長期投資家必見。 「買うべき銘柄」「買ってはいけない銘柄」を見抜くポイント
一般に、グロース株投資は短期投資向け、バリュー株投資は長期投資向けだといわれる。なぜなら、バリュー株投資では急速な成長は期待しにくいが、堅実に成長する個別銘柄株をターゲットとするからだ。そこで、長期投資を前提としたバリュー株投資について、株式投資アドバイザーであり、「つばめ投資顧問」代表を務める栫井駿介氏に「買うべき銘柄」「買ってはいけない銘柄」についてのアドバイスを聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/藤巻祐介
長期的に価値を生み出す銘柄を見出す「バリュー株投資」
——栫井さんは投資ビギナーや初級者に向けて、個別銘柄の長期投資として「バリュー株投資」をおすすめされていますよね。「バリュー株投資」の考え方についてお聞かせください。
栫井駿介:一般論ですが、「バリュー株投資」とは、企業の業績や純資産からわかる企業価値に対し、「株価が割安な銘柄を買う投資」です。安定した業績をあげながら、なんらかの理由で株価が低い銘柄、あるいは存在感がなく市場から忘れられている銘柄というのは、意外とあるものです。
ただし、「割安な銘柄を買う」といっても、わたしは現時点での企業価値に対して割安であることより、将来的に生み出す価値に対して割安であることを重視しています。現時点の企業価値に対する割安感は、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の低さでわかりますが、短期投資ならともかく、長期投資では末長く成長しなければ意味がありません。
そのため、DCF(Discounted Cash Flow=現在の投資金額に対し、将来どのくらいお金が戻ってくるかを予想して比較する方法)として将来の成長を見積もるほか、世の中の変化予測からマーケティング発想で判断することもあります。ポジティブに成長要因を探り、ネガティブに成長が途絶える可能性も踏まえて予測をしているというわけです。
自動車業界で例を挙げれば、テスラは今後も成長するといわれていますが、永続性という観点では信頼が置けません。一方、トヨタ自動車は目先で大きく成長しているわけではありませんが、これまでの成長実績を踏まえると、成長戦略次第で投資してみたい銘柄だといえます。
——成長性に対する信頼感が重要ということですか?
栫井駿介:長期的な成長性を探るには、財務データ等のトラックレコード(過去のデータ)が欠かせないので、投資家としては歴史ある企業のほうが判断しやすいことは確かですね。しかし、近年、設立されたばかりの企業でも、事業内容や戦略、資本の面などで優れていればバリュー投資の対象になり得ます。過去がどうかというより、総合的に見て「将来的に価値を生み続けるか」が焦点となります。
バリュー株投資における「買わない銘柄」の考え方
——バリュー株投資では、ターゲットとする銘柄をどう探すかが鍵を握ります。栫井さんはバリュー株を探す際、「検討外」とする銘柄をどう判断するのでしょうか。
栫井駿介:まずシンプルに、「業績が右肩下がりの銘柄」は除外します。先に述べたように、過去の実績が長期的な成長への信頼となるからです。買う銘柄に浮上するのは、たとえ直近では業績を下げていても、5年、10年のスパンでは右肩上がりであることですが、逆に5年も継続して下がっているようなら、これはもう検討外です。
また、株価の観点では、割高になり過ぎている銘柄も検討外になり得ます。将来の成長に期待する投資である以上、現時点で株価が割高でも、そこからさらに成長が見込まれるのであれば問題ありません。しかし、さすがにPER100倍のような割高過ぎる銘柄は、実態を遥かに超えているとしかいえません。長期を前提としても直近で下落する可能性が高いので、少なくとも「今は買いではない」と考えます。
——業績が右肩下がりの銘柄については、もし起死回生が見込まれるのであれば、早めに買い付けることで大きなリターンを得られますよね。事業内容や戦略まで掘り下げて検討をすることはありますか?
栫井駿介:わたし自身、業績が下げ調子の時点で、それ以上のリサーチはあまりしませんが、もし見るとすれば、業績回復に向けた筋の通った戦略を立てていて、なおかつ、その効果が出はじめていることがポイントではないでしょうか。
正直にいって、中期経営計画で戦略を打ち出しているだけなら、それがどんなに素晴らしい戦略でも絵に描いた餅になる可能性は否定できません。ですから、3年計画の1期目で株主が納得できるような成果が出ているなど、そういった場合は「買い」という判断もできます。
同様に、停滞していた企業が社長交代で新基軸の戦略を打ち出し、一躍話題になったり、株価が動いたりすることもありますが、短期で収束しかねません。やはり1期目の成果を見定めてから、永続的な成長の可能性について具体的に検討するべきでしょう。
「買いたい銘柄」を見定める5つのポイント
——逆に、投資を検討したい銘柄は、どのような点がポイントになるでしょうか?
