相場を予想せず、資産額も追わない。株式投資30年のキャリアで辿り着いた長く勝ち続けるためのマインド

株価が上がるか下がるか、相場がこれからどう動くか――。投資では「予想すること」があたりまえのように語られるが、年間800万円超の配当収入でFIREを達成したRicky氏は、あえて予想を投資判断から排除している。さらに「資産○億円」といった目標も設定しない。その背景にあるのは、自分ではコントロールできないものを目標にすることで、無理なリスクを取ってしまうことへの警戒だ。暴落時には誰もが冷静さを失い得ると考え、認知バイアスの知識を身につけるなど、徹底して「自分の心」と向き合ってきた。30年の投資経験から辿り着いた、長く投資を続けるための意識を聞く。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
そもそも「予想」という要素を投資から排除する
――ご著書『年収300万円から年配当804万円をもらう「激・増配株」投資入門』(KADOKAWA)には「予想で売買していたわたしは『はじめる前から負けていた』」と書かれており、とても興味深いと感じました。
Ricky:株式投資において、「株は安く買って高く売るのが理想」だと思っているのであれば、将来のわからない部分を予想するのは自然な流れだと思います。株価が上がるのか下がるのか、これから景気がどうなるのか。そうしたことを予想して売買するわけですが、もちろんそう簡単に利益を出すことはできません。
経済番組などを観ていると、専門家のみなさんがいろいろなことをおっしゃっています。でも、プロが時間をかけて分析しているはずなのに、予想通りにならないことのほうが多いものですし、仮に予想があたったとしても、思惑通りの理由でそうなったわけではないことも多々あります。
年初の経済雑誌や新聞を読むと、識者の方々が1年間の相場を予想していますが、わたしはそうしたものを長年見てきて、「ほとんど役に立たないのではないか」と感じるようになりました。だったら、「そもそも予想という要素を投資から排除してしまったほうがいい」と考えるようになったのです。
「今年は株価が上がる」「この業界が伸びる」と予想するのではなく、そうした自分ではコントロールできないものを、最初から投資判断の中心に置きません。そう考えるようになってから、売買益を狙うのではなく、増配株投資という現在の投資スタイルに近づいていきました。
もちろん、予想すること自体が悪いわけではありませんよ。予想が得意で、それを投資に活かせる人もいるでしょう。ただ、少なくともわたし自身は、30年近く株式投資をしてきて、予想をあて続けることはできないと感じています。それならば、あてることを前提としない方法に変えたほうが賢明です。「予想しない」というのは、相場を見るのをやめることではなく、予想を投資判断の根拠にしないということなのです。
認知バイアスを理解し、自分の状態を客観視する
――株式投資に限った話ではありませんが、判断を狂わせる大きな要素として「認知バイアス」が挙げられます。個人投資家が特に注意したほうがいいことはありますか。
Ricky:いわゆる「正常性バイアス」ですね。いまは比較的株価が安定しているので実感しにくいかもしれませんが、「暴落がきたとしても自分は大丈夫だ」と思っていても、実際にその状況になると平常心ではいられなくなる人が大半です。人間ですから、誰でもそうなり得るのです。
資産が減るなど経済的な不安を抱える状態になると、判断力そのものが低下するともいわれています。ふだんならやらないような行動を取ってしまうこともあり、狼狽売りなどはまさにその典型でしょう。
だからこそ、平時から「自分にもそういうことが起こり得る」と意識しておくことが大切だと思っています。例えば、どんな心理バイアスがあって、どういう状況で陥りやすいのかを事前に知っておく。そうすれば、実際に相場が急落したとき、「いま自分はあのバイアスに陥っているのかもしれない」と、一歩引いて自分を見ることができます。
そういった知識がなければ、ネガティブになった心理状態にすべてが飲み込まれてしまうかもしれません。でも、「これは自分の心理に起きている〇〇〇といった現象かもしれない」と気づくことができれば、冷静になれます。
――様々な知識を自分の武器にしておくことで、冷静にいられる。そのことの重要性を実感している個人投資家はとても多いように感じます。
Ricky:そうですね。これは暴落時に限った話ではありません。株価が大きく上がっているときにも、「これだけ上がったのだから、もっと上がるはずだ」と思ってしまうことがよくあります。逆に、株価が下がり続けていると「もうこれ以上は下がらないだろう」と考えてしまうこともあります。人間というのは、その時々の状況に安易に引っ張られる生き物なのです。
ですから、バイアスを完全になくそうとするのではなく、「自分もバイアスにかかる」という前提で株式投資をしましょう。
暴落の日は「平常心でいられない」のが正常
――しかし、どれだけ勉強して知識を取り入れていても、実際に暴落がくると冷静さを失ってしまう人もいます。Rickyさんご自身は、これまでどのように平常心を保つよう心掛けてきましたか?
