株式会社スマサポ『不動産とIT技術を融合させて“smart”なくらしを“support”する』
株式会社スマサポ
証券コード 9342/東証グロース
代表取締役社長 小田 慎三
Shinzou Oda

2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が法案として成立し、法制化が進む不動産管理業界。不動産管理会社や入居者が直面する様々な問題を解決している同社の小田社長に創業の経緯と成長戦略を聞いた。
取材・文/小椋 康志 写真撮影/和田 佳久
不動産管理会社出身だからこそわかる業界の悩みを解決
――御社の創業の経緯についてお聞かせください。
我々は関西を基盤とする不動産管理会社の経営企画部門から生まれ出た会社です。不動産管理会社の問題を解決するソリューションを自社内に提供していましたが、自社で起きている問題は北海道から沖縄まで全国共通であることに気づき、他社へのサービス提供を開始しました。不動産業界の賃貸マーケットの不動産管理会社と入居者というニッチな領域に特化することで今までになかったものが生み出せると感じ、2019年に母体となる会社から独立しました。
――具体的にはどのようなソリューションを提供しているのでしょうか。
不動産管理会社と入居者とのコミュニケーションはアナログで一方通行です。管理会社側から連絡することはなく、入居者側にトラブルが発生し、連絡があった場合にのみ対応するという、アクションではなくリアクションに終始しているのが現状です。これは管理会社の収益構造に起因しています。管理会社の収益は家賃の3~5%ですから、どうしても物件管理を受託することを優先し、入居者へのサービス提供は後回しになっています。事実として管理会社の経営者に「一番大切なお客様は誰ですか?」と質問をすると、「不動産オーナー」だという答え返ってきます。しかし当社は、管理会社にとって入居者がお客様であり、不動産オーナーは事業を発展させるパートナーであると考えています。
管理会社に代わって入居者に対して入居のお礼、住み心地などのアンケート調査を行うサービスが、「スマサポサンキューコール」です。入居者がインターネット回線やウォーターサーバー等の申し込みをした際には顧客紹介手数料が発生するため、当社と管理会社の双方に収益が生まれるビジネスモデルです。管理会社は無料で利用できるため、契約社数は2年間で330%アップと急増しています。

出所:同社決算説明資料より
契約をしている管理会社の管理戸数は平均で2,500~3,000戸程度です。いわゆる地域の1番店、2番店というガリバー的な管理会社が多いのが特徴で、それが当社の強みだと感じています。
――入居者用アプリを利用している入居者は、どのような層がメインとなるのでしょうか?
管理会社のDX推進と入居者の満足度向上を同時に実現できるのが、くらしが整う住まいのサポートアプリ「totono」です。母体の会社で何度も実験しながら、やっと開発に成功したキラーコンテンツで、管理会社と入居者のコミュニケーションをデジタルで双方向へと変えていくことができます。
賃貸住宅は、持ち家率の低い若年層がメインのマーケットです。彼らは電話よりLINEの世代であり、チャットでのコミュニケーションに慣れています。入居者からのよくある質問もFAQで表示し、画像や動画を駆使して自己解決を促す形になっています。
実際に導入をした管理会社の業務効率が大幅に向上するため、入居者からは利用料を受け取らず、管理会社から初期費用および月額利用料を収受するビジネスモデルです。管理会社が入居者へ利用を促すため、ダウンロード数はノンプロモーションで6.1万となっています。広告宣伝費を一切かけずに毎月数千件ずつ伸長しており、数年後には100万ダウンロードを達成する見込みです。

出所:同社決算説明資料より
入居者には快適なくらしを提供し、管理会社には本業に集中できる環境を提供し、当社は収益を得るという、まさに三方よしのソリューションです。現在はあくまでも日本語でのサービスですが、将来的には外国語対応も検討しています。もし、それが実現すれば、海外展開も夢ではありません。

出所:同社決算説明資料より
――事業を取り巻く環境や競合についてお聞かせください。
当社の市場領域は、約32,000社の管理会社と約1,906万戸の賃貸住宅入居者です。これまで賃貸住宅管理業界には直接的な法規制も監督官庁もなく免許も必要ありませんでした。それが2020年に法制化、2021年から施行され、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理会社は国土交通省への登録が必須となりました。賃貸住宅管理会社は地域に根差した小規模事業者が多く、地域によっては情報の流入や流出もない断絶された状態です。各地域における商習慣や様式が統一されておらず、IT化も進んでいません。今後は国土交通省や公益財団法人日本賃貸住宅管理協会によってルールの統一化やIT化が進んでいきますが、この流れは当社にとって追い風となります。
サンキューコールのみ、入居者アプリのみという競合他社はありますが、不動産管理会社に対して複合的にサービスを提供しているのは当社だけです。また、不動産管理業界独特の知見を活かして業務効率に寄与する商品設計ができるのが当社の強みです。過去に大手が参入しようとしたケースもありますが、早期に撤退したことからも、高い参入障壁がある業界だと言えます。
「totono」の拡大に注力し、派生事業によるさらなる収益を狙う
――今後の成長戦略と上場の狙いについて教えてください。
管理会社が保有している個人情報は勤務先、勤続年数、年収、借金、家族構成、連帯保証人、自動車や自転車の所有など、かなり詳細なデータが含まれています。しかし、管理会社がそのデータを使用するのは入居審査時の1回のみです。もし、約1,906万戸の個人情報にアクセスすることができたら、ビジネスの可能性は一気に広がります。
そこで当社はスマサポサンキューコールを通じて不動産管理会社との強固な関係と安定基盤を構築するBtoBフェーズを経て、現在は「totono」の利用を促進しプラットフォーム化するBtoBtoCフェーズへと突入しています。“入居時”のライフライン等の市場は537億円ですが、自動車の車検や買い替え、保険、引っ越しなど、“入居中”の方へ向けたライフスタイルに関連する市場はさらに拡大する見込みです。100万ダウンロードのクローズドマーケットを構築すれば、様々な派生事業を収益化していくことが確実にできるでしょう。

出所:同社決算説明資料より
上場の狙いとしては資金調達よりも、信用、信頼、認知度のアップです。当社は数十万件の個人情報を扱っていますので、今後もサーバーの整備やセキュリティの強化に注力してまいります。