脱・高配当株で資産を増やす。リーマン・ショックで悟った、キャピタル・インカム両獲りの「増配株」選定術

「資産も配当金も増えない可能性が高いため、高配当株投資という言葉は使わない」と語るのは、増配株に特化した個人投資家の配当太郎氏だ。2008年のリーマン・ショックで大半の資産を失った経験を機に、配当利回りのみに固執せず、企業の成長性とそれに伴う「増配」に主眼を置いた「増配株投資(配当株投資)」を開始。2025年現在、ポートフォリオの9割が増配銘柄であり、キャピタルゲイン、インカムゲインともに増え続けているという。同氏が推す、「増配株投資」について聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
リーマンショックを機に配当株投資をスタート
——配当太郎さんが株式投資をはじめたきっかけを教えてください。
配当太郎:10代の学生だった2006年に証券口座を開設しました。当時はいわゆる「ライブドア・ショック」の直後で相場は底値でしたから、ネットや雑誌を参考に話題になっている銘柄を選ぶだけですぐに利益が出て、数十万円の元手が1カ月で100万円ほどになりました。その後も市場環境はよく、注目を集めそうな銘柄にいち早く乗ることで順調に利益を得ることができたのです。資産がどんどん増えていったこともあり、株式投資を舐めてしまった感は否めません。
しかし、2008年の「リーマン・ショック」で状況は一変します。資産の大半を失うような損失を出してしまい、「これからどうしようか」と途方に暮れていたのですが、大負けしている状況でも一部の企業からの配当金が入ってきていたのです。配当金のありがたみを実感し、出直しの戦略として着目したのが、現在もメインの投資戦略としている配当株投資でした。
——リーマン・ショックで多くの銘柄が底値になったのですから、キャピタルゲイン狙いでもよかったのではないですか?
配当太郎:その後のことがわかる「現在」から見れば確かにそうですが、当時は日経平均株価も長期的に低迷し続けていましたからね。「これから日本株は上がっていくぞ!」とポジティブな確信を持てる雰囲気ではなかったのです。それこそ、短期・中期的にも、多くの銘柄が上がるとすぐに値を戻すボックス相場になっていて、投資しづらかった記憶があります。でも、それも当然です。それまでは業績などを気にせずに、直感的な株式投資ばかりをしていたので、チャンスの目が見えなくなっていたわけです。
むしろ、配当株投資にシフトチェンジしたことで、配当利回りが高いものを探すためにしっかりと財務諸表をチェックするようになり、株式投資で勝てる可能性が高まりました。リーマン・ショック後の日本市場は2012年頃まで低迷している状況だったのですが、財務諸表を見る限り利益をしっかりと生み出している企業はありました。それなのに株価は低いのですから、配当利回りが高いだけでなく、将来的に株価が上昇すれば資産の増加も期待できる状況だったのです。
そこで、配当利回りだけでなく業績や経営計画もしっかり見て、将来的に増配する可能性の高い「増配銘柄」の永久保有を前提に株を買い集めるようになり、わたしはそれを「増配株投資」と呼んでいます。それから15年近くが経ち、現在では保有資産の9割が大型株を中心とした増配株で、概ね増配し続けてくれています。
「高配当株投資」では成長性のない銘柄を掴みかねない
——配当太郎さんの投資戦略は、一般的に「高配当株投資」と呼ばれていますよね。その呼び名を避けて、「配当株投資」や「増配株投資」と呼ぶのはなぜですか?
配当太郎:「高配当株投資」といってしまうと、「とにかく配当利回りの高い銘柄を買う投資」のように思われてしまい、それでは資産も配当金も増えにくいと考えているからです。わたしの著書『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』や『新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資』(共にクロスメディア・パブリッシング)でも、「高配当株投資」という言葉は一度も使っていません。
「配当利回りが高い」ということは、必ずしも業績好調で配当金を多く還元しているとは限らないのです。むしろ、株価がなんらかの理由で低迷しているか、利益に対して過剰な配当金が支払われている可能性もあり、企業が「稼ぐ力(成長原資)」を損なっている場合があります。それでは、一時的に配当利回りが高くても、その配当を維持できるとは限らず、結局は業績が悪化し、減配・無配を引き起こして配当利回りを大きく下げることもあります。
なかでも、過剰な株主還元によって配当利回りを高めている企業には注意が必要です。2023年に東証が発した「PBR1倍割れ是正」の要請を受け、内部留保によって厚くなった自己資本を配当金のかたちで株主還元し、株価上昇を図るケースは増えています。また、2024年の日経平均株価の最高値更新の流れから、国内外の投資家からの資金流入が増加しているため、配当性向を高めることは投資を集める効果的な手段でしょう。
しかし本来、株主配当は企業が得た利益の一部を還元するものです。利益に比して過剰な株主還元(=過剰な配当性向)を行えば、企業の成長投資に充てる資金を失い、財務健全性は損なわれるばかりです。ですから、「配当利回り」を追求する投資では、こうした過剰な株主還元策を打つ銘柄を投資候補に入れてしまいかねないと考えます。
——そこで、高配当であることより、健全に積極的な配当を行う「配当株」や、業績向上による持続的な増配を期待できる「増配株」を探すわけですね。
配当太郎:そうです。財務諸表や中期経営計画を参照し、企業の「伸びしろ」を重視すること。また、株主還元策を参照し、株主還元に対する高い意識を持つことを確認したうえで投資を行っています。
たとえ現在の配当利回りは2%程度で高くなくとも、現在1株あたり10円の配当金を出している企業が毎年1円ずつ増配し続ければ10年後の配当金は20円となり、配当金も配当利回りも2倍になるわけです。いずれ配当総額が取得金額を上回れば、あとは利益だけを生み出してくれる宝箱になってくれます。
そうした連続増配する銘柄をいかに集めるかが、わたしの投資戦略です。特に重視するのはEPS(1株当たり純利益)です。EPSが年々増加すれば株主配当は増配となり、投資が集まって株価も上昇しますから、投資家にとってはインカムゲインとキャピタルゲインの両方で資産を増やすことにつながります。
自社株買いに積極的な銘柄に期待
——現在の日本市場は、配当株投資において追い風といえる状況でしょうか?
