株価好調ないまこそ身につけておきたい。相場急変でも揺るがない「暴落耐性」のイロハ

実際に株式投資を始めてみると、新たな悩みや不安が次々と湧いてくるものだ。毎日のように評価損益をチェックしては一喜一憂し、暴落に不安を抱える投資ビギナーは少なくない。専門家でも予測が困難な相場の世界において、自分の資産や感情とどう向き合い、管理していけばいいだろうか。120冊以上の著書・監修書を持つマネーコンサルタントの頼藤太希氏に、運用開始後のリアルな疑問に答えてもらった。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「NISA貧乏」に潜む危険
――株式投資を始めた人から、頼藤さんのもとにどのような相談が寄せられることが多いですか?
頼藤太希:個別相談で圧倒的に多いのは、やはり「暴落」に関する不安についてです。例えば、「トランプ関税で世界経済はどう変わるのか」「地政学リスクによって自分の資産はどうなってしまうのか」「暴落への対策として金や債券をどれくらい組み込めばいいのか」といったような相談です。
また最近の特徴としては、足元の株高につられて手元の現金の大半を株式投資に回してしまう「NISA貧乏」ともいえる状態に陥る人が増えています。「いま株価が上がっているから、一刻も早く満額を入金しなければ損をする」と焦ってしまい、預貯金がカツカツになっているケースが後を絶ちません。
しかし、これはかなり危うい状況です。それこそ、歴史的な大暴落が起こると、市場が元の水準に回復するまで、数年にわたり沈んだ状態が続きます。もし手元に現金がない状態でそんなことになったら、日々の生活自体が厳しくなることは目に見えています。もちろん、株を売却すれば現金が手元にある状態になりますが、暴落している最中に株を売ったら損することは明白です。よって、安易に株を売るわけにもいきません。
そして、株価が下がっているときこそ「安くたくさん仕込めるチャンス」なのですが、手元に現金がなければ買い増しもできません。株式投資に全振りしがちな人が増えているいまだからこそ、現金比率を高めておく重要性についても見直してほしいと思っています。
損益チェックは毎日やっても問題なし
――株式投資の経験が浅いと、毎日のように評価損益をチェックしては増えた減ったと一喜一憂してしまいがちです。よく、「ほったらかしこそ最強」といわれますが、毎日チェックするのは控えたほうがいいですか?
頼藤太希:専門家やインフルエンサーの多くが、「一度設定したらチェックせずに放置したほうがいい」といいますよね。そのため、「毎日チェックするのは悪いことだ」と思い込んでいる人もいるのですが、わたしはむしろ、「毎日でなくても定期的にチェックしたほうがいい」と考えています。なぜなら、自分の目で確認することで、資産が市場の動きに合わせてどのように変動するものなのか、身を以て掴むことができるからです。これはとてもいい勉強になります。
例えば、「日経平均株価やS&P500が史上最高値を更新した」というニュースが流れているのに、自分の資産があまり増えていなかったとします。すると「なぜだろう?」と気になりませんか?そこでポートフォリオの偏りに気づいたり、見直しのきっかけが生まれたりするわけです。勉強のために、資産の推移をこまめに確認することは問題ありません。
ただ、ひとつだけ守ってほしい鉄則があります。それは「チェックしても、大した意図なくして売却してはいけない」ということです。
――見るのはいいけれど、怖くなって売るのだけはNGということですね。
頼藤太希:その通りです。先の暴落の話にも通じますが、「自分のリスク許容度に合わせて投資をしよう」といわれます。だけど、自分がどれくらいのリスクに耐えられるかなんて、誰もわかりませんよね。それが最もはっきりとわかるのが、暴落が起きたときなのです。
例えば、人気のオルカンやS&P500といった投資信託を100万円分買っていたとします。暴落が来るときはたいていセットで急激な円高も進むため、わたしたちの円建ての資産は勢いよく目減りしていきます。
「自分は30万円くらいの損失なら耐えられる」と頭では理解していても、実際にスマホやパソコンの画面で半分の資産が消え去っているのを見たときにどう感じるか?「これはやばい!一刻も早く売ってこれ以上減るのを止めたい」とパニックになるようであれば、それは完全にリスクの取り過ぎです。
暴落という“本番”で自分の感情がどう動くのかは実際にそうなってみてこそわかります。下がり続けるのがどうしても怖いとわかったら、「現金の比率をもう少し高めよう」「値動きの異なる金や債券を入れてみよう」というように、自分に合った資産配分へと見直していけばいいのです。
事前に暴落時に耐えられるプランにしておく
――個人投資家は、「できれば、次の暴落やバブルがいつくるかを見抜いて賢く立ち回りたい」と考えますが、プロでも予測は難しいのでしょうか?
頼藤太希:はっきりいって不可能に近いでしょう。専門家であっても、今後の市場を完璧に予測することはできません。
いま、世間では「AI・半導体バブル」などといわれていて、関連銘柄ならなんでも上がるような状態です。確かにバブルのような熱気を感じますが、これが「いつ終わるのか」は誰にもわからないのです。まだまだ本格的な株価上昇への地固め段階かもしれないし、弾ける一歩手前かもしれません。結局のところ、すべてが崩壊したあとに振り返ってはじめて「あれはバブルだった」と判断できるものなのです。
ですから、値上がりしているときは相場の格言通り、その波に乗っていくことです。ただし、いつか必ず暴落がくるということを想定して、資産形成の準備をしておくことは不可欠です。
いつ暴落がくるかというタイミングもわからなければ、どれくらい深く沈み、どれくらいその期間が続くかも見えません。そうであるなら、最初から「数年間は深く沈み続けるような大地震級の暴落がきても大丈夫なプラン(コンティンジェンシープラン)」を自分のなかで決めておくべきなのです。
――暴落の期間を乗り切るため、具体的にはどのような準備が必要ですか?
