数字が苦手でも資産3億円に到達。「ストーリー」で銘柄を見極める「文系投資」の極意

インデックス投資で着実に資産の土台を築きつつ、株式投資の面白さに魅せられて個別株の世界にも参入したオモロー山下氏。しかし、その投資スタイルは、数式や難解な財務諸表を読み解くものとは一線を画す。同氏が推し進めるのは、「物語(ストーリー)」を軸に銘柄を見極める独自の「文系投資」だ。いったいどのような手法なのか、その実像を紐解く。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
企業の未来をストーリーとして描いて投資する
――山下さんはご自身の投資スタイルを「文系投資」と定義されていますね。具体的にどのような手法なのかを教えてください。
オモロー山下:ひとことでいえば、「その企業の未来を物語(ストーリー)として想像し、それが実現するかどうかで判断する」という手法です。本来、決算書を分析して、細かな数値を読み解いていくのが株式投資の王道でしょう。しかし、僕はむかしから数字を見るのがとにかく苦手……(苦笑)。ですから、自分が実践できる方法に絞ったのです。
ニュースや企業のプレスリリースを見たときに、「この企業がこういう取り組みをして、こう展開していけば、将来的に売上や利益が跳ね上がるのではないか?」というストーリーを自分のなかで組み立てます。そのシナリオに強い納得感があれば実際に投資するという至ってシンプルな考え方です。
――しかし、完全な勘だけで買っているわけではないですよね?
オモロー山下:もちろん勘だけではありません。苦手な数字のなかでも、これだけは絶対に確認するというふたつの必須条件を設けています。それが、「PER(株価収益率)と利益成長率の関係」、そして「営業利益率20%以上」です。
まず、利益成長率の数値がPERを上まわっていれば、「割安で買い」と判断します。もし利益成長率が年40%であれば、一般的に割高とされるPER30倍であっても、「成長力に対して株価はまだ割安」とみなします。逆に、利益成長率がわずか5%であれば、たとえPER10倍という一見割安な数字でも、「成長に対して株価は割高」と切り捨てます。
そして、もうひとつの営業利益率は、本業の売上に対してどれくらい利益が出ているかを示す数字です。これが20%以上あれば、その企業が「本業で圧倒的に稼ぐ力を持っている」と判断していいと思います。
この2点さえクリアしていれば、財務面での安全圏には入っているとみなします。実際、この基準をパスした銘柄を購入して、株価が下がったまま二度と戻ってこなかったケースは僕の場合、一度もありません。本業さえ強ければ、そのときの株価が割安でも、市場の荒波に揉まれながら最終的に株価は上がっていくものと考えています。
きちんとストーリーが見えていたら暴落だって怖くない
――実際にストーリーで投資するというのはどのようなものか、山下さんの過去の経験から実例を挙げてください。
オモロー山下:わかりやすい例でいうと、僕が実際に保有しているキオクシアです。2026年7月あたりから半導体株全体が急落した時期がありましたが、僕はむしろ「買い」のチャンスだと見ていました。
いま、世間ではAIサーバーやデータセンターの建設ラッシュが起きていて、エヌビディアのGPU(画像処理半導体)がバカ売れしていますよね。でも、GPU単体ではAIは動かず、必ずまわりにメモリが必要になります。とくに短期記憶のHBMだけでなく、電源を切ってもデータを保持できる長期記憶のSSD(ナンド型フラッシュメモリ)が大量に必要なのです。
そして、このナンド型メモリの主要メーカーの一角を占めているのがキオクシアです。グーグルやアマゾンなどのビッグテック(ハイパースケーラー)が「設備投資にお金をかけ過ぎだ」と警戒されて株価が下がることがありますが、それらの企業が投資した莫大なお金は、巡り巡ってサプライヤーであるキオクシアに流れ込む仕組みになっています。つまり、設備投資のニュースはキオクシアにとって超追い風といえます。
さらに、「つくり過ぎて供給過剰になり暴落するのでは?」という懸念に対しても、キオクシアは複数年の長期契約を結ぶなど予防線をしっかり張っています。一時的な市況の悪化や信用買いの投げ売りで株価がどれだけ暴落しようが、この「本質的なストーリー」が崩れていない以上、慌てて売る理由なんてどこにもありません。背景のロジックさえ見えていれば、暴落はむしろバーゲンセールに見えてくるわけです。
描いたストーリー(仮説)が崩れたら即撤退
――ストーリーで投資判断を行う場合、逆に「撤退(売却)」の基準はどこに置くのでしょう?
オモロー山下:最も大切なルールは、「最初に描いたストーリー、つまり仮説が崩れたら、未練を残さず即撤退する」ことです。株価の上がった下がったで一喜一憂して売るのではなく、「物語の前提が壊れたかどうか」で判断します。
VTuber(バーチャルYouTuber)事務所を運営するカバーという企業に投資したときの体験が、いい教訓になっています。当時、カバーは、YouTube依存のコスト構造からの脱却を目指し、「自社でVTuber専用のメタバース・プラットフォームを構築する」と発表したのです。それを見た瞬間、「これはすごいストーリーだな」と膝を打ちました。
VTuberのファンは熱狂的です。YouTubeから自社プラットフォームへ移行してもファンは間違いなくついてくるし、YouTubeに払っていた莫大な手数料を削ることができるので、利益率が爆発的に上がるはずだと踏んだのです。
――とても魅力的なシナリオですが、結果は?