栫井駿介:基本的には、以下の5点で買う銘柄を検討しています。
❶業績が伸びている
❷成長意欲がある
❸ビジネスの強みがある
❹財務的に無理がない
❺割高過ぎない
❶と❺は、先ほど述べた検討外の銘柄の逆の考え方となります。緩やかでも継続的に業績が伸び、PERやPBRが高過ぎない銘柄です。
業績の面で注目するのは、ROE(自己資本比率=株主が出資したお金を元手に企業があげた利益の比率)のバランスですね。短期的には業績が必ずしも株価と比例するわけではありませんが、長期で考えるとROEの割合が年利の指標といえます。
ROEが高いに越したことはありませんが、それ以上に安定していることを重視しています。ROEが高過ぎる企業は、この先は低下していく可能性が高いので警戒しますし、またROEが安定して落ちないということは、その企業、または業界に成長余力があるものとして捉えているからです。
わたしの実績でいえば、ROE12%くらいで推移している企業を選ぶことが多いですね。そのくらいのROEであれば、現時点の株価はそれほど高くなく、年率12%程度で将来的に大きなリターンとなることが期待できるという見方です。
——❷の「成長意欲がある」については、「中期経営計画についてメッセージを発するだけなら絵に描いた餅になる可能性もある」とおっしゃっていましたが、成長意欲をどのように見定めるのでしょうか?
栫井駿介:これは感覚的な話なのかもしれませんが、対人コミュニケーションと同じだと思います。相手の意欲を定量的に測ることが難しいように、企業の成長意欲も明確な指標があるわけではありません。なにをもって相手の意欲を認めるかは、複合的な要素から、各自が意志をもって決めるものではないでしょうか。
公言した戦略が少なくとも、1期目になんらかの成果を挙げていることも信頼する要素のひとつですし、決算説明会で語られるトップの熱意、戦略との整合性、あるいはその会社の店舗や現場に行って感じる変化など様々だと思います。つまり、「姿勢」と「結果」による総合的なものなので、具体的なところは自らの経験のなかで考えていくしかありません。
——❸の「ビジネスの強みがある」についてはいかがでしょうか。
栫井駿介:「業界内の競合他者に対して絶対的に勝てる要素を持っているかどうか」ということです。例えば、飲食店、美容サロン、ホテルなど様々なサービスの検索・予約サイトが存在しますが、どのジャンルでも必ずリクルートのような大手はトップの一角にいます。
その理由は、確固たるノウハウや営業体制、ブランド、顧客基盤、ポイントサービスによる付加価値などの強みがあるからでしょう。また、海外でいえばマイクロソフトはOSやオフィスツールなど、インフラとしての強みを押さえているから世界トップ企業であり続けることができています。
ただし、その強みが将来にわたって機能し続けるかは誰にもわかりません。経営者が変わると、みすみす強みを捨てるような失策をする場合もあります。ですから、その企業の強みがなにかを理解して、それが「機能しているうちは保有し続ける」という考え方も必要です。
——最後に、❹の「財務的に無理がない」とはどのようなことを指しますか。
栫井駿介:最近、話題になった中古車販売会社などが悪い例にあたるのですが、一見しただけでは、「業績が伸びている」「成長意欲がある」「ビジネスの強みがある」という点で有望な銘柄に思えてきます。しかし、決算書をよく見ると、多額の借金を抱えることで急速な成長をしていたのです。
こうした財務的な問題は、かつてのマンションディベロッパー企業でもよく見られました。どんどんマンションを建設して事業規模は拡大していったのですが、借金で成り立つ経営であったため、リーマンショックで多くの企業が倒産したのです。そのほか、借金でM&Aを繰り返して成長性を見せているような企業も危ういでしょう。経済というのは、5年〜10年に一度はなんらかの理由で不況を迎えますから、長期投資において財務上の問題を抱える企業はリスキーだと考えます。
——こうした情報を決算書やニュースなどから読み取り、継続的にキャッチアップしていくことが大切ですね。
栫井駿介:そのためには、経験と勉強を積み重ねていくことです。また、ここであげたような事柄を、決算発表の場で投資家の心情に立って明快に説明してくれる企業は、やはり信頼したくなりますよね。結果がすべてとはいえ、言葉を尽くしてコミュニケーションを重視する姿勢が見られる企業は、業績も好調に推移することが多いように感じます。
個人投資家の場合、本業や生活もあるなかで継続的な勉強やリサーチは大変かもしれませんが、株式を保有する企業の情報は、継続的に追い続けることをおすすめします。
栫井駿介(かこい しゅんすけ)
1986年5月31日生まれ、鹿児島県出身。つばめ投資顧問代表、投資系YouTuber。東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社勤務を経て、2016年、つばめ投資顧問設立。現在は500名超の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを行っている。YouTuberとしても活動し、登録者は13.1万人(2024年6月時点)。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。著書に『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(クロスメディア・パブリッシング)、共著に『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)などがある。
『年率10%を達成する! プロの「株』勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)