頼藤太希:確実なのは、やはり預貯金(現金)をしっかり手元に置いておくことです。働いていないリタイア層であれば、生活費の3年分を現金で持っておくのがベターな戦略ですが、収入のある現役世代であっても生活を維持するための防衛資金が盾になります。
また、暴落中に「資産がひたすら目減りするのを我慢して待つだけ」というのは精神的にかなりキツいですよね?そこで心のゆとりを生み出してくれるのが、持っているだけで定期的に収入が入ってくる「キャッシュフロー資産」です。
ポートフォリオのなかに、債券や高配当株、REIT(不動産投資信託)などを加えておくと、暴落中であってもインカムゲインという確実な現金収入が入ってくるため、心を落ち着かせることができ、狼狽売りなどを防ぐことができるでしょう。
リバランスは年に一度だけ行えばいい
――ポートフォリオに関連することとしては、資産配分の比率を元に戻す「リバランス」について悩む人がいます。これもまた、株式投資において欠かせない要素ですか?
頼藤太希:それこそ足元は株が上昇しているので(2026年6月現在)、確かに結果論としては「リバランスをせず株をそのまま持っていた人」が資産を増やしています。しかし、お金というのは、人生のどこかで「使う」ためにあるのであり、そのために投資しているのですよね?
将来、子どもの教育資金が必要になったタイミングや、自分が定年を迎えたときが、都合よく株高局面だとは限りません。もし、大停滞期や暴落局面にぶつかってしまったとき、過度に株だけに偏った資産運用をしていると、大損した状態で取り崩さざるを得なくなります。いざというときにいつでもお金を使いやすくしておくために、リバランスによって適切な配分を守る必要があると考えます。
――一般の個人投資家の場合、どれくらいの頻度でどのようにリバランスを行うのがいいですか?
頼藤太希:個人投資家がやるのであれば、「年に一度」の確認で十分です。毎月やるのは手間がかかり過ぎますし、過去のデータで検証しても「年に一度のリバランスで十分に効果がある」ということがわかっています。例えば年末や夏休みなど、時期を決めて定期的に行うといいでしょう。
具体的な方法ですが、基本的には「値上がりして増え過ぎた資産を一部売却し、そのお金で値下がりして減ってしまった資産を買い足す」という「スイッチング」がメインになります。ここで絶対にやってはいけないのは、怖くなって「値下がりしている資産を売却してしまう」ことです。逆をやっては意味がありません。
いま、世界的に株が上がって債券価格が下がっている状態です。債券価格が下がっている理由は主に金利が上がっているからですが、裏を返せば「金利が上がっている=債券投資のうまみが格段に増している」ということを意味します。日本の個人向け国債でも年2%近くの金利がつく時代ですから、無理に株だけでリスクを取りにいかず、値下がりしている債券を買い足すことはとても賢いリバランスだといえます。
なお、NISA口座の場合は、一度売却すると年間投資枠の管理が少しややこしくなるため、毎月の積立金額の比率を変えて調整する「配分変更」で時間をかけて戻すのもひとつの手です。自分のやりやすい方法を選んでみてください。
「そもそもなぜ投資を始めたか」を忘れない
――市場が不安定になったとしても、挫折せずに株式投資を長く楽しく続けていくために、わたしたちが持っておくべきマインドを教えてください。
頼藤太希:多くの人が行っている「長期・積立・分散投資」は、そもそもなにを根拠にしているのでしょうか?それは、「数十年後の将来、世界の経済や資産価値はきっといまより上がっている」という根拠です。
目先の株価の上下ばかりを見ていると、「最高値を更新したから高い」「暴落したから怖い」と感情がブレてしまいます。しかし、視点を20年後や30年後に置いてみてください。なぜ将来、世界株は上がるといえるのか——。その答えはシンプルで、世界の人口がいまも増え続けているからです。
人口が増えれば、いまより多くのモノやサービスが消費されます。消費が増えれば、企業は生産を増やさざるを得ず、経済のサイクルがぐるぐると回り、企業の業績、ひいては株価水準だって上がっていきます。さらに、需要の拡大に伴うインフレも株価の上昇を後押しするでしょう。
また、「日本は人口が減っているから日本株はダメ」という意見もありますが、日本企業は日本人だけを相手に商売をしているわけではありません。世界を市場にしている企業であれば、世界経済の拡大とともに業績は上がっていくのです。
投資という言葉の本当の意味は、「将来、資産価値が増えるものにお金を投じる」ということです。暴落の恐怖に負けて途中で売ってしまうということは、自分が投資した未来を信じていなかったということになります。目の前の怖さに襲われたときこそ一歩引いて、「自分はなんのために、どこの未来を見て投資を始めたのか」という原点を忘れないようにしてください。
頼藤 太希(よりふじ たいき)
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。日経CNBCコメンテーター。確定拠出年金制度の運用改善等に関する有識者懇談会構成員。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保のアフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日本テレビ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)など書籍120冊超、累計200万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