配当太郎:不利な状況にはないと考えています。まだまだ「PBR1倍割れ是正」要請に対応できていない小型株は多く、これから資本を解放し、株主還元策や成長投資の強化に打って出る企業も多いでしょう。健全な成長戦略と株主還元策を掲げる企業に早くから投資することが大切だと思います。
——これから配当株投資、増配株投資を行うのなら、大型株と中小型株のどちらが有利だと見ますか?
配当太郎:市場環境に関わらず、初めての人には大型株、特に業界トップシェアの銘柄をおすすめします。トップシェア企業はそれだけ差別化された競争優位性を持っていて、営業利益率もEPSも高い傾向にあります。ですから、まずは大型株を実際に買ってみたうえで、その他の銘柄との比較検討のなかで「成長の伸びしろ」を見つけ出す素養を磨いていくのがいいと思います。
また、大型株と中小型株のどちらが有利かといえば、「どちらでもない」というのがわたしの答えです。まず、人口減少による国内市場の縮小を見越せば、大型株の成長ドライバーが海外事業売上にあることは間違いないでしょう。一方、高い資本力とグローバルネットワークを持つ大企業とは違い、中小型株では海外進出が進まないか、失敗に終わる可能性もあります。
しかし、内需型の中小型株に未来がないかといえばそうでもありません。市場が縮小するといっても、2025年現在、日本は世界5位のGDPを誇る巨大市場です。それぞれの業界特性や市場のなかで、いかに成長可能性のある事業を行っているかを見定めていくことが大切です。
わたしが今後注目しているのは、大型株の自社株買いです。中小型株に比べれば大型株は安定感があるものの成長性は鈍化しており、事業成長だけでEPSを向上させ続けることは困難です。よって、配当性向を高める以外で投資を集める方法があるとすれば、自社株買いの活用が重要になってくるでしょう。
自社株買いをして市場の発行済株式数を減らせば、「1株あたりの利益」であるEPSは上昇します。また、自己資本が減少するため、当期純利益は同じでもROE(自己資本利益率)も上昇します。こうした、わかりやすい財務指標が上昇すれば投資が集まって株価が上昇し、将来的な連続増配の可能性も高まるというわけです。
——しかし、自社株取得枠を設定しても消化し切らないケースもありますね?
配当太郎:まったく行わないことはないものの、上限まで買わないケースは確かにあります。それを厳格に捉える必要はないと考えますが、企業の株主還元に対する信頼性には関わるでしょう。
例えば、本田技研工業(ホンダ)は2024年に、競合メーカーとの経営統合を控えて約1兆円もの自社株買いを発表しましたが、その後、経営統合は解消になりました。統合前に自社株をコントロールできるうちに手を打ったのでしょうから、経営統合が解消になった以上、「やっぱりやめます」といっても問題はなかったと思うのです。
それでもホンダは2025年9月に、約束通り1兆円規模の自社株買いを実施しました。これは、投資家からすれば確実に企業への信頼が高まるアクションでした。「約束通りに自社株買いをしたのだから、ホンダは株主を重視している。また将来的に資本が厚くなったら自社株買いを行ってくれるだろう」という期待感につながります。
株主にとって魅力的な方針が打ち出されても、それが約束止まりでは意味がありません。増配株を探すにあたっては、企業業績や経営計画だけでなく、計画に対する本気度や、IRの情報開示の姿勢、株主コミュニケーションへの積極性などを総合的に見て、企業の信頼性を確認していくことも大切なポイントといえるでしょう。
配当太郎(はいとうたろう)
30代の個人投資家。学生時代に株式投資をはじめ、リーマン・ショックを経て配当株投資(増配株投資)に目覚める。大型株を中心に投資し、保有銘柄の9割は配当金が年々増える「増配銘柄」が占める。株式投資に関する情報を発信するX(旧Twitter)のフォロワーは23万人超(2025年10月現在)。著書に『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』『新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