オモロー山下:完成予定としていた期日が近づいてもなかなかリリースがありませんでした。たまにアナウンスがあっても「パイロット版ができました」といった段階で、徐々にアナウンスのトーンも下がっていったのです。そこで、まだ株価がプラス(含み益)のうちにすべて売却しました。その後は、正式版のリリース後、1年程度でサービスは終了となっています。
ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、カバーという企業を否定するものではないということです。あくまでも、「自社プラットフォームで利益率が跳ね上がる」という僕の投資ストーリーの前提が崩れたという判断に過ぎません。ですから、同社はこれからも成長を続けていくかもしれませんし、興味深い動きがあれば、また投資を考えることもあるでしょう。
ストーリーが生きているならいくら下がっても耐える。しかし、ストーリーが崩れたなら、どれだけ将来を期待していた銘柄であっても即座に手を引く。この割り切りができないと、ズルズルと塩漬け株をつくってしまうことになります。
技術者や現場の声を聞き一次情報で判断
――ストーリーを描いて投資するには、情報収集がかなり重要な鍵になると思います。情報収集において意識していることはありますか?
オモロー山下:アナリストの予想や有識者のコメントを鵜呑みにせず、「現場の技術者や研究者の声」を重視することでしょうか。厳しいことをいうようですが……アナリストの方々が語ることは、基本的には僕ら一般人がニュースで集められる情報とそこまで変わりません。インサイダー取引の規制がある以上、彼ら彼女らだけがなにか特別な裏情報を持っているわけではないからです。実際、自分自身が詳しい分野の話を聞いていると、「それはもう知っている情報」ということはよくあります。
一方、現場のエンジニアたちの見解は本物です。例えば、信じられないほど格安でつくられた中国のAI(DeepSeek)が登場して「もうエヌビディアの高額なGPUは買われなくなる」と市場が大パニックになり、関連株が暴落した「ディープシーク・ショック」がありましたよね。
あのときも、市場が大騒ぎするなかで、実際のAIエンジニアたちは「性能も用途もまったく違う」「データの安全性が不透明な中国製モデルを米企業がメインで使うわけがない」などと冷静に指摘していました。その現場の声を聞いていたからこそ、僕は狼狽売りに巻き込まれず、エヌビディア株を握り続けることができたのです。
――現場の声だけでなく、経営陣のバックグラウンドについても、技術畑かどうかを重視されているそうですね。
オモロー山下:「トップが技術者出身の企業は強い」と感じています。イーロン・マスクがわかりやすい例ですが、テスラが新型車の生産でボトルネックが発生した際、彼は1週間〜2週間も工場に寝泊まりして自ら指揮を執り、問題を解決させたといいます。
現場の技術的な問題点をトップ自身が深く理解できているからこそ、意思決定のスピードが圧倒的に速いのです。逆に、マーケティングや営業出身のトップで技術の現場がわからない企業は、判断が遅れがちになります。だからこそ、経営者のバックボーンもストーリーを描くうえで重要だと感じています。
ちなみに普段の情報源としては、まずニュースアプリで全体の市況を網羅的に見て、そこから気になった企業のIR資料や一次情報に行き着いた際は、ChatGPTやGeminiなどの生成AIにテキストを読み込ませて要約させるなど、ツールもフル活用して効率よく解像度を上げています。
インデックスで盤石の土台を築き、「10億の男」を目指す
――ここまでストーリーを重要視した独自の投資手法について伺ってきましたが、現在の山下さんのポートフォリオを教えてください。
オモロー山下:ざっくりいうと、インデックス投資が6割、個別株投資が4割です。本音をいえば、資産形成の効率や安定性を極めるなら「インデックス投資100%」が間違いなく最適解だと思います。このことについては、過去のデータが物語っていますよね。よって、これから投資をはじめる人には、まずインデックスだけで土台を固めることを強くおすすめします。ただ、僕の場合は投資の勉強をしていくうちに、どんどんその仕組みや世界観が面白くなってしまい、「趣味」として個別株をやらずにはいられなくなってしまったのです。
だからこそ、生活を支えるメインの土台はインデックス投資で固めたうえで、最悪なくなっても生活が破綻しない余剰資金を使い、個別株投資を「大人のゲーム」として楽しんでいます。最近は結婚して守るべき家族もできましたから、よりディフェンスを強化すべく、インデックスの比率をさらに引き上げていこうと考えているところです。
――投資によって資産が増えたことで、山下さん自身の生き方や価値観に変化はありましたか?
オモロー山下:心が本当に軽くなりましたね。まとまった運用資産があるという安心感のおかげで、仕事の選び方にも大きな余裕が生まれました。以前なら「生活費を稼ぐために、乗り気ではないけれどやらざるを得ない」という仕事もこなしましたが、いまはそういうストレスになる依頼をお断りできるようになりました。自分が本当にやりたい仕事、楽しいと思える活動だけに集中できるようになったことが、株式投資から得られた最大の財産かもしれません。
いまとなっては、総資産が2億5000万円〜3億円のあいだをうろうろするようになり、ここから先は一種の「人生のゲーム」だと思っています。メディアに出て投資の面白さを語るのも大好きな仕事のひとつなので、そのトークのネタづくりのためにも、「5億の男」「10億の男」を目指して、これからも相場と付き合っていくつもりです。
オモロー山下さんの書籍のご紹介
オモロー山下(おもろーやました)
1968年10月29日生まれ、香川県出身。本名は山下栄緑(しげのり)。1992年に大阪NSC10期生の同期である渡辺あつむ(現・桂三度)とお笑いコンビ「ジャリズム」を結成。解散と再結成を繰り返した後、ピン芸人として「オモロー山下」に改名。2012年に「山下本気うどん」を開業し資産1億円に到達。その資金を元手に投資をはじめ、現在(2026年8月時点)は2億8000万円まで資産を増やしている。

