル市場で存在感を高めている会社に投資することがポイントです。
また、各事業分野でNo.1のポジションを確立している企業を選ぶことも重要だと考えます。そうした企業は株価が総じて高く、手が出にくい傾向にあります。しかし、圧倒的な市場シェアと競争優位性を持つ企業は、ビジネスモデルの持続性が高いのです。シェアが高いからこそ、インフレ環境でしっかり価格に転嫁できる強みもあります。グローバル展開と業界内での地位という2つの要素を兼ね備えた企業を中心に、投資対象を選定することをおすすめします。
——続いて、「買いどきの判断」ですね。これは「どうすれば、狙った銘柄の株価が安いタイミングを見極められるか」ということでよろしいでしょうか。
児玉 一希:そうですね。高配当狙いの長期保有でも、なるべく安いタイミングで買い進めることが大切です。そのための、もっともわかりやすく実践的なアプローチは、過去の株価変動パターンの分析です。
具体的には、買いたい銘柄の過去10年から20年程度の株価チャートを確認し、最高値から最安値までの変動幅をパーセンテージで把握します。例えば、ある銘柄の過去の株価推移において、最高値から50%程度下落する傾向が見られるとします。その銘柄が10年前とは2倍以上の価格に成長しているとしても、現在も最高値から50%下落した株価を最安値として、そのレンジを買いどきの目安とすることができます。もちろん、これはひとつの基準に過ぎませんが、投資判断の客観的な指標として活用できます。
——個別銘柄の値動きは、日本株全体の相場の値動きにも影響を受けますよね。相場全体のトレンドを読むうえでヒントはありますか?
児玉 一希:日本市場を日経平均株価として置き換えるなら、ドル建てで日経平均株価を注視して海外投資家の動向を探ることが有効です。先の通り、日本株であっても海外投資家が売買の高いシェアを持ち、相場に影響を与えるからです。
例えば、現在(2025年2月5日時点)の日経平均約3万9,000円を為替レート約151円で割ると、約258ドルとなります。わたしの経験則では、ドル建て日経平均は260~270ドルで天井を打つ傾向があり、極端な下落時には200ドルを割り込むこともありました。ですから、あくまで参考ですが、個別銘柄投資においては、中間の日経平均230ドル台が海外投資家の動きを予測する分水嶺になると考えています。
これはつまり、為替動向と株価水準の関係性にも注目が必要だということです。同じ日経平均3万9,000円でも、為替が1ドル200円ならドル建ては195ドルとなり、割安圏に突入します。その為替は極端な例ですが、今後も円安基調に傾く可能性が高いことを考えると、為替によって海外投資家の動きが変わる点には注意しておきたいところです。
ただ、最後に強調しておきたいのは、個別銘柄投資においてもっとも重要なことは、その企業の本質的な競争力と成長戦略への理解です。例えば、日本製鉄のUSスチール買収計画や信越化学の新工場建設など、日本企業は豊富な内部留保を活用した積極的な投資を始めています。かつては批判の対象となった保守的な財務戦略が、いまは新たな成長投資の原資として活かされているのです。
このような企業の本質的な強みと変化を見極めながら中長期的な視点で投資を行うことが、成功への近道となっていくでしょう。

児玉 一希(こだま かずき)
株式会社RES代表取締役。1991年生まれ。東京都立大学(旧・首都大学東京)卒業後、2014年にリクルートグループに入社。しかし、思うように業績が振るわず2016年に株式会社RESに転職する。株式投資の知識ゼロから金融教育業に携わり投資家の講演会運営をサポートすることを通じて知識を高めながら個人投資家としての経験も積み、2万人以上に株や金融の直接指導を行っている。2020年の代表者取締役就任後は、お金や投資を学べる学校を創設するほか、YouTubeチャンネル「Trade Labo」を開設し、25万人以上のチャンネル登録者を獲得(2025年2月5日時点)。著書に『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)などがある。