人気の米国株投資は本当に最適解なのか? 見落としがちな日本株にある将来性
近年、米国株投資の人気はますます高まっている。世界経済をリードする米国の企業に投資することによりダイナミックな値上がり益を狙えることから、「資産形成したいのなら米国株に投資するべきだ」という声は多い。実際、米国株の比重を高めている投資家は多いだろう。一方で、日本株にこだわって資産形成を進めていく投資家もいる。投資助言・代理業を行うかたわら、YouTubeチャンネル「日本株チャンネル」で国内の高配当株投資を中心にノウハウを提供する坂本彰氏もそのひとりだ。坂本氏の「日本株に特化する理由」を聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
自信を積み重ねてきた投資で勝負がしたい
——坂本さんは日本株の大型高配当株をメインに投資されていますが、より成長性が高い米国株をはじめとする海外投資には乗り出さないのでしょうか?
坂本 彰:「つみたてNISA」で海外インデックスへの積み立て投資は行っていますが、米国の個別銘柄株については関心こそあるものの、これまで投資はしてきませんでした。みなさんはそれがよほど不思議に感じるのか、わたしが投資関連のイベントで登壇する際には「なぜ、米国株投資を行わないのか?」と必ず質問されます(笑)。成長性が高いことはわかっているのですが、正直に理由をいえば「自信を持って投資できないのでやりたくない」のです。
また、「米国株投資をしないともったいない」という声も聞きますが、その感覚をわたしの投資キャリアでは感じられなかったこともあります。いまでこそ海外投資は個別銘柄株も含めて、簡単に投資ができるようになりました。しかし、わたしが投資を始めた2000年代は、まだ信託投資以外では海外投資の利便性がそこまで整っていなかったのです。それに加えて英語が得意ではなかったので、自然と情報が手に入る日本株の研究を重ね投資を行っていました。
そうして培った経験をもとに、「アベノミクス(第2次安倍内閣の経済政策)」によって小型成長株が勢いづいた2010年代に、株価5倍〜10倍成長の銘柄をつかんで資産形成ができました。そうした自分の投資実績に満足しているので、「米国株投資が有利」という感覚が希薄なのかもしれません。
それに対し、米国株では2010年代にGAFA(2010年代当時の米国IT企業大手4社、Google、Apple、Facebook、Amazonのこと)などテクノロジー企業の急成長があり、2020年代もNVIDIAを始めとする多くの米国株が飛躍的に伸びるなど、日本経済を圧倒する米国経済の強さが広く知られるようになりましたよね。さらに、手軽に海外投資ができる環境も整ってきました。ですから、ここ10年で投資を始めた人からすれば、「どうして米国株投資をしないのだろう?」と不思議に思うのも無理はないのかもしれません。
——米国株に「自信を持って投資できない」のはなぜですか?
坂本 彰:先に述べた、情報収集と分析の難しさです。米国企業の商品やサービスは自分の生活に身近なものばかりではないので、消費者実感から企業の姿勢や将来性を評価することが難しいのです。決算発表などを和訳して企業の方針や戦略を理解したとしても、それを妥当だと判断するための感覚がついてきません。
また、業績指標についても同様です。例えば、日本株の場合は人気の高いメガバンクでもPER(Price Earnings Ratioの略。株価を1株当たりの純利益で割って株価収益率を求め、数値が高ければ株価が割高、低ければ割安と判断される)は10倍台ですが、AppleやMicrosoftをはじめとする米国のトップ企業は平均で30倍にもなります。日本株で経験を積んできたわたしからすれば30倍は異常値であって、自分の学んできたセオリーを超えています。PERという指標は日米で同じでも、数字の意味が違い過ぎるのです。
逆をいえば、日本株投資では消費者実感とファンダメンタル分析、過去の値動きの情報などを多角的に分析し、「勘所」のような経験則も駆使しているわけで、そこに自信を持っています。しかし、米国株投資ではそれらが機能しないので、100%の自信や根拠を持てない投資はしたくないというわけです。
——日本株に加えて米国株投資まで行うのは、ご自身のテリトリーを超えてしまうのですね。
坂本 彰:そうですね。時間も体力も有限ですから、米国株にまで100%の自信が持てるよう勉強やリサーチを行うことは困難です。そうであるなら、米国株はインデックス投資にとどめて、日本株に専念したいですね。
チャンスが大きい投資は、リスクも大きい
——株式投資を始めたばかりのビギナーでは、米国株のチャンスの高さに惹かれて世界的な有名企業への個別銘柄投資をする人も多いと思います。坂本さんからアドバイスをするとすれば、やはり米国経済に特化した研究ということになりますか?
