配当利回り・EPS・PERで判断。3つの指標で選ぶ、失敗しにくい高配当株投資のはじめ方
個人投資家の「長期株式投資」氏は2004年に株式投資を開始し、約18年をかけて2023年に資産1億円を達成。その投資手法は、シンプルな日本株の長期高配当株投資だという。そこで、これから株式投資をはじめる投資初心者にも再現性の高い、失敗しにくい高配当株投資のポイントを聞いた。配当利回り、EPS、PERの3つの指標について、その用語説明から具体的な銘柄選定の方法まで、初心者向けに解説をお願いした。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟
高配当株投資の銘柄選びで重要な3つの指標
——高配当株投資において重要なことは、長期にわたって業績を上げ続ける銘柄選びだと思います。長期株式投資さんは、どのような指標に基づいて投資を行っているのですか?
長期株式投資:株式投資にまつわる指標は多種多様ですが、投資初心者の人は、まず3つの指標をベースに考えていくのがいいと考えます。
【投資初心者がまず知るべき3つの指標】
①配当利回り
②EPS(1株あたり純利益)
③PER(株価収益率)
「①配当利回り」は、投資額に対する配当のリターンの大きさを表す指標です。例えば、期初に「当期は1株あたり10円の配当を出す」と決めた企業は、株価の変動に関わらず1株あたり10円の配当を株主に支払うことになります。期初に株価が1,000円だったら、配当利回りは1%になりますが、その後、株価が500円に落ち込んだのなら、1株10円の配当は変わらないので配当利回りは2%に上昇します。つまり、株式を買うタイミング次第で、リターンが大きくなるわけです。
ただ、期初の配当額は「お約束」であって拘束力はないので、企業の業績が下がって株価も低迷している場合、期の途中で「減配(配当額を下げる)」や「無配(配当をやめる)」に切り替える場合もあります。ですから、配当利回りの高さだけに注目せず、過去5年ほどの配当金額をチェックして安定配当がなされているかを見ておきましょう。
「②EPS(1株あたり利益)」は、「1年間にその会社がいくら稼いでいるかを1株あたりで表す」指標です。例えば、1億株を発行している会社の1年間の純利益が100億円だとすれば、EPSは「100億円÷1億円=100円」になります。このEPSが高いほど事業の収益力が高く、また、過去を遡って安定しているか右肩上がりに推移しているなら、安定した経営基盤があるということです。
最後の「③PER(株価収益率)」は、「株価がEPSの何倍になっているか」を表す数値であり、そこから「現在の株価が割安か割高か」がわかる指標となります。日本株は一般的に、PER15倍が適正価格といわれています。実際は業界特性などによって異なりますが、投資初心者のうちは、おおまかに「PER10倍以下は割安」「20倍以上は割高」と覚えておくといいでしょう。
——この3つの指標に基づいて、銘柄を選べばいいということですね。
長期株式投資:そうです。配当利回りが高く、EPSが安定的で、PERが割安を示す銘柄を買えば、失敗はしにくいといえます。もちろん、失敗をしないわけではないのですが、少なくとも勘や他人のすすめによって銘柄を選ぶよりも、自分なりの根拠をもって買うのですから後悔は少ないと考えます。
3つの指標による具体的な銘柄選びの方法
——先の3つの指標を、実際にどのような手順で確認しながら投資銘柄を探すのでしょうか? 具体的な絞り込み方を教えてください。
長期株式投資:わたしの場合は、先の指標の他に事業内容の定性評価なども踏まえ、もう少し詳細なアプローチで銘柄の選定を行います。ですからここでは、あくまで投資初心者向けの高配当株投資のやり方として説明します。
まず、国内の大型株に絞って銘柄を探しましょう。時価総額の大きい各業界のトップ企業をピックアップするのがいいと思います。例えば、自動車業界なら迷わず、まずはトヨタ自動車を検討するということです。あるいは、TOPIXコア30(東証プライム市場全銘柄のうち、時価総額、流動性の特に高い30銘柄)や、もう少し広げるなら日経平均株価の構成銘柄225社からでもいいですね。
そこからピックアップした企業のEPSを最初にチェックします。EPSに絶対的な基準はないので、5年、10年の推移を見て安定していることを確認しておきましょう。
ただし、業界トップの企業を選んだ時点で、多くの場合、EPSの推移は安定的なはずです。なぜなら、現在業界トップの企業はたいてい10年前もトップ企業だからです。業界でもっとも収益率が高く、高いシェアを握り続けている企業は、必然的にEPSで見ても安定しています。
EPSの安定を確認したうえで各銘柄の配当利回りを確認し、自分が納得できる利回りであれば、最後に現在の株価が割安かどうかをPERで確認する流れです。
——配当利回りとPERの基準はありますか?
