株価急騰のチャンスは身近に隠れている。生活者視点で始める成長株の見つけ方
女性向けの資産運用コミュニティ「ハナミラ」を運営する松下りせ氏は、成長株を財務分析や市場分析だけに頼らず、身の回りの商品やサービスのなかから生活者の視点を持って探し出すことを提唱している。実際の成果として、ビギナー投資家であった「ハナミラ」の受講生たちは、5倍、10倍の成長株投資に成功しているという。そこで、これから投資を始める人にもハードルが低い、「身のまわりの成長株の見つけ方」を聞いた。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
自分自身や家族、お店や街の変化からチャンスを探す
——松下さんが「ハナミラ」の受講生におすすめしている、成長株の見つけ方を教えてください。
松下 りせ:成長株投資の醍醐味は、簡単にいうと「伸びる会社(または、伸びている会社)を探し出して投資する」ことにあると思います。
企業の決算書ベースで成長株を探す場合は、一般的に直近数年間の売上高の成長率や、ROE(自己資本利益率:株式で集めた資金に対する収益性)、営業利益率(高いほど本業で儲ける力が強い)などを見て成長性を吟味しますよね。
ただ、投資を始めたばかりの人が、データだけで条件検索しても、なかなか成長株を見出すことは困難です。そこでわたしは、投資を始めたばかりの人に、「自分の身のまわりから、これから伸びる成長株を探す」ことをおすすめしているのです。
——日常生活で使う商品やサービスのなかから、成長株を探すということですね。
松下 りせ:そうです。わたしが主宰する投資運用スクール「ハナミラ」の受講者の例でいえば、ここ3年、4年で、グミ菓子の「ピュレグミ」シリーズを販売するカンロ株式会社の株で利益をあげた人が何人かいます。
グミの市場は年々増加し、コンビニでもグミの売場は以前と比べて大きくなっていますよね。「自分の身のまわりで、何かブームの兆しはあるか?」という問いに対し、彼女たちは自分の生活行動をリサーチ対象として振り返り、「そういえば近頃、ガムよりもグミを買うことが多くなった」という消費行動の変化に気づき、その関連企業をリサーチして投資を行ったのです。つまり、自分自身の無意識な変化のなかにも、投資のヒントは隠れているということです。
それだけでなく、日々の買い物や街歩きのなかで気がつくこともたくさんあるでしょう。発売してすぐに欠品した商品、いつも賑わっているお店など、目に見える範囲で変化をキャッチすることは誰だってできます。
例えば、RIZAP株式会社が2022年に開始した24時間の低価格ジム「chocoZAP」は、わずか1年半で1,000店舗を超える急ピッチの店舗展開を見せました。これも日々、街を観察していれば、「え、ここにもchocoZAPができた」と急拡大に気づくことができたはずです。その後、会員数・店舗数ともに日本最大のフィットネスジムに成長し、同社の株価の急伸につながりました。
また、スマホ向けゲーム関連株で利益をあげた受講者の多くは、家族の行動変化を投資理由にしていました。自分自身はまったくゲームをやらずとも、子どもや夫がゲームをやっていて、その内容や周囲のハマり具合をヒアリングし、「これはブームになりそうだ」と思って投資をしたのです。期待通りにヒット作となり、運営会社の株価が上がったというわけです。

情報感度の高い「アーリーアダプター」であれ
——それらの事例からわかることは、ブームや変化を早い段階でキャッチする情報感度の重要性ですね。
松下 りせ:多くの人に評価され、テレビ番組などに取り上げられる段階では、すでに株価は上がり切ってしまいますから、その前に目をつける必要があります。その段階をロジカルに理解するために、「イノベーター理論」を押さえておきましょう。
イノベーター理論とは、新たな商品やサービスがたどる認知・普及のステップをまとめたマーケティング理論です。

各段階の認知・普及度は、iPhoneを例にするとわかりやすいでしょう。iPhoneは2008年にソフトバンクモバイル限定で日本上陸しましたが、それまでガラケーを使っていたわたしたちにとって、「スマートフォン」はまさに未知のものです。
それでも、早くから情報収集して価値を感じ、真っ先に飛び込んでいくのが「イノベーター」であり、その割合は市場の2.5%といわれています。次いで参入する比較的感度の高い人たちが「アーリーアダプター」で、市場の13.5%。iPhoneでいえば、2010年頃に発売されたiPhone4を購入した人たちといえるでしょうか。
周囲にiPhoneを買った人が10名に1名程度ながら顕在化してくると、メディアでも解説記事などが目につくようになり、認知が高まっていきます。そのうえで、比較的早く購入するのが34%の「アーリーマジョリティ」です。KDDIもiPhoneを取り扱い始め、2011年にiPhoneが一気にブレイクしたのは、まさにこの頃でした。
半数近い人がiPhoneを手にするようなブレイクを受けて、遅れて参入するのが「レイトマジョリティ」です。多くの人が評価をし、価値が明らかになってから乗り出す慎重派で、商品やサービスが「レイトマジョリティ」に普及する頃にはブームは落ち着き、一般化したものとなります。ちょうど、NTTドコモもiPhoneを取り扱うようになり、珍しさもなくなった頃に該当します。
——成長株投資においては、どの層にある商品やサービスに気づくべきなのでしょうか。
松下 りせ:2番目に該当する、「アーリーアダプター」に普及する段階で投資をすることが大切だと考えます。このタイミングでの投資を逃し、「アーリーマジョリティ」に普及した頃には、すでに株価は上がってしまっていることが多いからです。
例えば、サイバーエージェントが提供するスマホゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』は、いまとなっては大ヒット作であることは周知の事実ですよね。わたしはゲームに詳しくないのですが、『ウマ娘』がリリースされて2週間が経った頃、ジワジワとブームがきている気がして「ハナミラ」の受講生に、「『ウマ娘』を知っているか」を聞いてみたのです。
すると、20名の受講生のうち2名(10%)が「夫や子どもが『ウマ娘』で遊んでいる」と回答し、その普及が「アーリーアダプター」の段階にある可能性が伺えました。
その後、まもなく『ウマ娘』はアプリダウンロードランキングの上位になり、メディアで頻繁に目にするようになって、サイバーエージェントの株価は急伸。リリース2カ月後には1.4倍になり、4カ月後には天井を打ったのです。

