堅実な投資マインドにも通じる、欲望に振り回されない「ミニマリスト」という生き方
「新NISA」の開始にともない、積み立て投資を中心に株式投資をはじめる人は急増しているが、肝心の積み立て額を確保することができず、投資を継続できないケースは珍しくない。事実、投資家にとって投資原資の確保は大きな課題であるだろう。そこで、効果的な資産形成のため、節約・倹約をモットーとする人の他、「ミニマリスト」を標榜して実践する人の情報を見聞きすることも多い。この、ミニマリストというライフスタイルとメリットについて、節約・投資系のYouTuberとして活躍し、ミニマリストとしての思考も著書やSNSで伝えてきた、ミニマリストゆみにゃん氏に聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
「自分にとって本当に必要なものを大切にする」ミニマリストの考え方
——「ミニマリスト」というのは、どのようなライフスタイルを指すのでしょうか。いわゆる「節約家」とはまた違うのだと思いますが、ゆみにゃんさんにとってのミニマリストの定義を教えてください。
ミニマリストゆみにゃん:一般的には「ものを持たない人」というイメージが浮かぶと思いますが、「自分にとって本当に必要なものだけを大切にして、それ以外は手放す人」という表現が的確かと思います。
例えばわたしの場合、日常生活において贅沢する気はまったくないので、栄養バランスこそ考慮しますが、ディスカウントスーパーで食材を買って鍋をつくって食べることが多いですし、女性にしては持っている洋服も少なく、20着程度でうまく着回しています。でも、愛犬のことは大事にしたいので、ペット用品やケアには惜しみなくお金を使いますし、旅行が好きなので旅先ではお金を使いますね。
ですから、自分の人生の目的以外の支出に対しては節約的であるともいえますが、決して節約自体を目的にはしていません。
——YouTubeなどを拝見すると、ゆみにゃんさんは、もともとかなりの浪費家だったそうですね。
ミニマリストゆみにゃん:以前は派手にお金を使っていたので、給料が入るとあっという間に金欠になって困っていました……(苦笑)。ブランド品を買うことは日常茶飯事ですし、パーティーや結婚式といった機会があれば、同年代の女性とファッションを張り合っていましたね。それこそ、高価な洋服を100着以上も持っているような、いわゆるマキシマリスト(たくさんのお気に入りのアイテムに囲まれながら暮らす人)だったのです。部屋のインテリアにこだわり、身の回りを価値で埋め尽くそうとするだけでなく、誰かとランチに行っても見栄を張ってメニューで一番高いものを選ぶなど、本当に無駄なことをしていたと振り返ることができます。
あたりまえのことですが、全方位的に価値で満たそうとしたら、お金はいくらあっても足りません。すると、思うように心を満たせないことで、結局はストレスや不安を生んでいたのです。さすがにその状況に嫌気が差し、「どうしたら、お金の不安から抜け出せるか」と自分に向き合い、そこで出会ったのがミニマリストという生き方だったというわけです。
そもそも、いくらブランド品を買ったとしても、そのブランドによほど強い愛着がない限り、張り合う相手や、褒めてくれる人がいてはじめて満足感を得られるものに過ぎません。いわば、不毛な消費ですよね。他者評価に関係なく自分自身だけで満足できるような、「本当にこだわりたいこと」だけに支出を絞ることで、無理することなく、心が満たされるようになりました。
——ミニマリストとしてのノウハウや考え方を、書籍やYouTubeなどでも積極的に発信され、読者や視聴者から大きな反響を得ています。そうした生き方、消費のあり方は、これからもっと共感が広がっていくと思われますか?
