株式会社酉島製作所 『創業100年を超えるポンプ専業メーカー 未来を見据えて「社会に欠かせない企業」へ』
株式会社酉島製作所
東証プライム/証券コード 6363
代表取締役CEO
原田 耕太郎
Kotaro Harada
1997年酉島製作所入社。1999年取締役、2001年常務取締役営業本部長、2004年代表取締役専務を経て、2006年代表取締役社長、社長執行役員、2023年代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任。
創業100年で培った技術力で海外展開する「技術のトリシマ」
酉島製作所は大阪府高槻市に本社を置く1919年創業のポンプメーカー。1927年に農業用ポンプで全国1位となり、現在に続く「技術のトリシマ」の礎を築くまでに。その後、世界大恐慌や太平洋戦争等の社会情勢の混乱で窮地に陥るが、後に中興の祖と称される原田龍平氏により、1950年代以降は日本の産業発展、上下水道インフラ整備とともに事業を再興・拡大していった。
1975年頃より、中東の海水淡水化プラントを中心に海外展開し、2002年にトリシマグローバルチーム発足により海外展開が加速。その結果、世界100か国以上に輸出し、2007年度には海外売上高比率50%超にまで成長した。
2019年の創業100周年を機に企業理念と行動指針を刷新し、2021年には創業110周年に当たる2029年を見据えた中期経営計画「Beyond110」を策定した。
海水淡水化プラントのポンプで世界一のシェアを誇るトリシマ
同社の強みとしては、5つのポイントが挙げられる。
1つ目は大型・高圧ポンプを製造できる世界でも数少ないポンプメーカーであることだ。その一例として、25mプールの水を5秒で空にするもの、高さ4,200mまで水を汲み上げられるもの、370度以上の超臨界圧でも運転可能なものなどがある。
2つ目は、同社がポンプの高効率化を追求して、消費電力量とCO2排出量を削減していることが挙げられる。日本の総電力の30%以上はポンプで消費されていると言われ、その高効率化は日本全体消費電力低減とCO2削減の大きなカギとなる。同社は2014年度に「ポンdeエコ」で省エネ大賞を受賞するなど、日本の省エネ化に貢献している。
3つ目が、気候変動対策向けポンプで、防災・減災に貢献していることが挙げられる。近年、増加しているゲリラ豪雨に対して、排水インフラを支える渦抑制ポンプや耐水モーターポンプ等で、防災・減災に寄与している。
4つ目は、同社が海水淡水化向けポンプでグローバルニッチトップ企業であることだ。同社のポンプは、中東を中心に大型海水淡水化プラントのほぼすべてに納入されている。
5つ目は、メンテナンスのDX化だ。具体的には、1万Hzまでの高周波測定で故障予知を可能とする回転機械モニタリングシステム「TR-COM」を開発。事前に修理箇所を予見できるだけでなく、測定結果を分析し、故障原因の追究や改善策などの提案も可能にしている。2022年には経済産業省が推奨する「スマート保安技術」に認定された。
このように、高品質な製品、優れた技術力、幅広い製品ラインナップ、迅速な対応・アフターサービスを強みに、世界中の多くの企業・団体から高い評価を得ており、国内外のインフラを支える「社会に欠かせない企業」になっている。
脱炭素社会を見据えた中計で水素対応ポンプの開発を推進
同社の中期経営計画「Beyond110」では、2029年度に売上高600億円以上、営業利益50億円以上、経常利益56億円以上を設定していたが、7年も前倒しで目標を達成。今回、新たな目標として毎年6%の成長、営業利益率9%以上、ROE9%以上を目指すことを決めた。
また、計画では中長期的に新技術開発を推進していく。中でも、最も注力しているのは、次世代エネルギーとして注目される水素だ。水素を作るには淡水が必要だが、海水淡水化ポンプで世界シェアトップの同社は、水素を作る、運ぶ、使うというそれぞれの用途のポンプに関わるつもりだ。すでに、極低温ポンプに強みを持つ海外企業を連結子会社化して技術力を高めたり、専用の試験設備を設けことで、液体水素用ポンプの開発にも着手している。2023年度中には、液体水素昇圧ポンプの実験を始める。
液体水素を大量運搬するには、水素をマイナス253度まで冷却・維持しなければならず、これは多くのメーカーにとって未知の領域。その中、本年6月にはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が進める「大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発」において、同社が提案した「大流量・高圧・高効率な液化水素昇圧ポンプの開発」が採択されたことで、商用化に向けた本格的な製品開発が始まる。同社では、20年後、水素関連事業が既存事業を逆転する可能性を秘めた一大プロジェクトと捉え、この分野で世界シェアトップを目指している。
一方、その間の成長を支える既存事業では、省エネ技術を武器に上下水道や発電所の更新需要を取り込み、着実な成長を目指す。
累進配当政策を導入し、積極的な株主還元を示す
株主還元については、これまでも安定的・継続的な利益還元を行ってきたが、今回、「純資産配当率(DOE)3.0%及び配当性向35%を目安に、累進配当をめざす」ことを発表し、2023年度より導入する。累進配当とは「減配せずに少なくとも前年と同額を配当し業績成長に合わせて増配を続ける」こと。配当方針として公表・導入している企業は、日本ではまだ数えるほどしかない。これにより、2023年度の1株当たり年間配当は56円(21年度42円、22年度52円)を予定している。