踏み出せないヒトのための投資術 第15回 信用取引における信用倍率で投資判断
信用取引について
今回は、短期決戦のひとつのやり方に触れようと思います。投資初心者にとっては、株を長く持つことがリスク回避のひとつになると説明してきましたが、長くて半年程度の短期で投資をする手法も一応、覚えておくとよいでしょう。長期に保有する場合でも、この手法があることを知っていれば、銘柄選びや、今、持っている株式の短期的な動きを予想するうえで大きな参考にもなるからです。
その手法は、信用取引における信用倍率を確認する、ということです。以前にも銘柄発掘で触れていますが、信用倍率が低いというのが、投資判断のひとつになります。
では、信用取引とは何のことでしょうか。信用取引とは、少ない元手で大きな取引ができるという投資手法です。具体的には、信用買いと空売りがあります。信用倍率とは、信用買いと空売りの株式数の比率です。空売りの株式数÷信用買いの株式数で表します。信用倍率が低いと買いの投資判断のひとつになるという理由は、後ほど説明します。
信用買いとは、手持ちのおカネの何倍かの金額で株を買える制度のことです。一般的には手持ちの金額の最大3.3倍の取引ができます。30万円を持っていれば、おおよそ100万円分の取引ができるというわけです。実際には、口座を持っている証券会社に30万円を証拠金(担保)として預け、不足分の70万円をその証券会社から借りるというかたちになります。
借金して投資するわけですから、当然、借りた分の利子を支払わなければなりませんし、一定期間後に借りたおカネを返済しなければなりません。初心者に知っておいていただきたいのは、この返済期日です。理由は、空売りの説明の後にお話しします。なお、この返済期日は一般的には借りてから6か月後です。
一方、空売りとは、株式を、口座のある証券会社から借りて、それを売る投資手法です。初めて聞くとピンとこないかもしれませんが、今後、値下がりすると思う株式を「先に売り」、予想通り値下がりした株式を「後で買い戻す」と言えば、分かりやすいと思います。つまり、こういうことです。
今、1単元100株で1株500円の株式があったとします。投資家はこれが今後、値下がりすると考えています。そんなとき、その株式を100株借りて、市場で売ります。思惑どおりにその株式は300円に値下がりします。そこで、市場でこの株式を買い戻し、借りた証券会社に返します。
そうしますと、手数料などまったく考えず、単純に考えて、株式を売った時点で500円×100株=50,000円のおカネが入ります。そして、買い戻すときには、300円×100株=30,000円を支払うことになります。その結果、20,000円の差額が儲けとなります。
株式といえども、おカネと同じく借りるわけですから、借り賃がかかります。また、一定期間後に返さなければなりません。この期間は信用買いと同じく、一般的に6か月後です。この期間が重要なのは、信用買いと同じです。
今回の本題に入る前に、繰り返しになりますが、初心者はこういった信用取引に手を出さないほうがよいと申し上げておきます。これらの取引は、手持ちのおカネや株式がなくても、投資ができるというメリットがありますし、その結果、成功した時の利益は大きくなります。しかし、一方で、失敗した場合には、損失が大きく膨らみます。ハイリターンですが、ハイリスクな取引になることを決して忘れないでください。
信用倍率をチェックして短期決戦
さて、一応、信用取引について、ごく簡単に概要を確認したところで今回の本題に入ります。
本題は、信用倍率をチェックすることが買い判断や、すでに持っている株式の短期的な動きを予想するひとつの指標になるということでした。その理由は、こうです。
まず、初心者には、お薦めしないと繰り返し申し上げましたが、個人投資家の多くとヘッジファンドなどの一部の機関投資家は信用取引を積極的に行っているという事実です。ですから、信用倍率によって、株価が動くと考えることができます。
これを踏まえたうえで、信用倍率が低いということは、先に説明した割り算から分かると思いますが、空売りが多いということです。これは、遅くとも6か月以内に必ず買戻しが入るということになります。買戻しは言うまでもなく、株価の上げ要因です。
反対に信用倍率が高い銘柄は、遅くとも6か月以内に株式を売らなければなりません。これは、株価の下げ要因です。
ですので、信用倍率が低くければ低いほど、買い戻しの圧力が強くなるということになります。これが、買いの投資判断のひとつになるという理由です。ただし、これが通用するのは、長くて6か月です。ですので、信用倍率を投資判断の最も重要なポイントにする場合には、毎日、倍率の変化をチェックし、半年以内に売却することをお薦めすることになります。なお、私の経験では、信用倍率が1ケタ台ならば買い材料になると思います。
逆日歩銘柄はねらい目
さらに、この投資手法は、逆日歩銘柄でより効果を発揮します。逆日歩銘柄とは、空売りの株数が多くなりすぎて、証券会社から貸す株がなくなり、さらに、その場合に証券会社が頼る証券金融会社にも貸し出す株式が不足した場合に起こります。それでも、証券会社は投資家の要望に応えなければなりませんので、機関投資家などから株を借りて調達します。このときの借り賃を逆日歩と言います。借り賃は空売りをした投資家が毎日、支払います。その結果、借り賃がかさむのに嫌気が差して、早めに手仕舞いする可能性が高くなります。つまり、逆日歩銘柄は、それほど遠くない時期に株価が上がるシグナルだと判断できるというわけです。
信用倍率を投資判断にすると言いましても、すべての銘柄で通用するわけではありません。まず、銘柄によっては、信用買いしかできない銘柄(信用銘柄)があります。時価総額が小さく、流動性もあまりない銘柄が信用銘柄になります。この場合には、信用倍率そのものがありませんので、投資判断の基準には使えません。
この投資手法が使えるのは、信用買いも空売りもできる銘柄(貸借銘柄)です。信用倍率は、みなさんが口座を開設している証券会社から提供される投資情報に必ず掲載され、毎日、更新されています。
しかし、貸借銘柄と言っても、なんでも信用倍率で判断できるわけではありません。例えば、以前、「すぐに売却すべき」と説明した、大きな不祥事を起こした銘柄の場合、短期の投資家から空売りが出ますが、それによって株価が近い将来に上がることはありません。長期にわたり、業績が低迷しそうな銘柄、低迷から脱する経営計画がはっきりとしない会社など同様です。ですので、あくまでも、倍率だけで投資判断するのではなく、そうなる理由も十分に分析したうえで投資を行うことが不可欠です。
こういった事情のほかにも、信用倍率で投資判断するのが有効な銘柄とそうでない銘柄があります。次回は、これについて簡単に説明します。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。