踏み出せないヒトのための投資術 第八回 投資先を“発掘”しよう④~最後の判断はIRで~
発行体企業のHPの見方
前回までで投資先となる銘柄候補の選定ができました。しかし、これですぐに投資実行するのは早計です。前回までは、会社四季報と証券会社から提供される情報をもとに分析をしてきましたが、投資候補先(発行体)企業自らが提供している情報を確認する必要があるからです。これが、最後の判断材料になります。
投資候補先企業の情報は、ホームページ(HP)やIR(投資家向け広報)イベントへの参加を通じ、入手できます。そこで、今回は、HPとIRイベントの活用の仕方を説明します。
まず、ホームページの活用です。HPには、今までのツールからは手に入らない情報が記載されています。会社の事業内容の詳細、沿革、理念、ニュース、関連会社、法律で開示が義務づけられている情報(法定開示情報)や、投資判断に重要な影響を与える情報(適時開示情報)などです。
企業にもよりますが、上場企業の場合、HP上の情報は多岐に渡ります。すべてを入念に見るのは、しんどい作業です。そこで、まず、確認すべき重要情報に絞って目を通します。第一は、決算短信です。これは、HPの「IR情報」の項目に載っています。1年間に4回、3か月ごとに作成・公表され、それぞれの期間の会社の業績がまとめられています。
売上高や利益の数字だけでしたら、四季報で既に確認済ですので、ここでは、なぜそのような業績になったかという理由を確認します。決算短信のはじめのほうに載っている「経営成績等の概況」という項目に書かれています。非常に簡潔にまとめられていますが、簡潔すぎて一番知りたい「なぜ?」の部分がよく分からない場合が結構あります。その場合は、後ほど説明する発行体企業のIR担当者に問い合わせるか、ネットなどでマスコミ情報を調べたりします。
また、多くの上場企業は複数の事業を手掛けています。四季報には、事業ごとの売上高の割合が数字だけ記載されていますが、決算短信では、さらに細かく分かるようになっています。HPの事業紹介と併せて読むと、改めて投資候補先企業がどのような事業を展開しているかが理解できます。
次に確認するのは、業績予想です。特殊な事情がない限り、決算短信には通期の業績予想が1ページ目の一番下に書かれています。これは、発行体企業が事業計画や実際の事業の進捗に基づいて作成した公式な通期の業績予想です。数字の確認はもちろんですが、前年度比での増減割合を確認します。
これも「どうしてそのような予想になるのか」を確認しなければなりません。ただ、当期の経営成績の概況以上にあっさりとしか記載されていないケースも少なくありません。ですので、ご自身で納得できるまで、発行体企業へ質問したり、インターネットを通じた情報収集に努める必要があります。
さらに業績予想のひとつ上に記載されることが多い「配当金の状況」も確認してください。前の期との比較ができようになっていますので、配当金が増えたのか、減ったのか、変化なしなのかを確認します。
さらにページを進めますと「利益配分に関する基本方針」という項目がありますので、必ず読むようにしましょう。ここでは、配当方針が明記されているほか、配当の増減の理由なども把握できます。ここで株主還元に積極的かどうかのおおよその判断ができます。
「疑義注記」の有無も確認が必須です。これは、会社が事業を継続して行くのに重要な問題が起こった場合に記載することが義務付けられているものです。債務超過、大口の債権の回収困難などです。最悪の場合、倒産する可能性もあるという意味ですので、注意が必要です。ちなみに、疑義注記は、四季報の巻末にもまとめて記載されています。
その他、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書なども前期や前年同期と比べられるように併記されていますので、前期と比べた変化をチェックします。
また、すでに触れましたが、決算短信を分析しながら、事業内容もきちんと調べ直します。
決算短信のチェックが終わりましたら、ニュースの項目を調べます。できれば、過去3年間くらいは確認したほうがよいでしょう。ニュースが多い場合でも、1年間は調べましょう。適時開示情報、M&Aなどの重要事項のほか、自社株買いの規模や頻度などを調べます。
社長のご挨拶コーナー(トップメッセージ)もしっかり見ましょう。私は、内容だけではなく社長の顔写真の有無も確認します。最高責任者の顔写真が掲載されていないHPは、マイナスイメージと見られることが多いようです。
これらのほか、企業の沿革が記載されているようでしたら、目を通してみると、投資候補先企業のことがより深く理解できる場合もあります。
中計は最重要確認事項のひとつ
