資産形成は、人生の「目的」ではなく「手段」である。FIREしても幸福を見失わない女性投資家の生き方
株式投資によって資産形成する目的として、「FIRE(Financial Independence, Retire Earlyの頭文字を取った言葉で、経済的な自立を実現させ仕事を早期にリタイアすること)」を目指す人は多く、欧米だけでなく日本の個人投資家のあいだでもここ数年ブームになっている。節約・投資系YouTuberとして活躍するミニマリストゆみにゃん氏も、そんなFIREを実現したひとりだ。現在、資産は約8,000万円に達し、現状は仕事をセーブしたFIRE生活を実践しているが、「これ以上の資産形成は目指しておらず、その必要もない」と同氏は語る。FIREを目指す個人投資家のモデルケースとして、これまでのステップアップのあり方と、FIRE後における心境の変化について聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
不安からの脱却が、資産形成のスタートだった
——ゆみにゃんさんは、20代の頃はかなりの浪費家だったそうですが、一念発起して節約による貯蓄をはじめ、現在はFIREを実現されていますよね。最初に節約を始めた動機についてお聞かせください。
ミニマリストゆみにゃん:わたしはいま30代後半なのですが、20代後半のわたしの年収は420万円ほどでした。しかし、当時は結婚していて共働きでしたから、世帯年収では1,000万円を超えるなど生活には余裕がありましたね。その経済的な安心感があったから、仕事は毎日深夜残業があたりまえでストレスフルでも、食事や買い物で浪費をしてストレスを発散することができたのです。
しかし、20代後半で夫と別居することになり、のちに離婚……。自分の収入だけで生活することになり生活費が不足し、強い不安に襲われるようになりました。そのような経緯があり、「将来の不安をなくしたい」という思いから節約を意識するようになりました。
——ただ、一人暮らしで年収420万円は余裕こそないものの、そこまで苦しいわけではありませんよね?
ミニマリストゆみにゃん:いまならそう思えますが、当時はまったく心に余裕がありませんでした。というのも、有名私立の理系卒だったため、同級生は大手外資系コンサルや国内のメガベンチャーに勤め、30歳手前で年収が600〜1,000万円の人が多く、自分は会社での責任の割に給与が少ないと不満を募らせていました。さらに、これまでに貯めたお金も全て、二回のハネムーンや海外と国内での二回の挙式、マンションの購入、家具家電購入で盛大に使い果たして貯金ゼロでした。そんな中、鉄筋コンクリートでペット可の駅近物件に住むなど、結婚時代の生活習慣を変えずにお金を使っていると、全く貯金はできませんでした。
その状況を打破したいと思い、2016年から家計簿をつけ始めたのが、現在の資産形成につながる最初の一歩でした。体にはいいことではありませんが……生活費を極端に切り詰めて、自宅では業務スーパーで買ったパンと水道水で過ごしただけでなく、200着以上もあった洋服や不用品をフリマアプリでどんどん売り払っていったのです。
家計簿をつけ始めて最初のうちは、月に60万円や40万円使っている月もあり、自分では節約していると思っていたのでびっくりしました。これまでは会社が労働搾取をしていると思い込んで恨んでいましたが、単純に使い過ぎだと気づいたのです。なので、固定費を一つずつ改善することで、初年度は年間100万円、次年度は年間200万円貯蓄できるように。そして、貯蓄額の増加に伴い、メンタルも安定し、自分に自信が持てるようになりました。
——「お金があることの安心」と「お金を貯められる自分への信頼」が、浪費に代わるストレスへの防御になった?
ミニマリストゆみにゃん:そう思います。お金がない時は精神的な余裕もなく、会社を恨んでばかりで、転職という選択肢すら頭に浮かんできませんでした。でも、お金の面で心に余裕ができたことで、2018年には転職もできました。すると、ガラッと環境が変わったのです。
年収アップだけでなく、新しい職場では残業がほとんどない生産性の高い業務システムが機能していました。そうした環境では、働く人たちの価値観がとても健康的なのです。ランニングを趣味にしていたり、会社のサラダランチが大人気だったり、人に対しても優しく協力的だったりと、それぞれの社員が未来思考で自分も周りの人も大切にしていると感じました。そんなことは、残業や派閥争いが常習化していた以前の職場にはない風景だったのです。
わたし自身も、ストレスがなくなったことで浪費の必要がなくなり、節約もスムーズにできるようになって、「将来の不安」に苛まれることはなくなりました。
そうした経験から、いまはYouTubeでも「節約を始めるなら、まず仕事や生活のストレスを改善しよう」と伝えています。ストレスがあるから浪費で解消しようとしてしまいますし、自分の人生を建設的に見つめ直す余裕を持てないからです。
不安が消えたら「自分らしく生きたい」と思えるようになった
——ゆみにゃんさんは転職して収入も増え、節約もできるようになりました。「将来への不安をなくしたい」という目標が達成されていくなか、資産形成のモチベーションはどのように変わっていきましたか?
