米ドル信用不安をどう見るか。米国債の現在地と今後の展望

長らく続いた低金利時代が終焉を迎え、高い利回りが確保できる「債券」に関心を向ける投資家もいる。その主役は米国債だが、ここ数年におけるFRBの急激な利上げや、米ドルの信用不安説など、米国債に影響し得る情報が錯綜し、判断に迷う投資家も少なくないだろう。『元証券マンが教える 利回り18.5%を実現する米国債投資』(KADOKAWA)の著者であり、富裕層向けのプライベートバンカー、ファイナンシャルプランナーとして活躍するヨウヘイ氏に、米国債の現在と今後の見通しについて、個人投資家が持つべき視点を語ってもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
基軸通貨「米ドル」の地位は揺るがない
——昨今、米ドルの信用低下や基軸通貨としての地位が危ういという声もあります。米国経済の先行きと米ドルの将来をどう見ていますか?
ヨウヘイ:結論をいえば、米ドルが基軸通貨から転落することは、向こう10年、20年のスパンであれば99%ないと確信しています。
もちろん、100年後の未来は誰にもわかりませんが、現状において米ドルに代わる決済通貨は他に存在しないからです。シェアで次点に来るのはユーロですが、米ドルを脅かすほどではありません。また、日本円や、大穴としての人民元という議論もありますが、どれも現状では米ドルの代替になり得る段階にはないでしょう。つまり、消去法的に見て基軸通貨が「米ドル一択」という状況は変わらないといえます。
確かに、世界全体のGDPや企業の時価総額における米国のシェアは、他国の成長によって相対的に低下していくでしょう。米国自身も莫大な財政赤字を抱えており、毎年「逆複利」のように赤字が膨らんでいることは事実です。しかしそれは、「米国が以前ほど圧倒的ではなくなる」ということであって、覇権を失うとか米ドルが基軸通貨でなくなることとは別の問題です。シェアは多少落ちつつも、世界のトップを維持し続けるというのが、投資戦略を立てるうえでの揺るぎない土台になります。
——最近では、中国などの国々が米国債を売却しているというニュースがあり、米国債暴落の不安を煽っていますね。
ヨウヘイ:「米国債暴落論」については、現時点では客観的な状況に照らしてナンセンスだといわざるを得ません。
確かに、中国をはじめ各国が米国債の保有額を減らしているのは事実です。しかし、それでも米国債の利回りは現在(2026年3月12日時点)も10年債で4%程度。急激な上昇もなく安定している事実を重視するべきでしょう。それは、中国という大きな売り手を上回るほどの「買い手」が世界中に存在しているということを意味します。買い需要が売り需要を吸収し、需給が均衡しているからこそ価格は維持されているのです。
また、中国が保有する米国債をすべて投げ売りし、ゴールドなどに替えることは非現実的です。米国債に代わる、これほど巨大な受け皿となる安全資産は他に存在しません。市場が暴落するほどの売却を行えば自国の資産価値も毀損しますし、米国債を保有していること自体が強力な外交カードにもなります。徐々に減らすことはあっても、一気にゼロにするシナリオは考えにくいでしょう。マーケットのノイズに惑わされず、数字の裏にある需給を冷静に見ることが大切だと考えます。
「安全資産」としての米国債が抱えるリスク
——では、米国債はこれまで同様に「安全資産」として安心して保有し続けていいのでしょうか?
ヨウヘイ:基本的には安心して持っていていいと考えます。まして、デフォルト(債務不履行)については、誰もがそうだと思いますが、わたしもまったく心配していません。満期まで保有して償還を受けるにあたり、元本と利息が支払われないという事態は想定しづらいでしょう。
ただし、注意が必要なのは「債券価格の変動(ボラティリティ)」です。米国債は、景気の良し悪しによる金利の変動を受けて大きく価格が動きます。過去を見ても、1年で債券価格が3割も動くようなことは珍しくありません。
特にTLT(米国債20年超ETF)やEDV(超長期債ETF)のようなETFで米国債を保有する場合、これらは金利の動きに対して非常に敏感に反応します。ですから、「安全資産だから価格も動かない」という思い込みは禁物です。資産総額の目減りを極端に嫌う方は、この価格変動特性を正しく理解しておく必要があります。
——ボラティリティの要因である今後の金利動向について、どのように予測されていますか?
