支出は「消費・浪費・投資」の3つに分類する。インフレ時代に備える強い家計の考え方
日本国内のインフレ率(物価上昇率)は、2023年に3%を超える大幅伸長となり、2024年以降も2%台で推移するとされている。よって、収入も比例して増えなければ家計は圧迫され、貯金や金融商品の切り崩しにも至りかねない。同時に、積み立て投資を行っている人は、投資の継続が困難となるだろう。そこで、インフレに備えて家計のあり方はどうあるべきかを、家計再生コンサルタントとして活躍する、ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏に聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/藤巻祐介
長期的に続く物価上昇に備えた、強い家計をつくる
——近年、日本国内では物価上昇が顕著に見られます。その原因と国民生活の現状、今後の見通しについての考えをお聞かせください。
横山光昭:2022年頃から始まった国内の物価上昇は海外に比べれば比較的穏やかな上昇率ですが、生活の苦しさを感じている人は多いでしょう。
本来、インフレ(物価の上昇)というのは好景気を背景に起こり、やがて賃金の上昇をともなうものです。日経平均株価は2024年7月に過去最高値を更新しましたが、日本経済全体が好況を実感しているかといえば、胸を張ってそういえる状況ではありませんよね。そもそも、日経平均株価を構成するのは日本を代表する255社の企業ですし、それらはいずれも大企業です。
わたしがファイナンシャルプランナーとしてお客様からお話を伺っていても、大企業では賃金の上昇が見られますが、中小企業においては、ほとんど賃金への反映は見られないのが実情です。収入は据え置きなのに物価上昇によって支出だけ拡大しているわけですから、家計を圧迫するのは当然ですよね。ただ、いずれは中小企業の賃上げも進んでいくとわたしは期待しています。

——このインフレは、長期的に続いていくと思われますか?
横山光昭:それは難しい質問です。現在の物価上昇の主な要因は、国際紛争による世界的な原料高騰と、ドル円相場によるものです。国際紛争がいずれ解決したとしても、ドル円相場の見通しを立てるのは困難です。
コロナ禍以降、アメリカが政策金利を急激に引き上げ、一方の日本はそれ以前から「マイナス金利政策」という超低金利を続けてきたことで、金利差が拡大したことが急激な円安の原因でした。円安によって輸入品の価格が上昇し、日本国内の物価は上昇してしまったのです。しかし、2024年3月に日本もマイナス金利政策を解除し、アメリカも20204年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の利下げを公表しました。金利差が少し縮まったことで、現在(2024年9月現在)では、ドル円相場は一転して円高に振れています。
では、為替によるインフレは収まるかといえば、そう簡単なことでもありません。ここ10年くらいにおいては、日本の貿易収支は赤字であることが多く、為替相場における円安の原因となっています。特に近年では、アメリカとのデジタル関連収支における赤字が広がっているのです。パソコンはMicrosoftやApple、Web検索や広告プラットフォームはGoogle、WebサービスではAmazonやNetflixなど、こうした海外のITサービスの利用は拡大するばかりですよね。
ですから、長期的には為替相場が円安基調となる可能性は否めず、物価の上昇も長期的に続くことが考えられます。みなさんの収入も確実に上昇していく見込みがあるのならいいのですが、そこに不安があるのであれば、生活における支出を見直し、物価上昇に強い家計をつくることが欠かせないでしょう。

支出を「消費」「浪費」「投資」の3つで管理する
——支出を見直すことでつくる「強い家計」とは、つまり生活費の節約かと思います。具体策についてアドバイスをお願いします。
横山光昭:「支出を見直す」といっても、手当たり次第に生活費を節約するのではなく、自分にとっての「支出する価値」に基づいて考えていくことが、節約の継続と人生の満足度を高めるうえで大切です。その支出の価値を測るものさしとして、わたしは支出を「消費」「浪費」「投資」の3種類に分けることを提案しています。
分類方法は上記の通りです。「投資」は、必ずしも株式投資などを指すわけではありません。預貯金の他、広く将来のための支出を意味しています。ただし、それらは個人個人の主観的な分類で構いません。自分にとって「投資だ」と思えば、「投資」としてください。
例えば、子どもに必要不可欠な高校・大学の学費は「消費」ですが、それ以上の能力開発や進学塾などの教育費は「投資」と分類する人もいるでしょう。また、料理ができないときの外食は「消費」、贅沢を目的とした外食は「浪費」、「毎年、結婚記念日には妻とふたりきりでディナーをする」「外食で子どもと祖父母の交流機会をつくる」など、そこに将来を見据えた目的があったので「投資」とした方もいらっしゃいました。大切なのは、自分なりに支出に対する価値を考えることにあります。

