「幸福な投資家」であるために。メンタル崩壊を防ぐ「不幸にならない」マインドとルール
女性向けの投資運用コミュニティを運営する松下りせ氏は、株式投資を「推し活」に例え、心がワクワクする楽しい株式投資への向き合い方を提唱する投資家だ。その投資マインドを学んだ受講生が、5倍、10倍にもなる個別株を見つけて投資益を得ることもあり、いわば「幸福になる投資の伝道者」ともいえるだろう。そこで、投資ビギナー向けに「株式投資で不幸にならない」ための、投資マインドや心掛けているルールについて聞いた。
メンタルを守る、マイペースな投資とのつきあい方
——株式投資を始めたばかりの人のなかには、チャンスとリスクに翻弄され、本業が手につかなくなったり、つねにチャートを気にしてしまったりする人もいます。そんなことを前提に、株式投資への向き合い方はどうあるべきと思いますか?
松下 りせ:中途半端に株を学んだ段階こそ、「買わないと機会損失する!」と焦ってしまい無理な金額を投資したり、「本当にあれでよかったのだろうか」と買った銘柄が頭から離れなかったりするものです。わたしが運営する資産運用コミュニティ「ハナミラ」の受講者のなかにも、そういった人は一定数います。
ただ、株式投資はマイペースで、無理なく続けることがなにより大切です。そうでなければ、ストレスに翻弄され、いずれは相場から退場することになります。ですから、これから投資を始める人は、仮に自分が失っても怖くない金額から開始するのがベターです。わたしは個別株投資を行う受講生に対しては、たとえ手持ちの資金が潤沢でも、まずは5万円や10万円程度で始めることを提唱しています。その金額でメンタルの負荷を感じないのであれば、30万円、100万円と増やしていくという考えです。
大事なことは、長く投資を続けることです。そのためには、「楽しい」とか「ワクワクする」といった気持ちを維持していくことが欠かせません。投資で利益を得るチャンスというのは、10年、20年と続けていれば何度もあります。月々の投資金額は小さくても、長い時間続けることで大きな投資額になっていくことはいうまでもありません。ですから、わたしはいまでも機会損失を恐れて投資を焦ってしまうことがありつつも、その都度「マイペース」を意識し直して、投資に向き合うようにしています。
——現金と株式投資額のバランスについてはどうでしょうか? 一般的には、月の生活費の半年から1年分程度を「生活防衛資金」として現金で確保し、そこから株式投資をスタートすることが推奨されます。
松下 りせ:正論をいえばその通りだと思います。きちんと貯金してきた人であれば、生活防衛資金を確保するべきでしょう。しかし、それでは「貯金のない人は投資ができない」となってしまいます。ですから、厳密にいえば「人による」のだと思います。例えば、安定企業に勤務する会社員で、さらには単身なら、現時点で貯金がほとんどないとしても、貯金を意識しながら、余剰分は投資に回しても問題はないでしょう。
一方、例えばシングルマザーで働き方も家計も不安定な状態なら、より慎重な資金計画が必要になることは間違いありません。それでも、月数千円からでも投資を始めて、未来に夢を抱き始めることは大切だと考えます。夢や希望があるからこそ、「もっと稼ごう」と思えたり、節約のストレスに耐えたりすることができるものです。もちろん「無理のない範囲で」という前提条件ありきですが、どんな状況にある人でも、貯金と投資を両立していいのではないでしょうか。

株式投資で不幸にならないためのルールとマインド
——株式投資でメンタルを保つためには、適切な投資額を決めて、マイペースを貫くことの大切さがわかりました。しかし、メンタルを守るうえで「損失を出さないこと」も重要だと思います。そのために意識されていることはありますか?
松下 りせ:期待していた保有株が暴落した場合、損切りをせざるを得ない局面もあります。そんなとき、投資ビギナーは状況を受け入れることができず、「待っていれば、すぐ回復するのではないか」と根拠なく淡い期待に身を寄せてしまいがちです。わたしもそういった時期がありましたが、多くの場合、躊躇しているうちにさらに株価が下落し、含み損が増すばかりです。
いくら願っても、わたしたちは市場そのものをコントロールすることはできません。暴落時にできることは、どのタイミングで損切りするか、あるいは腹を括って持ち続けるか、むしろチャンスと思って買い増すかだけです。そうであれば、自分のできることで最善の行動を取るべきですよね。
ですから、わたしは取引をする際、「最後には絶対にうまくいく」と信じるようにしていますね。たとえ、いまは損切りをして損失を出すとしても、「ここで確保した資金が次につながる」と信じ、投資行動を躊躇しないように心掛けています。
——マインドに加えて、具体的に損失を防ぐために行っているルールや習慣はありますか?
松下 りせ:みなさんに「無理のない投資」をすすめておきながら矛盾するようですが、わたしは割と「すぐ買おうとする」性格です。もちろん、企業分析や市場分析もしたうえでの判断ですが、ともすれば「株数を買い過ぎる」フシもあると思っています。成功すればいいのですが……当然、失敗のリスクも高まります。
そこで、買い過ぎを防ぐ仕組みとして、証券口座を複数持ち目的別に使い分けています。「長期保有株用」「日常取引用」「暴落時の追加投資用」の3種類です。特に、長期投資用の口座は封印して普段はほとんど触りません。一方、ひとつの証券口座でこれらの投資をすべて行うと、「暴落時の追加投資用」の資金も日常取引に使ってしまい、資金不足に陥りかねません。口座を分けて投資資金も分散しておくことで、無理な投資を避けることができます。
——「暴落時の追加投資用」は、いわば株価の下がった保有株の「買い増し」用資金ということですね。
松下 りせ:そうです。これも結局はメンタルの話になってしまいますが、株価が急落・暴落したときは含み損でストレスを受けますが、買い増しをすれば「安く株を増やせたから将来的な利益が期待できる!」とポジティブな思考になりメンタルが安定しますよね。逆をいえば、買い増しの資金が不足すると、ただ含み損のダメージを受けるだけになってしまうということです。よって、暴落時に心理的な余裕を得るために、暴落時のための資金が必要なのです。
そして、その資金を使って一気に買い増すのではなく、段階的に買い増していきます。なぜなら、「もっと株価が下がる」場合があるからです。タイミングを分散して少しずつ買い増せば、「底値を待てばよかった!」と後悔することはありませんし、逆に慎重になり過ぎて底値を逃し、「もっと早く買えばよかった!」と後悔もしません。
この段階的な取引は株価が上昇して売却するときも同様です。売買のタイミングはプロでも正確に測ることはできないのですから、もっともメンタルが安定する売買の方法だと考えます。

