踏み出せないヒトのための投資術 第十回 実際の投資を始めよう~証券口座開設から株式購入まで~
証券会社の種類と投資金額の目安
銘柄選定が終わったら、実際に株式投資を始めましょう。今回は、証券口座開設から実際の株式購入までを説明します。
通常、上場株式は、証券取引所で売買されるため、必ず証券会社に口座を開設しなければなりません。
証券口座には、損益に伴う税金の支払い手続き等の有無により、特定口座(源泉徴収あり)、特定口座(源泉徴収なし)、一般口座、NISA口座の4種類があります。特に、投資初心者の方には、損益に伴う税金の支払いを証券会社が代行してくれる特定口座(源泉徴収あり)の開設がオススメです。詳細は、下記の表をご参照ください。
ただ、どの証券会社に口座開設すべきかわからない方もいると思いますので、次に証券会社の種類について説明します。
証券会社は大別すると、対面型(店舗型)証券会社とネット専業証券会社(ネット証券)があります。
対面型(店舗型)証券会社は、実店舗があり、自分専任の担当者が付くため相談しながら投資ができるのが特長です。
一方、ネット証券は、店舗が無いため、すべての手続きをインターネット上で自分自身が行う必要がありますが、その分スピーディーかつ取引手数料も安いのが特長です。
対面型(店舗型)証券会社は、専任担当者が直接、いろいろな投資の悩みを訊いてくれたり、投資に関するアドバイスを受けられるメリットがありますが、取引手数料が安く、パソコンのクリックひとつで売買できるネット証券のほうが、実際の投資ではメリットが大きいと思われます。
ちなみに、インターネットがない時代には、東京・兜町に朝から個人投資家が証券会社の店舗に出向き、リアルタイムに値動きが表示される株価ボードの前に陣取って15時の大引けまで売買をしていました。うまくいった日は近くのうなぎ屋で、そうでない日は焼き鳥屋でお酒を飲んで引き上げるという光景が毎日のように見られました。しかし、今、そのように個人投資家が売買できるようなスペースを設けている店舗はほとんどありません。
ネット証券での口座開設で気をつけなければならないのは、地方の証券取引所に単独で上場している銘柄が一部のネット証券では取引できないことがある、ということです。東京証券取引所の上場銘柄はどの証券会社でも売買できますが、札幌、名古屋、福岡の取引所とシステムを接続していないネット証券会社があります。分析の結果、地方の取引所で単独上場している銘柄に投資したい場合には、事前に取引できるか、調べましょう。
また、私設取引所を運営しているネット証券もあります。私設取引所とは、証券会社が独自に運営している取引所のことです。証券会社が私設取引システム(PTS)を開設して、取引所を通さずに売買ができます。SBI証券や楽天証券が導入しています。
PTSは、取引所の開いている時間以外の時間帯でも取引できるのが特徴です。
ただ、PTSで株式売買をするには、PTS専用口座を開設する必要があり、扱っているネット証券も限られています。株式は相対取引(売値と買値が一致したときに売買が成立する取引形態)ですので、PTSの株価と取引市場の株価が違うことが起こります。PTSには取引所の価格に準じた値幅制限があるうえに参加する投資家が少ないため、いつでも、どこでも、売買が成立するというわけではありません。
口座を開設しましたら、そこに入金しますが、いくらくらいが適当かについて説明します。
すでに別の回でも説明していますが、一般的には、投資初心者が用意する金額は50万円程度と言われています。これは、東京証券取引所が1単元(100株)の価格を50万円未満にするように企業に要請していることと、50万円未満で買える銘柄がすべての上場企業の93.3%(2024年3月末時点)を占めているのが大きな理由です。東京証券取引所がこのような要請をするのは、個人も幅広く投資できるようにするためです。
とはいえ、あくまでもこれは一般的なお話です。これも以前の回で触れていますが、余裕資金、極端に申しますと、ゼロになっても生活に支障のないレベルの金額を投資に回すのが原則と言えるでしょう。