続いて「中期経営計画(中計)」です。これは、決算短信と並ぶ最重要確認事項です。3~5年間の事業の運営方針を定めています。特に法律で決められたものではありませんが、特に外国人投資家は中計を重視します。これを策定しているかどうかは重要な投資判断材料になります。
中計では、最終年度までの売上高と利益の目標を確認します。業績が右肩上がりであること、また、増収増益の伸び率などを確認します。
さらに、目標となる業績を達成するために何をやっていくかも吟味します。あまりに記載が抽象的であったり、実現性が低いように見えたりするときは、投資を再考したほうが良いでしょう。
一部の企業には、中計の内容を毎年、書き換えるケースもあります。目標数値の変更までありますと、これはもう、中計ではありません。中計の業績目標を早めに達成してしまったような場合を除いて、毎年のように見直しをする企業は注意します。
法定開示情報には、「有価証券報告書」などが該当します。読み込むのは理想ですし、重要なことです。しかし、かなりの分量(ページ数)があります。残念ながら、プロでもすべて読み込める時間はありません。私の場合は、有価証券報告書の役員のプロフィールの項目は必ず確認しますが、それ以外は、何か知りたいことがある場合にそれだけを調べるというようなチェックをしています。
「取材」してみよう
発行体企業から提供される情報のなかでHPの他にも重要なものがあります。「取材」です。発行体企業に知りたいことを直接尋ねます。個人投資家ができる取材の機会は、具体的には、個人投資家説明会とIR担当への問い合わせでしょう。これは、今までのような文字による情報源ではありません。ある意味で文字よりもよほど重要な情報を得られる場合もあります。
個人投資家説明会は、証券会社やマスコミなどが主催して主に大都市で行われます。発行体企業の社長が個人投資家に対して、自社の事業内容や、今後の方針などを説明し、自社株式の購入を促します。説明の後には参加者から直接質問を受ける時間が設定されている場合が多いので、その時には、知りたいことを訊くことができます。
知りたいことを訊くほかに説明会で留意したいのは、“社長の人物”を見極めることです。説明会での話の内容は、基本的なことが多いため、「この会社ならば・・・」と最終決断まで気持ちを持っていけるほどの情報は、なかなか手に入りません。しかし、目の前いる企業の最高経営責任者の立ち居や振る舞いだけでも様々な情報が得られます。例えば、話し方です。用意された原稿を棒読みするようでは、5分もすると聴いている方が眠くなります。反対に原稿を用意しても、読まずに自分の言葉で話をすると、たとえ内容そのものは濃密でなかったとしても聴衆は話に引き込まれます。どちらの企業に投資すべきか、は申し上げるまでもないでしょう。ご自分の“眠気”は案外、投資を決める際の重要な“情報”になるものです。
細かな所作や登壇の際のあいさつの仕方など細かな点も見逃してはいけません。所作は人となりが現れます。ご自身が抱いた「この社長はこんな人」というイメージも案外、重要です。
余談ではありますが、社長のなかには、話があまり得意でない方もいらっしゃいます。特に技術一筋で会社を引っ張ってきた方にはそのようなケースが見受けられることがあります。機関投資家アナリスト向け説明会でも、IR担当者が時々、「あんたの会社の社長は訊いたことを答えない」と言われることもあるようです。しかし、あくまで私の経験からですが、そのような社長は、原稿に目を落とさず、聴衆をしっかりと見つめて話をされるケースが多いと感じています。
投資判断を行う際の数字データは最高財務責任者(CFO)がしっかりと答えてくれます。説明会は社長の人物を見極められる唯一と言っていいほどの重要な機会です。大事なおカネを投資する際には、積極的に説明会に参加されることをお薦めします。
投資候補先企業のIRへの取材は、HPの「投資家向けお問い合わせ」からメールを送って回答を待つのと、問い合わせ電話番号から電話する2つのパターンがあります。メールでの取材の場合、回答内容が問い合わせに的確に答えているかはもちろんですが、回答が来るまでにどのくらいの時間がかかったかも覚えておきましょう。遅くとも、24時間以内の回答をひとつの判断基準としましょう。電話が可能な場合は、IR担当者の対応の仕方も投資判断の基準になります。
以上で、投資先を決めるための一連の手順を簡単にご説明しました。次回からは、いよいよ実際に投資を行う際の注意事項をはじめ、投資した後に売却するまでどのような注意が必要かをお話しします。
ただ、その前に読者の方から「社長の評価をどうやってしているのか知りたい」というご要望をいただきました。そこで夏の特別企画として、企業経営者のどこをどう見て投資判断をしてきたか、私の経験談を中心に「こんな社長は評価できる、できない」をお話ししたいと思います。