踏み出せないヒトのための投資術 第四回 投資先企業の決め方②~中小型株について~
中小型株の投資の基本
今回は、中小型株の見極め方についてお話します。具体的なチェック項目の前に中小型株の投資姿勢について触れておきます。
それは、「頭と尻尾はくれてやれ」です。投資格言として有名ですが、中小型株では特に当てはまります。
これは、「最高値で売り、最安値で買うという“芸当”は誰にもできない」ということです。中小型株はベンチャー企業なども多く、大型株に比べて、値動きが荒くなる傾向があります。第一回でも触れましたが、その分、投資の醍醐味が味わえる反面、損失を被る可能性も高くなります。「上がったら買い、下がったら売る」は、最もやってはならない投資ですが、会社の存続に関わるような、例えば大きな不祥事が起こった場合(この場合は、即、売却です)は別として、中小型株で最高値と最安値を見極めることは、どのようなプロでも、まず不可能です。欲をかきすぎないようにすることが肝要です。
また、これもすでに触れましたが、中小型株には若い会社も多く、事業基盤が不安定な会社もあるため、長く保有することが成功につながるとも言えません。投資先企業の成長性を見極める力が重要です。
ファンダメンタルズ
企業の成長性に期待して投資するのが投資の基本なので、中小型株も大型株同様、ファンダメンタルズが最も重要なチェックポイントです。
具体的には、成長性とビジネスモデルを見極めるということになります。
成長性では、事業規模が比較的大きい大型株に比べて高い成長率を維持しているか、を基本に検討します。
ビジネスモデルに関しては、他社が真似できない“オンリーワンの何かを持っている“か、という観点から分析します。
オンリーワンの何かを持っているとは、技術、市場、ノウハウ、ビジネスモデル、人材など、企業のビジネスに関する様々な面で、他社が追随できない強みをひとつでも保有しているかどうか、ということです。オンリーワンの何かがあれば、市場全体の成長性が高いかどうかを気にする必要はあまりありません。例えば、市場全体にあまり大きな成長性が期待できない場合でも、いわゆる“ニッチ市場”で独占的な地位がある企業でしたら、ファンダメンタルズ面では、投資先として有望と考えてよいと思います。

次は、大株主を調べることが重要です。
中小型株は、創業者が大株主となっているオーナー企業が多く見られます。オーナー企業はサラリーマン社長よりも経営判断が速いと推測されますので、投資対象としては魅力があると考えられます。ですので、まず、投資先の候補企業がオーナー企業かどうかをチェックします。具体的には、社長か代表権のある会長およびその親族の保有する株式の合計が少なくとも重要事項の特別決議を拒否できる発行済み株式の3分の1以上を持っているどうか、ということを確認します。
それだけで終わりではありません。次は、ホームページや有価証券報告書でオーナーの経歴を把握します。
「なるほど、こういう経歴ならば、こんなビジネスを立ち上げるだろう」と合点が行くようでしたら、さらに魅力が増す可能性があります。さらに、上位10位くらいまでの大株主もチェックします。オーナーと同じ苗字の方がいれば、親族の可能性が高く、オーナー一族の支配権がより強い企業である可能性が高いということも推測できたりします。これらは、企業の継続性や信頼性をはじめ、時には積極的に投資すべきかを判断するために不可欠な作業です。

