株価暴落場面ではどう立ち回るべきか。投資歴24年の“億り人”に聞く、身につけたい心構え
2024年8月に起きた日本株の暴落は、8月1日から5日の3営業日で日経平均株価が約20%もの下落に見舞われたことから、「日本版ブラックマンデー」ともいわれている。こうした下落相場は、長期投資を行う投資家にとっては本来、買い場であるはずだが、実際には多くの投資家が金融資産の目減りに焦り、いわゆる「狼狽売り」をしてしまう。そこで、投資助言・代理業として活躍し、国内の高配当株投資を得意とする“億り人”でもある坂本彰氏に、暴落局面におけるマインドのあり方と立ち回り方についてアドバイスをお願いした。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
暴落時の「狼狽売り」を防ぐ準備をする
——直近では2024年8月に日本株の大暴落がありましたが、一般的に暴落は5年、あるいは10年に一度は起こるといわれています。こうした暴落局面では、どのような投資行動を取るべきだと考えますか?
坂本 彰:大前提として、投資スタンス次第ですよね。短期投資なら下落した時点で見切りが早いに越したことはありません。しかし、わたしがメインとしている大型高配当株のように中長期を前提とした投資であれば、暴落したからといって狼狽売りをしてしまうのはいただけません。インカムゲイン、キャピタルゲインの両面で自分からわざわざ損失を招くようなものだからです。
個別の企業の失策によって業績不振に陥るならともかく、暴落というのは市場全体の動きによるものです。潤沢な自己資本を持ち、確かな成長戦略を描いている大型株なら、いずれ相場の回復とともに株価は戻っていくでしょう。そう考えれば、暴落はむしろ買い増しのチャンスといえます。
しかし、それがわかっていても不安に駆られて売ってしまうから「狼狽売り」なのですよね。株式投資というのは、心理戦の側面があります。誰だって日常的には理性的な判断ができるものですが、株価の暴落局面では理性よりも感情が上回ってしまい、冷静な判断が困難になるものです。特に、「一生懸命に蓄えてきたお金が減る」という恐怖は耐え難くて当然でしょう。結果として、暴落局面では多くの人が狼狽売りをしてしまいます。
——坂本さんが暴落局面においても狼狽せず、耐えられるのはなぜでしょうか?
坂本 彰:ひとつは経験です。2000年に株式投資を始めてから、2008年の「リーマンショック」を筆頭に多くの株価の急落、暴落が起こりました。しかし、いずれの局面でも株価はいずれ回復していくことは現在の株価が表していますよね。それを見てきたから、「いつもと同じパターンだろう」と考え、静観を決め込むことができます。
そうした過去を経験していない人であっても、漠然と「急落しても売らない」と思っているだけではなく、過去の日経平均の推移と暴落の歴史を調べて、「いずれは回復するのだ」と腹落ちさせておくと心持ちが変わるのではないでしょうか。
ふたつ目は、金融資産に占めるリスク資産のウェイトです。これは金融資産の約70%を株式投資に充てているわたしには該当しないので、みなさんへのアドバイスと考えてください。リスクを踏まえれば、ビギナーなら株式は全資産の20%程度、最大でも50%程度に収めることをおすすめします。
今年8月の日経平均の暴落では、7月11日の史上最高値から1カ月で約30%も下落しましたから、もし資産をほぼ100%も株式投資に充てていたら、一時的とはいえ資産だって約30%下がるわけです。そんな状態では、メンタルが持ちませんよね。資産配分における株式が50%以下であれば、資産全体に占める含み損も15%以下なのですから、なんとか踏みとどまれるのではないでしょうか。
暴落や急落は、いつ起こるかを正確に予測することは誰にもできません。だからこそ、自分が楽観的に構えられるための準備をしておくことが大切です。
——坂本さんは金融資産の約70%が株式投資、残り約30%は安全資産ということですよね。安全資産では、債券などを保有しているのでしょうか。
坂本 彰:株式を50%以下とするなら安全資産として債券はいいと思います。社債はリスクがありますが、国債であれば安心といえるのではないでしょうか。ただし、わたしの場合は債券を持たず、約30%を現金で保有しています。
今後の日本はインフレ経済となることが予測されますから、現金資産は実質的に目減りするリスクがあることは承知の上です。これは合理性や理屈ではない、いわばメンタルの「お守り」ですね。
万が一、株式がすべて無価値のようになってしまっても、家族が数年は生活ができる現金を残しておくことで、わたし自身が安心して株式投資に打ち込むことができますし、70%もの資産を株式に投じていても、暴落に対して強気の姿勢を崩さずにいられるのです。もちろんこれは、万人におすすめできる資産配分ではありません。あくまで、わたし個人の特異なやり方だと思ってください。
事前に有望株を見繕い、暴落時に買う
——2024年8月の日経平均の暴落では、坂本さんはこれまでと同様に高配当株の買い増しを行ったそうですね。暴落時の株の買い増しのやり方やルールを教えてください。
坂本 彰:まず重要なことは、相場が急落してから慌てて買う銘柄を探すようでは「遅い」ということです。これは長期投資であれ、短期投資であれ同じだと考えます。暴落が始まってからでは「チャンスを逃すまい」と焦ってしまい、銘柄選びに失敗しかねません。例えば、長期の高配当株狙いであれば、暴落で株価が下がり一時的に配当利回りが高くなっていても、将来的な成長性やリスクの見積もりが甘くなってしまい、いずれ業績低迷で減配するような銘柄を買ってしまうということです。
わたしの場合は、長期の高配当株投資が基本スタンスですから、普段から「次に買いたい銘柄」をピックアップしておいて、優先度をつけてまとめています。そして「いくらまで下がったら買うか」を決め、まずは数十万円〜100万円程度から保有して少しずつ買い増し、最終的には500万円くらいに積み増す買い方をしています。ですから、暴落というのは悲劇的な状況ではなく、その買い増しの過程で起こるチャンスのひとつとして捉えているわけです。
——「いくらまで下がったら買うか」は、候補銘柄それぞれに厳密に決めていますか?
