投資初心者にこそ日本株をすすめたい。普通のサラリーマンが日本株投資で「億り人」になれた理由
近年、米国株の成長実績の高さから、多くの個人投資家が「オルカン」「S&P500」といったインデックスや、高配当ETFへの投資を行っている。一方、少子高齢化に歯止めがかからず国内市場の縮小に見舞われる日本株については、将来的な成長性は未知数だ。しかし、「長期高配当投資に関していえば、日本株は米国株に劣るものではない」と語るのは、月5万円から日本株投資をはじめて18年間で資産1億円を達成した個人投資家の「長期株式投資」氏だ。なぜ、成長性のある米国株ではなく日本株に投資するのか——。特別な才能やテクニックがなくても「億り人」になれる、日本株投資の魅力と成功の秘訣を聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
日本高配当株投資で資産1億円を達成できた理由
——まずは、長期株式投資さんの投資スタイルと投資遍歴についてお聞かせください。
長期株式投資:わたしが株式投資を始めたのは2004年で、月々5万円からのスモールスタートでした。当時は、流行りの新興株を中心に投資していましたね。ライブドアが全盛期だった頃で、サミーネットワークス(現:サミーの子会社)やバンダイネットワークス(現:バンダイナムコHDに吸収合併)といったネット関連株を買っていました。
しかし、2006年のライブドアショックで痛い目に遭い……その後も2008年のリーマンショックで含み損が600万円まで膨らむという苦い経験をしました。この時期を境に、投資スタイルを大きく転換し、大型の高配当株を中心とした投資に切り替えたのです。
その時点の資産は約1,000万円で、以降は労働収入から毎月10万円程度を追加投資していくかたちで運用を続けていました。はじめは年間15万円程度の配当金を再投資しながらコツコツと資産を積み上げ、次第に年間配当は200万円に達し、2023年3月についに資産1億円を達成することができました。2004年から数えると、そこまで約18年間の道のりでした。
——日本高配当株投資で、それほどの利益を得られたのはなぜなのでしょうか?
長期株式投資:決して特別な投資戦略を駆使したということはなく、「高配当銘柄への長期投資を愚直に続けたから」にほかならないと思います。
株式投資研究の権威であるジェレミー・シーゲル教授の著書『株式投資の未来』(日経BP社)に大きな影響を受けたのですが、この本の内容は、過去数十年間の株価データを調べ上げ、どのような投資戦略が有効かを実証的に示したものでした。シーゲル教授は、配当を再投資して複利効果で長期運用すれば、高いリターンが得られる蓋然性が高いことをデータで示しており、短期投資や成長株投資に限界を感じていたわたしには非常に説得力があったのです。
また、同著には、銘柄選びにおいても「成長の罠」という示唆があります。例えば、みなさんは1950年当時に戻って投資できるとしたら、当時バリバリの成長株であったハイテク企業IBMと、当時すでに成熟しきっていた石油産業のエクソンモービル(当時はスタンダード・オイル)のどちらに投資をしますか?
おそらく多くの人がIBMのリターンに期待すると思いますが、実は1950年から2003年までのリターンは、エクソンモービルが大きく上回っています。IBMが高い増益率を達成したことは事実ですが、それ以上に投資家の期待が集まり過ぎて株価が実際の企業価値を上回ってしまい、利回りは低く抑えられてしまったのです。これはまさに、株式の長期的なリターンは、「企業の増益率」よりも「増益率と投資家の期待の差」で決まることを表しています。そのため、将来的な成長性で銘柄を選ぶのではなく、リターンの実績を重視し、株価が割安な銘柄を割安なタイミングで取得することが大切です。
とはいえ、はじめの頃は銘柄選びも見よう見まねでした。同著では過去のリターン実績が高いセクターとして、ヘルスケアや生活必需品セクターが紹介されていたので、優先的に投資してみました。ヘルスケアセクターなら武田薬品やアステラス製薬、生活必需品セクターなら花王といった具合に、日本株でシーゲル教授の理論を実践してみたのです。それから勉強を深め、リターンを高める地道な努力をしてきました。
——割安な銘柄を割安なタイミングで取得するという、その努力を重ねることが重要なのですね。
長期株式投資:そうですね。とはいえ、銘柄選びは重要ですが、タイミングで上振れできるリターンは、そこまで大きいとは思いません。ですから、投資ビギナーであれば、あまり難しく考えずに投資を長期で毎月(毎年)継続することが重要なポイントになるでしょう。続けていれば、いずれ資産は積み上がっていきます。わたしの場合も、気づけば1億円になっていたという感覚です。
暴落や下落相場は株価が大幅に割安になる重要なチャンスです。長期投資をしていれば必ず暴落は訪れますから、含み損が広がることを恐れずに、積極的に買い増しすることが、長期的な資産形成において成長性を高める要因になります。
米国株より日本株を選ぶ5つのメリット
——2010年代から直近まで、米国株の成長が著しい時代がありました。長期株式投資さんは、なぜ米国株に投資をするのではなく、日本高配当株に投資されたのでしょうか?