ミニマリストゆみにゃん:そう思いますね。ここ数年で、すでにミニマリストに対する好意的な見方が広がっているのを実感しています。かつて、Appleの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏が毎日決まってISSEY MIYAKEのタートルネックとLEVIS 501のジーンズを身に着けていたことは有名な話ですし、Metaの最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏もラフなTシャツを好んで着ています。世界的に著名なIT長者から、ミニマリスト的な思考が広がっていきましたよね。
わたし自身も、かつてはゲーム領域のIT業界に勤めていたのですが、収入的にはそれなりにリッチであっても、それをギラギラと飾って表現する人は社内に少なかった印象です。最先端のガジェットはさりげなく使いこなしながらも、ミニマムなスタイルでいることがスマートであるという風潮があったのです。単なる物質的な価値ではなく、情報や知的資産に価値を置くIT業界に、ミニマリストの考え方がフィットしたのではないでしょうか。
わたしは昨年、世界一周旅行の客船内で講演をする機会を得たのですが、そこでミニマリスト思考を伝えたところ、外国人の方々からも反響が大きく、「わたしの国でもミニマリストはムーブメントになっているよ」とたくさん声をかけてもらいました。自分の幸せを「もの」に委ねない生き方は、世界的に広がっているようです。
余計なものを減らせば、ストレスも管理コストも削減できる
——実際にミニマリストになって、いろいろな価値観が変わってきたということですが、ミニマリストになることのメリットがあれば教えてください。
ミニマリストゆみにゃん:まずは、先にもお伝えしたように「心が満たされる」ということですよね。あれもこれも求めて散財していたら、お金がなくなって貧しさを感じるだけです。ですから、お金を使う対象を「本当に自分が幸福を感じられるものやこと」に絞ることで、不足なくそこにお金を向けることができ、確かな充足感を得ることができます。
また、所有する管理コストからも自由になれます。ものが多くなれば、保管するための部屋の広さの維持や棚の購入といった金銭的なコストがかかりますし、片付けやメンテナンスといった時間的コストも必要になります。
時間的コストということでいえば、洋服やアクセサリーもそうですね。増えれば増えるほど、コーディネートの選択肢が増えて洋服選びに無駄な時間がかります。確かに、そこに時間やお金を使うのは「おしゃれ」な自分を表現し、感度の高さを示せるかもしれません。でもそこで、「それは本当に自分にとってお金や時間をかけたいことなの?」と立ち止まって考えるべきではないでしょうか。もちろん、「ダサい」ことは誰だって嫌ですよね。でも、「ダサくなければいい」だけであるなら、選択肢を増やさなくても、コーディネートをいくつか決めて着回せばいいだけの話です。
一つひとつは小さなコストかもしれませんが、年単位で見れば大きなコストになっていきます。それが「煩わしい」と感じるのなら、ものを減らせばストレスも確実に減っていきます。
——おっしゃる通り、本当に自分の好きなこと、大切に感じるものであるならば、メンテナンスやコーディネートなどの時間的なコストも「趣味の時間」として楽しさを感じるはずですね。でも、そうでないなら、考える必要があるということですね?
ミニマリストゆみにゃん:本当は「どうでもいいもの」だから手間だし、ストレスを感じてしまうわけです。それは、買い物にもいえることですね。
「ものを買う」というのは、ストレスが解消されるようでいて、逆にストレスの直接的な原因になり得るものです。本当に欲しいものなら、買ったあとも幸福感は長く持続しますが、ただのストレス解消として物欲を発散させる浪費ではそうはいきません。買う瞬間に、脳内で「ドーパミン」という快感ホルモンが分泌されるので一時的な幸福感こそ得られるものの、それっきりなのです。
買った直後にドーパミンの分泌量が急降下するので、家に帰って封を開けても幸福感は少なく、むしろテンションが下がっていることは往々にしてあることです。そのうえ、お金も減ってしまって後悔が残れば、もはやお金でストレスを買ったようなものではありませんか。
——その「自分にとって大切なものにコストをかける」というミニマリズム思考は、人間関係においても適用できますか?