Ricky:実は、わたし自身も平常心でいられたわけではありません……(苦笑)。ただ、むしろ「平常ではないほうが正常」だと思っています。投資家にとって、リスクに敏感な状態は決して悪いことではありません。ぼーっとしているより、いまなにが起きているのかを警戒しているほうがいいのですから、暴落時に不安になること自体を悪いことだとは考えていません。
そのうえでわたしが意識しているのは、資産ではなく配当金に目を向けることです。株価が下がれば保有資産の評価額そのものは減ります。でも、しっかり銘柄を選んで分散投資をしていれば、配当金まで同じ割合で減るわけではありません。過去の暴落でも、株価の下落率に比べて減配率は穏やかな傾向がありました。
ですから、暴落時には「資産がこれだけ減った」と考えるのではなく、「ここで買いつければ、将来の年間配当をこれだけ増やせる」と考える。そうすると、前向きに相場と向き合うことができます。
もちろん、どれだけ銘柄選定をしっかりしても、市況全体が下がればその渦に巻き込まれます。でも、これはもう仕方ありません。資産形成のために長期投資をする以上、暴落そのものを避けることはできないからです。だからこそわたしは、「暴落は確実に起こる」ものだと強く認識しながら、長期投資を行っています。
――実際に暴落を経験した際は、どのように気持ちを切り替えていくのですか?
Ricky:暴落が訪れた日やその直後は、頭のなかでいろいろ考え過ぎてもの凄く疲れます……。体が疲れているのではなく、脳だけが疲れている状態です。そこでわたしは、筋トレをしたり美味しいものを食べたりします。脳だけが疲れているので、体も疲れさせて、美味しいものを食べて寝てしまうのです。そうすると少し冷静になれるから不思議です(笑)。翌日はまた新たな気持ちで相場に向き合えばいいと考え、実際にそのようにして対応してきました。
逆に、株価が上がって含み益が増えたときは、あえて豪華な食事をするようなことはしません。配当株投資をしているわたしにとって、含み益は実際に手にした利益ではありませんから、そこで調子に乗って消費に回さないようにしています。暴落した日は美味しいものを食べ、儲かった日は質素な食事にする。ちょっと変わっているかもしれませんが、自分の気持ちを整えるためのルーティンです。
「資産○億円」という目標は設定しない
――ご著書を拝読すると、「相場の予想をしない」と同時に「目標を設定しない」という考え方も印象的でした。その意図を詳しく教えてください。
Ricky:正確には、「資産額の目標を設定しない」ということです。株式資産の評価額は株価次第なので、自分ではコントロールできません。コントロールできないものを目標にすると、いろいろな弊害が出てきます。例えば、「○歳までに資産1億円」という目標を立てたのに、相場が思うように上がらなかったとします。そうなると、目標に届かせるために無理な取引をしてしまう可能性があります。
わたし自身は、「年間配当800万円になったらFIREする」という目標を設定していましたが、「○年までに」という期限は設けませんでした。配当金も企業の業績などによって変わるので、完全にはコントロールできないからです。
目標に期限を設定してしまうと、その期限が迫るにつれ心に焦りが出てきます。おそらく、焦った心理状態では、ほとんどの人がいらぬリスクを取ってしまうはずです。ですから、自分の投資スタイルを守ることを優先して、目標にはある程度ゆるく向き合うというのが、わたしの考え方です。
株式投資は、他人と競争するものではありません。SNSを見ていると、「○歳で資産○億円」「○年でFIRE」といった情報が頻繁に目に入ってきます。でも、その人と自分では収入も資産も投資経験も異なります。同じ数字を目標にしても、自分にとって適切とは限りません。
わたし自身は、FIREという目的があったから配当額を目標にしましたが、株式投資をするすべての人が配当額を目標にする必要はありません。大切なのは、自分がコントロールできる範囲に目標を置くことです。
短期的な株価に影響する情報とは距離を置く
――情報というと、世の中の株式投資情報は、株価の上下動や短期売買の話題が中心です。そうした情報とは、どのような距離感で付き合うのが理想でしょうか。
Ricky:世間に出ている株式投資情報は、短期的な株価の動きに関するものが本当に多い印象です。国際情勢、金利、為替、政治家の発言などいろいろあるわけですが、基本的には短期的な株価に影響する情報です。
