2025年の“勝ち組”はどこだ?今年追い風が吹くセクターを見極める
成長が期待できる個別銘柄株の探し方は、個別の決算書にあたるばかりではない。業界やセクターごとに吹く追い風・向かい風を見極め、そこから個別銘柄の投資に落とし込んでいくことが合理的だ。金融教育事業を手掛け、『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)の著者でもある投資家の児玉一希氏に、成長が期待できるセクターの見極め方を、投資ビギナーにもわかりやすく解説してもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
セクターの変動を先んじてキャッチできる「日銀短観」の重要性
——日本株を前提とした質問となりますが、児玉さんは投資する個別銘柄株をどのように探していますか?
児玉 一希:わたしの場合は、社会情勢を踏まえて成長性の高そうな業種やセクターのあたりをつけ、個々の企業の決算書をもとに判断しています。
例えば、いま日本のアニメ・漫画などのコンテンツ産業は海外で高く評価されていますよね。この分野は、日本が世界で勝負できる数少ない高付加価値産業のひとつといえます。そのなかで、個々の銘柄の決算書を読むと、東映アニメーションが2022年から2023年にかけて爆発的に版権収入が伸びていました。同社は『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』などの強いアニメ版権を持ち、積極的に海外で版権ビジネスを展開しているため、その売上拡大と円安効果が合わさったことで業績が大きく伸びたわけです。
また、現状では映像配信やキャラクターグッズが中心ですが、まだまだテクノロジーを活用したマネタイズの手段はあると見ています。日本の優れた漫画・アニメは続々と生まれ、その国際優位性は続くと思われますから、先行きの明るい業界だと思います。
——社会情勢や経済の追い風・向かい風というのは、一社ではなくセクター全体に影響を与えるかと思います。そうしたセクターごとの状況をリサーチする際、企業単体の決算書のほかに重視しているファンダメンタルズはありますか?
児玉 一希:セクターごとに有用なファンダメンタルズ要因は異なるのですが、総合的にもっとも重視しているのは、日銀短観です。日銀では全国の約1万社を対象に四半期ごとの企業動向を調査し、業種ごとの景況感を「業況判断DI」によって短観として示しています。約1万社の担当者に受注状況や売れ行きなどの業況感、設備、雇用人員の過不足など多角的なアンケートを取り、「最近」と「先行き」に分けて業界ごとの指数をまとめたのが業況判断DIです。
数値が高い水準にある業界は、他の業界に比べて業況がいいということになります。また、前期よりも「最近」の数値が落ちるのなら、なにか業界が不安材料に直面しているということですし、今期の「最近」まではいい数値で推移していても、「先行き」の数値が落ちるのなら、先々に業界の不安材料があって業況の悪化を見通している可能性があります。
この業況分析DIをもとに、数値で業界ごとの景況感を把握し、気になった業界の変化要因を分析しています。
——その日銀短観の業況分析DIを、どのように投資判断に活かすのでしょう?
児玉 一希:株価の変化を先んじて予測することに役立ちます。株価というのは、「業績が悪化する=株価が下がる」「業績が上がる=株価も上がる」とは限りません。むしろ、それ以前の「業績絶好調のときに将来の悪化を見込んで株が売られる(=株価が下がる)」ものであって、逆に「業績が赤字低迷中でも底を打って、あとは上がるだけなら株が買われて株価も上がる」ものです。
これは、株式が持つ「先見性」という特性で、投資家たちは将来の好材料・悪材料を先取りし、半年から1年先まで見据えて投資を行います。そのため、業績に反映されてから投資を行うのでは一歩遅れてしまうわけです。ですから、「業績が変化する」前に「状況の変化」をキャッチするために、日銀短観の業況判断DIはとても有用なのです。
そのため、上昇する株価の天井を見極めるのに役立ちます。また、「業績も業況も悪いのに株価が下がらなくなる」パターンもあるのですが、これは買いどきの可能性があります。低迷するセクターが底値を打ったと市場が判断し、今後の回復を見込み始めていると考えられるからです。

