踏み出せないヒトのための投資術 第11回 買いのタイミング
PERとPBR、信用倍率で決める
口座開設と口座への入金も終わり、いよいよいつでも現物株を買えるようになりました。今回は、買いのタイミングについてお話しします。
実際の投資では、買いのタイミングよりも売りのタイミングの見極めのほうがはるかに難しいと言われています。売りは利益や損失を確定する作業ですので、利益が出ていても損失が発生していても、なかなか判断するのは難しいものだからです。ただ、ここで、以前も申し上げました「頭と尻尾はくれてやれ」を忘れないでください。要するにいつでも、欲を出しすぎず、冷静な頭で判断していただきたいということです。なお、売りのタイミングは次回のコラムでお話しします。
買いのタイミングは、主にPERとPBR、信用倍率で判断しましょう。
ご自身の判断で発掘した銘柄に関しては、すぐに購入してもよいでしょう。判断基準のひとつに低いPER、PBRというフィルターがすでにかかっているからです、ただ、その前にひとつだけ確認が必要です。信用取引における信用倍率の確認です。そもそも信用取引とは、現金や株式、投資信託を担保として証券会社に預けることにより、その担保合計金額の約3倍の購入資金や株式を借りて取引ができる制度で、現物取引と違い、下がると予想する場合は「売り」からはじめることもできるので、株価の下落局面でも利益を狙うことができる取引です。この信用取引(制度信用取引)には、6ヶ月という期日があるため、6ヶ月以内に反対売買により決済しなければならないというルールがあります。信用倍率とは、この信用取引における買いと売りの割合のことです。倍率が高い場合は、売りよりも買いが多い、低い場合は、買いよりも売りが多いとなります。信用倍率が二ケタになっているような場合は、倍率が下がるまで、しばらく様子をみたほうが無難でしょう。信用買いが多いということは、最長でも半年後には株式を売却する必要があります。つまり、短期的に売りが出てくる=株価が下がりやすくなる、というサインになるからです。
反対に信用倍率が低い場合は、半年以内に買戻しが必要ですので、株価が上がる要因になります。特に信用倍率が1倍を下回り、逆日歩が付いている場合は、早急に買戻しが入る可能性が高いので、買い時になります。
PER、PBRの数値で迷う場合は、ひとつの基準として、PERが1ケタ、PBRが1.5倍前後であれば安心して購入してよいと思います。ただ、候補銘柄を取り巻く経済環境など、今後の業績に期待できる度合いに応じて、これらの数値も柔軟に見ていく必要はあります。
流動性の高い大型株は、チャートを見て判断
以上のことは、中小型株、大型株を問わず当てはまります。ただ、大型株の場合、流動性が高い銘柄では、これらの基準だけで判断するのはなかなか難しいケースもあります。そのような場合は、チャートを見ましょう。過去半年程度のチャートを見てください。半年間にわたって右肩上がりの場合は、そろそろ調整期間とみたほうが良いケースが多いです。また、投資候補の銘柄を取り巻く経済環境などもしっかりと見据えて近い将来の収益力を検討することも重ねて必要になります。
反対に底値からの反転はどう見極めたらよいかを参考までにお話ししておきます。判断する方法してよく知られているのでは『二番底を拾う』、などネットや初心者向けの投資指南書などにいろいろと書いてありますが、実際のところは分からない、というのが本当のところです。「頭と尻尾はくれてやれ」を思い出してください。株価が下がり続けている銘柄の場合は、週単位、月単位のチャートを見て、「上がり始めたな」、と確認出来たら買うというのが一番、無難な方法です。
単発のIRに注意
個別の銘柄で株価が大きく動くケースには、IRの効果があります。良いニュースが企業から出されますと買いが集まるのが一般的です。しかし、良いニュースならば、何でも買いかというとそうではありません。注意が必要です。
単発で非常に良いニュースが出ると、ニュースが出た日や、その翌日は急激に株価が上がります。しかし、それも一時的な場合が少なくありません。発表から3日目にはドンと下がってまたもとの株価に逆戻りということがよくあります。
こういったケースで代表的なのは、好決算に伴う増配、自社株買い、新製品、新事業発表などです。これらは、発表された時には注目を集めますが、すぐに熱気が覚めてしまうことが多く見られます。また、こうした材料は、デイトレーダーなどにとっては、利益を上げるチャンスにもなりますから、現物株を長期に保有しようとしている投資家は追いかけるように買ってはいけません。
ただし、新製品、新事業に関しては、ご自身が「これはすごい!」と思った場合には買い材料としてもよいと思います。ただし、その評価は、あくまでも自己責任であることを忘れないでください。
反対に、IRによって株価が着実に上がるケースもあります。単発ではなく、業績や株主に中長期にわたって利益になるようなニュースです。例えば、高い目標を掲げた中期経営計画、一時の要因ではない業績の上方修正、連続増配の表明などです。
増配や自社株買いなどの単発のIRも、繰り返し発表している場合には、買い対象として考えてもよいでしょう。このようなIRは、業績が右肩上がりというファンダメンタルズでの裏付けがある場合に有効になります。
最後に市場の調整について触れておきます。有望な株でも市場の調整局面には勝つのは困難です。調整局面とは、市場全体に活気があって、株式指標も順調に上昇を続けるとある日、急に活気がなくなり、下落を始める局面です。これは、世界経済の状況を反映するのが大きな要因ではありますが、いくつかの事象が集まって投資家の心理が悪化するのが引き金になります。リーマンショックのような明らかに世界経済が危機的な状況に陥る場合以外にも訪れます。このような状況下ではどんなIRやニュースが出ても株価が継続して上昇し続けることは難しいといえます。そのような場合には、売りも買いもしないで、一旦、様子見をするのが一番の対応策でしょう。
今回は、少々、短いですが、売買のタイミングを上手に見極めるのは、プロでも非常に難しいのです。絶対の方程式のようなものはありません。今回お話しした内容を踏まえて、経験を積んでいかれるなかで“勘”を養っていっていただければと思います。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。