投資の「解像度」を上げる。情報を鵜呑みにせず「自分の意思」で考える資産形成

SNSや動画サイトを開けば、毎日のように「おすすめの投資先」や「いますぐ買うべき銘柄」の情報が飛び交う昨今。しかし、インフルエンサーの言葉を鵜呑みにしてはじめた投資は、ひとたび市場が荒れだすと不満や後悔へと変わりやすい。投資を真に「自分ごと化」し、どのような局面でもブレない軸を持つために必要なのは、投資に対する「解像度」を上げることだと語るのはマネーコンサルタントの頼藤太希氏。私たちが陥りがちな心理的な罠(バイアス)の正体や、情報に踊らされないためのリテラシーについて解説してもらった。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
プロとアマをわけるのは「投資の解像度」
――投資に関する情報がかつてないほど増え、個人投資家のなかには、「あのインフルエンサーがすすめているから」といった理由でお金を投じている人も少なくないようです。
頼藤太希:そうした姿勢が危険なのは、投資を「自分ごと化」できていない点にあります。他人の意見に乗っかっているだけだと、例えばいざ市場が暴落したようなときに「あの人のせいで損をした」と他人のせいにしてパニックになり、せっかくの積立投資を途中でやめてしまうといったことが起きがちです。
投資という行為は完全に自己責任ですし、増えたお金を将来使うのは他の誰でもない自分自身です。自分で考えて腹落ちし、納得して投資を続けるリテラシーを持つこと――これこそが、私が提唱している「投資の解像度」を高めるということです。
解像度が低い状態というのは、視野が狭く、思い込みやひとりよがりの考えに左右され、世の中の流れや投資手法をよく知らない状態を指します。「長期投資の根拠は世界経済の拡大とインフレにある」という本質を学ばずに目先の情報だけに飛びついていると、メンタルが保てなくなります。インフレ時代を生き抜くには、長期的な株価上昇の波に乗って資産を増やすことが欠かせません。だからこそ、自分の資産をしっかりと守り続けるために、投資の解像度を上げる勉強をしていく必要があります。
――解像度を上げるためには、具体的にどのようなことを学べばいいでしょうか。
頼藤太希:まずは王道のインデックス投資がなぜベター戦略といえるのかという知識、そして人間の心の動きを研究した「行動経済学」や「心理的な罠(バイアス)」を知ることです。さらに世界のニュースを見る地政学的な視点を養うことで、頻繁に起こる暴落に対するリスク耐性を高めていくことができます。これらを総合的にとらえられるようになることが、投資の解像度を上げるということです。
投資判断を誤る原因は脳の仕組みにあり
――投資では「慌てて売って大損した」という失敗談をよく耳にします。頭ではわかっていても、なぜ人間はそんな間違った行動をとってしまうのでしょう?
頼藤太希:先に少し触れたバイアスもそうですが、これは人間の脳の仕組みに原因があります。心理学や行動経済学では、脳の思考モードを「システム1(直感)」と「システム2(論理)」にわけて考えます。システム1は、例えば車が突っ込んできたときに瞬時によけるような、生き抜くために不可欠な防衛本能です。対して、正しい投資判断に必要なのは論理的思考力であるシステム2なのですが、こちらには脳が非常に疲れるというデメリットがあります。
そのため、人間は日常生活の大部分をシステム1の直感に頼って楽をしようとします。ただし、生きるためには必要でも、このシステム1ばかりを投資の場面で発動させてしまうと、パニック売りなどの致命的なミスを引き起こすのです。
――ただ、どれだけ「気をつけよう」と意識していても、本能に逆らうのは難しそうです。
頼藤太希:その通りです。ですから「気をつけよう」という根性論では駄目で、最初から直感や感情に左右されない「仕組み」をつくっておくというのが結論になります。例えば、暴落時に自分の意志で注文を入れようとすれば、恐怖で手が止まったり、損を確定させて逃げ出したくなったりするかもしれません。
しかし、毎月口座やクレジットカードから自動で一定額が引き落とされる「積立投資」を設定しておけば、自分の感情とは関係なく、暴落している最中も淡々と安く仕込み続けることができます。これこそが、仕組みの力です。
また、「お金が貯められない」という人も、残ったお金を貯蓄にまわそうとするから失敗するのです。これも行動経済学の応用で、「先に貯蓄分を取りわけて、残ったお金で生活する」という先取り貯蓄の仕組みをつくれば、罪悪感なくお金を使いながら自然と資産を増やすことができます。
見たい情報だけを集める「確証バイアス」に要注意
――情報収集についても教えてください。いまはYouTubeやSNSなどで手軽に投資情報が集められますが、ここにも罠のようなものはありますか?