ミニマリストゆみにゃん:転職して収入が増えたからといって浪費に走ることはありませんでしたが、一方で、それまでの過度な節約生活を続けるためのモチベーションを失ったのも事実です。その当時で貯金は800万円を超え、働かなくても1年以上暮らせる生活防衛資金があるのに、「この生活を、いつまで続けるのだろう?」と自分でも思っていましたからね。
そうしたとき、「FIRE」という概念を知ったのです。海外の翻訳された記事を読んだのですが、GAFAのような世界的な大企業で働くエリート会社員たちが、高額の収入を得ながら駐車場にキャンピングカーを置いて慎ましく暮らし、30代で1億円を貯めて仕事をやめるというストーリーでした。彼らは、その資産をS&P500の長期インデックス投資にまわし、慎ましいライフスタイルを維持する代わりに、自由な時間を手にしたのです。
「お金やキャリアを優先するのではなく、自分の幸せを尊重する生き方もあるのか!」と衝撃を受け、そこから投資の勉強を始め、「FIREの実現」を新たな目標としました。1998年にトリニティ大学の教授たちが考案した資産運用の「4%ルール」をベースに考えると、年間支出の25倍の資産を持てば、年利4%の投資益を生活費にすることで30年以上、労働収入がなくても暮らしていけるというのです。
当時のわたしは月20万円の支出で暮らしていたので、年間240万円の25倍は6,000万円となります。正直なところ、「これはかなり難しいな」と出だしから躊躇したのですが、年利4%の投資益はあくまで保守的な数字に過ぎません。年利5%で計算すれば、20倍の4,800万円でFIREは可能なので、その数字を目標としてFIREを目指すことにしました。
——具体的に、どのようなアクションを起こされたのですか?
ミニマリストゆみにゃん:インデックス投資を始めたことと、ライフスタイルを「節約」から「ミニマリスト」に切り替えたことです。当時のわたしにはすでに目の前の生活や将来への不安はなく、転職先の人たちから学んだように、自分の人生を大切にしたいと考えていました。そこで、「自分にとって不要な支出は徹底して控える」一方、「自分の人生を楽しむための支出は惜しみなく使う」というミニマリストの生き方にシフトし、2019年から物販や不動産投資などの副業にチャレンジし、2020年からはさらにYouTuber「ミニマリストゆみにゃん」もスタートしました。
——YouTuberとしては、当初から年間100本近いペースで配信するなど精力的に活動していた印象です。
ミニマリストゆみにゃん:ミニマリストとしての生き方のコツだけでなく、投資ノウハウまで、どんどんコンテンツを配信していきました。YouTubeの登録者数は順調に増えていき、4,000万円が貯まった段階で会社を退職し、サイドFIREに切り替えたというわけです。その時点では、目標としていた4,800万円まで800万円不足していたのですが、当時は会社の仲間には恵まれていたものの、クライアント先の人と折り合いがつかず、ストレスが大きくなっていたことと、親の会社の手伝いも増えていたため、予定よりも早めに退職することを決意しました。
ずっと行きたかった海外留学をし、世界一周クルーズにも乗船しました。さらに、留学と同時進行で書籍も執筆し、おかげさまで、現在までに共同制作を含めると3冊の書籍を刊行し、YouTuberとしての事業をスケールアップできたと思います。
「不安」だったから節約を始めた第一段階を経て、「自分らしく生きたい」と思ってFIREを目指した第2段階もクリアして、いまは「人生らしく生きること」に全力投球している段階です。
資産を積みあげることが人生の目的ではない
——米国株を中心にコロナ禍以降の相場上昇もあり、ゆみにゃんさんの資産は現在8,000万円ほどとのことです。今後の資産形成については、どのようなプランを考えていますか?