長期株式投資:最近、株式投資をはじめた人にはピンとこないと思いますが、米国株を手軽に買えるようになったのは、つい最近のことです。2010年以前は、個人投資家が海外株式を手軽に買える環境が整っていませんでした。
また、海外のインデックスファンドは信託報酬が2%といった高い水準でした。2007年にセゾン投信が信託報酬1%を下回る「セゾン・グローバルバランスファンド」を設定したときは「画期的だ!」といわれたほどです。いまのオルカンのように、信託報酬が0.1%を切るような商品は存在しませんでした。
2010年代、米国の個別株投資がより簡単にできるようになっても手数料の問題が大きく、売買の最低手数料が25ドルという水準で、少額投資では手数料負けしてしまう状況でした。NISAが始まってから、ようやく手数料が下がって米国株投資が現実的なものになったという流れです。日本株以外でいえば、NISAの「つみたて投資枠」でオルカンを、「成長投資枠」でイギリス株のブリティッシュ・アメリカン・タバコを買っているくらいです。
——では、これから高配当株投資をはじめる人の場合、成長性の高さから日本株より米国株のほうがいいのでしょうか?
長期株式投資:大事なことは「株式投資を続けること」ですから、やりたいほうをやればいいと思います。ただし、先にも述べたように、成長株投資なら増益率の期待できる米国株が有利かもしれませんが、長期高配当株投資におけるリターンは増益率(成長性)よりも「増益率と投資家の期待の差」にあります。ですから、PERやPBRなどの指標で見ても相対的に割安な日本株が、米国株に劣るとは思いません。この日本株の割安さを含めて、わたしは日本株に投資するメリットは5点あると考えます。
①税制上有利である
これがもっとも重要なポイントです。米国株の場合、配当金に対して米国で10%の税金が源泉徴収され、その後、日本でも20.315%が課税されます。長期投資において、この10%の差は複利効果を考えると非常に大きな差になります。
②企業価値の観点から相対的に安く買える
米国株は世界中から資金が集まり、人気の高さから株価は割高になる傾向がある一方、日本株はPERやPBRなどの指標で見ても相対的に割安であり、長期的にリターンを得られる可能性が高くなります。
③日本にも世界屈指の国際優良企業が存在する
コマツ、クボタ、任天堂など、世界的なシェアを持つ優良企業は日本にもたくさんあります。これらは超有名企業ですが、そのほかにも日本人の多くが知らない企業で実は世界シェアNo.1の企業があり、そのうえで株価が割安のケースもあるのです。
④グローバル展開する日本企業への投資は国際分散投資と同義
人口減少から国内市場の縮小が懸念される近年では、多くの企業が世界各地に海外事業を展開し、海外売上高比率を高めています。こうした日本企業に投資することで、実質的に国際分散投資をしていることになり、特定の国や地域のリスクを分散できます。
⑤株主優待制度の活用
株主優待は個人投資家にとって非常に有利な、日本独自の制度です。銘柄によりますが100株保有でも1万株保有でも同じ優待がもらえることが多く、少額投資家にとっては実質的なリターンの上乗せになります。

「続けやすさ」も日本株のメリット
——先に「株式投資を続けること」が大切だとおっしゃっていましたが、株主優待はまさに投資を続けるモチベーションにもなりますね。
長期株式投資:それはあると思います。株式を購入した企業から届く株主優待は、ワクワクしますからね。わたしは現在、約130銘柄を保有していますが、半分近くは100株程度の1単元株主で、そのなかには株主優待を目的とした保有も多くあります。株主優待をもらうことで、銘柄への愛着が増し、さらに興味が湧いていくといったケースは珍しくありません。
また、日本株は企業から招集通知や株主通信が届きますが、米国株の場合、なにも届かず数字が動くだけなので、投資している実感が湧きにくいのです。日本株であれば、企業のWEBサイトに掲載される決算短信や決算説明会資料などのIR資料、トップメッセージや中期経営計画などの情報も母国語で読みやすいので、企業の取り組みや熱意が見えます。投資家としても、単に利益を得ようとするだけでなく、企業の取り組みを応援する気持ちが持てるのは、日本株ならではといえるでしょう。
——株式投資を続ける環境をつくりやすいことが日本株のメリットといえそうですね。
長期株式投資:そう思います。高配当株投資はすぐに目を見張るような成果を得られるわけでもありませんから、投資資金を捻出し続けて長く投資を続けることは簡単ではありません。ですから、いかに自分が株式投資を続けられる環境をつくれるかが大切です。
そこで、株式を買うたびにトータルの予想配当金を計算してみるなど、配当金の「見える化」をすることもおすすめですね。米国株や新興国株投資による一攫千金もロマンがありますが、無理なくコツコツと続けて習慣化することで、気がつけば受け取れる配当金が増えて、資産額も大きくなっていることが株式投資の理想だとわたしは思っています。その投資先として、日本株は今後も魅力的であることは間違いありません。

長期株式投資(ちょうきかぶしきとうし)
1977年生まれ、熊本県出身。「日本の配当株」専門の元サラリーマン投資家であり、1級FP技能士。2004年から株式投資をはじめ、ハイリターンを求めて新興市場にて個別銘柄の投資をするも、2006年にライブドアショックで大きな損失を経験。以降、大型株へ投資対象をシフトするが、リーマンショックで壊滅的な痛手を被る。そこで、2009年からはポートフォリオを大型配当株メインにスイッチ。以降は安定的に資産を増やし、2022年の税引き後の手取り配当額は282万5,128円と過去最高を更新。2023年3月には、資産1億円を達成し早期リタイアを実現した。これまでの投資生活で磨いた技術やノウハウをX(旧:Twitter)やブログにて配信し、個人投資家のサポートに尽力するほか、著書に『【超完全版】フルオートモードで月に31.5万円が入ってくる「強配当」株投資 経営戦略から“ほぼ永遠に儲かる企業”を探す方法』(KADOKAWA)、『マンガでわかる! 超はじめての株式投資』(永岡書店)がある。