投資ビギナーのための、「個別株」「長期投資」の学習と実践方法
これから投資をはじめる人や、「新NISA」や「iDeCo」でインデックス投資を行っている個人投資家のなかには、個別銘柄への関心を持つ人も多いだろう。しかし、個別銘柄はインデックス投資に比べてリスクが高く、正しく知識を備え、経験を積むことが求められる。「そのキャリアを積む過程で大切なことは、大きな失敗をしないこと」と語るのは、株式投資アドバイザーであり、「つばめ投資顧問」代表を務める栫井駿介(かこい しゅんすけ)氏だ。投資ビギナーが成長するための、投資の学習と実践方法をレクチャーしてもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/藤巻祐介
株式投資は「生活防衛資金」とは別の「余剰資金」で
——株式投資をはじめたばかりの人や、これからはじめようとしている「投資ビギナー」が、まず準備しておくことや意識しておくべきマインドはどのようなものでしょう。
栫井駿介:投資するにあたり絶対に守らなければならないことは、「生活防衛資金」を現金資産で確保することです。
株式投資では、インデックス投資に比べてリスクが高くて難しい個別銘柄への投資を行わなくても、「全世界株式(オールカントリー)」をはじめとする定番の海外インデックス投資を行えば、年利5%程度のリターンを高い確率で得ることができます。資産に少しでも余裕があるのなら、ほとんど金利のつかない定期預金よりも、できるだけ投資に回したほうが資産を増やせる可能性があります。
だからといって、生活費以外の全額を投資に回してしまうと、ケガや病気、失職など不測の事態に対処できません。本格的に投資をはじめるのであれば、必ず生活費の3カ月〜半年分の現金資産を確保したうえで、余剰資金を投資に回すようにしてください。
——若い世代では、現時点で貯蓄がない人もいます。その場合は、株式投資を控えたほうがいいですか?
栫井駿介:まず貯蓄を優先するべきですが、少額でいいので株式投資も同時進行することをおすすめします。将来的にインデックス投資だけをする予定なら、インデックス投資を。個別銘柄への投資を予定しているなら、1万円ずつでも複数の銘柄に対して投資をはじめましょう。
なぜなら、株式投資というのは、実際にお金を投じてみてはじめて真剣に向き合うことができるからです。自分のお金がなぜ増えたのか? なぜ、減ったのか? その要因を考えることが重要であり、これからの投資人生のために経験を積んでほしいと思います。特に、リスクの高い個別銘柄では「失敗」の経験が成長につながります。今から成功体験だけでなく、「失敗」も体感しておくことが大切です。
個人投資家として成長するには、最低限の知識が求められる
——いろいろな実践経験を積みながら堅実に学ぶことも大切ですが、勉強して知識を身につけることも必要ですよね? 投資ビギナーは、まずどのようなことを学ぶべきでしょう。
栫井駿介:それは、今後どのような株式投資をしていくのかによりますね。それによって、優先して学ぶべきことが異なるからです。インデックス投資のみを行うのなら、ひたすら長期で保有するか積み立てるだけです。もちろん、勉強したほうがいいわけですが、「絶対に必要」とはいえません。
一方、個別銘柄への投資では、長期投資であれ短期投資であれ、つねに売買の検討が必要なため腕を磨き続ける必要があります。個別銘柄の株価は、主に「企業の業績」と「投資家心理」により変動します。よって、長期投資、短期投資のスタンスそれぞれの分析について学んでいきたいところです。
10年、20年にわたる長期投資を行うのであれば、企業の株価は業績に沿ったものに収束していきます。ですから、「ファンダメンタルズ分析」として、企業の決算書(財務諸表)を読み解く知識は最低限必要でしょう。
一方、数日から数カ月程度の短期投資を行うのなら、株価は「投資家心理」の影響が大きく、必ずしも業績と連動しているとはいえません。ファンダメンタルズも大切ですが、「テクニカル分析(チャート分析)」を学び、売買のタイミングを理解していくことが求められます。投資スタンスを明確にしたうえで、必要な知識を吸収していきましょう。