頼藤太希:もちろん注意が必要です。SNSや動画サイトで情報収集をしている人の多くは、無意識のうちに「自分が最初から信じたい、見たい情報」だけを集めています。これを、「確証バイアス」と呼びます。
さらに厄介なのが、インターネットの「レコメンド(おすすめ)機能」です。一度特定の動画や記事を見ると、システムが自動的に同じような主張の情報をどんどん運んできます。その結果、自分の偏った思い込みを補強する情報ばかりに囲まれ、「自分の考えは絶対に正しい」と誤認して間違った投資行動に走ってしまうのです。一見便利な機能ですが、適切な判断に対する邪魔者にもなり得ます。
だからこそ自分の意見とはあえて真逆の意見に触れる必要がありますし、見方の異なる意見を客観的に取り入れている信頼性の高い情報媒体(日本経済新聞やBloombergなど)を自ら見にいく癖をつけなければなりません。
地政学リスクについても、ネット上には極端な「市場破綻論」を唱えて人々の不安をあおる人が大勢います。しかし、そのような極端な論調ばかりを気にしていても意味がありません。地政学的な変化を多面的にとらえる専門家の意見も含め、複数の視点から世界がどう動いていくのかをフラットに眺めることが大切です。
過去の数字や周囲の行動にとらわれる心理現象
――投資の世界で、私たちが他にも注意すべき代表的なバイアスはありますか?
頼藤太希:特に影響が大きいのは、「アンカリング」です。これは、最初に目にした数字や情報に心が引っ張られてしまう現象を指します。わかりやすい例が、通販サイトのセールです。「元値5万円のものが2万5000円」と書かれていると、めちゃくちゃ安く感じて飛びつきたくなりますよね?
これは、5万円という最初の数字に引っ張られているからです。でも、「そもそも5万円の価値が伴っているのか?」「最初から2万5000円の価値しかないのでは?」と冷静に考えなければなりません。投資でも、過去の株価水準や史上最高値といった数字にとらわれて、現在の適正な価値を見誤ってしまうケースが非常に多いのです。
また、「情報のカスケード」や「バンドワゴン効果」と呼ばれる心理現象も投資に大きな影響を及ぼします。これは、簡単にいうと「みんながやっているから安心」という心理を生むものです。「損をしたくないから、みんなと同じオルカンやS&P500をやろう」と、周囲の流行に乗っかっている状態ですね。
もちろんオルカンに投資するのは合理的ですが、それがインフルエンサーの受け売りや「みんながやっているから」ではなく、なぜそれを選ぶのかという理由に腹落ちしているかどうかが重要です。私の著書でもオルカンを推奨していますが、それは地政学的なリスク分散や、インデックス投資が持つ再現性の高さを理解したうえで合理的だと判断しているからです。中身を知らずにブームだからと飛びついていると、いざというときに自分を保てなくなります。
――なかなか投資に一歩を踏み出せないのも、なんらかの心理が働いているのでしょうか。
頼藤太希:それは、「現状維持バイアス」と「損失回避バイアス」の組み合わせです。人間は、変化に伴うリスクを「損」だと感じ、いまの状態を心地よく感じて変えたがらない防衛本能を持っています。私が大学などで数ヶ月に及ぶ連続講義で教える際、指定席でもないのにほとんどの受講生は毎回まったく同じ席に座ります。最初に選んだ何気ない席を心地よいと感じ、現状を維持しようとするのです。これと同じで、「いまのまま、現預金だけで持っている方が心地よい」と変化を拒む心理が、資産運用へのステップを阻む大きな原因になっています。
投資をまだはじめていない人はもちろん、すでに投資をはじめている人も、自分がなんらかのバイアスにかかっていないか、一歩引いて考える習慣が必要だと考えます。
再現性が高く平均点を狙えるインデックス投資
――投資の手法にはインデックス以外にもいろいろとありますが、初心者はどのように選べばいいですか?
