企業への投資は、まさに「推し活」そのもの。株式投資をライフワークにする楽しみ方
「新NISA」制度の普及により株式投資を始めている人は増えているが、「興味はあるけれど、難しくてよくわからない」と二の足を踏む人はまだ多いのが実情だ。特に、その傾向は女性に顕著だろう。そんななか、女性向けの投資運用スクール「ハナミラ」を運営する松下りせ氏は、株式投資のハードルを下げ、一歩目を踏み出すための「推し活投資」という考え方を提案し、多くの女性投資家が成長株投資で成功しているという。株式投資を「推し活」に例えた、その投資スタンスを聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
株式投資と「推し活」の本質的な類似性
——松下さんは株式投資を「推し活」に例えるという、独自の視点をお持ちですね。まずはこの考え方について教えてください。
松下 りせ:「推し活」も投資も本質は同じなんです。アイドルや俳優などの推し活は、「素敵だな」「この人の考え方が好き」という共感や好意から始まり、「もっと活躍してほしい」「世界に羽ばたいてほしい」という応援につながっていきます。株式投資も同様に、企業の魅力や経営理念に共感し、その成長を応援する気持ちから始まるとすれば、それはまさに「推し活」ですよね。
さらに「ただ似ている」というだけではなく、有効な投資スタンスでもあることを、わたしが運営する資産運用スクール「ハナミラ」の受講生から学びました。投資で好成績を出している女性たちにヒアリングすると、多くが「推し活」経験者だったのです。「推し」のことを徹底的に研究して応援するオタク気質が、成長性を見抜く企業分析や、愛情ゆえの長期保有の忍耐力に活きているようです。
——企業を「推し」として見ることで、投資にどのような変化が生まれますか?
松下 りせ:最大の変化は、視点です。一般的な投資アプローチは「減点方式」で問題点を探しますが、「推し活」的な視点は「加点方式」で企業のよさを見つけます。女性は特に「相手のいいところ」を探して好きになるような加点方式が得意で、企業の長所を見出すのが上手いなという印象です。また、そのほうが単純に「楽しい」のです。
一般的な財務諸表や財務指標からの分析では、「いいところ」を探すというよりも、「魅力的だが、PER(株価収益率)が上限だから買うべきではない」というような、減点方式の発想になりがちです。それはある意味、男性的な視点であり、女性には面白みを感じにくいのかもしれません。
また、先にも少し触れましたが、「推し活」としての株式投資は長期投資の忍耐力にもつながります。将来5倍、10倍になる企業でも、途中で株価が下がる局面は珍しくありません。でも、「推し活」の感覚で「この企業はいいんだ」という信念を持っていれば、一時的な下落にも動じずに持ち続けることができます。
——多くの投資家が、投資ビギナーに対するアドバイスとして「専門知識を勉強するべき」と語るのですが、松下さんは著書『恋と推し活とショッピングに学ぶ知識ゼロからの女子株』(ダイヤモンド社)のなかで「経済知識や専門知識がなくても株式投資はできる」と明言されていますね。
松下 りせ:わたしも投資を始めた最初の頃は、日経新聞や四季報を毎日読んだり、金融知識を身につけたりすることが必須だと勝手に思い込んでいました。でも、わたし自身、小難しいことが得意でなく、興味を失いかけてしまったのです。
しかし、株価の上昇はシンプルに考えれば「企業の売上・利益が伸びて、評価が高まる」という仕組みです。それを見抜くために金融知識や財務指標の理解は有効ですが、それで投資から離れてしまうのでは本末転倒ですよね。
それなら、プロの投資家視点ではなく、消費者の視点で企業の魅力や将来性を見抜いて応援していくアプローチのほうが、「投資って楽しい」と思うことができます。そうして投資の楽しさにハマってから、財務諸表や財務指標を理解していけばいいのではないでしょうか。
わたしは「ハナミラ」の受講生に、自分が関連業界に勤めていて人より理解があるセクターや、消費者として関心のあるセクターから始めることをすすめています。要するに、土地勘がある分野のほうが、ハードルがグッと下がるからです。
また、消費者としての企業理解の強さは、ときに財務指標による合理的な判断を超えます。例えば、PERが15倍を超えるとグロース株としても割高とされますが、波に乗っているときは割高でも期待を集めて株価が上がることはよくあることです。消費者視点で市場の心理を読む重要性が、そこにあると思います。