もちろん、そうした情報を知っておくこと自体は悪くありません。ただ、長期投資家、特にわたしのような増配株投資家であれば、「これは短期的な株価に関する情報だ」と一歩引いてとらえることが欠かせないでしょう。
中期的には、企業の業績が株価に大きく影響します。決算で増収増益なのか減収減益なのか、あるいは市場の期待を上回ったのか下回ったのか。そうした情報はとても重要です。
ただ、わたしの場合は「超長期投資家」なので、そこからさらに距離を置いて考えます。たとえ減収減益になったとしても、しっかり黒字を確保していて、BPS(1株当たり純資産)、つまり企業の資産が積み上がっているのであれば、それは将来の配当余力につながっていくと考えています。
毎期のように、増収増益を続けている企業はもちろん優秀です。でも、そういう企業は人気が高くなり、株価も割高になりやすい傾向にあります。どれだけ優良な企業でも、割高な価格で買うことは避けたいわけです。ですからわたしは、短期的なニュースや業績の変化といった情報に振り回されるのではなく、自分が重視する長期的な基準から企業を見るようにしています。
情報を見ないということではありません。情報を見たうえで、「これは自分の投資判断に必要な情報なのか」と考えることが大切です。ニュースを見て株価が動くたびに売買していたら、長期投資をしているつもりでも、いつの間にか短期投資になってしまいます。そうならないためにも、情報との距離感はかなり意識していますね。
長く勝ち続けるために「自分の投資スタイル」を確立する
――投資とは直接的に関係がないことかもしれませんが、実際にFIREを達成されてから、生活や価値観になにか変化はありましたか?
Ricky:FIREして3年半ほどになりますが、あっという間でした。あれだけ嫌だった会社勤めを辞めたので最初はもの凄く新鮮でしたが、人間はいいことも悪いことも慣れてしまうのですね(苦笑)。一方、Xなどで知り合った投資家仲間とオフ会をしたり、投資セミナーの講師を依頼していただいたりと、FIRE後ならではの変化は楽しんでいます。
ただ、息子には、FIREを目指してほしいとはあまり思っていません。仕事は人生の多くの時間を費やすものですから、できれば、苦しい社会人生活を送ってきたわたしとは違って、やりがいがあって長く続けられる仕事を見つけて楽しんでほしい。そのうえで、株式投資も頑張ってもらいたいですね。
――最後に読者に向けてメッセージをください。
Ricky:わたし自身は、30年間投資を続けるなかで、最初は短期トレーダーでした。売買益のことで頭がいっぱいだった時期もあります。でも、試行錯誤するなかで、自分には向き不向きがあることが分かり、現在の配当重視、さらに増配重視の投資に辿り着きました。
ですから、特に若い個人投資家の方には、自分の性格やライフステージに合った投資スタイルを少しずつ確立していってほしいと思います。もちろん、一度決めたら絶対に変えてはいけないということではありません。いろいろな情報や投資手法に触れながら、骨格は大切にしつつ、必要な部分は微調整していけばいいと思います。わたし自身も、たくさんの書籍を読んで自分の投資スタイルに微調整を加えていった経緯があります。
ただし、骨格の部分まで人からそのまま借りてしまうのは少し違うと感じます。株式投資のスタイルは人それぞれですし、自分に合わない方法を無理に続ければ、それだけでリスクになり得るからです。
30年にわたり株式投資を続けてきて感じるのは、最初から「自分にとっての正解」を見つける必要はないということです。実際にやってみて、失敗して、自分の性格や生活との相性を知る。そのうえで少しずつかたちを変えていけばいい。長い投資家人生だからこそ、自分の変化にも対応できる、無理なく続けられる投資スタイルを築いていくことが、最終的には「長く勝ち続ける」ことにつながるのではないでしょうか。
Rickyさんの書籍のご紹介
Ricky(りっきー)
1976年生まれ、東京都出身。1996年、大学2年の20歳のときに投資をスタート。割安・増配・財務良好な日本株を中心に投資を続け、2023年に配当金生活FIREを達成。買った株は決して売らない「株コレクター」として知られる。暴落時には「大人買い」を信条とし、長期的視点で資産を築く。妻と2人の息子と暮らす。2026年、著書『年収300万円から年配当804万円をもらう「激・増配株」投資入門』(KADOKAWA)を出版。Xでは「Ricky投資研究所」として情報発信中。

