雨水利用のパイオニア “ドクター・スカイウォーター”
バングラデシュ
最後に残された安全な水
![](/jilist/files/article/15/8.png)
雨水タンクの製造、販売、運搬、すべて現地に雇用 を生み出している。タンクの材料もバングラデシュ産だ。
一方、世界には安全な水を継続的に利用できない人が7億8000万人もいると言われる。なかでもバングラデシュの状況は、最も深刻だ。
多くの地域に水道がなく、池や川には排泄物が混入。人々は年に数回、重い下痢を患う。またユニセフが掘った井戸も、最近になって天然のヒ素に汚染されていることがわかった。
最後に残された安全な水が、天から降る「雨水」。村瀬氏はボランティアで雨水利用のノウハウを伝授し、現地NGOへの寄付にも熱心に取り組んだ。
しかしそこで村瀬氏は、国際協力の手痛い洗礼を受ける。ある日、村瀬氏が寄付した雨水タンクの塗装の下から、別の寄付者の名前が。タンクを使いまわし、現地NGOが私腹を肥やしていたのだ。
「怒りに震えましたね。でも一方で、これは寄付する側の責任でもある、と思った。寄付して終わりでは、膨大なお金をドブに捨てるようなもの。本当に困っている人に届いているのか、見届ける責任があります。持続的な自立を支援するには、これはもうビジネスの手法しかないと考えました」
定年後、天水研究所を立ち上げた村瀬氏は、貧困層でも買えるタンクの価格帯を調査。タイで発見した製造法に学び、1000リットル容量のモルタル製タンクが完成した。価格は運搬と設置も含め4300タカ(約5600円)に抑え、一人でも多くの貧困層に手が届くように、頭金2000タカ、残りは無利子の分割払いを設定。2012年から販売を開始した。
![](/jilist/files/article/15/9.png)
月収4000タカの漁師も、お金を貯めて雨水タンクを 購入してくれた。1年で1基ずつタンクを増やせば、4基で 6人家族の1年分の水をためることができる。
雨水タンクは現地で「AMAMIZU」の名で浸透。今年3月には販売1000基を達成し、今年中に2000基を達成する勢い。
購入者らは、下痢もなくなり、水を運ぶ重労働から解放されたと喜ぶ。支払いがきちんと続くのは、修理やメンテナンスのアフターケアがしっかりしていることに加え、購入者のオーナーシップが十分に機能しているため。村瀬氏の会社が、なくてはならないものになっている証拠である。
富裕層向けには大容量の高価格タンクを販売し、こちらも順調に販売を伸ばしている。また8月には病院施設用の150トンのタンクが完成。村瀬氏がたどり着いたソーシャルビジネスの手法は、人々に安全な水を届けるだけでなく、現地に雇用を生み出し、持続的な成長で人々を自立させる仕組みとして、着実に地域に根付き始めた。
「将来は志のある社員にのれん分けし、雨水タンクを水道に替わる社会インフラにまで広げていきたい。そのためにも、まずはビジネスとして成功させること。ネバーギブアップ、サバイバルが合言葉です」
21世紀は水の時代
雨水利用で循環型社会へ
![](/jilist/files/article/15/10.png)
今年の3/22に雨水タンク1000基販売を突破した際に、 現地の社員と記念撮影。3/22は偶然にも村瀬氏の誕生 日であり、しかも「世界水の日」でもある。
バングラデシュでの取り組みが成功すれば世界が変わる、と村瀬氏は語る。このビジネスモデルが広く認識されれば、参入業者が増えて雨水タンクは一気に広がるだろう。水不足が深刻な他の国にも応用でき、日本のように、雨水利用が社会システムに組み込まれる日も、そう遠くはない。
「雨水に関わって、今年で33年。こんなに長くやってこられたのは、やはり今の時代、水が重要な局面を迎えているからです。雨水を大事に活用することは、今後ますます重要になってくるでしょう。最近の気候変動は、自然の循環を無視した現代人への、雨からの警告といえるかもしれません。みんな、ようやくそのことに気づき始めたのではないでしょうか。私に残された人生を、世界の水危機に役立てたい。雨水を通して学んだことをいかに後進に伝えていくか。そこに全力を尽くしたいと思っています」
- 1
- 2