あがりこ大王
写真・文/高橋 弘(巨樹写真家)
※この記事は2022年10月25日発行のジャパニーズインベスター115号に掲載されたものです。
鳥海山北麓、中島台の森内にあるブナの巨樹です。鳥海山麓のブナ林は、そのほとんどは「あがりこ」と呼ばれる人手の入ったブナ林なのです。
あがりことは、地上から上がったところから子が出るという意味で、人の手により炭焼き用として伐採され、切り株から新たな芽が吹き生長したブナのことを言います。地上2mあたりから多数の株に別れて生長する姿は不気味で、森の中のすべてのブナが枝をくねらせる様はおどろおどろしく、まるで異世界にでも迷い込んだかのような錯覚を覚えます。
「あがりこ大王」は森の中で最大と目されるブナの巨樹で、5本ほどの大枝を分岐させ、大きく手を広げているような樹形は雄大そのもの。ブナ独特の白い木肌に苔が着生し、いかにもあたりの空気が湿潤で、ブナにとっては最適な環境であることを知らせてくれます。「森の巨人たち百選」に選定されて訪問客も増加し、遠巻きに木道も設置されて保護対策も万全を期しています。一帯には古代ブナと呼ばれるブナや、鳥海マリモと名付けられた藻も見られ、まるで時代の流れから取り残された桃源郷のようです。手軽に楽しめるブナ林として注目を集めています。
【DATA】
秋田県にかほ市象潟町横岡字中島台
幹周/7.62m
樹高/25m
樹齢/300年
森の巨人たち百選
【著者プロフィール】
1960年山形県生まれ。巨樹を撮り始めて35年目。出会った巨樹の数は3,400本にのぼり、出版、写真展、ホームページなどにより、巨樹の魅力を発信している。著書に『巨樹・巨木をたずねて』(新日本出版社)などがある。
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