招集通知の電子化がスタート 企業と投資家の対話はどう変わる?
※この記事は2023年7月25日発行のジャパニーズ インベスター118号に掲載されたものです。
株主総会資料の提供は原則として紙からウェブへ
今年の3月1日以降に開催される上場会社の株主総会から、株主総会資料の電子提供制度が開始された。上場会社は、これまで書面で提供することとされていた参考書類や事業報告、計算書類、監査報告といった株主総会資料をウェブサイトに掲載し、そのURL等を記載した通知を株主に送付することとなった。実はこれまでも株主の個別の同意があれば株主総会資料の電子提供は可能だったが、一人ひとりの株主に承諾を得る必要があり、利用は広がってこなかった。また、株主総会資料の一部の事項については、ウェブサイトに掲載することで株主に提供したとみなす制度(ウェブ開示によるみなし提供制度)もあるが、対象となる事項は参考書類や計算書類の一部に限られていた。今回の電子提供制度の導入により、上場会社が書面での提供を求められるのは、株主総会書類を掲載したウェブサイトのURLを記載したアクセス通知のみとなるが、議案の内容や事業報告などのサマリー資料をあわせて提供、あるいは従来の招集通知に掲載していたすべての書類を提供することも可能だ。一方で株主側が希望する場合は、基準日までに書面交付請求を行うことで、株主総会資料を書面で受け取ることもできる。
株主にとって本制度の最大のメリットは情報提供の早期化であろう。従来の招集通知は株主総会の日の2週間前までに発送するものとされており、これは電子提供制度導入後のアクセス通知や交付書面についても変わらない。しかし、株主総会資料のウェブサイトへの掲載については株主総会の日の3週間前の日、もしくは株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日とされており、株主はこれまでよりも1週間以上早くウェブサイト上で株主総会資料を閲覧することができるようになる。東京証券取引所が今年4月に実施した調査によると、全上場会社のうち81.4%の企業が株主総会資料の電子提供措置開始予定日が総会日の3週間前まで(21日〜27日前)、4週間前まで(28日以上前)の企業も18.6%あった。
近年、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの導入によって機関投資家の議決権行使が活発化し、会社提案の議案をチェックする目も厳しくなっている。株主総会の情報の早期提供を求める声も高く、今回の電子提供化によってそうしたニーズにも応えることができるようになる。個人投資家にとっても、株主として議決権を行使するうえでより検討に時間をかけることができるようになるためメリットのある制度だが、実際にどの程度認知されているのだろうか?
本誌が5月1日〜7日の間に実施したアンケート調査によると、電子提供制度について「知っていて内容も理解している」という回答が43.7%、詳しい内容までは理解していないが知っている人を合わせると、85%以上の個人投資家に認知されていた。また、電子提供制度自体の認知度よりは下がるが、書面交付請求の仕組みについても6割近い認知度があった。比較的投資歴が長く、議決権行使や企業との対話に積極的な本誌読者を対象としているアンケートであるため、個人投資家全体の平均的な回答とは乖離があるであろう点を考慮する必要があるが、12月決算企業が3月に株主総会を実施していたこともあり、個人投資家にはある程度認知されていたことが伺える。
企業の書類の発送の仕方には①アクセス通知のみ、②アクセス通知+サマリー資料、③株主総会参考書類等を含むすべての書類(フルセット)の3パターンがあるが、前述の東証の調査によれば、3月決算企業の約7割がフルセットでの発送を予定しており、アクセス通知のみを予定する企業は5.3%に留まった。電子提供初年度ということもあり、慎重な対応をする企業が多かったようだ。
一方で、個人投資家がどの方式を希望するかについては、サマリー資料を含めた簡易な書類との回答が7割近くを占め、アクセス通知のみで良いという回答が2割、フルセットを希望する回答は1割ほどだった。株主総会資料のデジタル化については過半数がデジタルの方が良いと回答しつつも、サマリー資料を求める声が多い点は興味深い。紙資源の節約など、デジタル化のメリットを認めつつも、紙媒体の方が読みやすいと考える投資家も一定数いるということだろう。