——栫井さんは、個別銘柄の長期投資を推奨されているかと思います。その場合、決算書を読む知識が必要となりますが、苦手とする人は多いですよね。
栫井駿介:その企業の売上とコストのバランスがわからないと、財務健全性や事業の成長性を判断することができません。だから、決算書を読めないとなりません。
決算書には、いくつかの書類があるのですが、まずは「貸借対照表」「損益計算書」を読めることが求められます。「賃借対照表」は感覚的にわかりにくいので、心が折れそうな人は「損益計算書」から読めるようになるのがいいと思います。投資をはじめると、そこにある数字の意味を理解することが自分の実利とつながるため、身の入り方も変わるのではないでしょうか。
「賃借対照表」の理解には、簿記の勉強がおすすめです。わたしも学生時代に簿記を勉強しましたが、資格取得が目的ではなく、簿記を学ぶことで「借方」「貸方」の考え方がわかり、「賃借対照表」の読み方のベースを理解することができるようになりました。
決算書というのは、あくまでも「企業の過去の情報」であり、それだけで企業の成長まで見越せるわけではありません。しかし、まずは決算書を読めるようになることで、過去のデータに基づく様々な投資家の読み解きや予測を学ぶことができます。数字に苦手意識がある人も、難しく考えず勉強に取りかかってみてください。
どうしても苦手意識がある人は、X(旧twitter)などでスライドを使って会計知識をわかりやすく伝えている、「大手町のランダムウォーカー」さんのコンテンツをぜひ見てほしいですね。身近な企業の事例をもとに、決算書の読み方をビジュアルやクイズで伝えてくれています。本も出版されているので、一読されるといいでしょう。
——企業の決算書は企業単体の動向であり、いわゆる「ミクロ経済」にあたります。一方、景気動向、物価指数、為替など、企業を取り巻く経済全体に関する「マクロ経済」については、学びの必要性をどのように考えますか?
栫井駿介:個別銘柄の長期投資を前提とすれば、優先して学ぶのは決算書であり、経済全体を学ぶのはそのあとでいいと考えます。というのも、10年、20年以上のスパンで考える長期投資は、「経済は長期的な時間の経過によって成長していく」という資本主義の原理を前提としているからです。
日本経済は長期にわたって停滞してきました。でも、世界的に見れば、経済の変動によって株式相場全体が暴落することがあっても、いずれは暴落前の相場に回復し、さらに成長し続けてきました。ですから、経済の成長にしっかり乗れるような、長期的に成長していく見込みのある企業を精査することがポイントになります。
そのうえでマクロ経済を学ぶと、いまの経済状況が理解できるようになります。長期的な経済成長のなかで、なぜ、好景気や不況に陥っているのか、どのような指標を見れば転換期を予測できるのかが見えるようになるのです。また、長期投資と決めていても、株価が一時的に低迷すれば不安になりますから、経済の流れを把握することで投資家として安定したメンタルを維持することができるはずです。
いまは以前に比べ、知識を吸収できるメディアがたくさん存在します。なにから勉強をはじめればいいのか迷うところですが、まずはベストセラーや名著といわれる本を読むことです。もちろん、著者によって独自の見解がありますし、対立した考え方もあります。同じテーマで複数冊を読み、フラットな思考を持てることが重要です。
学びと経験を深めることで、自在に株式市場を渡り歩ける
——続いて、成長する銘柄の探し方や、投資後の学びについてアドバイスをお願いします。
栫井駿介:では、長期投資、短期投資に共通することとしてお話します。投資ビギナーであれば、自分が詳しい業界に投資するほうが、情報感度や理解度が高くなるので有利です。
例えば、自分が勤める会社と同じ業界の銘柄がそれに該当します。自社の競合企業や取引先に対しては、「あの会社はここが強い」「どこにも真似ができない」というストロングポイントを理解できますよね? 実は、それらのことは、あなたがあたりまえに思っているだけで、その業界に精通していない人にはまったく気づかない情報かもしれません。