ヨウヘイ:米国債の金利動向をひとことでいえば、長期的には「徐々に切り上がっていく」イメージを持っています。
具体的には、2000年代や2010年代の低金利時代に比べれば、2020年代の金利平均値は高くなり、さらに2030年代は2020年代よりも高くなっていくという右肩上がりの推移を想定しています。もちろん、景気が悪ければ金利は下がりますし、よければ上がります。その波を平均したときのボトムラインが、少しずつ底上げされていくという考え方です。債券の金利と価格は逆相関しますから、安全資産には違いありませんが、中長期的には債券価格が低下するリスクがあるということです。
金利が上昇すると考える理由は、先に触れた米国の財政状況も関係しています。多額の借金を抱える国がその信用を維持するためには、相応の金利を支払わざるを得ない側面があります。歴史を振り返れば、いまの10年債で4%台という水準は過去20年ほどでは高いですが、1980年代の8%超といった時代に比べれば、けっして「異常な高金利」でもありません。むしろ、近年の「超低金利」という特異な時代にわたしたちが慣れてしまっただけで、金利の伸び代はまだまだあるというわけです。
米国債はいま、「買いどき」といえるか
——そうした状況と予測を踏まえ、個人投資家にとって、いまは米国債の「買いどき」だといえるでしょうか?
ヨウヘイ:前提として、米国債投資において重要なことは、「金利(インカムゲイン)を取るのか、価格上昇(キャピタルゲイン)を取るのか」という目的を明確にすることです。
金利を確保したいのであれば、中長期的にさらに金利が上昇する可能性があるとはいえ、現在の10年債利回り4%は歴史的に見ても十分に魅力的な水準です。より短期的な「利上げサイクル」の時間軸で見れば、ピークアウトしているか、ピークに近い位置にいるのは確かです。そのため、サイクルを超えた長期視点では買いどきとは言い難いのですが、短期的には金利は下方向(価格は上昇)に向かう可能性が高いと見ていますから、ここ数年のスパンで購入タイミングを検討するなら、いまは買いどきといえるでしょう。
——一方、キャピタルゲイン狙いの投資では買いどきといえますか?
ヨウヘイ:長らく10年債金利が4%台で高止まりしてきましたが、先の通り景気後退による金利低下(価格の上昇)が短期的に見込まれますから、そのように予測する方には買いどきとなるでしょう。
ただし、債券の買いどきを測ることは簡単ではありません。先に中国の米国債売りによる影響は、買い需要が吸収しているため問題ないと伝えましたが、なんらかの理由で売り需要が高まり買い需要が減少すれば、暴落も起こり得ます。現に、2022年にはイギリスのリズ・トラス政権の減税政策への不信感から、投資家がイギリス国債を売り浴びせて急激な金利上昇と暴落を起こした「トラス・ショック」の例もあります。米国債においても、投資家の信頼を失うシナリオが起こる可能性はゼロではありません。
もちろん、そのような事態が起これば大きな含み損を被るものの、暴落の原因次第では明確な買いのチャンスにもなり得ます。長期的な視野で、いかなるシナリオにも対応できる準備と余裕を持った投資をおすすめします。
ヨウヘイ
ファイナンシャル・プランナー資格、プライベートバンカー資格を保有する元証券マン。現在は、投資商品を一切売らない独立系ファイナンシャル・プランナーとして富裕層の資産運用を本業とし、13年間で1,000名以上の家計管理に対応。また、株式投資歴15年/不動産投資歴10年の投資家として活動。YouTubeチャンネル「【ヨウヘイ】元証券マンの誰でも分かるお金の話」は2026年3月3日時点で登録者25万人以上。著書に『元証券マンが教える 利回り18.5%を実現する米国債投資』がある。
