過去10年の業界別騰落率から70%の再現性を確認―日本株「年末ラリー」検証

この記事は2025年10月24日発行のジャパニーズ インベスター127号に掲載されたものです。
年末から年始にかけての株価上昇、あるいは10月から12月にかけての四半期での株価が上昇しやすいアノマリーを指す「年末ラリー」。その要因には、3月決算の企業における中間決算の業績修正や、期間投資家や個人投資家の心理などがあるとされます。今回は、これから迎える「年末ラリー」について再考し、3名の投資家の意見も交えて、投資戦略を考える上での有用性と可能性について、一緒に考えていきましょう。
取材・文/岩切 徹・吉田 大悟 図版データ提供/ストックウェザー
つばめ投資顧問 代表
栫井 駿介(かこい しゅんすけ)
1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問を設立。現在は800人超の個人投資家向けに長期投資のアドバイスを行っている。YouTuberとしても活動し、登録者は約18万人。著書に『年率10%を達成する! プロの「株」勉強法』(クロスメディア・パブリッシング)ほか、最新刊『買った株が急落してます!売った方がいいですか?―株で利益を出す人の考え方』(ダイヤモンド社)がある。
つばめ投資顧問の長期投資研究所(YouTube)
YouTuber
ロジャーパパ
ナスダック企業3社で管理職として20年勤務した後、2021年にサイドFIRE生活を開始。米国株投資歴12年。米国株投資の実績や銘柄紹介、投資戦略などを、わかりやすく配信するYouTube
チャンネル「ロジャーパパ米国株投資」は総再生回数2,000万再生を突破。
ロジャーパパ米国株投資(YouTube)
湘南投資勉強会 主宰
kenmo(けんも)
1982年愛知県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修了後、東証一部上場メーカーに研究員として就職。2011年に貯蓄300万円で株式投資を開始。追加資金なしで会社員を続けながら、5年で資産1億円を達成、現在は約3億円を運用。2018年、個人投資家向け情報交換会「湘南投資勉強会」を設立。初の著書となる『5年で1億貯める株式投資 給料に手をつけず爆速でお金を増やす4つの投資法』(ダイヤモンド社)は17万部超えのベストセラーに。
湘南投資勉強会オンライン(YouTube)
株式市場における「年末ラリー」―アノマリーとその背景について考えよう
「年末ラリー」─この言葉は、株式市場において年末に向けて株価が上昇する傾向を指すアノマリーとして、多くの市場参加者に認識されています。しかし、この現象は単なる季節的な変動ではなく、市場参加者の行動、心理、そしてマクロ経済的な要因が複合的に作用することで発生すると考えられます。
年末ラリーを誘発する要因
年末ラリーとは、一般的に12月のクリスマスから1月にかけて観察される、株価の強い上昇局面を指します。米国では「クリスマスラリー」と呼ばれ、主な要因として、以下の3点が挙げられます。
①機関投資家と個人投資家の資金フロー。12月が決算期である米国の機関投資家は、期末に運用成績の悪い銘柄を処分し、好調な銘柄を買い増してポートフォリオを良く見せる「ウィンドウ・ドレッシング」を行う傾向があります。
また、個人投資家は年末にかけて含み損のある銘柄を売却し、税負担の軽減を図ります。この売り圧力が一巡して買い戻しや新たな資金流入により、株価が反発するとされています。
②心理的要因。クリスマスシーズンは、全体的に楽観的なムードが市場を覆い、やホリデーシーズンの高揚感が市場参加者の心理をポジティブに傾けます。
③経済指標と企業業績の見通し。年末に発表される経済指標や、翌年度に向けた企業業績の見通しが良好である場合、それが市場の期待感を増幅させ、株価の上昇に直結することがあります。
この年末ラリーは日本市場でも起こり、「掉尾の一振(とうびのいっしん)」の名でも知られます。しかし、12月後半の2週間足らずの変動を投資で意識するのであれば、それはスイングトレードになってしまい、多くの投資家にとって実践的ではないでしょう。
広義的なもうひとつの年末ラリー
それよりも、日本市場において重要なのは「もうひとつの年末ラリー」である、10月頃から年末にかけての株価の上昇傾向です。10月以降、11月、12月と月毎に株価が上昇しやすい傾向にあることが知られています。これは、米国の決算シーズン(12月決算が主流)のほか、3月決算の日本企業における中間決算で上方修正が発表されることに起因するとされています。また、7月から9月にかけて「夏枯れ相場」(夏期の株価低迷)が起こる頻度も高いことも、10月以降の株価上昇に影響を与えると考えられます。
そこでJI編集部では、法人・個人投資家向けの金融情報ベンダー企業であるストックウェザー社の協力のもと、過去10年の10月から12月にかけての東証業種別株価指数による業種別の騰落率を調査しました。それが左ページの表です。
各年の10月1日(閉場日の場合は9月30日か10月2日)の株価と、12月30日(閉場日の場合は12月29日・28日)の株価を比較し、「上昇している場合はオレンジ」「下落の場合はグレー」に着色しています。特に、15%以上の上昇が見られるものは濃いオレンジで示しています。
パッと見て際立つのは、2018年10月〜12月における全業種の下落です。2018年は米国経済の力強い成長の恩恵を円安によって享受し、9月28日時点で日経平均株価は27年ぶりの高値をつけていました。しかし、米国長期金利の上昇を背景に米国株が10月〜12月にかけて急落したことで、日本市場も年末時点の株価を大きく下げたのです。
10年間全体では、33業種×10年で330マスあるうち、10月〜12月にかけて上昇を示したのは223マス、約70%の上昇確率であることがわかります。ただ、これでは「年末ラリー」の実現確度が高いとは言い難いかもしれません。
そこで、表の最下段に全業種を含むTOPIXの騰落率を算出しました。その結果、下落は明確に全業種が低迷した2018年のみであり、90%の確率で10月〜12月にかけて上昇しています。
業種別の騰落から見えるもの
TOPIX全体では90%ある年末ラリー発生確率も、業種別に細分化すれば発生確率は68%。つまり、業種ごとの情勢の見極めが重要であるといえるでしょう。
騰落表を見ると、シクリカル株(景気循環株)の中でも鉄鋼、鉱業、石油・石炭製品、海運業といった業種で、年末ラリーにおける高い上昇率を示したことがわかります。
一方、2018年の下落局面における、電気・ガス業や食料品といった内需に強いディフェンシブ株のマイナス幅の小ささを見て取ることができます。年末ラリーがアノマリーとして再現率が高いとしても、その年ごとの相場環境によって業界ごとの強み・弱みがあることを改めて感じさせます。
もちろん投資においてアノマリーに依存することは禁物です。しかし、個別企業と業界単位のファンダメンタル分析と、マクロ経済の状況が市場全体に与える影響を捉えることで、年末ラリーの予測精度を高められる可能性があると思われます。