また、自分自身の「消費者」としての視点を活かすことも大切です。自動車が好きなら、そうではない個人投資家や機関投資家よりも車を愛する消費者の気持ちを理解できるので、アドバンテージになります。
さらに、街を歩いていると「いつも賑わっているお店」がありますよね。例えば、雑貨チェーンの「3COINS」は20年前からあるブランドですが、安定して店舗が賑わっています。調べてみると、運営する株式会社パルグループホールディングスという企業は、いくつもの知名度の高いアパレルブランドを展開するなど、客層ごとの感性に響くマーケティングができていることが伺えます。
同様に、「この飲食チェーン店は、美味しい」「子どものクラス全員が、このゲームにハマっているらしい」など、生活のなかで見聞きできる情報は十分に投資根拠となり得るものです。そうした情報をキャッチしたら、決算書をチェックする習慣を身につけると、急騰する銘柄や、安定して成長し続ける銘柄に気づくかもしれません。
——そうして、長期的な成長が期待できる銘柄に投資をして経験を積むのですね。
栫井駿介:先にも述べましたが、まずは少額から個別銘柄への分散投資を行うのがいいでしょう。経験を積むためのサンプルとしては、最低でも3銘柄への分散が望ましいといえます。四半期ごとの決算発表で業績や株価がどのように変化していくかをチェックして、株価の上昇要因、下落要因を分析して下さい。
みなさんの頭のなかには、株を買う時点で「こういう事業や強み、戦略があるから成長するはずだ」という仮説があるはずです。それが実際に、四半期、または通期の結果としてどうなったのかを、企業の決算短信や決算説明資料を見て確認するのです。
また、「株探(かぶたん)」などの株式ニュースサイトを見れば、決算発表に対する解説や、熟練の投資家の見方を知ることができます。自分の仮説に対し、実際はなにが成長要因になったのかを学び、また、他の投資家たちはなにを見て期待値を高め、どのようなことに不安を抱くのかを感覚として学んでいくといいと思います。
——「株式投資は資産を失う可能性もある怖いもの」という印象もありますが、誰でも資産形成ができるチャンスに満ちたものでもありますよね。最後に、学びのモチベーションになるメッセージをお願いします。
栫井駿介:株式投資の学びには、終わりがありません。わたしも勉強中だと思っていますし、他の投資家も同様の思いでしょう。「プロの機関投資家でさえ失敗するのに、一般人がうまくいくのか?」という声もありますが、実は個人投資家のほうが投資の自由度が高いのです。
機関投資家は仕事ですから、四半期ごとの成果を確実なものとするため、決算間近になれば伸びる銘柄も売却しなければならなかったり、回復が見込まれる銘柄も値下がりをはじめたら損切りせざるを得なかったりすることもあります。また、感覚的に成長が見込める銘柄があっても、根拠を明快に説明できなければ手を出せないのです。
でも、個人投資家にはそういった制限がなく、自分の知識と経験、感覚に基づいて、自分の責任で投資ができます。急騰する銘柄の発端となるのも、その企業のビジネスや価値を深く理解している個人投資家たちであることも珍しくありません。
はじめはわからないことばかりで不安も大きいと思いますが、安易な成功ノウハウに騙されず、地道に学びと経験を積みあげていくことです。学べば学ぶほど、自由に株式相場の波に乗れるようになるでしょう。
栫井駿介(かこい しゅんすけ)
1986年5月31日生まれ、鹿児島県出身。つばめ投資顧問代表、投資系YouTuber。東京大学経済学部卒業、豪BOND大学MBA修了。大手証券会社勤務を経て、2016年、つばめ投資顧問設立。現在は700名超の個人投資家を相手に、堅実かつ実践的な長期投資のアドバイスを行っている。YouTuberとしても活動し、登録者は13.1万人(2024年6月時点)。ひとりでも多くの人に長期投資のよさを広め、実践してもらうことを夢見て発信を続けている。著書に『1社15分で本質をつかむ プロの企業分析』(クロスメディア・パブリッシング)、共著に『株式VS不動産 投資するならどっち?』(筑摩書房)などがある。
『年率10%を達成する! プロの「株』勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)