FRBの急速な利上げで含み損5000万円……。それでも絶対に株を売らなかった「握力」の正当性

53歳で資産運用をスタートしたオモロー山下氏。いまやその資産額は約3億円にまで到達したが、個別株投資に参入した直後の2022年には、FRB(米国の中央銀行制度であるFRSの最高意思決定機関)による急速な利上げショックが直撃し、手元の含み損は一時5000万円にまで膨れ上がったという。投資初心者だったからこその痛烈な失敗を経て学び得た、「失敗を資産に変える投資の鉄則」に迫る。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
ナンピン買いを同日に繰り返すのは完全に悪手
――ご著書『借金1000万円からの億り人』(KADOKAWA)でも触れられていますが、投資をはじめて早々に大きな失敗を経験されたそうですね。
オモロー山下:いま思い出してもゾッとします……(苦笑)。僕が本格的に投資の勉強をはじめたのは2021年の後半で、最初はつみたてNISAでS&P500を買うという「お行儀がいい投資」からのスタートでした。でも、少し知識がつくと人間は欲が出ます。「個別株もやってみよう」ということで、2022年の年初にテスラやエヌビディアといった当時の大人気銘柄を買ったわけです。
するといきなり……FRBによる歴史的な連続利上げショックが市場を直撃。相場全体の地合いは最悪な状態となり、2022年の10月頃まで米国株はひたすら下がり続けるのです。
――毎日のように株価が下がり続ける状況は大きなストレスだったのでは?
オモロー山下:まさにパニックですよ。でも、当時の僕は投資系のYouTube動画を観て、「暴落は絶好の仕込み時だ」「下落上等」といった威勢のいい言葉を真に受けていました。
もちろん、長期的な視点で見れば安値で拾う(ナンピン買いをする)のは間違いではありません。ただ、当時の僕はナンピン買いのやり方すらまるで理解していなかった。ナンピン買いをするなら、数週間から数カ月、最低でも1日以上は間隔を空けて相場の下落トレンドを見極めながらやるものです。ところが僕は、1日のうちに何回もナンピン買いを繰り返していたのです。
「朝起きたら株価が下がってる。これは買い増しだ」と買い、数分後にさらに下がっているのを見て「もっと安くなった」と再び買い、引け間際にまた下がっているのを見て「底値だ」とさらに買う。資金配分を考えずに1日に3回もナンピン買いをするなんて、投資の常識から見れば完全な悪手です。
その結果、あっという間に投資用の資金が底をつきました。投資本やYouTubeからの教えで、「どんなに攻めても手元資金の2割〜3割は現金のまま残しておけ」というルールを設定していたので、どうにかその金額だけは死守したのですが、投資に回せるお金は完全に枯渇……。追加投資もナンピン買いも一切できなくなってしまったのです。
そこから株価はさらに容赦なく下がっていき、含み損はあっという間に5000万円に達しました。これは、当時の自分の資産の半分近くが消えた計算です。もう怖くて仕方なくなり、そこで僕がなにをしたかというと、ノートパソコンを閉じて現実逃避を決め込みましたね(笑)。
初心者は稼ぐ力が絶大な黒字超大型株に絞る
――ただ一般的には、「含み損が広がったら機械的に損切りすべきだ」ともいわれます。その考えは浮かびませんでしたか?
オモロー山下:投資インフルエンサーのなかにも、「損切りができて一人前だ」ということをいっている人がたくさんいました。でも、僕のなかで「いやいや、ここで損切りしたら、その瞬間にマイナス5000万円の負けが確定してまうやん」という違和感があったのです。
デイトレードや信用取引をやっているなら、損切りは必須なのでしょう。でも、僕が買っているのは現物株ですし、なによりテスラやエヌビディアという世界トップクラスの黒字超大型企業です。つまり、簡単に倒産するような企業ではありません。
そこで僕は、「売らなければ含み損は単なる数字の変動。持ち続ければいつか必ず戻ってくるはずだ」と信じて放置しました。すると翌2023年の年初から相場が急速に回復していき、あっという間に含み損が消えてプラスに転じたのです。あのとき、簡単に損切りしなくて本当によかったと心から思いましたね。
――「黒字の超大型株は、業績と潤沢な資金があるから長期保有に耐えやすい」という実体験を得たわけですね。
オモロー山下:それを痛感したもうひとつの事例が、メタ(旧フェイスブック)でした。2021年10月に社名をフェイスブックからメタに変更し、CEOのマーク・ザッカーバーグが「メタバース事業に注力する」と発表したとき、市場から「そんなものに巨額投資して大丈夫か」と大猛反発をくらって、株価が半分以下に大暴落したのです。
世間からは、「メタバースは大滑りした」と叩かれまくっていました。でも、結果的にどうなったかというと、2023年から2024年にかけて、メタの株価は大きく上昇し、いわゆるGAFAMのなかでも高いパフォーマンスを見せて劇的なV字回復を果たしたのです。
それが可能だったのは、本業であるInstagramやFacebook、WhatsAppといった既存SNSの広告事業が、相変わらず莫大なキャッシュを稼ぎ続けていたからだといわれています。新規事業が大滑りしても、本業の強力なキャッシュマシーンがあれば超大型株はびくともしないし、きちんと復活する。僕自身はメタに投資していたわけではありませんが、この値動きを目の当たりにして、「初心者は黒字の超大型株以外には安易に手を出してはいけない」という確信を持つことができました。
インフルエンサーの言葉を鵜呑みにせずリスクも見る
――「米国債券ETF(TLT)での失敗」もあったそうですね。
オモロー山下:これもまた本当に痛い目を見ましたし、情報発信者の罪深さを知るきっかけにもなりましたね。当時、ある有名投資ユーチューバーがチャートを見せながら、「株が下がったときは債券が上がる。株と債券は逆相関の関係にあるから、債券ETFのTLT(iシェアーズ米国財務省証券20年超ETF)を買っておけば、ポートフォリオの完璧なディフェンスになります」と熱弁していたのです。
「なるほど! ディフェンスとして債券を持っておくのは合理的だな」と思ってTLTを買いました。しかし、2022年の急速な利上げによって、株価と一緒にTLTもズルズル下がりはじめた。そして、僕はまたしても「下がったら買い足しだ」とナンピンを繰り返したのです。
――金融の基本構造として、「金利が上がれば、すでに発行されている債券の価格は下がる」という原則がありますね。結果は……?
