踏み出せないヒトのための投資術 第16回 信用倍率を活用した投資
大型株の場合は一ケタがまず基本
前回は、投資の際には信用倍率をよく確かめることの必要性をお話しました。今回は、信用倍率を中心にした銘柄選びの手法もあることを説明したいと思います。
銘柄選びについては、概略ではありますが、過去十数回にわたって具体的な手順を解説しました。これらをお読みいただいた方には、ご理解いただいていると思いますが、本当に株式投資を成功させたければ、ある程度の汗をかかなければなりません。ただ、短期で投資をするだけの時間的な余裕のある方は、信用倍率を投資判断材料にするという考え方もないことはありません。それくらい、信用倍率を確認することは、重要な事項だからです。
『短期で投資をするだけの時間的な余裕のある方』とは、毎日、頻繁に投資先の値動きを見続けることができて、さらに長くても半年以内に売買の判断をいつでもできるような方、という意味です。前回、説明しましたように信用倍率は毎日変わるモノですし、信用取引をしている投資家の多くは長くても6か月以内に手仕舞いする必要があります。ですから、大口の空売りの手仕舞いがいつやってくるか、そのタイミングを逃さずに対応する必要があるからです。
ただ、信用倍率をもとにした投資は、『絶対に成功します』、というものではありません。あくまでも、銘柄選びの参考のひとつとして“こんな考え方もあるんだ”程度に捉えてください。
では、本題に入りましょう。まずは、大型株の場合です。大型株は、信用倍率が10倍未満の銘柄を候補にします。これも以前説明しましたが、流動性の面ではほとんど問題がありませんので、買い残や売り残の株式数を問題にする必要はありません。あくまで、信用倍率の数値だけを参考にします。そのうえで、業績を分析し、最終的な投資の可否を決めます。右肩上がりでなくても、安定して黒字ならば、投資先候補として挙げてよいと思います。一方で、赤字を出していたり、今後の成長性に疑問が付いたりするような場合は、いくら信用倍率が低くても、投資は控えたほうがよいでしょう。
さらにPER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)も確認します。いずれも低ければ低いほど良いと判断します。PERは少なくとも日経平均株価の平均PERを越えない程度までとし、特にPBRは1倍割れであることを条件としたほうがよいでしょう。PBR1倍割れは、企業としては“恥ずかしい”ことでもあります。この場合、これを回避するためにいろいろなIRを打ち出す可能性が高いとも考えられます。
また、信用倍率を中心にした投資は、あくまでも短期の投資向けと申しましたが、大型株の場合は、経済環境の影響で株価が割安な場合があります。そのような銘柄の場合は、中長期の保有も検討してよいかもしれません。
中小型株は投資判断の2大要素に並ぶ重要指標と考える
信用倍率による投資判断でより効果を発揮するのが、中小型株です。以前も説明しましたが、一般に中小型株は時価総額300億円以下の株式を指します。ただ、これはTОPIⅩが1400を目標にしていた頃の数値です。バブル期の最高値を更新した現在では、500億円前後までを中小型株とみなしてもよいかもしれません。
中小型株では、信用倍率が1ケタであることを条件とするのは当然ですが、できる限り、逆日歩が付いている銘柄を狙います。業績とPER、PBRの確認は大型株と同様の作業を行います。ただ、業績、PER、PBRのチェックは、大型株よりも厳しい基準で行う必要があります。PERは1ケタ、PBRは1倍割れを基本条件として、業績が今後上向く可能性が高いと判断された場合にだけ、両指標の判断基準を緩めるという姿勢で銘柄の取捨選択を行ってください。
加えて、流動性もしっかりと見定めます。これも繰り返しになりますが、1日の平均的な出来高が7,000万円以下か、7,000万円を上回っていてもわずかである場合は、決して投資対象にしてはいけません。
繰り返しになりますが、本来、銘柄の発掘は、あくまでも、すでに説明してきた手法で、作業をコツコツと積み重ねていくのが基本中の基本です。今回の発掘手法は、信用倍率が一連の作業の最終判断に近い状況で、『今、投資するか、止めておくか』を判断する大きな基準になるという意味から、それだけで投資戦略のひとつにすることもできないこともないという考えで説明しました。しかし、信用倍率だけを見た投資手法は積極的には、お薦めできません。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。