ミニマリストゆみにゃん:結論からいえば、いま以上に資産を増やすことにはこだわっていません。「資産1億円」を目標にする人も多いのですが、独身の自分には十分な金額です。4000万円で退職した時はサイドFIREでしたので、会社を辞めても働いていました。しかし、最初のFIRE目標金額であった6,000万円を過ぎたあたりからは、ほぼ働かず旅行などを謳歌しています。それでも株価上昇と過去の動画の再生やビジネスの自動化で、資産は少しずつ増えています。
ミニマリストとして「自分にとって価値ある支出はなにか」を定めているので、旅行や愛犬の世話、そして友人たちとの交流などに十分なお金があれば、それ以上の浪費をする必要がありません。「自分のやりたいこと」を実現できているのでストレスもないし、ストレスがないから必要以上のものを買って心を乱すようなこともありません。つまり、「これ以上、資産を積みあげる必要がない」わけです。
——「資産が減るかもしれない」という不安を感じることは?
ミニマリストゆみにゃん:わたしが主に投資している米国株式のインデックス投資の魅力は、「世界が成長し続ける」ことを前提として、資産が長期的に増えていくことにあります。なので今はほとんど働いていませんが、株式の上昇により資産は増え続けています。
もちろん、今後大暴落があって資産が減るかもしれません。しかし、私はこれまで副業として、物販やYouTube、アフィリエイト、ライティング、民泊経営など幅広い経験をしてきました。なので、暴落が来れば自分の事業に励めば良いのです。この点が副業でFIREした人の強みですね。
それよりも、不必要な贅沢を求めたり、身に余る資産を追い求めたりすることを避けるべきだと考えています。そんなことをして、メンタルのバランスを崩しても意味がないではありませんか。よくいわれることですが、資産形成は人生の「目的」ではなく、あくまで人生を豊かにするための「手段」です。わたしは旅行が好きなので、今年はスペインの「ラ・トマティーナ(トマトを投げ合う奇祭)」やドイツの「オクトーバーフェスト」などの海外のお祭りに行く予定で、今後は南極大陸にも行ってみたい。いましかできないことを先延ばしにせずどんどん実行して、それこそ不安なんて感じる間もない人生を送りたいと思っているのです。
——FIREを実現した人のなかには、時間を持て余してしまったり、社会的な価値を見失ってしまったりする人もいると聞きます。こうした人にアドバイスはありますか?
ミニマリストゆみにゃん:FIREによって逆にストレスを感じてしまうケースですよね。わたしの考えに照らし合わせれば、ここで大事なのは、ストレスなく「自分のやりたいこと」を追求していく姿勢にあると思うのです。ですから、FIREしたからといって仕事をしてはいけないわけではありません。仕事によって社会的価値を示すことが自分の願望だと気づいたのなら、サイドFIREに切り替えるなど、フレキシブルに対応すればいいのではないでしょうか。
いまわたしは、FIREした個人資産家のコミュニティにも参加しているのですが、そこはまさに質問の答えになるヒントを得られる環境です。そのコミュニティは、およそ1億円から数億円の資産家の集まりなのですが、資産を増やすことよりも、「FIREで得た時間をどのように有効活用するか」をよく話し合っています。
みんなで新しい趣味を探して実践してみたり、海外旅行の計画を立ててみたりするなど、「人生を楽しみ方」を追求する集まりなのです。一方で、「いかに資産を増やすか」を人生の目的として日々語り合っている起業家のコミュニティもあると聞きます。人それぞれ生き方は異なるわけですから、固定観念にとらわれず、自分の価値観にあった人間関係を構築し、新しい生き方のヒントを得ていくのもいいと思います。
ミニマリストゆみにゃん
ファイナンシャルプランナー・YouTuber。北海道生まれ、東京都・神奈川県育ち。FP技能検定3級所持。大学を卒業後、大手ゲームメーカーに入社。7年半付き合った彼氏と結婚するも、マイホーム購入直後に離婚して貯金はゼロに転落。さらに仮想通貨投資詐欺、不動産詐欺、恋人に騙されるなど資産を失い続ける。そこから転職し、節約とミニマリズムに目覚め、空いた時間でYouTubeにも挑戦。ミニマルライフを活かした節約術や持ち前の論理的思考をもとにお金の増やし方を発信し、チャンネル登録者は14万人を超えている(2024年8月現在)。著書に『ミニマリストゆみにゃんのお金のつくりかた』(すばる舎)、『オートで月5万円貯まる魔法の節約』(KADOKAWA)がある。