オモロー山下:当時の僕は、金利と債券価格の相関関係をそこまで理解できておらず、「ディフェンスになる」という言葉だけを信じていた。結果として、10月以降に株価(テスラやエヌビディア)は力強く上昇に転じて回復したのに対し、TLTだけは金利が高止まりしたせいで下がったまま一向に上がってきませんでした。「株が下がっても下がり、株が上がっても下がったままって、どこがディフェンスやねん! 永遠に下がっとるやないかい!」と怒りに震えましたよね(笑)。
僕が発言を信じたユーチューバーは、最も重要な「金利が上がっている局面では債券価格は下がりますよ」という前提条件を完全にカットして説明していたのです。また、「株と債券は逆相関」というのも、常時、成り立つわけではありません。2022年のようにインフレを抑えるために金利が急上昇する局面では、株も債券も同時に下落することがあります。そうした重要な事実をいわずに「ディフェンスになります」とだけ発信するのは、あまりにも不親切だし危険だと思います。
その件以来、そのインフルエンサーの動画を二度と観なくなりましたね……(苦笑)。でも、この失敗は、自分自身が投資の情報を発信する立場になったときの大きな教訓となりました。「いいところだけを切り取って伝えてはダメだ。リスクや前提条件、細かいデメリットまで責任を持って伝えないと、僕のような被害者を生んでしまう」と強く心に刻んでいます。
自分で決めたルールはなにがあっても必ず守る
――他にも失敗から学んだことはありますか?
オモロー山下:株価が上昇していても、赤字企業には手を出さないということですかね。投資について勉強して、「赤字企業には手を出さない」というルールを自分のなかで決めていたにもかかわらず、欲に目がくらんでそのルールを破ってしまったことがあるのです。
その株は、次世代の小型モジュール炉(SMR)という小型原子炉を開発している、ある次世代エネルギー関連のスタートアップ銘柄でした。投資家からの期待感は凄いのですが、まだ実用化前の開発段階なので、売り上げはなんと「0円」。完全な赤字企業どころか、商品すら世の中に出ていない状態です。
話題にはなっていたので一応チェックしていたのですが、最初は「売上ゼロの会社なんて買えるか」とほぼ無視していました。ところが、市場の期待感だけで連日株価が跳ね上がっていったのです。「今日も10%上がった」「今度は15%」「さらに20%!」と、株価チャートを見せつけられるうちに、「うわ、これに乗り遅れたらあかんやろ」と焦りが出はじめて、我慢できずに飛びついてしまった。
――自分で決めていたルールを破って手を出してしまったのですね。
オモロー山下:最初の1回は、買ったらすぐ上がったので「よし、利益が出た!」と即座に利確できました。ところが、2回目、3回目と「下がったところで買い直す」を繰り返していたら、ある日を境に株価が二度と上がらなくなってしまったのです。ズルズルと下がり続け、結局、そのまま含み損を抱えて「塩漬け」状態です。
最初にお金(利益)を握らせて信用させ、最後に一気に資金を奪っていく手法は、まるで悪質なポンジスキーム(出資詐欺)と同じパターンじゃないですか(笑)。もちろんその企業は正規の上場企業ですから詐欺ではないのですが、「売上ゼロの赤字テーマ株は、一瞬の夢を見せたあとに一気に暴落することもある」という教訓を得ました。自分で決めた「赤字株には絶対手を出さない」というルールを破って痛い目を見たという経験ですね。
――大きな失敗から教訓を得て、資産家になった山下さんから伝えたことはありますか?
オモロー山下:株式投資をしていれば、誰にだって失敗はつきものです。ただ、そこで大事なのは、その失敗からなにを学び、「自分の軸(ルール)」をつくっていけるかどうかではないでしょうか。僕のように目先の欲に目が眩んでルールを破らず……(苦笑)、しっかりした投資ライフを送ってください。
オモロー山下さんの書籍のご紹介
オモロー山下(おもろーやました)
1968年10月29日生まれ、香川県出身。本名は山下栄緑(しげのり)。1992年に大阪NSC10期生の同期である渡辺あつむ(現・桂三度)とお笑いコンビ「ジャリズム」を結成。解散と再結成を繰り返した後、ピン芸人として「オモロー山下」に改名。2012年に「山下本気うどん」を開業し資産1億円に到達。その資金を元手に投資をはじめ、現在(2026年8月時点)は2億8000万円まで資産を増やしている。