続いては、自己資本比率です。
ROE(自己資本利益率)が注目されるようになってからは特に自己資本が厚くてもビジネスの拡大・伸長に使われていない場合は、投資先としてあまり魅力がないと最近は考えられがちです。しかし、中小型株、特にベンチャー企業の場合は、リスクに遭遇した場合に対応できる裏付けという意味も込めて、できる限り自己資本比率が高い銘柄のほうが投資先としては安心感があると言えます。
流動性
流動性がファンダメンタルズと並ぶ重要な判断基準になることは、すでに第一回で説明したとおりです。
中小型株のなかには、流動性が非常に低い銘柄がありますので、特に注意が必要です。
さらに、中小型株の投資では、大型株と違い、これから株価が上昇していきそうな銘柄を他の投資家に先んじて発掘できるかどうか、が成功を左右する側面があります。
その点でも流動性のチェックは非常に重要です。その理由を以下の具体的なチェックポイントから説明します。
流動性そのものの他に流動性の側面からの主な留意点は、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)、配当、投資信託と外国人持株比率などです。
PERとPBRは、敢えて数値の低い銘柄を探してみるのもひとつのスタンスです。
ファンダメンタルズがしっかりしているのにこれら数値が低い場合、「まだ多くの投資家から注目されていない」のがその理由で、注目されれば正当な評価を受ける可能性が高いと言えるからです。反対に両指標が高すぎる場合は、株価も天井になっている恐れがあります。今後の成長性をよく見極めてまだ伸びるかどうかを判断してください。
配当や配当性向は、大型株と同じです。配当が高かったり、目標配当性向を明示する企業は、第三回でも触れたように経営に自信がある証拠でもあります。
投資信託と外国人持株比率が低い銘柄も、投資妙味があるかも知れません。逆に、これらの比率が高いということは、すでに大口の投資家が十分に保有している可能性があるため、これ以上、株価が上がらない可能性があります。ただし、保有がゼロ、あるいは、ごく少ない場合は、「大口の投資家が目もくれない(投資してはいけない)銘柄」-という恐れもあります。業績やビジネスモデルなどをもとに判断するとよいでしょう。
IR
中小型株では、社員数が少なくIRまで手が回らないというベンチャー企業もあります。しかし、投資家にとって、そんなことは甘えにしかなりません。IRへの取り組み姿勢が投資家の投資意欲に影響します。
注目点は、まず、ホームページです。一部ではありますが、あまり見栄えの良くないホームページの企業があります。
「当社は実力で勝負する」という考えかもしれませんが、投資家としては、マイナスイメージになります。
一方、見栄えがよくても、法定開示情報以外の情報がほとんど提供されていなかったり、情報に到達するまでの操作が分かりにくかったりするのも大きなマイナス要因となります。必要な情報を十分に盛り込んで、操作もしやすく、見栄えもよいホームページになっている企業は投資家のことを考えていると言え、投資判断にプラスとなります。

次は、決算説明会の有無や回数です。これは、大型株とまったく同じです。その他、コマーシャルやイベントなど会社を知ってもらうための施策を展開しているかどうかも重要で、この点も大型株の場合と同じです。

さらに、説明会資料など、公表資料の内容の充実度も重要と言えます。投資家としては、やはり、充実した内容の資料を提供する銘柄を選んだほうがよいでしょう。
繰り返しになりますが、中小型株は、オーナー企業が少なくありません。そのため、IR活動に熱心なケースが多いといえます。サラリーマン社長に比べて自社の株価が自身の資産に直結するからです。第一回目で株式投資の最後の決め手は最高責任者の人物像をどう評価するかだとお話ししました。そういう意味でも中小型株が主催・参加するイベントには投資家として積極的に参加するのはよい勉強になると思います。
なお、ファンダメンタルズと流動性の両方に関して、ここでお話した以外にいくつもチェックすべきポイントがありますが、あまり多すぎると読者の皆様も混乱される可能性があると思い、とりあえず、今回は特に重要な項目に絞って説明しました。
次回は、これら項目を実際に調べる方法と必要なツールについて触れます。

萬 太郎
IRコンサルタント。上場企業に「ファンダメンタルズ」と「株式の流動性」から企業価値向上のコンサルティングを実施。
大学卒業後、全国紙の経済記者、総合月刊誌の経済担当編集者等で活躍後、経営コンサルティング、証券アナリスト、ファンドマネージャーなどを歴任。近年は、国内上場企業の経営企画職にも従事。
現在は、投資する側とされる側の両方の視点を併せ持つIRコンサルタントとして活躍。