株主還元重視の企業が急増中。着実な利益を生む高配当株の見つけ方とメリット
投資助言・代理業を行う坂本彰氏が配信しているYouTubeチャンネル「日本株チャンネル」が人気だ。国内の高配当株投資を中心に株式投資のノウハウを知ることができ、日本株ファンから大きく支持されている。以前は成長株投資がメインだったという坂本氏だが、2020年に高配当株投資にスイッチしたという。その理由は、「株主還元を重視する企業が増え、インカムゲインを狙うことが有利になった」からだ。自身が投資を始めてからの投資環境の変化と、高配当株の探し方やメリットについてアドバイスをもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
企業はいまインカムゲイン強化で投資家にアピールしている
——坂本さんは現在、高配当の日本株を中心とした長期投資をされていますが、以前は成長株投資がメインだったそうですね。
坂本 彰:わたしが投資を始めたのはちょうど2000年なのですが、2020年頃までは成長株投資が中心でした。高配当株メインにシフトしたのは、けっこう最近のことなのです。
2000年代の相場はなかなか激しいものがありました。2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」にはじまり、2003年の「りそなショック」、2008年の「リーマンショック」といった金融危機や変動が多く、それにつられるようにして、国内相場の波も極めて激しかったですよね。投資家にとってはリスクもチャンスも大きいチャレンジングな相場であり、企業にとっては安定した配当が難しい時代だったと思います。
2012年になると、第2次安倍内閣の経済政策として打ち出された「アベノミクス」が始まり、ようやく国内銘柄の株価が安定して成長し始めました。特に小型成長株全盛の時代であり、わたしもこの時期に成長株投資で大きく資産を増やすことができました。
——それらの話を聞く限り、2010年代は、高配当株投資にあまり旨味のない時代だったのでしょうか。
坂本 彰:まったくなかったわけではありませんが、この時期の成長企業は配当にあまり関心がなかったのだと思います。一方で、配当利回りを厚くする企業は、成熟期というよりも衰退期に差し掛かるような、キャピタルゲインで魅力を打ち出せない企業が多い傾向にありました。必然的に、投資家たちも成長株投資を狙いましたよね。
——坂本さんが2020年頃から高配当株投資に軸足を移したのは、投資環境の変化を感じたからですか?
坂本 彰:2020年のコロナショックを機に、潮目が変化したと感じています。小型株の成長が鈍化したことで、大型株の安定成長に注目が集まるなど、投資家たちの視点が変わったのではないでしょうか。それに合わせて企業も配当性向を高め、株主優待を手厚くするなど、インカムゲインで投資家にアピールする企業が増えていきました。
また、新たな指標として「DOE(「Dividend on equity ratio」の略で、「株主資本配当率」を指す。企業が株主資本に対してどの程度の配当を支払っているかを示す財務指標)」を導入する企業も増え、これまでの当期純利益に対する配当額を示す「配当性向」よりも安定した株主還元を目指す流れが生じました。
つまり、配当性向を基準とする場合、当期純利益が減少するとその期は無配になったりするのですが、DOEを指標とする場合、資本コストがベースなので無配にはできないのです。DOEを導入する企業は、それだけ株主に対する安定配当を意識していることを意味します。
さらに、「累進配当(配当金の水準を維持または引き上げる方針)」の導入や「1株あたり配当金の下限」の設定など、業績が悪化しても減配や無配のリスクを低減する仕組みを取り入れる企業も増えています。こうした市場の変化を受けて、わたしも高配当株に軸足を移したわけです。
2023年からは、東証が企業のPBR(「Price Book-value Ratio」の略で、「株価純資産倍率」を指す)の向上を後押しするため、株主へのリターンを意識した経営を各企業に求めました。それからは、配当方針や株主還元についての開示情報を強化する企業が増え、各企業の株主還元への意識はさらに高まっていますから、ますます高配当株投資に有利な市場となっているといえるでしょう。
「配当利回り」だけで投資判断するのはリスクが高い
——坂本さんの高配当株の探し方を伺いたいのですが、日常的にどのようなリサーチを行っていますか?
坂本 彰:経済ニュースやマーケット全体の把握には「日経新聞電子版」を利用し、毎朝の習慣として目を通しています。投資判断については、他の投資家やアナリストの予測を積極的に見ることはありません。
中長期的に利益を生み出しそうな銘柄を探すため、「日経新聞電子版」や「会社四季報オンライン」「株探」などから好材料のニュースをチェックすることもありますし、配当方針の変更や増配などのニュースにも注意を払っています。それを取っ掛かりとして、関心を持った企業の決算書や中期経営計画などを精査するという流れです。
そうはいっても、すべての銘柄をターゲットにしていたらキリがありません。基本的には大型株で、追い風が吹いているセクターを優先します。具体例でいえば、今年は政策金利の上昇から金融セクターに追い風が吹いていますから、メガバンクや地方銀行、保険会社やリース会社に注目しています。
そうした外的要因による有利な状況と各企業の経営計画や業績見通しを照らし合わせ、おおよそ1銘柄につき10分か20分程度で将来の業績予測を立てます。そうして優先順位をつけて有望株をストックしておき、株価が下がって利回りが上がったタイミングで買うようにしています。配当利回り4%以上が理想ですが、業績への期待が高ければ3%台でも買うことがありますね。
——業績が期待でき、配当利回りがよくても、買いを避ける銘柄の特徴はありますか?