——支出の分類には、まず支出の把握が必要ですよね。家計簿をつけて支出を分類するやり方が理想ですか?
横山光昭:節約をするなら、一時的に3ヶ月ほどでも良いので家計簿をつけた方が良いことは間違いありません。多くの人にとって、貯金ができない大きな原因は、「支出を把握できていない」からです。近年ではキャッシュレス決済が普及して管理が煩雑になり、ますます把握しづらくなったり、月の収入に対する「残金」の感覚がより薄くなり、過剰に支出してしまうケースも増えています。
まずは、簡単なメモやレシートの貼り付けでもいいので、支出を記録する習慣をつけましょう。そのうえで、1カ月の支出を「消費」「浪費」「投資」に分類してください。「自分がなににお金を使っているか」を把握することで、お金に対する意識が確実に高まります。
また、これから買い物をする際には、その支出が「消費」「浪費」「投資」のどこに分類されるのかを考えてください。自分にとってはなんとなく「必要不可欠な支出」と思っていても、改めて分類すると「浪費」でしかないかもしれません。
なお、わたしがこれまでファイナンシャルプランナーとして出会ったお客様のうち、しっかりと貯蓄ができて資産形成にも成功している人たちには、共通する配分があります。それは「消費70%、浪費5%、投資25%」という配分です。もし、現時点で貯金がほとんどできていないのであれば、「投資」は「貯金(金融投資含む)15%、その他の投資(主に自己投資)10%」が望ましいでしょう。上記の割合になることを目標に、毎月の支出の見直しを行ってみてください。

「浪費」を削るばかりが節約ではない
——支出のバランスを「消費70%、浪費5%、投資25%」にできたとして、それ以上の節約は「浪費」をなくすことを目的とすればいいですか?
横山光昭:わたしは、「浪費をなくすべきだ」とは考えません。浪費は必ずしも悪いものではなく、そこに「その人らしさ」があるように思うからです。くだらないお金の使い方をすることがあっても、あとになればいい笑い話になりますよね。それに、浪費を完全に削ってしまっては、人生の喜びが失われてしまうと思いませんか?
ですから、浪費は尊重しつつも、上限額のルールを設けてほしいのです。「浪費5%」というのは、1カ月の手取り収入が30万円の人なら、月に1万5,000円のなかで浪費のやりくりをするということです。決して潤沢な予算ではないですし、「浪費5%」も簡単な目標ではないでしょう。
ですから、浪費を5%に抑えたのなら、次は「消費」に目を向けてほしいと思います。例えば、食費に関して切り詰める余地はないでしょうか? いつもなんとなく買うけれど、最終的には腐らせてしまう食材はありませんか? ペットボトル飲料は本当に必要でしょうか? 購入先にもっと安いスーパーはありませんか? 「消費」は必要不可欠な支出であるからこそ、予算を下げて常態化できれば家計を強くすることができます。

——「投資」の比率についてはいかがでしょうか。特に株式投資をはじめとする金融商品の比率を増やすことについてお聞かせください。
横山光昭:金融商品への投資は、可能であれば増やすことが望ましいですね。そこで、その原資の捻出を節約とセットで考えるといいでしょう。例えば「消費」における1日100円程度の小さな節約でも、それを株式投資などに充てていくことが節約のモチベーションになります。ただし、金融商品への投資は「失うリスク」もありますから、くれぐれも「生活防衛資金」の貯蓄を優先事項としてください。
「生活防衛資金」とは、病気や怪我による医療費や収入減、仕事の解雇など、トラブルに備えるお金です。理想は月収の1年分、少なくとも半年分は現金で確保しておきましょう。そのお金さえ確保しておけば、心の安心につながります。「生活防衛資金」をしっかりと確保したうえで、金融商品の比率を増やすこともできれば、安定した資産形成につながっていくと思います。

横山 光昭
株式会社マイエフピー代表、ファイナンシャルプランナー。お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生を目指し、個別の相談・指導に高い評価を得ている。これまでの家計再生件数は、26,000件を突破。書籍・雑誌など各種メディアへの執筆・講演も多数ある。著書は、『はじめての人のための3000円投資生活 新NISA対応版』(アスコム)、『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、計184冊、累計400万部を突破。