長期株式投資:配当利回りについては、投資家によって様々な意見があります。「政策金利の+3%」を妥当とする声もありますが、わたしは「自分がその想定リターンで納得できるかどうか」としかいいようがないと思っています。わたし自身も5%以上もあれば嬉しいですが、2%や3%でもトータルで考えて手堅いのであれば投資します。
PERも、先のように「10倍未満は割安」「10〜15倍は妥当」「20倍以上は割高」の考え方でいれば、とりあえず失敗は少ないと思います。ただし、PERの水準は企業によって異なりますから、いずれは過去5年程度のPERの推移を確認し、そのレンジを把握して現在が平均以上か以下かで判断できるといいですね。
EPSの安定性を重視すれば失敗を抑えられる
——解説いただいた配当利回りとEPS、PERのなかで、もっとも重視するべき指標があるとすれば、どれでしょうか?
長期株式投資:投資初心者に限っていえば、EPSの安定性を重視するのがいいと思います。というのも、配当利回りの高さで銘柄を選ぶ場合、高い理由が業績好調による配当額の引き上げならいいのですが、業績不振で株価が低迷している場合、先の通り減配や無配に至る可能性があります。EPSが長期安定的であれば、減配の心配は少ないでしょう。

また、PERを重視して引っ掛かるのが、「バリュートラップ」です。企業価値の高さに投資家が気づいておらず、PERが低いまま埋もれていたというのならいいのですが、問題はPERが下がって株価が割安になった場合です。それは、投資家たちがその企業のなんらかの問題や見通しの悪さに気づいて株価が下がっている場合があるのです。割安だからと買っても、そのまま業績不振でEPSが下がり、PERだけが上昇して株価は低迷したままということにもなりかねません。これも、EPSの安定性を重視すれば防げることです。
——EPSの安定性を重視すれば、失敗の可能性が少ないのですね。
長期株式投資:また、EPSが安定していると、PERの分析の精度も上がります。PERというのは、EPSの変動に左右されてしまうので、EPSが安定している銘柄を選んだほうが、PERの推移をそのまま割安・割高にあてはめやすくなるので分析が楽になります。結果として、EPSの推移が安定してPERが割安であることを正しく分析できれば、限りなく失敗は少なくなるといえるでしょう。
10年以上も業界トップにいる企業でも、自動車業界や製造業などの「景気敏感株」といわれる銘柄は、市況の変化によって業績と株価が変動しやすく、EPSの推移も変動しやすい傾向があります。一方、「ディフェンシブ銘柄」と呼ばれる食品や薬品、電力やガス、通信、鉄道などの生活インフラ産業は業績が景気に左右されにくく、EPSも安定する傾向にあります。その意味では、ディフェンシブ銘柄を選んだほうが失敗は少ないはずです。
——ただし、「絶対に失敗しない」わけではないことは、読者のみなさんにもご承知いただきたい点ですね。
長期株式投資:そうですね。ほぼ絶対といえるほど、誰もがいずれは失敗するものです。ただ、わたしは投資初心者に大事なことは、どれだけ「破滅的な失敗をしづらい投資」ができるかだと思います。失敗からリスクを体感し、それを次の投資に活かすためには、投資を継続できる失敗にとどめなければなりません。
そのためには、なにか1冊でいいので株式投資の名著とされるものを読み、基本の投資スタンスを身につけてください。そうして、経験を積むなかで自分なりのカスタマイズを加えていくことが、いい成長のあり方ではないでしょうか。

長期株式投資(ちょうきかぶしきとうし)
1977年生まれ、熊本県出身。「日本の配当株」専門の元サラリーマン投資家であり、1級FP技能士。2004年から株式投資をはじめ、ハイリターンを求めて新興市場にて個別銘柄の投資をするも、2006年にライブドアショックで大きな損失を経験。以降、大型株へ投資対象をシフトするが、リーマンショックで壊滅的な痛手を被る。そこで、2009年からはポートフォリオを大型配当株メインにスイッチ。以降は安定的に資産を増やし、2022年の税引き後の手取り配当額は282万5,128円と過去最高を更新。2023年3月には、資産1億円を達成し早期リタイアを実現した。これまでの投資生活で磨いた技術やノウハウをX(旧:Twitter)やブログにて配信し、個人投資家のサポートに尽力するほか、著書に『【超完全版】フルオートモードで月に31.5万円が入ってくる「強配当」株投資 経営戦略から“ほぼ永遠に儲かる企業”を探す方法』(KADOKAWA)、『マンガでわかる! 超はじめての株式投資』(永岡書店)がある。