坂本 彰:先に述べた「DOE」や「累進配当」、「1株あたり配当金の下限」など、減配・無配のリスクに手を打っていない銘柄は、優先度を大きく下げます。また、過去に減配・無配の経歴がある銘柄は、なるべく避けるようにしています。
例えば、ある企業の例では、2010年代に連続増配し、配当利回りが6%にまで伸びたのです。それだけを見れば、有望な高配当株に思えますよね? しかし、翌期にはいきなり赤字転落して大幅に減配となり、翌々期は無配に陥ってしまいました。
実は、その企業は再び連続増配し、当期も魅力的な配当利回りをつけているのですが、わたしは買いの優先度を下げています。過去の事例と同様に当期は足元の業績が悪く、今年8月の日経平均暴落と足並みを揃えるように株価が下落しており、投資家の期待を得られていないことがわかります。つまり、増配と株価の下落によって配当利回りが過剰に吊り上がっているのです。
過去の配当実績を踏まえると、再び減配・無配を起こす可能性を捨てきれません。また、輸出関連企業なので、為替による影響も確実に出てくるため買いを控えました。
個人投資家のなかには、配当利回りだけを重視して、スクリーニングやランキングで高配当株を探す人もいると思いますが、それだけではさすがに危険過ぎます。現時点の配当利回りが高くても、業績悪化で無配となれば投資家は離れ、インカムゲイン・キャピタルゲインの両方でダメージを負うことになりかねません。高配当投資では、必ず過去の配当推移を確認し、中長期で安定成長・増配を継続している銘柄を選ぶことが必須であると考えます。
高配当株投資は、ビギナー投資家にも適した投資
——「新NISA」をきっかけに投資を始めるビギナーは、「つみたて投資枠」によるインデックス投資がリスクも少なく手堅いとされています。一方、個別の成長株投資はリスクが高く、「手を出すべきではない」とアドバイスされることが多い傾向にあるようです。「高配当株投資」はビギナーの投資として向いていると思いますか?
坂本 彰:リスクのあることですから安易な推奨はできませんが、個別銘柄株に投資するのであれば、高配当株は成長株よりもリスクが低く、また手間も少ないのではないでしょうか。
成長株投資は「ここ」と決めた企業に大口の投資をする傾向にありますが、高配当株投資は基本的に安定成長の実績ある大型株を、最初は100株でもいいので買い、機を見て増やしていく投資です。銘柄を増やすことでリスクの分散効果が得られますし、また、中長期で保有しますから、下落してもいずれ回復するものとして、あまり相場に一喜一憂する必要はありません。本業で忙しい人でも対応しやすい投資でもあるでしょう。
もちろん、企業の業績を予測できる知識や経験は必要です。でも、それだって無理のない金額から始めてみて、時間をかけて学んでもいいのではないでしょうか。逆に、わたしもインデックスの積み立て投資をここ数年で取り組み始めたのですが、機械的に一定額を投じるだけですから、あまり投資家として経験値の上がる行為とは感じられませんでした。その点では、高配当株はいい学びの機会になるはずです。
——特に、40代以上のミドル層や60代以上の高齢層が投資を始めるには、向いている投資といえそうでしょうか?
坂本 彰:そうですね。大型株は単価が高いことも多いので、若年層よりは資金に余裕があるミドル層のほうが買いやすいことは確かでしょう。また、成長株投資より精神的な負担が少ない点でも向いていると思います。
先にわたしが高配当株投資にシフトした理由を「投資環境の変化」と伝えましたが、わたし自身の年齢の問題もありました。40代も後半を迎え、成長株でメンタルをすり減らす投資が厳しくなっていたのです。
成長株投資はときに株価10倍成長だって狙えますから、やはり投資のスケールを大きくする段階では必要な投資ですが、暴落によって株価が一気に落ち込み、身を削る思いで損切りするような局面もあります。リスク管理の意味でも、高配当株投資は安定志向といえそうです。
ただし、若い方でも高齢の方でも同様ですが、株式投資をするためには生活防衛資金(緊急時の生活費として必要な現金)の確保がなにより重要です。高配当株投資は投資額が多いほど配当額も膨らむものですが、暴落や倒産によって資産が激減するリスクはあります。生活防衛資金以外をすべて投資に注ぎ込むのではなく、現金などの安全資産を5割以上持つことをおすすめします。
坂本 彰(さかもと あきら)
株式会社リーブル代表取締役。サラリーマン時代に始めた株式投資から多くの成功と失敗を経験し、株で勝つための独自ルールをつくりあげる。2012年、投資助言・代理を取得。現在、自身が実践してきた株で成功するための投資ノウハウや有望株情報を、YouTubeチャンネル「日本株チャンネル」で配信。著書に『60歳から10万円で始める「高配当株」投資術――買ってはいけない株 買うべき株の選び方』(あさ出版)がある他、メールマガジン「日本株投資家『坂本彰』公式メールマガジン」は2014年まぐまぐマネー大賞を受賞。日本証券アナリスト協会検定会員候補。