坂本 彰:そうですね。米国株に対してネガティブなことばかりをいうようですが、決して「米国株投資はやめたほうがいい」などというつもりはありません。ただし、高いリターンを得られるものは、必ずリスクも高いものです。投資をするのなら、確かな根拠を持てるよう勉強とリサーチ、経験を積み上げることが大切だと思います。
——米国株のリスクとは、どのようなものでしょう?
坂本 彰:米国株にはストップ安がないことなど、様々なリスクがありますが、その最たるものは為替リスクではないでしょうか。もし、米国株投資に特化してドル建てで資産形成をするつもりであれば、現時点での為替を気にする必要はあまりないかもしれません。しかし、日本円に交換するのであれば為替差によるリターンの変動が起こります。
極端な例でいえば、円安でドル円レートが150円のときに買った株を、円高で100円のときに売却すると、20%のキャピタルゲインがあってもマイナスになってしまいます。インカムゲインを狙う場合にも、そのときどきの為替レートによって実質的な利回りは大きく変わります。為替差を考慮するぶん、日本株投資よりもリターンの想定が複雑になることはデメリットといえるでしょう。
もちろん、売買のタイミングが逆であれば為替で利益を増やすチャンスにもなるわけですが、この為替リスクの視点が抜け落ちているビギナーは多いと思いますので、注意してほしいですね。
また、卓越した選定眼で個別銘柄への長期投資を行い、史上もっとも成功した投資家とされるウォーレン・バフェット氏でさえ、保有株の3割程度は1年未満で入れ替えると聞きます。米国市場は成長するぶん競争も激しく、例えばマグニフィセント・セブン(米国市場を代表するテクノロジー企業7社、Amazon、Googleの親会社であるAlphabet、旧FacebookのMeta、Apple、Microsoft、Tesla、NVIDIA)といった時価総額のトップ企業でさえ、5年後、10年後にその地位にあるかは予測がつきません。
中長期の投資スタンスであるなら、この大型株の不安定性も成長性と表裏一体のリスクといえるでしょう。「チャンスが大きい」ことは「簡単に儲かる」わけではないことを、くれぐれも留意してください。
日本企業の「稼ぐ力」は着実に成長している
——坂本さんが日本株に専念する理由は、「日本経済に将来性がある」と踏んでいるからだと思います。今後の日本経済、および国内株式市場についてはどのように見ていますか?(取材日:2024年9月30日時点)
坂本 彰:短期的な視点では2024年内に日経平均株価の上昇があると予測しています。特別な好材料があるというわけではなく、これはアノマリー(理論的根拠はないものの、株式相場において確かに見られる変異性)ですね。
例年、11月に3月決算企業の中間決算が発表されて株価が盛り上がり始め、12月は暗いニュースを避けるように株価を上げて1年を終える傾向にあります。2024年もそうした流れを受け、年末にかけて日経平均を4万2,000円程度に上げて終えるストーリーを想定していますが、みなさんの予測はどうでしょうか。
また、中長期視点では、さらに日経平均株価を上昇させていくと見ています。2024年の日経平均最高値はバブルでもなんでもなく、日本企業の「稼ぐ力」が年々着実に上昇しているからです。それは、日経平均のEPS(Earnings Per Shareの略。1株当たり純利益を表す)が、直近10年でおよそ年10%の上昇を続けていることから見て取れます。
今年8月の第一四半期決算も、前四半期と比べて日経平均のEPSは伸びていますから、年内の株価上昇もあながちアノマリー頼みでもないわけです。
——9月27日の自民党総裁選挙によって石破新政権が誕生したことで、日経平均株価は大きく反落しました。政策金利を引き上げて円高に向かおうとする石破総理の発言が要因と見られますが、今後の株価への影響をどう考えますか?