口座に入金しましたら、いよいよ売買スタートです。買う方法には、2通りあります。ひとつは指値買い、もうひとつは成り行き買いです。指値買いは買う値段を決めて注文を出す取引で、成り行き買いは値段を示さずにとにかく「今買える値段で買います」という取引です。市場では、成り行き注文による取引が優先されます。
どちらがよいかは、なんとも言えません。「とにかく買いたい」という場合は、成り行き注文をしますが、それ以外でしたら、株価のリアルタイムの動きを見ながら、より安く買うように指値で注文することもあってよいと思います。
複数銘柄に投資が基本
株式投資では、複数の銘柄を買うのが原則です。「この銘柄しかない」と1銘柄勝負という考え方もありますが、どんな銘柄も株価が常に右肩上がりというわけではありません。複数の銘柄を買っておけば、片方の株価が下がってももう片方が上がれば、損失は少なくて済みます。これがリスク分散です。この考え方に基づいて2~3銘柄に投資するのがよいでしょう。
候補にした銘柄のうち、どれを選ぶかは、ご自身が有望と思われたものを優先するのは当然ですが、迷う場合は、リスク分散の考え方をもとに、ある条件の下で逆の動きをする銘柄を選ぶのが基本です。
例えば、海外での売上の高い銘柄を第一候補とした場合は、国際情勢や為替のリスクが株価に影響する可能性があります。ですから、2銘柄目は国内での事業が中心の銘柄を選ぶといった考え方です。
株式投資はあくまで株価の変動によって儲けるのが原則ですが、配当に目を付けて投資するということもあります。配当利回り(購入価格に対する配当金の割合)の高い銘柄を買ってみるという考え方です。これは、預貯金金利の高いところにおカネを預けるという発想に近いといえますので、対象銘柄としては、業績が安定しているということが重要になります。
また、50万円を用意したからといって、是が非でも全額を投資する必要はありません。1単元20数万円の株式を1単元づつ購入した場合、数万円が余りますが、無理をして残ったおカネで買える銘柄を購入する必要はありません。むしろ、最初は、少し弱気なくらいがよいと思います。
上がったら買い、下がったら売りは、絶対にしない
最後に売り買いのタイミングについて少し触れておこうと思います。
実を申しますと、安値で買って、高値で売る、という当たり前のように思われることを確実に実践するのは、プロの投資家でも至難の業です。さらに、最高値・最安値を予想することはほぼ不可能といっていいでしょう。それくらい、相場を“読む”のは難しいものです。
ただ、これからお話する2点だけは頭の中に入れておいてください。ひとつは、すでに一度触れていると思いますが「頭と尻尾はくれてやれ」、もうひとつは、「単純に、上がったら買い、下がったら売りは絶対にしない」ということです。
「頭と尻尾・・・」は、まさに最高値と最安値を狙ってはいけないということです。
「上がったら買い、下がったら売り・・・」を単純に行ってしまうことは、初心者がよくやってしまう失敗ですので、くれぐれも注意が必要です。この夏に起こった株価の急激な変動がよい例です。8月5日に日経平均株価が4,451円も下がったと思ったら、翌日は3,217円も上がり、その後も価格の変動幅が激しくなっています。
これは、経済のファンダメンタルズが悪化したのではなく、投資家心理の変化が大きな理由です。しかし、この変動に対して、個人投資家が狼狽して売りを出してしまったケースは少なくないようです。
投資する際の心構えとして、リーマンショックのような世界経済のファンダメンタルズに大きな問題が起こったような状況なのかどうかをしっかりと見極めて、冷静な頭でどっしりと構えることを決して忘れてはいけません。
ただ、売り買いのタイミングとしましては、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産版率)を見て判断することはひとつの参考になります。足元のPERとPBRが他の銘柄に比べて相対的に低い場合は買い、高い場合は売りと判断するとよいかもしれません。
次回は、保有期間を中心に売り買いのタイミングについて、続けてもう少し、触れてみたいと思います。
萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。