頼藤太希:投資の世界には、大きくわけて「インデックス派」「ファンダメンタルズ派(企業の財務分析を重視)」「テクニカル派(チャート分析を重視)」という3つの流派が存在します。お互いが自分とは異なる流派に対して否定的ということがよく見られますが、どれかひとつが正しいということはありません。
ただ、投資をする目的は「お金を増やすこと」であり、そのために「誰もができる手法」はどれかと聞かれれば、それは間違いなく「インデックス投資」です。難しい勉強をせずとも、時間をかければ市場平均に近い成果を目指せる再現性の高い投資手法だからです。まずはここからやってみるのがベストでしょう。
――インデックス投資からはじめて、他の手法にステップアップしていくのはアリですか?
頼藤太希:もちろん、インデックスをベースにしながらファンダメンタルズ投資やテクニカル投資を取り入れていくことになんの問題もありません。ただ、それらの手法で勝ち続けるのは非常に難しいということは覚悟しておくべきです。
面白いもので、一流の投資家の多くはすべての手法を経験します。有名な投資家のテスタさんも、最初はテクニカルによるデイトレードからはじめ、資産規模が大きくなってからはファンダメンタルズでの長期投資へ移行したといいます。そして、さらに資産が増えると、米国株や世界株、金などのインデックス投資をポートフォリオに組み込んでいます。どんな手法からはじめたとしても、最終的にはすべての流派を融合させていくことになるのだと思いますし、合わなければインデックス1本に絞ればいいのではないでしょうか。
人生の満足度を高めるための「足るを知る」の精神
――最後に、投資で資産が増えていくなかで、私たちが惑わされないために絶対に持っておくべき心構えを教えてください。
頼藤太希:最も大切なのは、「足るを知る」という精神だと思います。資産が順調に増えてくると、人間は「より多く、もっともっと増やしたい」と際限のない欲求に駆られます。しかし、増やしたお金は人生のどこかで使わなければ意味がありません。「億り人になりたい」という承認欲求や周囲からの称賛を満たすために投資をしていると、ゴールのないゲームにいずれ疲弊してしまいます。幸福学の観点からも、10億円、20億円と資産を増やし続けたところで、個人の幸福度はそれほど変わらないといわれます。
だからこそ、どこかのタイミングで「自分にとってはこれで十分だ」というラインをあらかじめ決める必要があるのです。投資を趣味として人生のすべてを捧げたいのなら話は別ですが、ほとんどの人にとって投資は趣味ではなく、手間をかけずに将来の安心を得るための手段でしょう。
人生には、投資よりも楽しいこと、時間を費やすべき仕事や趣味、大切な人との時間がたくさんあるはずです。時間をかけずにインデックス投資で堅実に市場平均に近い成果を得られたら、あとは「足るを知る」の精神で無駄な欲求は抑える。残った貴重な時間とお金は、自分の人生を豊かにする別の場所にしっかりと使ってほしいと思います。
頼藤 太希(よりふじ たいき)
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。日経CNBCコメンテーター。確定拠出年金制度の運用改善等に関する有識者懇談会構成員。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保のアフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍120冊超、累計200万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
