踏み出せないヒトのための投資術 第13回 ダメな会社Part2
アナリスト説明会に役員全員が参加
前回までに個人投資家向けの投資ノウハウに関して、ごく簡単ではありますが、説明してきました。一応、一区切り付いたという感じです。
そこで、今回は、小休止ということで、夏休み企画の「こんな会社には投資しないほうがいい」の第2弾をお送りします。
残念ながら、個人投資家の方々は参加することができませんが、上場会社の多くは半期、あるいは四半期ごとの決算発表後に証券アナリスト向けの決算説明会を開いています。その際のエピソードを紹介します。
ある大手企業の決算説明会では、会場に20人以上がひな壇に座っていたケースがありました。一列では納まりませんので、3列くらいに並んでいます。通常は、社長、CFO(最高財務責任者)のほか、財務関連の社員数人というのが一般的ですが、その企業では、それらの人々に加えて、取締役以上が全員、出席していたのです。
説明会の時間は1時間程度が予定されていましたが、社長が原稿に目を落としながら、決算内容を説明するのに約40分近くかかりましたので、質問時間は20分程度しか残っていません。結局、質問に回答したのは、ほとんどがCFOと社長で、他の役員はまったく発言の機会がありませんでした。
それだけならまだ「アナリストからのあらゆる質問に回答できるように準備した」と解釈できなくもないのですが、社長の淡々とした原稿の音読は、会場全体の眠気を誘い、壇上の役員のなかには、数人が船をこいでしまっていました。

これでは、国会審議とさほど変わりがありません。アナリストのほとんどが、会社側にやり方を変えるよう提言していましたが、会社側は一向にこの形式を変えることはありませんでした。
にわかに信じられない個人投資家の方もいらっしゃると思いますが、こんな大手上場企業も存在していたのです。
これもアナリストでなければ評価が無理な点はありますが、個別取材の際も、投資価値のある企業かどうかをインタビューの内容以外に判断できる方法があります。
取材に何人出席するか、ということです。
これは中小型株の場合にあてはまることなのですが、社長ひとりで対応する企業は、投資対象としてまずは、大きなプラスの評価要素があると考えてよいと思います。こういったケースは、ほとんどがオーナー企業ですが、インタビューに入っても、非常に説得力のある受け答えをしていただけます。ひとりで取材に対応するということは、会社の経営や、今後の成長戦略に十分な自信があるためなのだと私は推察しています。
社長ひとりで対応すると、取材可能な件数も増えます。社長のスケジュールだけを調整すれば対応できるからです。
以前のコラムでも触れましたが、地方にある企業で、社長が東京に出張された際に数日の滞在期間の丸一日を個別取材に充てているオーナーがいました。こういったIRの努力を積み重ねることで、より多くのアナリストが注目し、その結果、流動性も上がり、株価上昇につながることは言うまでもありません。
ただ、経営企画のIR担当者なども加えて、複数で対応する場合はすべてダメということでは決してありません。念のため、申し添えておきます。
IRに騙されない
IRは、会社の実態を正確に投資家に伝えなければなりません。脚色や、希望的な観測は排除しませんと、後々、投資家からの信頼を失うことになります。一度失った信頼は、回復が極めて難しいです。ただ、IRのなかには、ウソではないが、投資を判断するのに値しない情報もあることに注意が必要です。
たとえば、DⅩ(デジタルトランスフォーメーション)。様々な企業が経営効率化のためにDⅩへの注力を訴えています。
しかし、実際の中身は抽象的で、効率化にはほど遠く、投資家の心に響かない内容も少なくありません。。DⅩを前面に掲げながら、どのような効果がもたらされると会社が考えているのか、決算説明会資料を読んだり、会社に問い合わせたりするのも効果的です。
いわゆる流行り言葉を並べて投資家の関心を買うような“ウソは言っていないが、中身が伴っていない”IRには注意が必要です。
DⅩの他にも、特に最近流行りのキーワードを経営戦略に掲げているような企業の場合は、中身が伴っているかを十分に確認する必要があります。
また、『成長戦略』にも注意が必要です。企業のなかには、個人投資家でも思いつけるレベルの“戦略”を平気で掲げている企業があります。このような“成長戦略”は、基本となるマーケティングを行わないで机上で考えた内容になっている場合が少なくありません。
一見、素人でも思いつくような戦略の場合、「なるほど」と投資家が納得できるような中身になっているかどうかをしっかりと見極めてください。
次回からは、信用取引について説明したいと思います。

萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。