株式投資が人生にもたらす前向きな変化
——株式投資というのは、損失で不幸になるだけでなく、大成功してもメンタルのバランスを失うことがありますよね。投資で大きな資産を得たときこそ心掛けていることがあれば教えてください。
松下 りせ:ありきたりかもしれませんが、日頃から感謝の気持ちを忘れずに、謙虚な姿勢でいることが欠かせないと思います。同時に、自分自身の価値を理解しておくことがお金に振り回されないためのマインドではないでしょうか。
急に資産を得て我を忘れたり、気が大きくなったりしてしまうのは、「お金>自分」という思い込みによるものと考えます。自分よりもお金に価値があると思うから、お金に振り回されてしまうのです。「自分という存在は、お金より価値がある」と自信を持っていれば、それなりにお金が増えたところで、自分の価値だって微増する程度です。
日頃から人に優しく接し、人に貢献し、喜ばれる。あるいは、一生懸命に仕事に取り組んで評価される。そういった、人間としての価値と自信を高めることが大切ですし、そうありたいと思っています。
もうひとつは、「資産形成の目的を明確にしておく」ことですね。例えば、ライフプランを試算して、理想的な老後を送るために5,000万円が必要だとします。すると、たとえ投資で5,000万円のお金をつくっても、将来の老後資金として使うことを考えたら、いま使っていいお金は1円もないことになります。そうであれば、安心感こそあれ、いま気が大きくなる要素はありません。あくまでも、お金は幸福になるための「手段」なのですから、お金という存在を過信せず、お金にコントロールされないよう心掛けましょう。
——最後に、株式投資そのものが松下さんの人生に与えた影響についてお聞かせください。
松下 りせ:先にも述べましたが、株式投資のよさは、未来への希望を持てることにあります。会社で働いているだけでは、目の前にいる上司の姿が自分の未来予想図になってしまい、それ以上の希望を持つことができませんからね。わたしは、「予測不可能な人生こそが面白い」と思う性格なのですが、株式投資は出来上がったレールを歩む人生ではなく、予測不可能な広がりがある人生を与えてくれました。
また、株式投資を通じて様々な企業の経営計画を見ると、「挑戦する姿」に心を動かされます。わたしが生きてきた直近30年の日本経済は、かつてのバブル期のように「未来はもっとよくなる」と信じられる経済状況にはありませんでした。その停滞した雰囲気に、漠然と引きずられていたのです。
しかし、個々の企業を見れば、「未来を打開しよう」と奮闘しています。その姿に勇気づけられるのです。日本経済がこの先どうなっていくのかは誰にもわかりませんが、奮闘する企業を「推し」として応援し、明るい未来を想像しながら一緒にワクワクしていきたいですね。

松下りせ(まつした りせ)
1990年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、三菱電機に入社し、オリエンタルランドに転職。好きな仕事をするなかで、お金やキャリアについて悩みを抱えたことから、将来の不安を解消すべく株式投資をスタート。投資を通じて不安が解消され、仕事も生活も楽しめるようになったことから、2020年より女性向けの株式投資の指導を開始。最愛の「推し」銘柄を見つけるという独自の投資方法を実践すると、投資初心者でも資産を10倍に増やす女性が続出。現在、女性向けの株式投資スクール「未来デザイン×資産運用アカデミー ハナミラ」を主宰。著書に『恋と推し活とショッピングに学ぶ知識ゼロからの女子株』(ダイヤモンド社)がある。