ロンドンの「時間で課金のカフェ」 すべて無料の飲食物は損か得か?
──イギリス・ロンドン
店内のお茶やお菓子、スナックや果物がすべて無料のカフェ「Ziferblat」のロンドン店が開店から1周年を迎えた。
カフェで「食べ物も飲み物も無料」とは夢のような話。どこかの慈善団体が運営しているのかと思いきや、Ziferblatは顧客が店に滞在した時間への課金にて経営されている。入店した瞬間から課金が始まり、退室の支払い時にて時計が止まる。有料駐車場の計時のようなシビアさはなく、店員とおしゃべりしながらの会計なので多少の酌量はありそうだ。平均的な滞在時間は90~120分。30分以内で退場する人はまずいない。
料金は1分5ペンス(約9円/2014年12月現在)。ロンドン市内でコーヒーを飲むと2・5ポンド(約450円)前後なので、1時間滞在で3ポンド(約540円)という値付けは妥当な線だ。ビスケットやクッキーの他、トーストを焼いて英国製のおいしいジャムやマーマレードを付けてほっこり休むという手もあるので、費用対効果では及第点だろう。
Ziferblatとは、ロシア語やドイツ語で「時計のフェイス」を表す。創始者はロシア人のイワン・ミティン氏。同氏はZiferblatの前身となる「ツリーハウス」を2010年ロシアで開業すると、わずか2年で国内に10店舗をオープン。その後、ロンドン、ウクライナ、スロベニアなど欧州各地に出店。近々ニューヨークに進出と破竹の勢いで事業を拡大している。
このカフェが人を引き付ける理由は何か? お茶を飲むだけなら、わざわざここに足を運ぶ意味はない。Ziferblatロンドン店はアートやIT系のスタートアップやベンチャー企業が集まり、若者文化の発信地として名高いショーディッチ(Shoreditch)の一角に位置する場所柄、店内を見渡すと音楽関係者やデザイナーらが黙々と仕事をこなしていたり、クリエイティブ系の人々が仕事の打ち合わせをしていたりする姿もみられる。キッチンは共用、冷蔵庫の中には細かな決め事を書いたインストラクションが貼られ、まるでシェアハウスに住む友達の家に招かれたような錯覚を覚える。キッチンでトーストを焼いていた男性は「新しいシェアメイトと一緒にいるようで楽しい」と愉快そうだ。
1時間3ポンドという課金で採算が取れるのか? 店員は「詳しい運営コストのことはよく知らないけど1年続いているんだから順調よ!」とした上で、「週末は空き待ちの列ができるほど」成功しているビジネスだと述べた。
文・写真/ さかいもとみ 編集協力/堀内 章子