踏み出せないヒトのための投資術 第14回 投資の参考になる指標や無料のネット情報
投資の参考になる指標
今回は、投資を始めた後の売買の参考になる指標と、たいへん役に立つ無料のネット情報を紹介します。
まず、参考になる指標を挙げていきますが、その前に原則をひとつ。景気に関して、「米国がくしゃみをしたら、日本は風邪で寝込む」ということが昔からよく言われます。資源が少ない日本では、貿易が経済を動かす大きな原動力のひとつです。ですので、世界第1位の経済大国、アメリカの動向に一番影響を受けます。最近では、第2位になった中国の経済動向にも大きな影響を受けます。つまり、重要指標の多くが、米国関連、一部が中国関連ということになります。
【海外株式指標】
日本の日経平均やTОPIⅩと同じく、海外にも株式指標があります。米国で代表的な指標としては、「ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ニューヨークダウ)」、「S&P500種株価指数(S&P500)」、「NASDAQ総合株価指数(NASDAQ総合)」、中国では「上海総合指数」、「香港ハンセン指数」、ヨーロッパでは「ユーロ・ストック50」や英国のFTSE100指数、ドイツのDAX指数、フランスのCAC40指数などがあります。個人投資家として、最低限、毎日確認したいのは、ニューヨークダウ、NASDAQ総合です。時差の関係から、日本の深夜から朝方が立会時間となります。ですので、皆さんが朝起きると最新の結果が出ていることになります。
その結果が、その日の東京株式市場に大きく影響します。米国の指数が上がれば、その日の東京市場も上がりやすくなりますし、下がれば、東京も下がりやすくなります。
また、ニューヨークダウは、日本で言えば、大型株、NASDAQは新興の大型株(例えば、ITC関連)の動きを反映しています。ダウが下がって、NASDAQが上がる、またはその反対のケースが起こる場合もよくありますが、これは、各業種(セクター)の景況や、米国の金利の上げ下げと関係することが多いです。金利が上がれば、企業は資金調達が難しくなりますので、一般的に株価は下がります。特に新興企業にはこの影響が大きいといえます。
米国の2指標とともに注意が必要なのは、上海総合指数と香港ハンセン指数です。日本と中国は経済的にも、距離的にも密接な関係があります。ですから、欧米の投資家は中国の景気が日本にも大きな影響を与えると考えるケースがあります。取引時間が重複しますので、東京市場が開いている最中に突然、株価が大きく変動する場合には、上海指数や香港ハンセン指数がなんらかの理由で大きく動いた場合が少なくありません。
【為替】
為替に関してもドルに対する円の価格変動が最も株価に影響します。一般的には、円安になると株高、円高になると株安になると言われています。円安になる要因には、主に金利、景気、財政などが考えられますが、円安の場合は、モノを購入する外国にとってドルで支払うお金が少なくて済みますので、割安になり、日本にとっては輸出が増えます。円高では、日本にとっては輸入品が安く買えますが、円安のときと反対に輸出にはマイナス要因になります。冒頭に申し上げましたように日本経済は貿易で成り立っていますから、円安になれば、企業が儲かるという連想が働きます。実際、2023年度の日本の上場企業は過去最高益が続出しました。コロナが収まり、通常の経済活動が戻ってきたという面もありますが、増益の大きな要因は円安による“増収”効果でした。
ただ、株高=円安、株安=円高と単純にはなりません。例えば、景気が非常によい場合です。日本の輸出が増え、株価が上がりますが、海外投資家も日本株を買おうとします。そうしますと、日本円で投資が必要ですから、自国の通貨を売って、日本円を買います。日本円の需要が増え、円高になります。景気の過熱を防ぐため、日銀が金利を上げる方向に政策を動かすことも予想されます。これも円高要因になります。
【米国経済指標】
経済指標は、米国株価の大きな変動要因になるために前述のように日本の市場にも大きな影響を与えます。
特に注視すべきは、雇用統計、ISM製造業・非製造業景況感指数、GDP(国内総生産)、米国小売売上高、消費者物価指数(CPI)です。これらは、いずれも米国の景気の現状をストレートに現します。目が離せません。