坂本 彰:新政権樹立後の反落は「石破ショック」とも呼ばれましたが、振り返れば2021年に岸田総理が就任したときも、日経平均株価は急落して「岸田ショック」といわれていましたよね。あのときは、岸田政権の掲げた金融所得課税の強化に対する拒否反応だと解釈されていました。
でも、その当時、2万8,000円台だった日経平均株価は、岸田総理の在任3年間で4万円を超えるまでに成長しましたよね。その要因は、決して政策の比重が高かったわけではありません。先のEPSの伸長が示すように、日本企業の地力が成長し続けているからです。
ですから、近年では円安による輸出関連企業の好調が株価を押し上げてきたことは事実ですが、円高になったからといって日本経済全体の成長がそこで止まるとは思いません。そもそも、円高であれば円高の恩恵を受ける銘柄もありますし、政策金利の引き上げは金融セクターの業績向上につながります。日本経済全体は、為替や政策、時流の影響を受けて波打ちながらも成長していきますから、問題は、そのなかでわたしたち投資家がどのように時流を見極めて投資を行うかであると思います。
——日経平均株価はあくまでプライム市場の255銘柄を対象とした、いわば日本のトップ企業の株価です。今後、グロース市場銘柄も含めた国内市場の成長についてはどう見ていますか?
坂本 彰:現時点では、相場の中心は大型株であり、今後もしばらくは大型株有利が続くと見ています。
グロース250(東証グロース市場の上場企業のうち時価総額上位250銘柄を対象とする指数)を見ると、アベノミクスによる小型成長株全盛の2010年代は成長が著しく、コロナ禍の2020年、2021年には1200円台をつけていましたが、2022年以降は600円〜800円の間を推移している状況です。2024年単年で見ても、日経平均株価とは裏腹に、3月以降は相場が低迷しています。
わたしは研究者ではないので、その原因はわかりかねますが、投資家が小型成長株に注目していないことは同じ投資家として感じています。小型成長株に好材料が出ても、株価の上昇が続かないのですね。曖昧な言い方ですが、まだ「時流」が来ていないということでしょうし、大型株中心の経済成長の後に、再び小型成長株の波が来る可能性は十分にあると考えています。
——成長率の高さは海外に劣るとしても、日本株はこれから着実な成長が期待できるということですね。
坂本 彰:それを期待しています。そもそも、国内銘柄のなかには海外事業の売上・利益の比重が高い企業もたくさんあります。そうした企業に投資することで、投資家も間接的に海外の成長性の恩恵を受けられることを理解すると、さらに日本株の面白さも増すのではないでしょうか。
坂本 彰(さかもと あきら)
株式会社リーブル代表取締役。サラリーマン時代に始めた株式投資から多くの成功と失敗を経験し、株で勝つための独自ルールをつくりあげる。2012年、投資助言・代理を取得。現在、自身が実践してきた株で成功するための投資ノウハウや有望株情報を、YouTubeチャンネル「日本株チャンネル」で配信。著書に『60歳から10万円で始める「高配当株」投資術――買ってはいけない株 買うべき株の選び方』(あさ出版)がある他、メールマガジン「日本株投資家『坂本彰』公式メールマガジン」は2014年まぐまぐマネー大賞を受賞。日本証券アナリスト協会検定会員候補。