「推し銘柄」を見定めるための4つのポイント
——「推し銘柄」を探すにあたって、具体的なポイントはありますか?
松下 りせ:わたしが「ハナミラ」で受講生に伝えているポイントは、以下の4つです
❶ 身近な商品・サービス
❷ 人(社長や経営陣)
❸ 伸び代(成長性)
❹ 売上・利益の実績
まず、❶身近な商品やサービスについて考えます。その商品を自分が買ったのは、なにか魅力を感じてのことですよね。自分にとって魅力的で、共感できる商品・サービスを生み出す企業は十分に「推し銘柄」となり得ます。ただし、自分の考えが偏っているという場合もあるので、同じように魅力を感じている人が多いか、周囲の意見も聞いてみます。
続いて、❷人の魅力から投資を検討するケース。アメリカも日本も、成長企業は社長が強いビジョンを持っていて、その実現のために積極的にメディアに露出していますよね。まず、社長のビジョンに共感でき、実現のために情熱を持っているかを判断するため、決算説明会での発言や、YouTubeの動画、SNSなどをチェックします。その人柄も含めて愛せる人物像なら、「推せる」ということです。
また、優秀で人望ある社長のもとには優秀な人材が集まるので、社員の声も重視します。採用ホームページのインタビューなどは「いい面」しか書いていないように思われますが、行間からその会社の空気を感じることができます。主観的な判断にはなりますが、社員が「スピード感がある」「大きな仕事を任せてもらえる」などと語ってワクワクしている様子なら、社長の思いやビジョンが組織に行き渡っていて期待できることが多いと思います。
❸伸び代は、いわゆる時価総額です。安定企業への投資なら時価総額は高くていいのですが、成長株投資では時価総額がまだ低く、これから伸びる余地があることが大切です。考え方にもよりますが、時価総額1,000億円以下、理想は500億円を目安としています。
最後に、どれだけ事業に期待できて「推したい」と思えても、パフォーマンスだけでは大切なお金は預けられません。中期経営計画の進捗や業績など、❹売上・利益の実績がある程度はかたちになってきている企業を選ぶようにしています。
——そうした「推し銘柄」の探し方で、実際に成功した受講生の例をお聞かせください。
松下 りせ:ある受講者は、アミューズメント施設の開発・運営を手掛ける株式会社GENDAの、申真衣さんという社長に惹かれて投資を始めました。申さんは外見もとても美しく、インタビューなどから信念を持たれてGENDAの社長をされていることが伝わりました。また申さんはもちろん、他の経営陣も決算発表における質疑応答が骨太で、厳しい質問にも誤魔化さずにビシッと回答する姿勢が格好いい会社です。
実際に、株価もかなり上昇したのですが、申社長が退任されたときに、良い会社だったので悩んだが、一番の「推す理由」がなくなったので利確していました。
また、別の受講者は、不動産事業を手掛ける霞ヶ関キャピタル株式会社に投資しました。この企業は、用地取得して用途を明確にして開発を行い、付加価値をつけて売却するというビジネススキームが洗練されています。それに加えて、社長を始めとする経営陣が魅力的で、株主還元の意識も高いですし、株主に対して一緒に夢を見させてくれるメッセージを発信しています。その受講者は3年ほど保有し、すでに株価は5〜6倍になっています。
女性はやはり共感性が高く、企業の発信するメッセージや経営者の人物像が心に響く傾向はあると思います。そこに確かな実績が加わり、「実行力」が見えることで投資を判断するというわけです。

これからの時代に投資が必要な理由
——ここまでお話を聞いていると、松下さんの「推し活投資」の考え方は、これから投資を始める方が一歩を踏み出しやすくなるよう、ハードルを下げることを目的とされていますよね。なぜ、これからの時代に投資は必要だと思いますか?
松下 りせ:ひとつは、インフレの進行です。単に銀行にお金を預ける貯蓄では、物価上昇によって損をしてしまうのですから、投資は誰もがあたりまえに行っていかなければなりません。
また、AIの進歩によって、今後のわたしたちの働き方の変化にも不安があります。仕事がAIに置き換えられてしまい、思うように稼げなくなってしまうという可能性も否定できません。その他、外部環境に関わらず様々な事情で「働けなくなってしまう」ことだってあるでしょう。そのときも、投資は重要な収入を得る手段となります。
それなのに、金融知識を必須とし、難しい専門用語を使って投資の参入障壁を高めてしまうのは、建設的とは思えません。いま、NISAの「つみたて投資枠」による投資は比較的やりやすいものだと思いますが、個別株投資においても、入り口はもっとやさしいものであっていいですよね。
——実際に、2025年は「新NISA」開始から2年目となりますが、多くの人が口座開設しても実際に投資をしていないという金融庁のデータもあります。
松下 りせ:「新NISA」は素晴らしい制度なので、ぜひ勇気を出して最初の一歩を踏み出してほしいですね。難しく考え過ぎずに始めることが大切です。その意味では、わたしの「推し活投資」の考え方を聞いた女性から、「初めて株式投資を『面白そう』と思えました」といってもらえることがあるのです。ほとんどの人のなかで株式投資に対する難解な印象があるはずなので、「そういう考え方でもいいんだ」と興味を取り戻してもらえたら嬉しいです。
日常の延長線上として、自分の仕事にプラスアルファでできる稼ぎ方が株式投資です。ですから、多くの人のライフワークになることを願っています。もちろん、投資額を失うリスクもあるので、最初は少額からスタートし、小さな成功体験を積み重ねて投資の楽しさを実感してください。

松下りせ(まつした りせ)
1990年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、三菱電機に入社し、オリエンタルランドに転職。好きな仕事をするなかで、お金やキャリアについて悩みを抱えたことから、将来の不安を解消すべく株式投資をスタート。投資を通じて不安が解消され、仕事も生活も楽しめるようになったことから、2020年より女性向けの株式投資の指導を開始。最愛の「推し」銘柄を見つけるという独自の投資方法を実践すると、投資初心者でも資産を10倍に増やす女性が続出。現在、女性向けの株式投資スクール「未来デザイン×資産運用アカデミー ハナミラ」を主宰。著書に『恋と推し活とショッピングに学ぶ知識ゼロからの女子株』(ダイヤモンド社)がある。