坂本 彰:相場の下落局面での買い増しは基本的にそうなのですが、より激しい暴落局面では、もう少しアバウトに考えることもありますね。例えば、日経平均の下落率で大まかに捉えることもあります。日経平均が1日で6%も下落すれば、それは日経平均の歴代下落ランキング30位には入るような暴落ですから、それに連られて下がっていく有望銘柄は買うと思います。まして、8%、10%ともなれば10年に一度のような下落幅ですから、なおさらでしょう。
暴落にはいずれ下げ止まりがありますから、「これほど下げたなら、もう底かな」と思う局面では、理想的な株価や配当利回りでなくても買うケースはあります。また、そうして買い増しをしたのに、予想に反して翌日も翌々日も下落することもありますが、そのときは、さらに買い増しをするだけです。あくまで長期視点ですから、高配当株であれ、成長株であれ、わたしの場合は暴落で「売る」という選択をすることは、まずありません。
相場の変動を読むことは簡単ではない
——市場の暴落について、坂本さんはどの程度の発生予測を立てて立ち回っているのでしょうか?
坂本 彰:「暴落が近々起こるかもしれない」くらいは予測できても、それ以上の正確な予測は困難ですね。今年8月の日経平均株価の暴落も、正確なタイミングは測れませんでしたが、起こる可能性は捉えていました。
日経平均株価の過去10年の平均PER(Price Earnings Ratioの略。株価を1株当たりの純利益で割って株価収益率を求め、数値が高ければ株価が割高、低ければ割安と判断される)は12倍〜16倍程度ですから、16倍なら割高、12倍なら割安です。
しかし、2024年はつねに16倍を超えるような状態で、7月に入ると17倍に近づいていたので、あきらかに市場は実態以上に株価が割高な過熱状態にあったわけです。あるいは、日本経済は次の高いステージに移っていて、PER16倍超えがあたりまえの時代に変わったというポジティブな可能性もないわけではありません。
しかし、7月11日の過去最高値を天井に下落が始まり、下旬には8日ほどの連続下落が起こったことで、トレンドの変化を感じていました。それまで2024年の連続下落は3日〜4日程度だったからです。それから一旦値を戻してからの、大暴落となったわけです。
——高い精度で「いつ暴落するか」を予測することは困難ですが、「暴落が起こるかもしれない」くらいであれば、指標を見て過去のトレンドと比較すればできるということですね。
坂本 彰:そうですね。しかし、裏切られてしまうこともあります。例えば、2008年のリーマンショックでは、暴落が起こる以前の米国のサブプライムローン問題の影響から、日経平均株価はすでに1万7,000円から1万2,000円まで下がっていたのです。当時、わたしは「ここから株価は戻るだろう」と踏んでいたのですが、実際にはその後にリーマンショックが来て、さらに5,000円も下落しました。
相場は国の政治判断や経済活動、投資行動によって予測しない展開を見せます。ですから、「指標がこうだから、こうなる」とは言い切れません。もし、わたしにもう少し精度高く値動きを予測する自信があれば、短期投資にも積極的だったかもしれませんが、読み切れるものではないと考えるからこそ、中長期投資を行っています。
ときには、「これは1カ月程度で値を戻しそうだな」と思うような銘柄を見つけることもありますが、手を出してしまえば投資スタンスがブレてしまい、暴落時にもいらぬ欲をかくことになります。今後も高配当株を中心とした長期投資でリスクを抑え、暴落に際しても粛々とチャンスを逃さない投資を続けていくつもりです。
坂本 彰(さかもと あきら)
株式会社リーブル代表取締役。サラリーマン時代に始めた株式投資から多くの成功と失敗を経験し、株で勝つための独自ルールをつくりあげる。2012年、投資助言・代理を取得。現在、自身が実践してきた株で成功するための投資ノウハウや有望株情報を、YouTubeチャンネル「日本株チャンネル」で配信。著書に『60歳から10万円で始める「高配当株」投資術――買ってはいけない株 買うべき株の選び方』(あさ出版)がある他、メールマガジン「日本株投資家『坂本彰』公式メールマガジン」は2014年まぐまぐマネー大賞を受賞。日本証券アナリスト協会検定会員候補。