王子ホールディングス株式会社 森林資源を活かして、グローバルでサステナブルな企業へ
王子ホールディングス株式会社
東証プライム/証券コード 3861
代表取締役 社長執行役員
磯野 裕之
Hiroyuki Isono
1984年、慶應義塾大学経済学部卒。91年、カナダ・マギル大学MBA修了。84年に王子製紙(現・王子ホールディングス)に入社し、グループ経営委員やオセアニアのグループ会社会長
などを経て、2022年4月から現職。
ホールディングス体制への移行を機に事業構造転換を推進
かの渋沢栄一翁が「製紙事業および印刷事業は文明の源泉」と唱えたことが発端となり、日本初となる洋紙の製造会社として1873年に設立された抄紙会社を母体とする王子ホールディングス。以来、150年を超える歴史を重ねた企業であることは、ベテラン投資家にとって周知の事実。
だが、投資家が抱くその企業像は、もはや過去の姿の「残像」にすぎない。2012年にホールディングス体制に移行した際、社名から「製紙」という言葉を外して王子ホールディングスとしたうえで、「もはや製紙会社ではない」と宣言したように、すでに10年以上も前から事業構造転換を推進してきたのだ。
家庭紙や印刷用紙が売上高に占める割合は小さく、他の事業が牽引
一般的には、ネピアブランドに代表されるトイレットロールやティシュをはじめ、同社の主力製品は家庭紙や新聞紙、雑誌などに用いられる印刷用紙であるという印象が強いだろう。そのうえで、日本は人口の減少が続くうえ、新聞や書籍も売れない時代になっていることを踏まえて、同社の中長期的な業績見通しに対して強気になれない投資家も存在している。ところが、現在の同社における事業構成で大きなウエートを占めているのは段ボールや紙器を中心とする産業資材事業、感熱紙をはじめとする機能材事業、パルプや植林などによる資源環境ビジネス事業なのである。現に2024年度における同社の売上高は1兆8493億円に達したが、その内訳を見てみると印刷情報メディア事業は2932億円と、16%ほどを占めるにすぎなかった。
もう一つ、意外と知られていないのは、15年も前から同社は海外事業の強化を図っていることだろう。2010年の時点で10%未満にすぎなかった海外売上高比率は、2024年に40%を突破した。
100年以上も前からサステナビリティを強く意識した経営を続ける
「今後もさらにペーパーレス化が進むだけに、紙の需要は先細るばかりだ」と考える投資家も多い。だが、脱プラスチックの世界的な潮流の中で、実はその代替品として紙が選ばれることが多い。なぜなら、製造から焼却処分までの全過程におけるCO2排出量を比較した場合、紙はプラスチック素材に対して60%程度も少ないという計算になるからだ。
そもそも木材は再生可能な資源であり、プラスチックのような石油由来の素材とは完全に異なる存在である。このサステナビリティ(持続可能な社会の実現)というテーマにおいても、同社は極めて先進的であると断言できよう。「木を使うものには、木を植える義務がある」との思想が社内に根づいており、100年以上にわたって植林事業を続けてきているのだ。しかも、同社が「王子の森」と呼ぶ植林地の総面積は国内外の合計で60万ヘクタール以上にも達しており、日本の民間企業が保有する森林面積としては最大規模である。国内に限定しても約19万ヘクタールと大阪府に匹敵する広さ、その所有面積は日本政府に次ぐ規模になっている。
この広大な森林の主たる保有目的は原料の調達だが、大量のCO2を吸収するとともに、雨水を浄化し、さらに土砂崩れなどの自然災害を防いだり、生物の多様性を維持したりする役割も果たしている。国内に保有する森林だけでも、その公益的機能の経済価値は年間約5500億円に達すると同社は試算している。
中期経営計画では、事業ポートフォリオ転換に注力
今年5月に発表された「中期経営計画2027」においても、「サステナブルパッケージ(脱プラスチック紙製品)」の開発に注力することを掲げている。
また、長期ビジョンとしては、木質バイオマスビジネス(森林に由来するバイオマスから、様々な高付加価値製品を生み出すビジネス)を次期の中核事業と見据える。同社は保有する広大な森林を原料に、使用した分を自社で再生(植林)できる循環を構築しており、高付加価値の木質バイオマス素材・製品を開発することで、石油由来製品からの代替を通じ社会的課題の解決やサステナビリティにも大きく貢献できそうだ。
利益拡大とともに自己株式取得も進め、ROEの大幅改善を図る
同中計では2027年度にROE(自己資本利益率)を8%まで向上させることを目標に掲げている。この数値は東京証券取引所が要請している「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」で掲げた目安と同じ水準で、さほどインパクトを感じなかった読者もいるだろう。同社のROEは、現在4.3%まで低下しており、大幅な改善を果たすためには、利益の拡大とともにROEの計算で分母となる自己資本の圧縮も不可欠だ。そこで、同社は2027年度までに1200億円の自己株式を取得する計画を打ち出している。併せて、2025年度から株主還元の方針を見直し、配当性向を従来の30%から50%に引上げている。その結果、今期は前期の1株当たり24円から36円と12円の増配となる見通しだ。「グループ製品カタログギフト」(3月期)と「植林活動応援イベント」「王子ホール主催コンサートご招待(抽選)」(9月期)から成る株主優待制度も導入しており、同社の中長期的な成長に期待する個人投資家に広く門戸を開いているといえよう。