2025年以降、成長が期待できるセクター予測
——セクターごとの業況判断については理解できました。そのうえで、児玉さんが実際に投資し、「今後の見通しが明るい」と考えているセクターについて教えてください。
児玉 一希:わたしの投資先をセクターでいうと、銀行、証券、保険などの「金融」、電気・ガスなどの「エネルギー」、あとは商社などの「卸売業」や「建設」「機械」「情報通信」などが中心です。業界の規模が大きく安定性があり、なおかつ中長期の成長性も見込めることを重視しています。
例えば、金融セクターは市場が巨大であるうえ、今後も上昇が見込まれる政策金利の恩恵を受けます。エネルギーセクターは市場規模の大きさはもちろんのこと、生活に欠かせないインフラのため市場規模は縮小しにくいでしょう。また、エネルギーは国内向けと思われがちですが、海外売上を高めている企業も多く、成長ポテンシャルも持っています。
卸売業では商社を買っていますが、油田から石油を買ってくるなど現物を右から左に流す業態だった頃は、石油価格が上昇すると急落するような不安定さを持っていました。しかし、近年ではM&Aによって多角的な事業を展開しているので、安定感も成長性も備えています。
こうしたなかで、業績向上の確度の高さで注目しているのは金融セクターで、とりわけ証券業界です。その理由は、国策としての「新NISA」推進にあります。公的年金では国民の老後の面倒を見切れないため、自分たちで資産を築いてほしくて推進していることは明白ですから、今後も国を挙げてバックアップしていくはずです。しかし、口座開設数は昨年9月末で2,500万件と18歳以上人口の4分の1足らずであり、ピークに向けて証券業界は成長余地を残しています。
——規模による安定感を重視しつつも、成長ドライバーを持っているセクターに注目されているのですね。逆に、今後注意すべきセクターはありますか?
児玉 一希:近年、生成AIブームと円安という二大要因で株価を押し上げてきた半導体セクターですが、2025年から2026年にかけてはピークアウトに注意したいところです。「2027年まで半導体の生産量自体は上がる」といわれていますが、大きな好材料は出尽くしているため、業績が上がり続けるとしても投資家は売り始める可能性が高いのではないでしょうか。半導体株を保有している人は、出口を見誤らないようにしてください。

セクターの追い風を受け止められる銘柄を探す
——成長が期待できるセクターを見極めたとしても、当然ながら、そのセクターのどの銘柄に投資するかで結果は変わってきます。銘柄選びのアドバイスをお願いします。
児玉 一希:有望なセクターのなかでも、各企業の決算書を見てデータで投資根拠を持つことが大切ですが、特に重視するポイントは「配当実績」「利益率」「従業員数の推移」の3つです。
まず、「配当実績」は高配当株投資において重要なポイントです。長期的に保有することが前提ですから、安定して収益をあげる銘柄が望ましいですよね。事業規模が大きく、セクターや業界のなかで高いシェアを持ち、過去の業績や株価も安定していることは基本ですが、過去10年、20年で減配や無配がないかもチェックしておきましょう。
株式を買ってもらうために利益を過剰に食い潰して株主還元しようとする企業もありますから、現在の配当利回りだけで判断せず、過去の配当実績を見て安定成長に基づいた堅実な配当であることを確認してください。
また、業績について注目してほしいのは、売上高や利益額よりも「利益率」です。同じセクター内でも、利益率の高い企業は競争力の強いビジネスモデルを持っており、景気変動の影響も受けにくい傾向があります。
最後に、見落とされがちな指標ですが、中長期の成長性を見るうえで注目してほしいのが「従業員数の推移」です。人材採用は企業にとって長期的にコストとなる重い決断であり、業績が悪化する見通しがある企業は採用を控えるのが一般的です。
逆にいえば、従業員数が増加している企業は、先行投資をしてでも事業を拡大したいという積極的な姿勢の表れと解釈できます。ただし、アルバイトの増加やM&Aによる従業員数の増加は実態を正確に反映していない可能性があるので、内訳まで確認する必要があります。
——逆に、銘柄選びにおける注意点はあるでしょうか?
児玉 一希:ひとつのセクターにポートフォリオが偏らないことですね。投資のリスク分散というと、株式・ゴールド・債権などの投資商品による分散のほか、株式投資のなかでもコア・サテライト戦略がありますが、個別銘柄株をセクターでリスク分散する考え方もあります。
例えばわたしの場合、金融やエネルギーなどのセクターはボラティリティ(値動きの幅)が高く、下落局面でのリスクが高くなります。そこで、高配当かつ価格変動の小さいNTTやソフトバンクなどに代表される情報通信セクターを組み入れ、ボラティリティを安定化させています。特定セクターに有利な社会情勢であっても特化せず、なるべく多角的に広くポジションを取ることが大切です。

児玉 一希(こだま かずき)
株式会社RES代表取締役。1991年生まれ。東京都立大学(旧・首都大学東京)卒業後、2014年にリクルートグループに入社。しかし、思うように業績が振るわず2016年に株式会社RESに転職する。株式投資の知識ゼロから金融教育業に携わり投資家の講演会運営をサポートすることを通じて知識を高めながら個人投資家としての経験も積み、2万人以上に株や金融の直接指導を行っている。2020年の代表者取締役就任後は、お金や投資を学べる学校を創設するほか、YouTubeチャンネル「Trade Labo」を開設し、25万人以上のチャンネル登録者を獲得(2025年2月5日時点)。著書に『株式投資2年生の教科書』(Gakken刊)などがある。