情報感度を高めるには、仲間をつくることが近道
——ヒットする商品やサービスを「アーリーアダプター」のうちに見出すには、どうしたらいいと考えますか?
松下 りせ:自分自身が「イノベーター」や「アーリーアダプター」になれるような、高い感度を持っているジャンルなら、自分の感覚を信じてブームを予測するといいでしょう。例えば、わたしの場合であれば、コスメなどは「イノベーター」や「アーリーアダプター」になれる可能性があると思っています。でも、それはあくまでも自己評価に過ぎず、実際のところはわかりませんよね。そこで、大切になるのが周囲の人へのリサーチです。
「これはブームになりそうだ」と感じた商品やサービスを周囲に聞いてみたら、すでに半数近い人が知っていて体験済みであるなら、自分は「アーリーマジョリティ」なのだとわかります。「自分はトレンドに敏感なほうだ」という自負があっても、それは自分の周囲が「レイトマジョリティ」ばかりだから、そう感じるだけかもしれません。同世代や職場の人間だけでなく、異性や若い世代、異なるコミュニティに属する人の意見も聞くことが大切です。
また、「自分の感度は高くない」と自覚しているジャンルでは、感度の高い友人に聞くのがベストです。例えばわたしなら、スマホゲームに関しては「アーリーマジョリティ」以下かもしれないので、その分野で「アーリーアダプター」にある友人に意見を聞くことを意識しています。
周囲に感度の高そうな知人がいない人は、わたしが運営する「ハナミラ」のような、投資コミュニティへの参加を検討してみてもいいでしょう。勉強会もありますし、互いにトレンドに関心がある同士で情報共有ができるのでとても効果的です。
——ヒットの可能性がある商品やサービスの探し方についてはどうですか?
松下りせ:インターネット上でも情報検索はできますが、わたしは街の定点観測を習慣にしています。通勤途中のターミナル駅など、人流が多くて変化のある街を、いくつか継続的に歩いて観察していくのです。さらに、お店のなかに入って売り場に置いてある商品をじっくり見るのもいいですね。
消えていくお店、増えていくお店、賑わっているお店、扱う品数が増えている商品などを見ているだけでもトレンドを掴むことができます。そういった習慣を身につけると、自分で気がついた街の変化がテレビのニュース番組で取り上げられるのが、そこまで早くはないことを実感するはずです。むしろ、SNSのほうが早いこともわかります。
そうして、「この流行は、まだこれから広がるものかもしれないぞ」と思ったら、自分でも実際に商品やサービスを買ってみて、そのよさを実感したり、先のようにまわりの人に聞いてみたりするのです。
SNSやYouTubeでインフルエンサーを追うこともトレンドの把握には効率的ですが、それが本当に消費者の行動にまで結びついているかは定かではありませんよね。なぜなら、メーカーが関与している可能性もありますし、そのインフルエンサーの好みが偏っていたり、空振りしていたりする可能性もあるからです。インターネットからの情報の場合は、インフルエンサーが言っているかどうかよりも、マーケティングが上手くいって売上が伸びそうかに注目するようにしています。さらに言えば、街の変化を見るほうが誤魔化しようのない経済の結果なので、わたしはそっちを重視しています。
また、実際に投資するかどうかは別として、そうしたブームの可能性をいくつもストックし、時間を置いて再検証することも大切なことです。つまり、「ブームになる気がした商品」が、そのあと実際に流行ったのかを確認してほしいのです。あるいは、ブームの予感があるセクターのなかで、いくつかの商品やサービスがあった場合、どの会社の株価が伸びたのかを検証しましょう。そうした地道な仮説と検証の繰り返しが、自分の勘所を磨くことにつながっていくのです。

松下りせ(まつした りせ)
1990年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、三菱電機に入社し、オリエンタルランドに転職。好きな仕事をするなかで、お金やキャリアについて悩みを抱えたことから、将来の不安を解消すべく株式投資をスタート。投資を通じて不安が解消され、仕事も生活も楽しめるようになったことから、2020年より女性向けの株式投資の指導を開始。最愛の「推し」銘柄を見つけるという独自の投資方法を実践すると、投資初心者でも資産を10倍に増やす女性が続出。現在、女性向けの株式投資スクール「未来デザイン×資産運用アカデミー ハナミラ」を主宰。著書に『恋と推し活とショッピングに学ぶ知識ゼロからの女子株』(ダイヤモンド社)がある。