米国の街角に増える救急医療室 便利だが高額な施設料
ダラス・アメリカ
米国の街角にある小規模ショッピングセンターの定番といえば、コーヒーショップやピザ屋、クリーニング店、新しいところではヨガ・スタジオといったところだが、最近、特に富裕層の住む地域では24時間制の救急医療室(ER)が軒を並べるようになってきた。
ERは一般的に病院に併設されているが、このところ目に付くのは、開業医や民間投資家が開設する救急医療のみの単独施設だ。救急医が常駐し、救急車も受け入れる。CTスキャンなどの精密検査もその場でできるが、入院設備はない。テキサス州の場合、2011年には単独ERは25カ所だったが、今では150カ所と急速に増大している。
一般的に米国では病気になると、まずはプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の予約をとる。夜間や休日の急病だと、病院の救急医療室に飛び込むことになる。ただし病院のERは、患者の医療保険の有無や収入に関わらず診察する義務があるので、お金のない人は緊急性がない症状でも来院する。そのため、病院のERは様々な患者でごった返しており、不満な患者が多い。ピカピカの設備とお洒落な待合室を整えた24時間制のERが町中に増えていくのは、時宜を得た展開といえる。
しかし、単独ERが富裕層の居住地に増えていることに注目してほしい。救急医療施設は診察料の他に施設料を請求できるので、一般の診療所と同じ診療内容でも、保険会社や利用者に3~7倍の料金を請求できる。よって、街角のERは報酬の高い民間医療保険加入者か、自己支払能力のある人だけを受け付けることとなる。
筆者の友人は昨年、土曜の夜に息子が指を骨折し、近所にできたばかりの単独ERを訪れた。待ち時間もなくレントゲンをとり、親切に対応してもらいその場は満足だったが、850ドル(約10万円)の請求書を目にしてギョッとしたという。しかも応急処置だけだったので、改めて別の病院でギプスをしてもらう必要があり、さらに費用がかかったと嘆く。
収益性が高い単独ERは経営側にとって魅力だ。一方で、利便性と安心感は与えるものの、応急手当だけのサービスに対し、高額な費用を請求するビジネスモデルがどこまで支持されるのか。先を考える施設は、自宅療養中の人の緊急短期受け入れ用に、数床のベッドを入れてミニ病院機能を持たせることも検討しているらしいが、請求金額が気がかりでゆっくり休めるかどうかは疑問である。
取材・文/片瀬ケイ(ダラス) 編集協力/堀内章子・宮田園子