ミニマリストゆみにゃん:ミニマリストの多くは、「ものに対する向き合い方」を通じて、自分本来のあり方を大切にしたいと考えています。その考え方を、人間関係に対しても自然とあてはめる傾向はあるように思います。
心理学者であるアルフレッド・アドラー氏の思考を対話形式で紐解いたベストセラー『嫌われる勇気』(岸見一郎氏、古賀史健氏の共著)にもあった言葉ですが、アドラー心理学では「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」とされていますよね。人にどう思われるかを気にして他人の期待を満たすために生きるのではなく、自分軸で生きることの重要性を説いています。
以前のわたしは、誰かに誘われれば、行きたくない飲み会であっても関係性を気にして参加していましたが、ストレスを抱えることのほうが圧倒的に多かったと振り返ることができます。そこには、「つながりをつくっておけば、いつか自分にメリットがあるかも……」という期待感もあったと思いますが、買い物に置き換えれば、手当たり次第に物欲を抱くようなものです。
社会生活を営むうえで人間関係は必要不可欠ですが、時間とお金を幸福に直結しない人付き合いに費やすのはあまりにもったいないし、自分自身を大切にすることにもつながりません。ですから、いまは時間やお金といった限られた資源を、わたしのことを心から大切にしてくれて、なおかつ、わたしも大切にしたいと思える友人だけに使うようになりました。そうすることで、幸福感が増したことは間違いありません。
——ただ、人間関係はしがらみも多く、簡単に断ち切れないという側面もあります。
ミニマリストゆみにゃん:そうですね。でも、最初はスマホに残っている不要な写真の整理にはじまり、不必要なものを買わない決断や捨てる判断といった「ものを手放す経験」に慣れてくると、「自分にとって大事なことはなにか」が明確になっていきます。すると、気の乗らない誘いを断ったり、人付き合いを考え直したりすることができるようになるでしょう。最初こそ抵抗を感じるかもしれませんが、次第に人間関係への執着も自分の価値判断に則って手放すことができるようになるはずです。
「自分軸で判断する」習慣が投資判断にも役に立つ
——「手放す判断力」というのは、投資においても役立ちそうな気がします。投資を続けていると、下落し続ける株の損切りなど、執着を捨てて現実を見なければならないタイミングはたくさん訪れます。
ミニマリストゆみにゃん:投資においても、「自分にとって大事なこと」を理解し、周囲の情報に振り回されず自分軸で判断できることは重要なスキルですよね。
「新NISA」の開始を契機にインデックスの積み立て投資を開始した人などは、本来、20年、30年と長く投資を続けて得られる複利によって資産形成することを目標としたはずなのに、相場の変動に振り回されて売却してしまう人も多いようです。また、インフルエンサーをはじめとした投資家の意見に流されて、投資商品を頻繁に変えてしまうこともあるでしょう。実際、わたしのSNSのフォロワーやYouTubeの視聴者から、そうした相談はよく受けます。
そのように、いとも簡単に思考がぶれてしまうのは、株式投資に対して「楽してお金が手に入ったらいいな」という他力本願な部分があったからではないでしょうか? そうではなく、将来のビジョンを明確に持ったうえで、「何歳までに資産をこれだけ増やしたいから、◯%のリターンが見込めるこの商品に毎月この額を投資する」という投資計画を立て、毎月一定額を捻出できるよう家計を見直していくことです。あくまでも、自分軸で人生をコントロールしてほしいと思います。
——特に、国内外で経済の変動が大きい現在(2024年8月時点)などは、投資ビギナーでなくとも振り回されてしまいそうな意見が、ネット上に飛び交っていますね。
ミニマリストゆみにゃん:特にX(旧:Twitter)をやっている人は注意してほしいですね。Xが収益化できるようになったことで、インプレッション(表示回数)を増やすためのポストが溢れています。ですから、自分なりの意見を精査して述べているのではなく、ただただ刺激的で投資家を煽るような投資予測を投稿していたり、「全世界株式に全額投資して大学資金がなくなった!」というような、不安を煽るようなでっちあげのエピソードが投稿されていたりします。
――ミニマリストのメンタリティは、そうした煽りに乗らない心構えになり得るでしょうか?
ミニマリストゆみにゃん:ミニマリストの消費スタイルであれ、投資原資を確保するための日々の節約であれ、そこには必ず「欲に振り回されず、自分軸で価値を判断して支出する」という考え方があります。支出をベースにして判断力を鍛えていくことは、情報に踊らされない投資判断にも必ず役立つと思います。
ミニマリストゆみにゃん
ファイナンシャルプランナー・YouTuber。北海道生まれ、東京都・神奈川県育ち。FP技能検定3級所持。大学を卒業後、大手ゲームメーカーに入社。7年半付き合った彼氏と結婚するも、マイホーム購入直後に離婚して貯金はゼロに転落。さらに仮想通貨投資詐欺、不動産詐欺、恋人に騙されるなど資産を失い続ける。そこから転職し、節約とミニマリズムに目覚め、空いた時間でYouTubeにも挑戦。ミニマルライフを活かした節約術や持ち前の論理的思考をもとにお金の増やし方を発信し、チャンネル登録者は14万人を超えている(2024年8月現在)。著書に『ミニマリストゆみにゃんのお金のつくりかた』(すばる舎)、『オートで月5万円貯まる魔法の節約』(KADOKAWA)がある。