これら重要指標のなかでも、一番、注目されるのは、毎月、第一金曜日に労働省が発表する、前月の雇用統計です。毎月のはじめに発表されるため、直近の景気をいち早く知ることができるという意味でも、市場が大きく注目しています。
雇用統計のなかで、特に注視すべきなのが、非農業部門の新規雇用者数の増減、平均時給の変化です。事前にエコノミストが予想を出しますが、その予想より上振れたか、下回ったかによって、株価が大きく変わります。
ただ、上振れたら株価が上がる、下回ったら下がる、ということに直結するわけではありません。例えば、景気が悪いときに新規雇用者数が予想よりも増えれば、景気回復の期待から株価は上がります。ただ、インフレの悪化が懸念されるような状況で新規雇用者数が増えますと、景気が益々過熱する恐れがあり、適度に冷やすために中央銀行が利上げに動き、その結果、企業の資金繰りがタイトになることにつながり、株価が下がる、ということもあります。雇用統計ばかりでなく、他の指標もその時々のマクロ経済の状況次第で株価の動き方が変わるということを忘れないでください。
【CME日経平均先物】
米国のCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で取引される日経平均先物で、日経平均に連動する金融商品と思ってください。
これも、皆さんが朝起きると、結果が出ています。そして、そのまま当日の東京市場の始値に連動します。ただ、あくまで、始値と連動するというだけで、そのまま1日の取引が終わるというわけではありません。しかし大幅な上昇や下落があった場合には、当然、それだけの理由がありますから、1日中、東京市場が影響を受け続けるということはあります。
【商品相場】
商品の先物市場の動きも注意が必要です。ただ、見方としては、世界経済全体の動向を判断する材料のひとつと捉えたほうがよいでしょう。経済を動かす原動力となる資源の価格はそれによって恩恵を受けたり、足を引っ張られたりする業界がある一方で、世界の景況感をダイレクトに反映するからです。
特に注目すべきなのは、石油、銅、金価格でしょう。石油はエネルギーの源泉です。普通、世界景気が良ければ、需要が増加しますので、価格は上がります。ただ、電力など、石油を調達してサービスを作り出すような業界にとってはマイナス要因です。景気が悪化すれば、反対に原油価格は下がりますが、電力などの業界には恩恵となります。一方、原油生産地域で紛争が起こり、それが要因で原油価格が上がるようなケースも最近、多く見受けられます。このような場合は、世界景気が悪化する要因になると捉えます。
銅は、モノ作りをする業界のコメといっていい基本素材です。銅の値動きが世界景気の現状を表すと言えます。
また、金は、永遠の価値を持つ商品と世界共通に認識されています。世界情勢が悪化しているような状況では、資産の避難先として金の需要が増加し、価格が上がります。悪化の原因は、景気だけでなく、戦争や自然災害といった多岐に渡ります。それらの悪化要因すべてに対して、金価格は上昇する要因となります。
【気配値】
気配値は、投資家が、いくらで株式を売りたいか、いくらで買いたいか、の値段のことです。皆さんが契約した証券会社から提供されるネット情報のひとつに必ずあります。実際は、希望する売値ごとに何株あるか、希望する買値ごとに何株あるか、が一目で分かるように表のかたちで表されています。これを見れば、どのくらいの価格で売れそうか、あるいは、買えそうか、がおおよそ予想できます。また、当日の株価が上がるか、下がるかも分かります。
役に立つ無料のネット情報
最後に無料で非常に役に立つネット情報をお話しします。
ひとつは、ヤフーファイナンスの「掲示板」です。主に個人投資家が銘柄ごとにつぶやきを投稿するコーナーです。個人投資家の生の声を知ることができます。投稿の内容ごとに投資に有益か、無視した方がよいか、といった取捨選択が必要ですが、投資判断の一助になるかも知れません。
もうひとつは、「株探」のニュース情報です。銘柄ごとに発表資料が新聞記事のような形態で掲載されます。情報に洩れがないこと、さらに掲載スピードの速さは驚きと言っていいと思います。
新しい情報を手早く知りたいような場合にホームページで確認するより簡単、迅速に得ることができますし、特に決算内容などは、企業の発表とほとんど同時と思えるくらいの速さで掲載されます。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。